6.探索者ギルドの職員
ギルド職員の仕事は依頼人との報酬含めたやりとり、探索者の登録や管理、報酬などのお金の管理、常設依頼の管理など多岐に渡る。
国営なので各町にあるギルドと横の連携を取ったり、緊急依頼の発注など国からトップダウンで来ることの処理も含まれる。
また、迷宮を管理する国と連携して情報管理も行う。登録者の共有も然り。
命が軽い仕事でもあり、登録希望者の中で明らかに冷やかしや、すぐ死にそうなのはそもそも登録をさせない。そんな入り口からの選別も密かに行っている。
だから登録窓口は人を見極められる職員が担当する。もちろん、冷やかしや荒くれものを捌けるだけの力と話術もいる。必然的に物理も優秀な若手が抜擢される。
イザークも22才で登録窓口を任された、荒くれどもを力でねじ伏せられる優秀な職員だ。最近は田舎から出てきて取り敢えず探索者になろうという甘い考えの奴が多い。だからはじめに相手を見ながらも自己責任な仕事、簡単に稼げないし舐めたらすぐ死ぬと少し大袈裟に話をする。
それで登録をやめるなら良し、やめなくても自己責任だ。
最近、いかにも町の外から来た風の男が登録に来た。おどおどしててまるで話にならない奴。
昨日はそんな感じのばかりで話だけしてダメだと思い登録させなかった。
そして今日、また若い子が来た。背は高いけど華奢な体つきで優しげな顔の子だった。あ、これもダメかと思ったが話をきちんと聞いてしっかりとこちらの目を見て相槌を打つ。真剣に最後まで聞いてさらに初心者講習についても受けたいと言う。
若い子ほど逸る気持ちが抑えられず、講習など受けずに早々に依頼を受注したがる。なのに彼は無料で受けられるならぜひと言うので今から受けられると言えば頷いた。
普段は探索者を引退した人に頼むが興味をひかれ自分で講習をすることにした。そして驚いた。3時間近くかけて色々話をしたが、最後まで真剣に聞いていた。
探索者になるヤツは座学が苦手な者が多い。しかし彼はしっかりと聞いて分からなければ時々質問をしてくる。自分の中に聞いたことを落とし込んでいるのが分かり、ほぉと思った。
これは化けるかもしれない。今日から依頼が受けられるがどうするか聞いたら、案の定、準備してからにすると言って帰って行った。
その背中を見送り初めての依頼の補佐には自分がつこうと決めた。最近はクランに加入してから登録する奴も多く、あまり使われない制度だ。しかし彼、アイルは助かると頬を緩ませていた。
面倒なことしか起こさない野郎どもが多いギルドでは珍しく、慎重で勉強熱心な若者に会えた。表情が変わらないので見た目では分からないが、イザークは機嫌が良かった。
アイルはギルドを出て昨日の屋台があった場所まで戻った。そこでスープと串焼きを買い昼食を食べる。今日はこれから買い物だな。
買わないと行けないものは採取に必要な道具。これは安ければ普通に買えばいいし高ければ安い鉄などを買って生産すればいい。
あと、今日の講習内容を忘れないように紙に書きたい。だから町を出て近場の森で木を手に入れる。紙と鉛筆を作るのだ。それをメモ帳にして書いておけば忘れても大丈夫。よし、今日の予定は決まった。
早速、講習で教えて貰った色々揃うというお店に向かう。
間口は狭いけど入ると意外と奥行きがあって広い店だった。入り口付近はナイフや収納袋、スコップなど採取用の軽道具、奥には防具や剣などの戦闘用装備があるようだ。その他テントや毛布などの野営用の必需品もある。本当に品揃えが凄い。
今日は採取に必要なスコップと小さな熊手、後は袋あたりか。値段はそれぞれ銀貨1枚くらい。安いのを買おう。考えていることがあるから高いものは買わない。
小さなスコップ、熊手、袋はサイズ違いで3つほど。後はリュックか肩掛けカバン。何も持ってないと不自然だからな。ちょうど良い肩掛けカバンがあった。値段も手頃だったので合わせて購入することに。 買うためにカウンターの前に行くと奉仕品として錆びていたり歪んでいる道具やナイフがなんと銅貨2枚で売っていた。5個ほど選んで買うと全部で銀貨7枚だった。
それから町を出て近くの森に行くことにした。近い森は町から10分程度で着くらしい。今日は主に木を集めるだけだから近場で充分。太陽はまだ真上にあるから大丈夫だろう。
東西南北にある門の東側から町を出て森へ向かう。門には衛兵がいて出て行くのはただ見ているだけだった。入る時にチェックしているらしい。そのまま見えている森へ向かう。10分ほどで到着。
んーマイナスイオンだ。やっぱり日本人は木を見ると落ち着く。しばらくそこで森を空気を堪能した。
さて、枝や樹皮を拾おう。何か素材として使えそうなものがあればそれも拾ってと考えながら森へ入って行く。
人が歩いて出来た道があるのでそれに沿って歩いてき、折れた枝や小ぶりな石を拾っていく。樹皮も剥がしながら進んで行くと道から入った先に薬草が見えた。
見ると
(すみれの涙)
と洞察力が教えてくれる。
(貴重な薬草。花だけを採取)
と続く情報がある。鮮度が大事らしい。道からそれて薬草に向かう。
花だけを採取して空間拡張ポーチの時間停止ポケット(アリーナ)に入れた。
その周りには他にもフーチバーと呼ばれる防腐剤にもなる薬草があって、こちらは葉っぱだけを採取。さらに少し先に小さな窪みが見える。洞窟かな?
近づいて見るとやはり小さな洞窟のようで、その中はなんと水晶があった。
買ったばかりのナイフをジョブで斬れ味を上げるように金属の不純物を取り除くよう想像して作る。
見るからに金属の純度が上がったそれを水晶の根元に突き立てる。ボコッと音がしてアッサリと取れた。
掌にちょうど乗るくらいの大きさ。結晶がきれいだ。周りを見ると紫水晶があった。水晶の透明から紫に色が変わるとても綺麗な結晶で腕で抱えるくらいの大きさ。これは欲しい。
結晶の周りにナイフを突き立ていく。そしてこれもアッサリと取れた。裏側も結晶になっていて空洞だったようだ。
ニンマリとしてポーチにしまう。空洞の周囲にも水晶の結晶があったので、空洞の周りにナイフを突き立てて採取した。もっと欲しかったが今日は木の採取が目的なので諦めた。
場所が分かるように道から逸れる木の根元に目印をナイフで刻んで森の奥に進んで行った。30分ほど入った所で素材も集まったので帰ることにする。
行きは足元ばかり見ていたから帰りは上を見ながらのんびりと歩いてゆく。しばらくすると何処からか声が聞こえた。ん?人?と思うとまた声が聞こえた。
「みぅみぅ」
これは動物?この森は魔獣はかなり奥に行かないと出ないと聞いた。なら動物かな。少し考えて声の聞こえた方に進んでみる。するとまた鳴き声が聞こえた。
さらに進むとそこには30cmほどのヘビと子犬?がいた。子犬は横たわっていて足から血が出ていた。噛まれたらしい。ヘビは舌をチロチロ出しながら鎌首をもたげた。咄嗟にナイフを投げる。すかさずジョブでヘビの革を想像する。ナイフはヘビに向かって当たるとそのまま革と肉と血になった。
予想はしていたが本当にこのジョブはとんでもない。生き物さえ生産で素材にすれば今のように討伐から加工までを一気に行える。はぎ取りも不要なんてチート過ぎる。人前では使えないな。クランに加入するのも無理だろ、これは。
人に知られたら拘束されて使い潰される未来しか想像できない。しばらくボッチ確定だな。
みゃうとまた声がした。そうだ子犬がケガをしていたんだ。近寄って子犬の体から毒や細菌を分離するよう唱える。咬まれた傷は深くて血が結構出ているな。
少し考えてある事を試す。子犬にそっと触ると皮膚とその下の組織を想像する。すると手元が水色に光って…傷が消えていた。
またまたチート来たーーー!マジか。
出来ちゃうのか。これが出来るのならケガが治せる。もしかして病気も治せるのかもしれない。うわぁ。自分でもちょっと引くわ。
これは本当に人に知られてはならないなぁ。と物思いにふけっているとみゃうみゃうと声が聞こえて手に柔らかい毛が触れた。
子犬を見ると短い尻尾をパタパタ降ってつぶらな瞳でこちらを見ている。真っ白かと思っていたが良く見ると背中は薄いグレーいや、銀色かな。自分の髪の色に似た色のその子犬は毛がふかふかしている。
目は青で耳が垂れている。めちゃくちゃ可愛い。
そっと首元と撫でるとしっぽがさらに高速パタパタ。か、可愛い。ケガをしていた足に血が付いているのでそれを分離するよう想像して唱えると綺麗になった。さらにしっぽが高速パタパタ。すると洞察力が仕事をして子犬の種族が分かった。
(銀狼の特殊個体。親から離れて彷徨っている。保護して欲しいと思っている…)
洞察力さん、何て仕事するんだ!情報だけでなく気持ちまで読んでしまった。こっちのスキルもパネいね。あははと乾いた笑いを漏らす。
転移前は犬を飼っていた。小型犬だったがもうおばぁちゃんで最後をみとる日も近いと思っていたのに、結局こちらに来てしまい最後まで側にいてやれなかった。
不意に寂しさが押し寄せてそっと子犬ではなく小狼を抱きしめて泣いた。最後は腕の中で抱きしめながら見送ってあげたかったな。
すると腕の中の小狼が顔を舐めてきた。それを見てそういえばナビィも良くこんな風に顔を舐めてきたっけ。また涙が溢れてきた。ペロペロと顔を舐められながらしばらく泣いて、ようやく涙がおさまった。
小狼を見て
「一緒に来るか?」
と聞くとみゃうと答えた。その小狼を抱いて道に戻り町へと戻って行った。
名前付けないとな。見た目は真っ白だし本当は白玉とかにしたいけど、同郷には転移者とバレてしまう。残念だけど白玉は止めてハクにしよう。これもバレるかも知れないが、まぁ何とかなるだろう。
「お前の名前はハクだよ」
と言うとハクが水色に光った。え?と思ってる間に元に戻り
『ご主人よろしくねー助けてくれてありがと!』
と喋った。えっ??喋った??
驚いているとハクは得意そうに
『僕は特別なんだよ』
と言って明らかにドヤっとした顔をする。
まぁこれも異世界あるあるだなと納得してヘビ革と肉を回収して町に向かった。