60.そして二人は
溢れる涙を優しく指で拭うとその顔が近づいてくる。そして僕の唇に重なった。優しくて温かくてほんの少ししょっぱいキスだった。
僕は離れたその唇に自分の唇を押し付ける。何度も何度も。スージィの手が僕の頬を撫でる。僕はたくさん回り道をしてしまったけど、こうして体の傷も治ってなによりまたスージィの傍にいられる。一緒に過ごした時間より…はるかに長い時間をこれから一緒に過ごそうね。
スージィの目が妖しく光る。想いを伝えあった今、その体温を強く感じたい。スージィもそう思ってくれてる?またキスをされる。本当にあんなに大きな体なのにどうしてそんなに優しいの?
「起き上がれるならシャワーを浴びるか?旅の汚れを落としたいだろ?」
そうだ、さっき薬を飲んだ後に汗をいっぱいかいてしまったんだ。でもまだ体が怠い。するとスージィが僕を抱えて運んでくれる。そういえば昔はこうやっていつも抱っこしてもらったね。
その頭に何度しがみついたことか。その逞しい腕に抱えられて。
そのまま一緒にシャワーを浴びる。優しい手つきで髪と体を洗ってくれる。そういうマメなところは本当に昔から変わらない。そうしてきれいになってベットに寝かされる。
宿のヤツらに飯作ってくるから少し寝てろそう言うと部屋を出て行った。
厨房に入るとアイルが料理をしていた。
「もういいのか?」
なんかにやにやしていてムカつくが、なんと言ってもウルと俺のケガを治してくれたヤツだ。しかも無料でだって。その頭を軽く小突くと
「悪いな。続きは俺がやる」
「おぉ、まぁな…。屋台では迷惑かけたからな」
おい、屋台の迷惑料にしちゃ高額だろ、呪いを解く薬だぞ。あのあとシャワーを浴びていたらウルが俺の古傷が消えていると言いやがった。
どんな効果だよ!もう突っ込むのも疲れた。
その後は夕食を作って宿のヤツらに提供し、片付けをして部屋に戻る。
ベットに腰かけてウルを見る。目を開いて俺を見ると笑った。その顔は初めて俺に笑顔を見せたあの時とおなじ無邪気な笑顔だった。
屈んでキスをする。ウルはうん…と艶めかしい声を出す。
俺だって普通に性欲ぐらいある。ウルと暮らしているときもその後も、時々あと腐れのない女とシていた。最近は色々と振り回されたせいか遠ざかっているが、その欲がウルの声を聴いて顔を出す。
ウルは妖艶な目つきで俺を見ると頬を撫でる。そして俺の腕を引いてキスをねだる。お前の体を気遣いたいのに、そんな目で見られたら我慢できないだろ?3年も待ったんだぞ?
まるでそんな俺の気持ちはお見通しとばかりに俺にキスをねだる。そのまま俺の体を引いて…ウルの体に覆いかぶさるように体が密着する。
俺の頭を抱いたウルはまぶたに頬に耳にキスをする。お前は俺の理性を試しているのか?
そのままその手で俺の体をなぞっていき、服を脱がせた。俺の裸の胸に頬をすり寄せキスをする。俺もウルの服を脱がしその白い肌を手で撫でていく。
その体は熱くほてっていて…。俺を誘うように反応する。耳元で聞こえる艶めかしい声にさらに俺の体が反応してしまう。
お互いの息遣いが荒くなりふるりと震えた後に脱力した。
ウルは俺の唇を求めて…なんどもキスをする。ウルを見ればその鮮やかな青い瞳を潤ませて囁く。一緒になろう…。
俺はその日、長い間待ち続けたウルと結ばれた。
ウルは涙で濡れた目で俺を見ると手を差し出してくる。
その手を握って体を屈め、キスをする。ねだるように何度もキスをしてくるウル。柔らかな唇が、絡みつく舌が俺を離さない。うん…キスをしながらウルが艶めかしい声を出す。
その細い腰を抱えて、やがて一つに…。頬を涙で濡らしながらやがて体を震わせ同時に脱力した。
その後もウルは何度もねだってきた。旅の疲れもあるだろう、そう言っても縋りついてくる。俺も欲に負けて結局何度もその細い腰を抱いた。
翌朝目を覚ますとウルが俺の腕の中で眠っていた。あどけない顔で。全く…。そのおでこにキスをしてベットを抜け出す。いつもより遅い時間になってしまった。
服を着て厨房に入るとアイルがいた。料理をしている。俺に気が付くとにやりとして
「無理しちゃダメって言ったのにね?」
だって。ムカつくなこいつ。
鍋にスープとそばにパンとサラダが用意されていた。さらに小鍋にスープがある。
「?」
「あぁ、それはウールリアさん用。昨日あまり食べられなかっただろうし、口当たりが優しいのがいいと思って」
覗き込むと牛乳のスープにパン?具は柔らかく煮た野菜のようだ。
「ありがとよ」
アイルは笑うと貰ってくよと自分で作った朝食を2人前持って行った。
宿のヤツらに朝食をだして片づけをする。
それからウル用に作ってくれた鍋と取り皿、スプーンを持って部屋に戻る。
目を覚まして俺がいないのが不安だったのか、涙目でこちらを見る。その頭を撫でて
「おはよう。体は大丈夫か?」
「ちょっと怠い」
「起き上がれないか?」
頷くと両手を俺に伸ばしてくる。
そのまま抱きしめてキスをする。抱き起して後ろからその体を支えるように俺もベットに入る。
俺の胸に体を預けて脱力している。
後ろから取り皿に分けたスープを持ってウルに渡そうとするが、手に取らない。そのまま振り返るようにこちらを見る。
スプーンを手に取って一口分を掬うと口元に持っていく。フーフーと冷ましてパクリと食べる。
「美味しい」
「アイルがお前にって作ってたぞ」
驚いた眼でこちらを見る。彼は多才だね、そう言うとねだるように見てくる。
また一口分掬ってやる。そうして俺の腕の中で朝食を終えた。
怠そうなのでそのまま寝ているといいと言ってキスをし、厨房に戻る。
昨日のことを思い出してひそかに赤面してしまった。俺ももういい年なのに何やってんだか…。それでもやっと戻ってきた大切なヤツだ。もう離さないぞ。そう誓って食堂の掃除を始めた。
その話はゼクスの町を駆け巡った。俺はギルドマスターの部屋で執務をしていた。部屋に来たイザークが
「ギルマス聞いたか?」
「何をだ?」
「やっぱり知らないのか」
「だから何を?」
「スーザンだよ」
「ん?屋台の話か…」
「全く違う」
それだけ言うと部屋を出て行った。
は?そこまで言ったなら最後まで言えよ!俺は部屋を出て探索者たちで賑わう部屋に入る。
そこで衝撃的な話を聞いた。
マジかよ…。
スージィが仕事を終えて部屋に戻って来た。僕は目を開けて微笑む。スージィが屈んでキスをしてくれる。僕はその腕を引いて彼とベットの上で体を密着させる。
知ってたよ。時々スージィから女の匂いがすることを。仕方ないよね?だってまだ20代で、普通に性欲があるんだから。
僕ならいつだって受け入れるのに、スージィは僕をそういう目で見てくれない。見てほしくないヤツにばかり僕はそういう目で見られて。本当に見て欲しい人には見て貰えないんだよ?
だから12の時に待ってって言ったんだ。スージィは笑うだけでハッキリ答えてはくれなかったけど。それからは女の匂いがしなくなった。
ねぇ、スージィ…期待していいの?
その頭を抱きしめてまぶたに、頬に、耳にキスをする。頬を撫でその逞しい体をなぞる。
そして服を脱がせて…少し日に焼けた体に頬ずりする。裸で抱き合うとその体温に懐かしさで目が潤む。キスをしてお互いの体を撫でて、繋がって。またキスをして…。
スージィの目が熱く僕を見る。あぁやっと…僕を見てくれたね?ずっと待ってたんだよ…その逞しい腕に抱かれる日を。
彼と一つになる。痛くて泣きそうだけど、それ以上の喜びが込み上げてくる。僕は泣きながらスージィにしがみついた。もっと感じさせて、もっとスージィを僕に感じさせて。深く繋がって心から満たされて…。
その後、何度もねだってしまった。彼は僕の体を気遣いつつも何度も体を重ねてくれた。やっと僕のものになってくれたんだね?
出会った時からきっと僕にとっては特別だったんだ。あれから10年…これからも変わらず愛してるよ…スージィ。




