76.温泉にて
私はゆっくりと目を覚ます。温かい…?瞬きして視界がハッキリしてくる。
目の前には艶やかな白銀の髪。誰…?あっハク?私の囁きが聞こえたのか、その人が顔を上げる。
魅惑的な微笑みでアル、と言うその人はハクだ。
私の頬に手を添えて私の目を覗き込む。
「私…寝てた?」
「うん、色々あったからね?体は大丈夫?」
えっ?どういうこと…?
私は体を動かそうとして自分が裸なことに気がつく。いつの間に?
そしてハクも裸だ。素肌が触れ合っている。
私は恥ずかしくなって毛布で体を隠そうとする。でもハクの手がそれを許さない。
「ダメだよ?もっとアルの体温を感じさせて…」
「あの、ハク…私なんで裸で?」
「僕が脱がしたよ、窮屈でしょ?」
?いつも服を着てるし。いや、夜はいつも結局脱いでたかも…?
ハクが抱きついて来て上目遣いに私を見る。その綺麗な顔でそれはズルい。
目を逸らすと顎に手をかけてキスをされる。犬のハクとはたくさんしてるけど人型だとやっぱり恥ずかしい。
「いつもみたいに撫でてくれないの?」
いや、それは犬の時で今はちょっと…。
私の上に乗ると体が密着する。一瞬ヤツの顔がよぎる。咄嗟に逃げようとする私の手をハクが掴み、手の平を合わせて指を絡める。
「アル、僕だよ。大丈夫…怖がらないで」
私は体の力を抜く。体を密着させたままキスをされる。何度も。それは犬の時と同じようでやっぱり違う。
今は人型だから…戸惑いながら
「ハク、離して」
と言うと。
「嫌だよ」
即答してその綺麗な青い目で私を見つめる。
「覚えてない?」
「何を?」
「今朝のこと。体は大丈夫?」
そこで気が付く。身体が軽い…?私は目を見開いてハクを見る。
「ハク…?体が軽いよ…」
「僕たちはもう離れられないよ?魂の契約をしたから」
「魂の…契約…?それは…」
戸惑う私を愛おしそうに抱きしめるハク。
本当に…?
「疑ってる?なら今また交わろう。それとも嫌?」
ハクが私を翻弄する。嫌?ハクとのことが?
嫌ではない。でも…私にはイリィが…。
「聖獣と人との交わりは人と人とのソレとは全く違うんだよ」
えっ…?
「特別なものだから…そう、とても神聖な行為なんだから」
そういうものなの…?分からない。
ハクはそんな私の気持ちを知っているのか、目を細めて私を見る。
「分かるよ、すぐ。僕の言ってる意味が」
そう呟いてまたキスをして体を触れ合わせる。なんて不思議な感覚…。自分とハクの境界が曖昧になって溶けていくみたい。ハクの温もりも、唇の感触も分かるのにふわふわとして…なんて心地いいのだろう。
2人の魔力が重なり絡み溶け合っていく。
そしてハクが私と交わる。あぁ、これが聖獣の交わり…納得した。それはまるで神聖な儀式。
2人は魂ごと重なり溶け合って1つになる…。
なんて清らかな…。
私はハクに抱かれてそう思った。ハクは私で私はハクで…もう2度と離れることのない永遠の絆。そのまま私はハクの体温と魔力を感じながら目を閉じた。
目を瞑るアルを見て僕は安心した。良かった。アルは受け入れてくれた。魂の契約が昇華したよ。
ふふっもう大丈夫。アルは僕の魂そのものになった。もう離れられないよ?
これからも大切にするからね…アル。
目を細めて愛おしそうにアイルを見つめるハクだった。
ん?外が明るい?私は目を覚ます。あぁ、ハク。私のハク。その頬にキスをしてベットから起き出す。
もうお昼ごろ?イリィたちはご飯食べたかな?
私もお腹が空いた。
外でお肉を焼いて食べようか。そう言えばあの男たちはどうなった?
服を着終えると人型のハクが肘をついた気だるげな様子でこちらを見ていた。ハク、色気が凄いよ…。
「ハク、服を着るか犬に戻って」
「仕方ない、犬に戻るよ?いや犬じゃなくて狼だけど」
そうだった…。
私はハクと休憩室を出る。そういえばブランは?と思ったら何処からか飛んできて肩に止まる。
色々見ないでいてくれたのかな?恥ずかしい。
そこにはイーリスたち家族がいた。私を見ると皆が何か言いたそうにして、でも黙っている。
おずおずとファーブルさんが
「その、少しは眠れたかい?」
私は頷く。
「皆さんご飯は?まだなら今から作るけど」
彼らは顔を見合わせて困惑している。私は首を傾げる。
「アイ、お願いしていい?」
私はまた頷く。
「手伝うことがあれば言って」
そう言ってくれるイリィにまた頷いて材料を机に出していく。
お肉、薬草、塩、野菜、串(自作)new、お皿、鍋、包丁(自作)new、まな板、簡易コンロ(自作)new、バーベキュー台(自作)new
これでいいかな。色々と作っておいたものが役に立つ。
簡易コンロに鍋を置いて魔法で水を入れる。鍋を火にかけて野菜を切る。野菜とスープの素(自作)newを入れて煮込む。
他の野菜とお肉を切って串に順番に刺していく。
バーベキュー台に火を入れて焼き始める。塩と薬草をパラパラ散らす。
「時々、串をひっくり返して欲しい」
そう言うとイリィたちは頷いてバーベキュー台に寄ってくる。
皆は台を色々な角度から眺めている。そんなに珍しいのかな?
私はスープの味を整える。最後にブラックペッパーを砕いて散らし、出来上がり。
スープをよそって皆に配る。
串も焼けたので、お皿に取って一緒に食べ始めた。
「美味しい…」
「このスープ絶品だな」
「なんて美味しいんだ!」
口々に言うと皆がパクパクと食べ始めた。やっぱりお腹空いてたんだよね。私は元々食が細いしなんだか胸がいっぱいで串1本で充分。
見ているとイリィの手が止まっている。肩が震えて顔を手で覆った。
私は一瞬迷って…でも立ち上がるとイリィを横からふんわり抱きしめた。
驚いたイリィが私を見上げる。
私は少し戸惑って、でもイリィを見返す。密度の濃いまつ毛が震えている。
ごく自然にそのまぶたにキスをしてまた抱きしめる。
イリィは私の腰に手を回して抱きついてきた。まだ怖くて体は震えてしまうけど、今はこれが精一杯だけど…。泣かないでイリィ。
しばらくすると少し落ち着いたのか、イリィが顔を上げる。私はその涙を拭う。イリィがそっと私の手に触れて…。スッと撫でた。
「アイ…少しはその…」
「…うん。まだすぐには難しいけど…また少しずつ」
目を伏せながら言うと
「待ってるから…」
頷くことしか今は出来ない。
「もう食べられない?」
イリィは全然食べていないよね?
「…アイが食べさせてくれるなら…」
伏目でそう呟く。私は瞬きをする。
えっ…うわぁ顔が熱い。やっぱりイリィも天然のたらしだ…。
私は顔を赤くしながらイリィの口元に串をそっと差し出す。
イリィも赤くなりながら食べる。唇についた肉の脂が何だか妙に色っぽかった。
「アイル君、美味しい食事をありがとう」
私は首を振る。
「簡単なものしか出来なくて…」
「これが簡単?」
「アイはその…色々と無自覚なんだよ」
イリィ、それフォローになってないよ?
「それはまた…」
「貴族にも目を付けられてて」
「それは、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃなくて…少しその…アイ?」
「そっちはもう大丈夫だよ、イリィ」
イリィが改まって
「アイ、聞きたいことが。リツって誰?」
「律…親友だよ」
私は遠い目をする。大好きででももう会えない親友。
「彼は…そのアイの?」
「彼女だよ…幼馴染」
「そうか…」
「もう会えないから…でももう頼るのはやめたよ。ここで生きて行くって決めたからね」
イリィを見る。
横からハクが
『僕がいるからね』
私とイリィは目を見合わせハクを見る。ドヤ顔のハクはとても可愛かった。
私は微笑んでハクを撫でその首に顔を埋める。温かくて柔らかくていつものハクの匂いがした。
「そう言えばあの襲撃犯は?」
「ギルドから借りた馬車の御者がす首謀者と思われる2人を連れて言ったよ。今頃はあの拠点のヤツラも捕まっている筈」
「そう。魔道具は?」
「魔道具?」
「拠点になかった?」
「アイ…どういうこと?」
『魔道具はあちらの国にある』
「あちらの国?」
『アルは気にしなくていいよ。僕を怒らせたからね…』
周りの温度が一気に下がる。
「ハク…?」
『ん?アルは何も心配しなくていいからね』
ハクの迫力が…増してる?まぁこんなに可愛くてもふもふでも聖獣だしね。
あ、人型の時は凄い美形か…頬が紅くなる。
ハクはなんだか嬉しそうに私を見ている。
これはまた…何というか。ハク様なら国なんて簡単に潰せてしまうんだろうね。寒々とした空気にぶるりと体を震わせたファーブルたちだった。
「ハク?皆が寒そう」
『あぁ、少し力を開放したからね』
「?」
『アルは僕の世界そのものだから…ちょっと怒るとついね?』
「?でも皆が寒いならダメだよ?」
『分かった!』
流石は契約者だ。あのハク様を諫めるなんて。ハク様にとってはアイル君以外はどうでもいいのだろうな。ふぅイーリス。君の番はまたとんでもなく大物だね?私はイーリスを見る。それでも彼しか受け入れられない。それが番という存在。
イーリスのその整った顔を見て私は密かにため息をついた。
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