67.屋台の開始に向けて
屋台の試作品案は出来たので、細かい調整はあるとしてラルフ様とフェリクス様にお披露目することになった。
ラルフ様は領地の特産品として、フェリクス様は新たな領地の農産物としてそれぞれキビに期待を寄せている。
屋台はその試金石だからその気持ちは分かる。分かるよ、うん。でもさ、軽くない?腰が?
ギルマスに試作品を作ったその日に話をした。その翌日に集まるとか…行動力あり過ぎでしょ?
忙しいよね?皆さん。即決即断なの?
しかもラルフ様はお隣の領地から来るんでしょ?
え?気になって仕方ないから試作品のお披露目って聞いて即、馬に乗ってロルフ様の屋敷に来たって?聞いてから2時間で出発したって…ドヤ顔するところ?
はぁ…きっとロルフ様に会いたかったんだよね?どんだけなのかね?
あー、そこも!フェリクス様。はぁぁ。私のイズとか言ってイザークさんに抱きついてるよ。しかもガチだね、あれ。
何で同じ町にいるのに昨日はイズのところに泊まったって自慢気なんですかね?フェリクス様恐るべし。特に羨ましくないんだけどな。
はい、今日はギルドに来ています。お披露目です。
野外用の調理器具を持ち込むので練習場で。
メンバーはラルフ様、ロルフ様、フェリクス様、イザークさん、ギルマスが試作品を確認する係。
提供はスーザン、リア、レオ、ルド、私そしてイリィ。
イリィもさっきから私の手を離さない。
まぁ作るのは主にスーザンとルドだったりする。いやぁルドがねぇ。細かな作業が得意で。手先が器用なんだね。レオはね、もう大雑把を絵に描いたような子で。勢いだけはあるんだけどねー。
あ、思いついた。レオの勢いを活かせるデザート後で提案しよう。
「集まったな。もっと時間がかかるかと思ったが意外に早かったな」
「私も早いなと。早かろう悪かろうでは困るので。自信あるんだよね?」
口火を切ったのはギルマスで次の発言はラルフ様。
「ラリィ。アイルだから…そこは大丈夫…心配はやり過ぎの方…」
ロルフ様…フォローになっていません。
はい、そこスーザン。吹き出さない。
「期待してるよ、アイル?」
相変わらず胡散臭い笑顔はフェリクス様。続けて
「君の手を握っている彼は?」
それ聞きます?今。皆んながニヤニヤして見ている。
特にスーザン、新婚のくせに生温かい視線やめて。
「市場に店を出しているイーリスです。食器の協賛を」
「あぁ、そこまで?でもこの話はまだ公にしてないよ?」
なんかイリィとフェリクス様が…険悪?
オロオロしているとイザークさんが
「俺とフェルみたいな関係なら黙ってても分かるだろ。あまりイジメてやるな」
フォローありがとうイザークさん。フェリクス様はすぐに笑顔で、なら仕方ないね。僕とイズなら確かに…ね?だって。
チョロいな、そして…甘いぞ。
ってことで試作品の模擬…ってあれ?リアは?
スーザンを見ると、頷く。
「俺とウルのことはまぁ皆んな知ってるからな」
結婚のことも?
「もちろんそれも含めてだな」
そんなに有名人だったの?あのいつも空いてる宿の筋肉が?
「お前、今失礼なこと考えただろ?いつも空いてる宿の筋肉が、とか」
え…なんで分かるの?いや、まぁ美女と野獣って思ったけどね…?
すると頭を叩かれた。
「美女と野獣とかでも思ったんだろ、まったく」
やっぱり心が読めるのか!?
すかさずリアがその手をスリスリ。
「またアイルの心の声と会話してる?ダメだよ。もう…」
だから甘ぁい。
横からイリィが私の頬に手を当ててフードの奥から見つめる。そして耳元で
「ねぇ?ダメだよ…本当に…」
すいません。って私のせいではない筈?
「いい加減始めろ!ったくお前らは朝から…」
盛大なため息をついたギルマスの言葉でスーザンが動き始める。
うんうん頷いているとお前もだよって…何でだ?
この間作った順番で振舞われていく。
ちなみにイリィが関わったのは容器。キビの焼いた粒とかは容器にいれるからな。素材は防水紙。
元になる紙は私が使って防水加工はイリィが。さらに容器にするのは私。
そこでイリィが凄かったのはその形。丸じゃなくて四角や三角、ひし形や楕円にしようって。自分がどの容器になるかも楽しめるからだって。
それは確かに楽しい。さらに100個に1個だけハート作ろうって…。いいねーそれ。ほら◯アラのマーチで眉毛ちゃんがレアって話題になったし。
ノリノリで作ったよ!
容器にイリィのマーク入れようって言ったらお店のマークも入れたいってなりお店のマークを考えた。
ズバリ美女と野獣。大柄なクマ風の人と中世的は美女。左目の下にホクロ付き。
イリィが吐き出してたよ!成功だね。
それなら私のマークもってなったけど犬だしなぁなら私の女神が犬を抱いたら?って。うん、それなら収まりがいいね!
サラサラと買いたら喜んでくれたよ。やっぱり僕たちは一緒じゃないとなって。
いや、お店のマークだよね?
そんなこんなで色々な形の容器にキビ焼きの冷たいのとあったかいのが入れられて、試食。
ラルフ様は容器を見ながらさっそくぱくり。頷きながら食べている。
ロルフ様は容器の素材を確認。
フェリクス様はマークをガン見してからぱくり。こちらも頷いている。
ギルマスは豪快に一口でもしゃもしゃ。
イザークさんは容器をなで、マークを見て食べ始める。目をつぶって頷いている。
食べ終わって容器を眺めているラルフ様はロルフ様の容器を見ている。それが食べたいアピールだと思ったのか、ロルフ様がラルフ様にスプーンを差し出していた。そのままぱくり。はい?食べるの?皆んなの前で?
周りは反応してないからいいのか?
「これは容器も含めていいね。形が様々で冷たいのと温かいのがあって」
「あぁ、子供のオヤツにもいいな」
「この容器にあるマークは?」
フェリクス様が聞く。
「女神と犬は私とアイの、もう一つは言わなくても分かりますよね?」
スーザンが嫌そうな顔をする。でもリアは嬉しそうに
「僕とスージィだよ?ふふっ」
ラルフ様も
「差別化という意味でこのマークはいいな。しかし領地のお墨付きであることも知らせたい」
そこでなぜ私を見るの?
イリィが
「それならテントやその柱に掲示したらどうですか?領地か貴族家のマークを」
「ふむ、それは効果がありそうだな」
フェリクス様も頷く。
ラルフ様が
「兄さん、正式に伯爵を継がない?それで新しい紋章を登録するんだ。私と兄さん両家の」
ここでそんな話するの?いやだ、貴族には関わりたくない。目を逸らした私は悪くないと思う。私の手を握るイリィの手に力が入る。
「そしてアイルを家臣にするのはどう?」
え?何で…?…私は…。震える私の手をイリィがしっかり握る。
「おい、話が飛躍し過ぎだ」
「前から考えてたんだよ。兄さんは仮ってことになってるけど伯爵家の当主だ。その仮を外すだけだよ。今回の石、あの発見があれば功績は十分だ」
「おま…、言いたいことは分かるが。いくら領地がなくても家の運営は必要だろ?どうするんだよ?」
「そこは家から補佐する人員を出すし、僕が全面的に支えるよ」
「それにしたって…ロルフの気持ちもあんだろ?アイルに至っては…巻き込まれじゃねーか」
ギルマスとラルフさんが話をしている。でも途中から聞こえなくなった。
何で?私…?平穏に過ごしたいだけなのに…。家臣とか何で?自由でいたいのに…やめて。これ以上私を巻き込まないで。貴族となんて知り合いたく無かったのに。振り回さないで。
もう流されるのは嫌だ。助けて…律。
私はそこから記憶がない。
アイの手が震えてる?なんでいつも貴族たちは自分のことばかり。僕を攫ったのも貴族だ。
震えるその手をしっかりと握りしめる。
目に見えて顔色が青ざめていく。アイツらはアイを利用する気だ。なんであんなヤツラに話をしたんだ?
やっぱり貴族は信用出来ない。
ここから逃げる?でもまだ家族に会えていない。
考えていると手を握るアイの力が抜けた。あ、アイがくずれ落ちる。自分の腕に抱きしめたいその体はとても冷たかった。
ラルフは言葉を飾らない。今だってそうだ。でも全ては僕のため…。ロルフは危惧する。アイルを抱える必要があるのは分かる。それは彼を他の貴族から守るため。
でも説明もなしでは驚かせてしまう。あぁ、顔色が悪い。ラルフ、少し待って…そう言おうと思った時にはアイルが崩れ落ちるように倒れていた。真っ青な顔で。
慌てて駆け寄って頬に手を触れようとしたら、その手を押し留められた。アイルのそばにいたフードの彼、イーリスだ。顔は見えないけどこちらをじっと責めるように見ている。
「あ…そんなつもりじゃ」
手を引く。
まるで私たちから庇うように腕に抱き込むとそのまま練習場を出て行った。その後ろから聖獣様がこちらを見る。それはまるで氷のような冷たい目だった。練習場の気温が一気に下がった気が。
そんなつもりじゃ…。
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