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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動
73/419

73.脱出

今日は2話投稿

明日以降はしばらく1日1話、夜に投稿します


いつもお読みいただきありがとうございます♪

 私は急に意識が遠くなって捉えられた。僅かに意識を保ちながら運ばれて行く。

 その途中で異変に気がつく。?体が楽になっている?

 それは魔法?いや違う。何だろう?何かが私の体を包み込んで癒していく。

 私はその心地良いその癒しに身を委ね、目を瞑る。

 やがて何処かについたようだ。私は奥の部屋の床に放り出された。

 首に何か付けられてから魔力を吸われる感覚があった。それが途中から吸われた魔力が戻り始める。いったい何が起きている?

 さっき感じたあの癒しと同じタイミングだ。

 そして、あれだけ痛んで進行を止めるのが精一杯だった()()()()()()()()()()

 これならあと少しで全快出来そうだ。


 部屋の扉が開く音?目を開けるとフードを被った人が駆け寄って来る。しかし扉の死角には2人の男がいる。

「逃げろ」

 掠れる声で叫ぶ。しかしその人は部屋に潜んでいた男に捉えられてしまった。

 フードを取られた彼は認識阻害か?でも私には見えた。くすんだ銀髪に銀の目。線の細い整った顔の少年の顔が。

 彼を捉えた男は上機嫌に彼を見ている。

 ダメだ。まだ幼さの残る少年を、そんな目で見るな!

 早く、一刻も早く体が動け!彼を助けなくては。

 


 私は回復に集中する。そしてどれほどか?まだ多分10分くらい…。完治ではないが充分動ける。彼の魔力を追う。この部屋を出る時、記憶したその優しい魔力を。

 薄いがなんとか辿れる。見つけた!

 どうするか…あ…地上によく知った魔力を感じる。なら大丈夫。

 彼を連れ去った男と後1人を残して魔法で眠らせる。かなり強い魔法だ、私が解かない限り起きることはない。

 彼を連れて行ったあの男は魔法耐性が尋常じゃないから魔法は効かないだろう。なら逃げさせればいい。

 残した1人があの男の元に走った。よし、あの子は今1人だ。


 その部屋に入るとあの少年はベットの上でローブにくるまって震えていた。彼の手元には服がある。ローブの隙間から僅かに彼の裸の腕と足が見える。

 私は大丈夫か?と声をかけるが、彼は怯えて後ずさろうとする。

 その細い体が震えている。大丈夫だ、私は君を傷付けないよ…。そう言って怖がらせないようにそっと手を伸ばしその首にある魔力封じの枷を外す。

 少し落ち着いた彼は目に涙を溜めている。

 どうしたら君を助けられる?そっと冷たい髪を撫でる。彼は目を閉じて、その頬に涙が零れた。

 その涙を拭うと大きな目で私を見つめそしてその目から涙が溢れ出す。

 私はゆっくりと近づくと彼をふわりと抱きしめた。私の胸に縋って泣く彼はとても細くて頼りなかった。


 ローブがはだけて見えた肩は薄く腰は細くて…でも柔らかな体はちゃんと温かい。

 抱きしめながら髪を梳く。やがて体を起こすとはだけたローブを直して顔を赤らめる。

 その頬に手を添えて顔を見れば大きな目で私を見返す。不思議な子だね、君は。

 あれだけのことが出来るのに、私のために…。

 私は背を向けると服を着るように言う。

 動く気配がない?すると背中に彼の体温を感じた。

「少しだけ…このまま…」

 私はそのまま動かず、背中に彼の柔らかい体を感じていた。彼の記憶は彼自身が乗り越えなければならない。今はただ、落ち着くのを待とう。



 彼のあの状態…何をされたのか?いや、されかけたのか?たいして時間は経っていない。間に合ったのか?私は…。

「その…最後までは……」

 彼は震える声でそう教えてくれる。最悪は免れたか…。

 それでもきっととても嫌な思いをしただろう。あの乱れた服装から容易に想像がつく。

 私は怖がらせないようにゆっくりと振り向くと彼の頬を伝う涙を拭い、噛まれて血が出ている唇にそっと触れる。

 彼は静かに目を閉じて受け入れる。やがて目を開けた彼は私に儚くほほえんだ。

 そして私から離れると後ろを向いて服を着た。




「ここからはどうやって?」

「助けがやがて来る。それを待とう。眠らせたヤツらは私が解除しない限り起きないよ。だからここは安全なんだ」

 そう聞いて彼は頷く。

「私はファーブルと言う。君は?」

 彼は少し考えて

「アル」と答える。

「アル、改めて私を助けてくれてありがとう。まさか、呪いまで解けるとは…」

 アルは首を振る。

「お金はここを出てから、足りなければ何年かかっても払うよ」

 アルはまた首を振る。

 私は困って聞く。

「何かして欲しいことがあれば言って欲しい」

 お金が要らないなら他には?

「あの…それならお願いが」

「何だい?」

「そばにいて…1人が怖くて…まだ体の震えが…」


 私は頷くと彼のそばに寄る。彼は私にそっと寄り添って来た。顔を上げて私を見る。私は彼のケガした唇に触れるだけのキスをする。柔らかくて少し震えるているその唇に…。

 閉じたまぶた震えまつ毛が揺れる。


 私は彼に寄り添ってその手を握り、壁に背をあずける。彼の体は冷たくて、だから私の腕にくるむように抱く。大丈夫だよ、大丈夫…。やがて彼は目を瞑り…。

 静かな部屋にアルの呼吸音だけが響いていた。

 私は彼の頭にキスをして、その髪に頬を寄せ目を瞑った。





 父上が捕えられた。アイツらは何者だ?なぜ父上を狙う?

 追わなければ…でも。

 ハク様はユーグ様の根元に寄り添っている。

「ハク様…ユーグ様は?」

『大丈夫。でもアルが…』


(僕が空から追ってる)

『ブラン!アルを見失わないで!』


(大丈夫だよ、隠蔽で隠れてるから)

『頼んだ。ユーグ様が目覚めたら僕も行く』

(任せて!ご主人は守るよ)


『アルと契約している白大鷹のブランだ。彼がアルを追っている』

 私は弟と目配せする。白大鷹も聖獣だ。愛し子様は2体の聖獣様と契約をされているのか?

「ハク様。父上を追ったのは愛し子様ですか?」

 ハクさまは頷く。

『ユーグ様が目覚めたら、追うよ』

「はっ。我々はブラン様を追って先行します。後ほど」





 胸が騒つく。アイ、君は今どうしてる…?

 ざわり…これは。

「旦那、森がおかしい。馬が嫌がってら。もう少しは進めるが…」

「行けるところまででいい」

「了解。森に入るならお供するぜ」

「あぁ、頼むよ」

 そこから更に進んでいつもの森の入り口まで辿り着いた。凄い、怖がりながらもここまで進んでくれた馬を撫でてやる。馬はその鼻を擦り付ける。

「ありがとう。怖いだろうけどゆっくり休んで」

 馬は軽くいななくと草を食べ始めた。

 御者の男は桶に水を入れてやり馬のそばに置く。その体を軽く叩いて森に入った。


「シッ…何か来るぞ!」

 御者が言う。息を詰めて先を見つめる。

 そこに現れたのはグレイウルフのグレイだ。

「止めろ、コイツは大丈夫だ」


(ハク様はまだ森に入っていない。アイル様の居場所へ案内する)

 念話だ。


「何があった?なぜアイとハクは一緒じゃない」

(聖なる者に作用する邪悪な香で精神を操られた。ユーグ様はまだ目覚めない。ハク様に寄り添うよう言ってアイル様が捕らわれた人を助けに森へ)


「なんて無茶な!アイはあんなにか細いのに」

 そのままグレイの案内で森を進む。ハクの縄張りを抜けまだ先へと進む。

 御者には人が攫われたこと、グレイウルフは知り合いであることを告げた。


 かなり進んだところで懐かしい魔力を感じた。これは…ガサッ。

 別の道から現れたのは兄様たちだ。

 僕は驚いた。なぜ兄様が?

 兄様も驚いている。

「イーリス?イーリスなのか?」

 たとえフードを被っていても家族なら分かる。

「兄様…」

 兄様たちは僕に近づいて

「イーリス、父上が」

「父様が?」

「連れ去られた」

「愛し子様が父上を攫ったヤツらの後を追って森に…」

「アイが?父様を?」


 ガサっと音がしてハクが現れた。

『ユーグ様が目覚めた。イーリス、アルを助けに行く。ブラン、グレイ案内して』

 僕はハクや兄様たちとアイとお父様を追った。


 程なくボロい小屋に着く。

「ここ?」

『間違いないよ。ここに入って行った』

 ブランが言う。

(ハク様間違いない。アイル様の匂いだ)

 グレイも言う。


『うん、アルの匂いだ』

「父上の魔力が増えている!?」

「あぁ、私たちの魔力を感知したようだ」

『ご主人だよ!癒しの霧を飛ばして…』

「愛し子様が…」

 全くアイ…君って子は。

「父上は先の襲撃でケガを…」

「そんな!」

「お前を探しに来るのが遅れたのはそのケガのせいだ」

 私が知らない間にそんなことが…僕はなんて無力なんだ。

 兄様の手が髪を撫でる。

「今は愛し子様と父上を…」

 僕は頷く。

「ハク、アイは無事…?」

 僕は震える声で聞く。


『心が傷付いている。急ぐぞ』

 その小屋に入る。ハクは壁をぶち破っていたが。もちろん小屋の中には誰もいない。地下からは父様の濃い魔力を感じる。

 それならきっと大丈夫。

 床の葢は開いたままだったので順番に降りていく。もっともハクは飛び降りたが。

 地下に降りるとそのまま進んでいく。こんな所に拠点が?

 いくつかの扉を開けるが人がいない。そして次に開けた部屋には10人ほどだろうか?人が倒れていた。

 お父様の魔力だ。

「父上の?ここまで濃い魔力…回復された…?」

 兄様が呟く。


 ハクと僕はどんどん進んで行く。あっ、アイの魔力だ。

 もう直ぐ。その部屋の扉を開ける。

 お父様の魔力に包まれてアイとお父様が寄り添っている。

 私は部屋に飛び込んだ。

 父様が目を開けて私を見る。

「イーリス?」

「お父様!アイは?」

 私は目を瞑ったアイの頬に手を添える。アイ…やっと迎えれに来れた。

 でもアイのその服は少し乱れている。何が…?

 アイのまぶたが震えてその目を開ける。

「アイ…?」

 アイの目が僕を捉える。目を見開くと父様の服を握りしめ、その胸に顔を埋めてしまった。

「アイ…どうして?ずっと待っていたんだよ?」

 その細い肩を震わせて俯き…でもアイは顔を上げてくれなかった。



 その私とアイの間にハクが割り込む。肩にはブランが止まる。

『アル!』『ご主人』

 アイが顔を上げる。そして泣きながらハクを抱きしめた。ハクはその涙をペロペロと舐める。

『僕だよ、ハクだよ。アル、迎えに来た!』

 アイの口元をペロリと舐める。

 ブランはそのふわふわの羽毛をアイの頬に寄せる。

『アル、ここが嫌ならブランと一緒にこの国を出てもいいよ。僕はアルが行くところならどこへでも着いていく』





 ファーブルさんに抱かれて目を閉じる。温かい。私は…あの男に。ブルリッ。嫌だ…思い出したくないのに…その言葉が蘇る。

「その体に分からせてやる」

 やめて…

「最高だな」

 お願い…やめて…。あの男の唇の感触が…消えない。

 噛まれたキズが痛む。()()()()()()()()()…。


 あっ…懐かしい魔力…ハクとそして…イリィ?

 あっ…ダメ。今はまだ…。

 私はあの男に…。イリィ、一番会いたくて一番会いたくない人。

 今はまだ…イリィ…。縋りたいのに…でも私は…怖い。


 名前を呼ばれる。いつものようにその優しい手が頬を撫でる。ダメ…今はその顔が見れない。

 ファーブルさんの胸にまた顔を埋める。

 イリィがどうして、と呟く。ごめん…ごめんねイリィ…大好きなのに。

 

 その私に温かい体が寄り添う。肩には柔らかな羽毛の感触。

 ハクとブランが私を呼ぶ。ハク?ブラン?

 私は顔を上げハクに抱きつく。その柔らかい毛と大好きなハクの草原の匂い。

 ブランのふわふわな羽毛と小さな体。

 涙が溢れる。ハク…ブラン…。




 僕は呆然としていた。アイ…なぜ…どうして?何があったの…?


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