75.ハクの想い
昨日の夜、投稿する予定だった分です
夜は今日の分を投稿します
ハクは眠るアイルの体を抱き、魂の契約をした。
魂の契約、それは特殊個体である聖獣だけが出来る契約で、人と交わることで成立する。そもそも聖獣も人も生命樹に認められて子を成す。
しかしハクのような特殊個体の聖獣は人との間にしか子を成せない。その方法が人型となり人と交わることだ。そうすれば生命樹に子が宿る。
アルがすぐに受け入れられないことは分かっていた。でもアルの心が壊れてしまうのが怖くて、どうしても契約をしたかった。
人と違って自分たち聖獣には年齢制限などないから。だからハクはアルを眠らせて、アルを抱く。いいいよね、アル…一つになろう。
眠るアルのその体にキスをしていく。白くて細くてきれいな体。やっと触れられた。
僕のアル…。
どう契約すればいいのかは本能が知っている。ごめんね、アルの気持ちを待ってあげたいけど…。
傷ついた君をそのままにはしたくない。アルがアイツにされたことを僕が上書きするよ?大丈夫、心配しないで。僕はいつだってアルだけを見ているよ。
君が囚われた僕の心を呼び戻してくれたから…。アル、大切なアル…。
アルの細い腰を抱いてその体にそっと繋がっていく。
あぁ、アルの体はとても温かいね。僕は感動に身をゆだねる。やっと…そしてアルの体を抱きしめた。
ハクがアルを抱きしめるその少し前。
アイは湯に浸かっている。側に行きたい気持ちを抑えるのに必死だ。少しでも早くその体を抱きしめて温めてあげたいのに。
僕はその側にいることも出来ない。それでもほんの少しでも一緒にいられて良かった。手を握ることが出来た。
その腰を抱いてハクに乗ることを許してもらえた。ねぇ、アイ早く僕に君を抱きしめさせて…。
建物の外に人の気配を感じた。お父様たちだ。僕は入り口を開けて建物に誘う。
ちょうどアルが脱衣室から出てきた。その頬はうっすらと色づいてとても可愛い。
「ほぉ、これは見事だな」
お父様たちが感心したように言う。
奥には癒しの湯があると言えばさらに驚く。
「皆さんも疲れてるだろうし、入って貰えたら。先に入らせてもらったので」
アイはそう言うと僕と目線を合わさずハクたちと休憩室に入って行った。
あの部屋は前に来た時一緒に過ごした部屋…心がギュっと切なくなった。
家族の皆で湯に浸かる。ふぅ久しぶりの家族との再会。慌ただしかったけど、やっとゆっくり話が出来る。懐かしいお父様と兄様たちを見る。
「イーリス、無事にゼクスに逃れたのだな。良かった」
「イーリス、苦労はしなかったか?マルクスは元気か?」
「ケガなどしなかったか?危険な目にあったりしてない?」
口々に僕のことを心配してくれる。
「大変だったけどマルクスがいたから。それにアイが僕を認めてくれて…」
僕はそこまで言って思わず泣き出してしまった。
こんなに大切なのに…どうして君は僕の隣にいないの?守りたいのに…。
お父様が僕を抱きしめてくれる。本当に小さな子供みたいだ。恥ずかしいけど嬉しい。でもやっぱり悲しい。お父様は僕の頭を撫でて頬に手を当てる。
僕の目を真っ直ぐ見つめて優しく頬にキスをしてくれる。僕は父様の首に抱きついた。
その温もりは僕を慰めてくれる。しがみつくように抱きついて…父様はそんな僕をしっかりと胸に抱いて。優しい時間が過ぎていく。
父様が僕を離すと上の兄様が
「父上ばかりずるいぞ?兄様のところにもおいで?」
そう手を広げてくれる。なんだか恥ずかしいけど兄様の胸に飛び込む。
兄様は僕をしっかり抱きしめて髪に頬擦りする。
「イーリス…僕たちのイーリス。本当に良かった。もっと顔を見せて?」
そう言うと僕の顎に手を当ててじっと見つめてから頬にキスをしてくれる。そしてまたぎゅっと抱きしめてくれた。
僕もぎゅうぎゅう抱きつく。兄様は笑いながらまるで小さな子供みたいだと笑う。またキスをしてから僕を離す。
横で順番を待ってた下の兄様が目をキラキラさせ手を広げて僕を見る。僕は兄様の胸に勢い良く飛び込む。
兄様は少し驚いて、でもぎゅっと抱きしめてくれる。
頬を擦り寄せておでこを合わせる。小さい頃良くこうしてくれたね。
鼻を触れ合わせ頬にキスを。一度離れてから両頬に手を当てて今度は唇に熱烈なキスをされた。僕は笑ってしまった。
「兄様。熱烈さを向ける相手が違うよ」
「違わないさ。家族より大切な存在なんてないんだから」
そう言ってウインクした。兄様は儚げな美人顔でそんなことするんだから…もう。
その後もぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
ぼくはそのまま兄様に抱きしめられて目を瞑った。
「湯に浸かって寝ちゃダメだよ?僕の女神」
「寝てないよ」
懐かしい呼び方だ。
「兄様に抱っこで運ばれたいの?」
「兄様の意地悪…」
ふふふっ。笑うと僕を抱きしめたまま湯から出ると脱衣室に向かった。
本当に小さな子供のころのようだ。…
脱衣室に入ると風魔法で僕たちの体と髪は一瞬で乾く。
相変わらずだなぁ、兄様は。
下履きまで着せようとするからそれは断った。なぜか兄様は残念そうだ。
昔はお尻も拭いてたのにとか聞こえないよ?
もう18なのに…。
「いくつになっても可愛いくて愛おしい弟だよ」
だって。もう…恥ずかしいんだから。
湯から上がったお父様も上の兄様も頷いている。
皆ありがとう。僕には今でもこんなに思ってくれる家族がいる。でもアイには家族がいない…。
僕がアイの家族になりたいのに。
そういえばお腹が空いた。僕は前にアイが作ってくれて保管していたキビ焼きサンドと固形スープの素を出す。
スープは水魔法でお湯を出して溶かす。それを皆で食べた。
「美味しいな、これ」
「うわぁ温かいスープ?時間停止か?凄いな」
「時間停止の空間拡張ポーチか?買えたのかい?」
僕は首を振る。
「アイが僕のために使ってくれたんだ」
そのポーチはクッションと一緒に僕の目の色で作ってくれたもので女神のマークが入っている。
「これはイーリスの瞳の色?虹彩の縁の青まで。それにこのマークはお前の?」
「うん、市場でやってる店のためにアイが考えてくれたんだ」
「そうか…彼が」
また泣きそうになって慌てて瞬きをしてご飯を食べる。
皆が食べ終わるとお父様が話を始めた。
「イーリス、良く聞きなさい。アイツらの目的は私だったようだ。ユーグ様の元で眠っていたアイル君はユーグ様とハク様の危機に気がついて目覚めた。聖なる者の心を捉える香のせいだ。アイル君が2人をこちら側に呼び戻した時、私が攫われた。彼はそれに気がついて私を追いかけて来たんだ」
そこで言葉を切る。
「私たちもすぐに後を追いかけようとしたが、まだユーグ様が目覚めていなかった。ハク様もアイル君に着いていこうとしたが、アイル君にユーグ様を守ってと言われてやむなくそこに留まった」
兄様が続ける。
「私はヤツラに捉えられた時に魔力を封じ、吸う首輪をつけられた。あの時の襲撃で負ったケガが治らず、それに魔力まで。自力で逃げることが出来なかったんだ」
お父様は悔しそうに言う。
「そんなに大変なケガを?今は大丈夫なの?」
頷くと話を続ける。
「アイル君が私に遠くから治癒を施してくれた。ゆっくりと傷と呪いを癒し、しかも吸われた魔力まで戻してくれたんだ」
「呪い?なんで…」
「魔術師の攻撃は毒と呪いが付与されていた。その呪いが解けずに進行を遅らせることしか出来ず、徐々に弱っていたんだ。もうイーリスに会えないかと思うくらい」
「そんな…僕は何も知らずに」
僕はお父様にしがみつく。
「今はもう大丈夫だから。イーリス、泣かないで」
涙を拭ってキスをしてくれる。
「それでも傷がなかなか治らない状態で…あの地下に連れて行かれて。アイル君は1人で助けに来てくれたんだ。でもリーダーと思われる男に見つかって、別の部屋に連れて行かれた」
父様は俯く。
「私がもっと早く動けていれば…彼は自分だけなら逃げられた。でも私を置いていけなくてリーダーに捕まったんだ」
アイ…君は本当に。どうして自分より人を優先してしまうの?その分、君が傷付くのに…。
「ハッキリと何をされたのかは分からない。ただ私が動けるようになって彼が連れて行かれた部屋に入った時には…ローブの下は…下履きだけだった。それに…」
僕は聞きたくないけど、それでも次の言葉を待つ。
「下履きも半分しか…。彼の魔力を追っている時、リーダーの部屋で2人の魔力が密着していた。彼は魔力封じの首輪をしていたけど魔力が僅かに感じられたから」
あ…ピアス。
「アイのピアス。彼の魔力がこもってる」
「あぁ、なるほど…彼の服にはリーダーの魔力が付着していた。彼の全身にも、だ。特に唇に色濃く」
僕は震える声で尋ねる。
「アイの中には…?」
「無かったよ。それは彼も言っていた」
でも全身にって…どんなに怖かっただろう。今すぐにでもその体を抱きしめて全身にキスをして、ヤツの痕跡を消し去りたい。
「イーリス。今はまだ…」
僕はただ頷くことしか出来なかった。
僕は本当に無力だ…。
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