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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動
79/419

79.その頃ゼクス町で

 時間は少し遡る。

 イーリスが兄達と合流して地下拠点に突入し、眠る男たちを捕縛した後。

 イーリスと一緒に来ていた御者を務めた男、ロザーナは1人愛馬にブラシをかけていた。彼は元探索者。石化の呪いで体が徐々に動かなくなる。もう1年も前のこと。


 愛馬のクロイとギルドで御者として働いている。

 そこにギルマスから緊急で馬車を出して欲しいと言われた。普通は馬車を夜には走らせない。馬は臆病だからだ。

 クロイは黒馬という体が丈夫な馬で、夜でも走ってくれる相棒だ。

 だからこそギルドで雇って貰えてるのだが。

 依頼人はスーザンだ。あいつが依頼してギルマスが受けるのなら仕方ない。俺はクロイと依頼者、スーザンではない若者を乗せて出発した。

 白の森に近づくにつれ、様子がおかしくなる。クロイが進むのを嫌がるようにいななく。宥めながら何とか入り口まで来た。

 依頼者は森を見て行かなきゃという。

 入るのならお供すると伝える。どう考えても戦闘など出来そうにない若者だ。

 まだ体は動く。依頼者と自分くらい守れるだろう。


 森に入ってなんだか気温がグッと下がった。寒々としている。

 すぐに魔獣の気配がして緊張が走ったが、なんと連れの若者の知り合い?だという。

 おいおい、グレイウルフの知り合いってなんだよ?

 その疑問は口にせずグレイウルフの先導で歩いていく。若者によると誰かが攫われてその人を助けに向かったヤツがいるらしい。 

 

 そのままどれほどだろうか…進むと人の気配がする。身構えたが茂みから出てきた相手を見て連れの若者が兄様と言う。家族か。そのまま合流してさらに進む。

 なぜか白い犬も途中で合流した。犬だよな?

 やがてボロい小屋に着いた。

 白い犬?壁に穴を開けて堂々と入って行く。…冗談じゃないよな?なんて威力だ。


 どうやら地下に続く上げ蓋がある。そこを降りて行く。魔力が濃い…。どうやら連れの知り合い?家族がここにいるようだ。静まり返っているその部屋を開けながら中を覗いていくと、男たちが倒れていた。

 風体からして明らかにヤバいヤツラだ。持参している縄で縛る。   

 いつの間にか若者がいない。先行したようだ。他にも眠っている男たちを捕縛していると、若者の兄様と呼ばれた男が取り敢えず、外にと言う。

 どうやら魔力で眠らされているから、解かない限り目覚めないようだ。


 上がっていくと後から若者たちのほかに青年と少年が出て来た。犬は少年に寄り添っている。すると突然、犬が二人の青年を背に乗せて走って行った。そして戻って来た時には2人の男を咥えていた。ドサリと投げ出す。1人は顔に大怪我をしている。驚いていると先ほどの青年が

「私を攫った首謀者だ。ギルドに連れて行ってくれるか?」

 そう言う。怪しい上にかなりヤバそうだが、どうやら魔力縄で拘束してある。俺はヤツらを無理やり立たせると森入り口に止めた馬車に向かう。

 森の異変は終わったようだ。馬車で仮眠を取ったらギルドに戻ろう。奴らは屋根にでも転がしておけばいい。ギルドに戻ったらギルマスに報告して…。そんなことを考えながら落ちるように眠った。


 長い夜が明け、目が覚めると町に向けて急いで戻り始める。

 帰ったギルドではギルマスが目を剥いていた。

「おいロザーナ、何だよコイツら」

「人攫いらしい」

 はぁ?ジニーは頭を抱える。

「迎えに行ったヤツは?」

「もちろん無事だ。知り合いに会っていたぞ」

「アイルは?」

 誰だそれ?

「線の細い少年だ」

 あぁ、地下拠点の奥から出てきた子だな。

「いたぞ。顔色が悪かったがケガはしていない」

 ギルマスはふぅぅと息を吐く。

「まだ怪しい地下拠点に捕縛したヤツラが20人ほどいる」

「何だと?」

 少しの沈黙のあと

「夜にすまなかったな。助かった。しばらく休め」

 そうロザーナに声をかけて走って行った。



*****



 アイルが見つかった。昨日の夕方、突然スーザンが尋ねてきてびっくりした。馬車を出して欲しいって。

 何だ藪から棒にと言えばイーリスがアイルを迎えに行くと言う。それを聞いて心の底からホッとした。

 間に合ったかと。それが新たな火種の始まりだとは気が付かずに。

 死の森は空白地帯だ。とはいえ森の一部をラルフが占領した。それにあの森に隣接して領地があって収めるのはフェリクスだ。残りはラルフの実家が収める侯爵家の領地に隣接している。

 フェリクスにも知らせるか。

 イザークに分かる限りの情報と捕らえた2人を預けてフェリクスへの連絡を頼む。


 とるも取り敢えず、迎えに行く。心配していたロルフには一報入れるか…いや、行きがけに寄ってくか。

 急いで支度を整えるとイザークに後を託して馬車に乗る。

 ロルフの家でアイルの事を伝えるとラルフと共に彼らも行くと言う。拒絶されるかもしれないと言ったがそれでも、と言う。

 結局、折れて馬車2台で向かうことにした。


 地下拠点のヤツらについてはフェリクスとギルドで協力することにしてある。あとはイザークが上手くやってくれるだろう。

 朝からドッと疲れたバージニアだった。


 急がせた馬車で死の森に到着する。入り口に着いて馬車を止め、中に入って行く。

 ロルフたちはそのまま宿に向かった。

 少し進むと複数の人の気配がした。これは大丈夫そうだな。

 やはり現れたのはイーリスにアイルと知らない顔が数人。もちろん白い犬もいる。

 駆け寄ってアイルの様子を確かめる。顔色は悪いがケガはしていないようだ。

 イーリスもいて知らない数人は兄だという。おぅ、えらく美形ぞろいだなこりゃ。

 驚きながらもアイルに話しかけた。

 そのまま馬車に戻って宿に向かうことを提案し、渋々了承したアイルたちと馬車でと言えばアイルだけ白い犬に乗って先に走っていった。




 その頃のロルフ。

 ギルマスが朝から家に来た。何事かと思えばアイルを死の森に迎えに行くと言う。

 それでユーグ様の元にいたのか、と気づく。私たちも行くと言うと、拒絶されるかもしれないと言われたが心配だ。

 私はラルフを連れて馬車で共に向かった。

 アイル…無事かな?また会ってくれるかい?また…笑ってくれるかい?

 隣で黙ったままのラルフの手を握りながら馬車に揺られていく。

 どうしてこんなに彼のことが気になるのだろう。

 

 ロルフは自分の気持ちがいわゆる愛だと知るのはもう少し先の話。




 そしてアイルは…

 宿につくとハクとブランの側でその温もりを感じながら少しだけ眠った。起きて犬のハクを撫でいると食事が運ばれて来た。

 あんなことがあって宿の人は大丈夫なのかと思ったら、ここはフェリクス様がギルドに委託して運営している宿だった。それはそうか。死の森のそばじゃね、普通に宿は流行らなそう。生命樹もあるし。

 夕食はハクとブランと分け合って食べた。

 そろそろギルマスが来るかな?


 扉がノックされる。開けるとギルマスがいた。

「おう、今いいか?」

 頷く。

 ギルマスとハク、ブランも一緒に食堂へ向かう。皆んな部屋で食べてるから静かだ。

 向かい合って座るとハクが膝に飛び乗って来た。

「あん時は色々悪かったな。ラルフはちとな…ロルフが絡むとポンコツなんだわ。だからと言ってなぁ、あれはない。本人も後で青くなってたぞ」

 私は何も言わない。

「お前が…どう思ってるか話してくれるか?」

 少し考えて

「ただ嫌だった」

 沈黙が落ちる。はぁ、とギルマスがため息をつく。

「だよな…」

 また沈黙。腕を組んで考え込んでいる。

「せめてロルフに会ってくれないか?」

 私はハクを見る。私のハクがどう思うのか…ハクが嫌だと思うのなら…。

『はぁもう。アルは…会いたいんでしょ?ロルフならいいよ。ラルフはダメ』

 やっはりハクは私に甘い。その首に顔を埋める。私はハクが居てくれるから…大丈夫なんだよ…。

 ハクのしっぽがぶんぶん揺れる。

『アルはそうやって…』

 無自覚にハクを悶絶させる罪作りなアイルだった。


「ロルフ様なら」

 ギルマスは頷くと食堂を出て行く。私はハクを見てその鼻にキスをする。抱きしめてそのもふもふを堪能。柔らかくて温かい。この温もりは私のものだ。無意識にその頭に何度もキスをした。

(またアルってば…そういうとこだよ!もう…無自覚天然たらしなんだから…)

 酷い言われようだがアイルは全く気が付いていなかった。

 今日の夜は宿で抱きしめて眠ろうと思ったハクだった。



 階段を下りる音がして部屋にギルマスとその後ろからロルフ様が入って来た。

 私を見ると駆け寄ろうとして止まり、じっと見る。

「ラルフのこととは別に何かあった…?大丈夫?」

 透明な目で心配そうに聞いてくる。

「はい」

 ホッとしたように頷くと

「その、ラルフが申し訳ない…」

 そう言って頭を深く下げた。びっくりした。だってロルフ様は侯爵家の長男だ。謝罪をするにしても平民の探索者に頭を下げたりは普通しないだろう。しかも深くなんて…。

 これには流石にハクも固まった。

「ロルフ、アイルが困ってるぞ。頭を上げろ」

 ロルフ様はやっと頭を上げた。そして私を見る。その目は潤んでいた。

「もう大丈夫…?心配して…私が言えることではないが…」

 つかえながらも真摯に言葉をつなぐロルフ様。

「ラルフは私のために…それに…アイルのことも心配だったんだよ。いいように使う意図はなかった…。私が不甲斐ないばかりにアイルには嫌な思いをさせて…」

 どこまでも真っすぐに私とラルフ様を思って必死に言葉を繋ぐロルフ様。

 もともと言葉の少ない人がこれだけ伝えようとしてくれている。その真心を私は感じられた。


「ハクがロルフ様なら会っていいと言ったので。それに…その、ロルフ様はいつだって真っすぐで…」

 ロルフ様は驚いたように瞬きをすると少し微笑んでハクを見て

「ありがとう」

 と言った。

 ハクはしっぽを振っている。ハクは許してくれるたのかな?

「ラルフ様は…?」

「あぁ少ししか落ち着かない…かな。でも仕方ない…突然あんなこと言って…」

「…」

 私は何と言っていいか分からない。正直言って今はあまり関わりたくないから。

「少しいいか?」

 ギルマスが声をかける。

「ロルフから提案があるんだ。最初に言っておくが、抱え込む意図はない。ただ、安全のためにアイルをロルフの屋敷に住まわせてはどうかと思う」

「?」

「お前は無自覚だろうがキビパンや例の水晶が表に出れば、その裏にお前がいるのは誰でも気がつく。ロルフがお前に依頼をしていたことはギルドでもそれなりの人間が知っているからな。あの宿にはスーザンがいるが、結局、守ってくれるのは貴族という彼らの肩書きだ。ロルフの肩書はちょうどいい。一応、侯爵家にも確認は取っている」

「私はね、侯爵家を出て今は子爵位だ…力はないけど貴族という肩書はある…抑止力にはなる…」

「ロルフはただお前を守るために屋敷に住まわせて、ロルフを手伝う形にするつもりだ。それでお前の探索者としての活動を妨げる気はない。それは分かるか?」

 私はハクを見る。ハクは頷く。


「ラルフのあれはまぁ暴走だか、お前を守る意図もあったんだよ。今すぐではなくてもいいが、考えてやれ」

 私は黙って頷いた。まだイリィ他のことも解決していないけど、しばらくは家族もいるだろうし。今後のことはゆっくり考えようと思った。




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