8.銀狼と魔猫
挿絵の銀狼は神々しかった。膝の上で寝ているハクを見る。もこもこしてる。足も短くて成長しても神々しくなる姿が想像出来ない。将来に期待しよう。
挿絵の魔猫は白くて毛が長い。体長はおよそ1.5メル。目は真っ青でこちらは高貴な感じがする。バーマンを真っ白にして足を長くした様な見た目。もっふもふのふっかふか。その神秘的な青い目に吸い込まれそうだ。
この挿絵描いた人、いい仕事してるわ。
聖獣は全魔法属性と書いてあるし、昨日イザークさんからも聞いた。
ここでそもそも属性とは何かを調べることにする。こちらの世界の人が当たり前に知っていることを知らないのはマズいだろう。
椅子から立ち上がり魔法関連の本を探す。すると初級魔法というタイトルの本を見つけた。パラパラめくるとそもそも魔力とは、という話から始まっている。これは良さそうだ。
先ほどの椅子にまた腰掛け読み始める。
魔力とは人が生まれつき持っているものでほぼ全員が持っている。ほぼなのは「魔力欠乏症」と呼ばれる人がいるからだ。
体内をめぐる魔力を持たない魔力欠乏症はまず体全体がとにかく白い。前の世界のアルビノ、色素欠乏症のような見た目だろうか。さらに、体に必要な魔力がない事で体が弱い。すぐに風邪などを引くし、ケガも治りにくいとある。
少し違うがイメージとしては白血病のような感じみたいだ。白血病は増えすぎた白血球が体を攻撃してしまうから魔力欠乏症とは真逆だが、症状は似ている。すると魔力欠乏症はアルビノと白血病を足した感じ。それは辛いだろう。
実際に魔力欠乏症の子は早逝していて、平均10才。
そもそもなぜこの魔力欠乏症が知られているのか。それは何世代も前に他の国で魔力のない王子が産まれたからだ。体の弱い我が子を何とかしたかった王様が研究者に色々と調べさせた。
すると少ないながらも似たような症状の子供が見つかった。そして色々調べて魔力がないことが判明。そして魔力欠乏症が認知された。
後天的に魔力を作り出せないのかと犯罪者を使った人体実験も行われたという。しかし成果はなく、人道的な問題もあって人体実験は終わりになった。
結局、後天的に魔力を作ることは出来ないとなって結局王子は15才で亡くなった。それでも15才まで生きられたのは奇跡と呼ばれた。
それ以降、子供は産まれると同時に魔力石を手に握らされる。この魔力石は魔力に反応するように反魔力を込めた石だ。これに反応すれば魔力あり。なければ魔力なしと判断される。
属性から脇道にそれたが、まず魔力は皆んな持っている。そして魔法は誰でも使える。ただ、魔力に依存してするので魔力が少ないと使える魔法の威力も小さい。
ここまで読んでやっと属性の話になる。
魔法の威力には低級、中級、上級、特級、超特級とある。そして魔法属性とは上級以上の威力が使える属性のことをさす。
魔法の属性とは何か。火、水、風、土の4つの事でそれ以外の属性はない。
聖獣が全魔法属性というのは、全ての属性が上級以上使えるということだ。過去の聖獣は皆んな全ての属性が超特級だったらしい…
ハクはどうなんだろう…。考え込みそうになってやめた。考えてもしょうがないしハクはハクだ。
気を取り直して本を読み進める。
魔法の属性とは先ほどの4つ。そして人などに使う魔法属性とは上級以上の威力が使える属性のこと。
だから魔法属性がない人もいるわけだ。本を読む限りはむしろ無い方が多いらしい。
自分はジョブを使うのに魔力を消費するから魔力回復超の派生スキルを持っている。今まで色々生産したが魔力が減るという感覚がない。これは魔力が多いでいいんだろうか。
さらに続きを読む。
魔力属性を調べるのには魔法を発動して威力を調べるしかないとある。
火魔法は手の平より小さな火が灯るのが低級、腕に抱えるくらいの火が中級、そして上級は大人の体より少し大きいくらい、およそ2メルの火が出せる。特級はそれ以上。
他の属性は水なら水球の大きさ、風なら風圧、土は土壁の大きさで判断する。
魔法の発動は魔力を体内で高めて放出するとある。何となく唾を吐くみたいな感じて良さそうかな?近いうちに試そう。
昨日の森は町から近くて人も多いかもしれない。試すならもっと遠いどこかだな。
そっと周りを見ると誰もいない。火魔法なら少し使っても大丈夫だろう。
爪の先に灯るぐらいの小さな火を想像して魔力を高めて、灯れ!と唱える。すると本当に小さな火がポッと灯った。よし、成功だ。
お昼ご飯を買って少し離れた森は向かおう。そう思っているとハクがこちらを見ていた。なんか呆れたような顔をしているのは何でだろう?まぁいいか。
取り敢えず必要なことは調べられたからと資料庫を出た。
この時は魔力で生産というジョブ魔法を使っていることをまだ知らなかった。
ギルドで採取が出来る場所を探す。ギルドの掲示板横には町周辺の簡単な地図が貼ってある。そこに採取の情報や魔獣の情報が書かれている。
体力に不安があるから30分ぐらいで行ける場所を探す。そこは森ではなく岩場だが、その辺りにしか生えない植物が採取出来るとある。
岩場ならちょうどいいかと考え場所を記憶してギルドを出る。
昨日は東門から出たが今日は反対の西門だ。
西門に向かって歩いていると、屋台が出ているのが見えた。まだお昼には早いが岩場で食べる為にお馴染みの串焼きとパン、スープも買う。持ったまま建物の陰に入ってポーチのサブアリーナ部分に仕舞う。
通りに戻って西門を目指した。こちらはお店が少なくて工房が集まっているようだ。
西門に着いた。この時間は外に出る人も少なく、出るのは自分だけだった。入る人達がこちらを見て少しざわめく。なんかこっちに来てから視線が多い。そんなに目立つとは思わないのに何でだろう。今日はハクを連れているからかな。そんなことを考えていると
『違うよ』
とハクから念話が飛んできた。
思わずえっと言ってから慌てて口を閉じる。
『ご主人の色は珍しいんだよ。それにやっぱり在り方?が上品っていうか、ね』
ねって言われても分からない。色が珍しいのも知らなかった。こちらの人は全体的に髪も目も色素が薄い。ただ確かに銀髪のような色は見かけない。
だいたい金髪なのだ。それぞれ濃淡はあるが銀髪は確かに目立つのかも知れない。
上品ってのは本当に分からない。普通にしてるんだけどな。元の性別が女性ってのも関係あるのかな。
『元の性別というより所作かな?動きもゆるいし静かだし。まぁ僕のご主人だから当然だけどね』
褒められてるのか貶されてるのか分からないけどハクのドヤ顔が可愛いので良しとしよう。
街道を歩くこと約30分。途中何度か商人らしき人にすれ違った以外は何事もなく目的の岩場に着いた。
うん、岩場だ。ゴツゴツとした大きな岩が転がっている。その隙間に白い花がみえる。カスミソウという薬草で、その草には効能がない。しかし他の薬草の効果を引き上げるらしく、常設の採取クエストが出ている。
ただ、カスミソウ自体は買い取り金額が安くこの岩場には他に採取出来る薬草はなく動物もいない。だから人気がないという。
自分にとっては人気がないのは好都合だ。色々と知られるとマズイことが多いから周りに人がいないのがいい。
早速カスミソウを採取していこう。ハクは器用に岩を駆け回っている。あまり遠くにいかないよう声をかける。
岩の隙間の採取だと根を取る用に買った道具が良さそうだ。ただ、錆びているのでジョブで錆を浮かせてとる。
最近はジョブにも慣れて想像からの過程を飛ばしても作れるようになった。頭で結果を想像するだけで発動する。
今も錆がなくなりピカピカな道具を想像したら次の瞬間には錆のない道具に変わっていた。
岩の隙間に道具を突き刺して何度か揺すると採れた。見える範囲のカスミソウを取り終わるといよいよ魔法の発動だ。
ハクには少し離れるよう伝えてから構える。
まずは火魔法。深呼吸してから出来るだけ大きな火を想像する。
すると岩場を覆うように巨大な火の玉が出現した。
はい?……びっくりしすぎて固まっていると
『おっきい火だねー』
ハクの声が聞こえた。慌てて火を消す。
いやいやいや、何でやねん!
驚き過ぎて関西弁になってしまう。どんだけ大きかった?少なくとも2メルは超えてたな。まさかの上級か…
『特級だよ〜さすが僕のご主人〜』
「特級?」
しっぽをフリフリしながら頷く。マヂデスカ…
うん、きっと属性魔法は火なんだろう。
気持ちを切り替えて次は水。大きな水を想像する。すると目の前に巨大な水球が…既視感…水を消す。
「次々行くぞー」
妙なテンションでそう言って土の壁をなるべく高く強く想像する。するとまた目の前に巨大で分厚い壁が出現した。
いや、これ土壁じゃなくて岩壁だ。無の境地で岩壁を戻して最後に風魔法を試す。最早ヤケだ。強くて鋭い風を想像する。すると少し先の岩肌が斬れた。かなりの範囲で岩が抉れたように崩れている…。
いや、だから何でやねん!!
結局、全魔法属性だった。うん、知りたくなかったかな。これは異世界転移特典だろうな。少し遠い目をしながらハクを無心に撫でる。もふもふもふもふ……
異世界転移は違う意味で前途多難だった。
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