66.屋台の試作品
軌道修正してみたよ。
「試作品だな、レオとルドは何か思いついたか?」
え?私に先に言わせてよ?そう思ったら
「お前は最後だ」
って。何でさ?と思ったら
「一番考え付きそうなヤツは最後だ」
何で考えてることが分かるのかね?
するとウールリアさんが
「スージィ、彼の心と会話するのは…妬けちゃうよ?」
妬けちゃうのは置いといて、私も同感。うんうん頷いているとまた頭を叩かれた。
なぜだ?
そしてウールリアさん、その叩いた手を優しくすりすりしないで。消毒?消毒ですか、それ。
スーザンは苦笑いして
「アイル、大人しく最後にしろ」
肩をすくめる。
「呼び捨てなの?じゃぁ僕もアイルって言うよ。僕のことは…そうだなリアって呼んで?」
「リア?」
頷く。
レオとルドを見る。
「考えたぞ。凄く簡単なんだ。えっとな…焼いたキビを冷たくして塩をかけて食べるんだ」
「寒い日は温かいヤツ」
なるほど…シンプルだけどいいね。温かいのはバターたらしたらいいよね?カップに入れてスプーンでなら手軽でいいかも。
「ふむ、シンプルにいいかもな、アイルどう思う?」
「いいんじゃないか?温かいのには塩とバターでもいいかもな」
「僕もいいと思う。ちょっと小腹が空いたときに食べる用だね」
「良し、後で試してみるか」
次はスーザンだ。
「俺はパンに練りこんで塩味にするのはどうかと思う」
パンか、こっちのは基本ぺったんこなんだよな。イースト菌とかないのかな?発酵できるような菌があれば膨らむけど。重曹とかでも膨らむんだけどパンってどうなんだ?分からない。
それなら薄いままで練りこむんじゃなくて巻いたり渦空き風にしたらどうかな?
あーマヨネーズ欲しい。まてよ、ザワークラウトならいける?牛乳あるし。
「アイルどう思う?」
「発想はいいと思う。でも薄いパンだと印象に残らないかなって。
それなら細長くしたパンをこう丸めて、丸めた後に溝にコーンを乗せて。牛乳で作るソースを塩味にして掛けたらどうかな?」
「どう丸めるの?」
私は腰のポーチから布を出して細長く丸める。そしてそれを内側から渦巻き状に巻いて見せた。
皆んな私の手もとを見て驚いている。
「これは面白いな、でこの溝にキビをさらに乗せる?ソースは牛乳か?」
「ソースはただの思い付き。どんな味がいいかは皆で考えればいいかな」
「へーアイル君は本当に多才だね?」
私は困ったように頷く。それは異世界の知識だからね。
「最後はお前だ、アイル」
「うん、俺は芋と混ぜてサラダだね。パンに挟んでもいいし。もう一つは作ってみてからかな」
「何だ、もったいぶるな」
「うーん、やってみないと分からないから」
こうしてそれぞれの意見が出たので順番に試作を作っていく。
まずはキビ焼き。私は冷やす方は焼かずに茹でることを提案する。
深い鍋に水を張ってその上に水に触れないように網を乗せる。そしてお湯が沸騰したら網の上にキビを芯ごと入れて蓋をする。
焼く方はキビの粒を落としてさっとバターで炒めて塩を振る。
茹で上がったキビに塩を振ってバターをかける。
皆んなで試食。うん、茹でた方は甘みが増しているね。温かい方も焼いた香ばしさが出ている。
顔を見合わせて頷く。
「採用だな」
次はパンだ。スージィがキビの粉と水を入れて練る。キビ粉ってモロコシの粉のことだって。
そこに焼いたキビと塩を入れて混ぜる。
それを細長くしてから巻いていく。巻き終わりは少し潰してほどけないようにして、溝にキビを追加。
そしてソース作り。鍋にバターと塩を入れて小麦粉を投入。炒めるように小麦粉とバターを馴染ませたら牛乳を入れる。そして酢も少しだけ。それで味を調えたら完成。
うん、意外といい。酢の酸味が食欲をそそるね。
小麦粉を入れたからもったりとしていてソースにはいい感じ。それをパンに薄くかけてオーブンで焼く。
焼いている間に最後は私の案。
芋はこちらではジャガイモのことを指す。普通にあちらと同じなので皮をむいて茹でて潰す。
それに塩をとキビを混ぜる。思いついて卵を用意してもらう。茹でて殻をむくとなるべく細かく切る。
それを芋とキビをませたものに入れて良く混ぜる。
最後に黒コショウを割って混ぜたら完成。
作り終わったころにパンも焼けた。一緒に試食。
パンはもっちりとしていてソースが凄くいい。これは止まらない。あっという間に食べ終わってしまった。
皆を見ると完食している。
「このソースはヤバいな」
「うん、この酸味が後を引くね」
「美味しかった!」
「これも採用でいいな」
私も頷く。
「ソースはもう少し色々試して一番いい味を見つけたいね」
スーザンも頷く。
そして私が作った芋サラダだ。パクリ…おぅいいね。これ。
横目で見ると皆んな食べ終わっていた。早い!
「おい、これ美味いな。卵が入るとまろやかになって。キビの甘みが増したぞ」
「凄く美味しい。芋ってこんない美味しんだね!」
ふふふ、そうだよ。お芋さんは万能なんだよ?
「これも採用か。最後のは何だ?」
「あぁ、ちょっと準備する」
私は芯から外したキビを水魔法で水分を抜き、風魔法で乾燥させた。
そう、あれをやりたいんだよ!
皆んなは私の手元を見て驚いている。私はスーザンにフライパンを温めるように言う。
そして温めたフライパンに乾燥させたキビを投入。そして蓋をして押さえるように言う。
しばらくするとフライパンの中でパン!ポン!ポポン!と勢いよく音がし始める。
蓋を開けようとするのでその手を抑える。
「明けちゃダメ」
素早くリアの手が私の手を押しのける。あ、はいごめんなさい。
音がならなくなったので火を止めて蓋を開ける。
そこにはポップコーンが出来ていた。やったー!塩を振ってぱくり。
んんっ美味しい!皆んなも恐る恐る口にする。
そして目を見開く。次々と皆んなの手がフライパンに伸びてあっという間になくなった。
「これはまたとんでもないな!」
「見せるのもまた楽しいねぇ」
「凄いよ!兄ちゃん。楽しい!美味しい!」
「この干からびたやつな…アイル以外に作れるのか?」
干からびたって言わないの。乾燥させたって言って。
「今回は急いでいたし魔法でやったけどフェリクス様が非常用に乾燥したキビを備蓄してるって聞いたよ」
「なるほど、これはフェリクス様に相談だな」
こうして試作品の試食会は終わった。
私はもう一度作ったそれぞれの試食を少し貰って部屋に戻った。イリィに食べてもらいたくてね。
扉を開けるとイリィが椅子に腰かけて紙を見ながら考えていた。
私に気が付いて迎えてくれる。
「体は?」
「だいぶ楽だよ」
なんだか目の前でスーザンたちのいちゃいちゃを見せられたからイリィの温もりを感じたくて抱き付いてしまった。
「ふふふっどうしたの?珍しいね」
「目の前で新婚のいちゃいちゃを見せられて」
「そうなの?それで僕といちゃいちゃしたくなった?」
「ち、違…わないかも」
頬が紅くなる。え?私…そういうこと。は、恥ずかしい。
そっとイリィから離れようとするとしっかりと抱きしめられる。
「せっかくアイから来てくれたんだし、期待に応えないとね?」
笑いながら私を見る。うぅ、イリィはちょっとイジワルだ。ふふ、と笑って頬にキスをすると今はこれだけだって。
頬を染めたままでキビの試作品を渡す。
「試作品だね?どれも美味しそう」
そう言って芋を食べる。美味しい。続いてポップコーン。目を見開いてこれも不思議な食感だねって。
そのあとキビ焼きとパンを食べた。
うんうん頷きながら、僕はアイが作ったのが好きだなって。
え?分かるの?とイリィを見れば
「もちろん、アイの魔力は分かるよ」
そっちかぁ、さすがだな。
「アイは僕の魔力分からない?」
もちろん分かる。あぁそうか…敵わないあぁ。
2人で微笑みあってキスをした。
穏やかに過ぎていく日。それが崩れるのはもうすぐだなんて知らない私たちだった。
※読んでくださる皆さんにお願い※
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価ををよろしくお願いします♪




