表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動
59/419

59.スーザンの昔話

 宿の扉を開けると…本当にこういう瞬間に居合わせるんだよな…私。


 目の前の光景に驚いた。だってあのスーザンが優しい顔をして誰かを抱きしめている。

 そして誰かは門のところで別れたあの人だ。


「お前、本当になんで今帰ってくんだよ…」

「え?予想外の野営になったから早く帰って休もうと思って」

 私のその声にあの人が振り返る。

「君は…」

 私は軽く頭を下げる。

「お前ら知ってんのか?」

「昨日、危ないところを助けて貰ったんだ」

「アイルにか?」

「アイル君て言うんだね。名乗りもしないでごめんね?」

「あーこいつはウールリアつって俺の昔馴染みだ」

「ウールリアさんどうも、さっきぶり。置いてきちゃって…」

「さっきの彼は?」

「俺の顔を見て安心して仕事に戻ったよ」

「あー、昨日お前が帰って来ないって心配してからな、連絡が来て安心はしたみたいだが。そうか門まで行ってたか。全く過保護なこった」

 私は苦笑する。立場が逆だったら私も同じことをするだろうから。

「立場が逆なら同じことするって顔だな」

 やっぱり心が読めてる!

「読めねーよ。お前が分かりやすいんだよ」


 ウールリアさんがスーザンを引っ張る。

「ねぇ、泊めてくれるの?」

「あーお前の部屋は俺の家にちゃんとあるぞ」

「先輩…」

 そう呟くとウールリアさんはスーザンの腕に倒れこんだ。苦しそうだ。

「ウル、お前まだ…」

「大丈夫、少し休めば。最近は大丈夫だったんだけどな」

 そのまま彼を軽々と抱えていく。

「アイル、すまんが手伝ってくれ」

 私はハクと顔を見合わせて頷く。

 スーザンが住んでいるのは厨房の奥の扉を開けた居住用のスペースだ。

 そこの扉を開けるとスーザンが奥の部屋にあるベットに彼を寝かせる。


『毒というか呪いだね。体を回っている。だいぶ前の傷みたいだ』

『呪い?それなら私の解毒剤で治る?』

『治るよ。完全な解毒剤の方ね』

 ふむふむ。致死性の毒用の解毒剤と完全な解毒剤を作ったら、完全な解毒剤はなぜか呪いまで完全解呪する薬となっていた。

 普通に考えて呪いが解毒剤で解呪できるとか意味不明なんだけど、それは転移特典ってことで。

 決して私がやり過ぎたわけではないよ?


 寝かされたウールリアさんは苦しそうに目を閉じている。

「古傷だ。毒が塗ってあった矢でな。まだ痛むんだな…」

 そう言ってその手を優しく握る。

 私は少し考えて、目を瞑っているウールリアさんに少し触れても?と聞く。

 目を瞑ったまま彼は頷いた。

 スーザンが左肩と右足と教えてくれる。じっと見つめる。


(呪い。左肩と右足を起点に全身に広がっている。完全な解毒剤で解呪出来るよ!)


 洞察力さんよ、軽いなおい!心の中で突っ込む。

 そしてその肩と足にそっと触れる。これは痛いだろうな。

「スーザン、俺解毒剤持ってる」

 悲しそうに笑うと

「時間が経ちすぎているし、そもそも呪いだ」

「試してみないか?特別な薬なんだ」

 私が必死に言うからか、悩みながらウールリアさんを見る。彼は怠そうに眼を開けると頷く。

 スーザンが彼の左肩を見えるように服をはだけさせ、ズボンをめくる。

 そこには白い肌に紫色のあざのようなものがあった。

 酷いな…。


 私は薬をポーチから出してスーザンに渡す。それをスーザンがじっと見つめている。

 鑑定持ちかな?

 ベットに横たわるウールリアさんを抱き起すように抱えて瓶の蓋を口で外すと、そのまま口に含んだ。

 口に含んだそれをウールリアさんに口移しで飲ませていく。

 彼の喉が動いて飲み込んだのが分かった。


 すると彼が体が水色に光る。あ、これはいつものヤツだ。薬が効くときになぜか水色に光るのだ。

 彼の白い肌に浮かぶ紫色のあざが薄くなっていく。それと同時にウールリアさんが苦しみ始めた。

『永く呪われていたからすでに体の一部になっている。解呪は苦しいだろうな』

 そうなんだ。スーザンがウールリアさんを胸に抱きしめる。

 どれくらい経っただろうか?ウールリアさんがぐったりとして、でも紫のあざはすべて消えた。

 そしてその白い肌には傷1つ残っていなかった。

 スーザンがその肩をそっと撫でる。ウル…そう呟いてウールリアさんをベットにそっと横たえた。

 無言でこちらを見ると厨房の方を見る。


 一緒に厨房へ移動すると深々と頭を下げた。

「いくら払えばいいか分からないが、何年たってでも払うから」

 え?いらないけど…。使う機会もなかったし効果を試す意味もあったし。

「いらない。試作品の実験だから…」

「試作品?お前が作ったのか?」

 あ、と思ったけどもう遅い。仕方なく頷く。

「だから効果を確かめる実験だから…お金はいらない。その代わりに黙っててほしい」

 スーザンは目を見開いてもう一度深々と頭を下げた。


「もう一つお願いがあるんだ?」

「何だ?出来ることなら何でもする」

 私はもう1本の完全解毒剤をポーチから出してスーザンに渡す。

「実験は多いほうが信ぴょう性が増すからね」

 そういうと

「お前、気が付いて…」

「凄く我慢強いのはいいけど、ちゃんと治さないとな?その腰、同じ呪いだろ?」


 スーザンは大人しく解毒剤を飲む。苦しそうに歯を食いしばって耐えている。

 凄いな…どれだけの精神力で今まで呪いと向き合っていたのだろうか?

 痛みが落ち着いたのかスーザンがポツポツと話し始めた。

 ウールリアさんを助けに行ったときにスーザンも彼を庇って腰に矢を受けたこと。それがただの毒ではないと気が付き、探索者を辞めることにしたこと。

 ウールリアさんにはそのことを黙っていたこと。

 ウールリアさんがスーザンの元を去った後、彼の戻る場所を作るために宿屋を始めたこと。その深い想いに涙が出そうになった。





 スージィが彼と部屋を出て行った。僕に聞かれたくない話だろう。僕は聴覚を強化して話を聞く。

 ラックも陰から出てきて僕に寄り添う。

 そして驚いた。スージィがあの時ケガをしていたなんて!僕のせいだ…。あぁ僕はなんて浅はかだったんだろう。自分で勝手に傷ついてスージィの元を離れてしまった。

 アイル君が言う。

「スーザンも寂しかったんだろ?」

「あぁ、しばらくは屋台も休んだしな…でも結局アイツがここ町を出て行ったから俺は宿屋を始めた。宿屋を始めたからお前に会えた。全てがそうなるよう決められていたのかもな。結局アイツの行動がアイツと俺を救ったんだ」

 その声が耳に響く。僕は間違ってなかった?スージィは僕を許してくれるの?涙が溢れた。スージィ…スージィ…。




 私はウールリアさんの…涙の気配を感じた。あぁ、これは…。後で目いっぱいからかってやる。

 スーザンを見てから彼のいる部屋の方を見る。スーザンは言いたいことを理解すると立ち上がった。

「あまり無理させるなよ?」

 ちょっとにやにやしてしまったのは許してほしい。憮然とした表情で厨房を出て行った。




 スージィが部屋に入ってくる。泣いている僕に気がつくと慌てて駆け寄ってきてくれた。

 そうだ、スージィはいつだって僕が泣いていると傍に寄り添ってくれた。今も僕の髪の毛を優しく撫でてくれる。

 僕はスージィに縋りついて泣いた。

「スージィ…ごめん、ケガのこと。僕知らなくて…」

「俺が言わなかっただけだ。俺が引退したのはお前のせいじゃないってもっと早く言えばよかったな。でもあの時のお前に何を言っても響かなかっただろうから。様子を見ていたんだ。お前が待ってくれと言った4年ももうすぐだったしな…」


 覚えいてくれたんだ。僕が12の時の話を。

 スージィに出会ったのが9才で、その時スージィは22才。そして僕はその時12才だった。スージィが周囲からそろそろ身を固めろなんて言われていたから。だから

「スージィ後5年、いや4年待って。それまでに僕大人になるから」

 必死に言ったその言葉に、スージィは笑って乱暴に頭を撫でてくれた。

 覚えていてくれたんだ…。

「お前が出て行って、はじめて気が付いたんだ。俺にとってお前がどれだけ大切な存在だったかを。遅いよな。お前はいつだって全力で俺に想いをぶつけてくれたのに…。出会った頃のお前のことを知ってるから、それが庇護する気持ちなのか違うのか…自分でもなかなか分からなかった」

 スージィはちゃんと僕のことを考えてくれていたんだ。



「お前が出ていく少し前…。お前の誕生日が来たら、その想いを受け入れると…そう伝えるつもりだったんだ」

「…4年どころか7年も経ってしまったけど、まだあの約束は有効?僕はもう大人になったよ」

 スージィは優しく微笑むと頷いた。

「スージィ。ずっと傍にいて…僕を離さないで…」

「ウル、ずっと傍にいる。もう俺から離れるな」

 涙が溢れてくる。あぁ、やっとこの想いが届いた。スージィ…スージィ…。

 溢れる涙を優しく指で拭うとその顔が近づいてくる。そして僕の唇に重なった。優しくて温かくてほんの少ししょっぱいキスだった。


「スージィ、僕の相棒だよ。ヘルハウンドのラック。普段は僕の陰に隠れているよ」

「ラック、ウルを守ってくれてありがとう。よろしくな」

『救われたのは俺だ、あぁよろしくな』


 こうして無事、再開を果たせた2人だった。




※読んでくださる皆さんにお願い※


面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価ををよろしくお願いします♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ