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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動
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56.帰還

 まだ夜が明ける前に僕は目を覚ました。ここは…?

 痛ッ。少し体が痛い。動いたのが伝わったのか、ラックが僕を覗き込んだ。

『大丈夫か?』

「あぁ、切り傷ばかりだし深くないよ。少し血は流してしまったけど。ここは?」

 ラックは聖獣のことを話そうとしてやめた。何となく言わない方がいいと思ったから。

『近くで採取してた少年が助けてくれた』

「オークは?」

『分からない。俺も倒れたところを助けてもらった…』

「そうか…ラックが無事で良かった」

 そう言って首元を撫でる。


 テントの外で動く気配がする。僕は害意を持つヤツの気配に敏感だ。外からは音を立てないように気遣いながら何かをする様子が伺える。

 トントン…ザッザッ。

 しばらくするといい匂いがして来た。くぅぅとお腹が鳴る。まるでその音が聞こえたみたいなタイミングで外から声がかかる。


「目が覚めてるか?」

 僕はラックにつかまって体を起こす。

 そしてあぁと短く答える。

「食事は?食べられそうか?」

 それにもあぁと答える。助けてくれたし、害意はない。それでも僕の顔を見て豹変する人は多くいた。今は抵抗出来ないから、警戒は解けない。


 匂いが近づいてくる。テントの端がめくれて、スープと薄いパン、ジュースと水がトレイに乗っている朝食を静かに置いていく。

 そのままテントを降ろすと気配は遠ざかって行った。

 ラックがトレイを鼻で押して来る。

 スープからは湯気が立ち、美味しそうな匂いがした。スプーンを持って口に運ぶ。

 美味しい…呟くとドンドン口に運んでいった。パンは薄いけど味わい深く、昨日の昼ぶりの食事はとても美味しかった。


 しばらくしてまた声がかかる。

「体はどうだ?痛みを止める薬ならあるけど…」

 ラックが頷く。大丈夫そうだ。

「貰えるか?」

 テントの外に気配がする。

「開けても?」

 あぁ。これだけしてもらってもまだ疑うことなど出来ない。

 ゆっくりとテントがめくり上げられる。そこにいたのはまだ10代半ばくらいの少年だった。

 細身で頼りなげな風貌。くすんだ銀の髪と目をしている優しい整った顔立ちの子だ。

 あぁ、この子なら大丈夫。そう思った。

 なぜなら僕を見ても変わらなかったから。少し驚いたようではあったけど。

 ラックを見て淡く微笑む。そして手に持った薬を渡してくれる。


 僕は鑑定の能力で薬を見る。

(傷薬 ケガをほどほどに治す 消毒効果あり 美味)

 え?薬に美味とかあるのか?

 半信半疑で薬を飲む。これは…後味の爽やかな美味しい薬だった。そして熱のあった傷は塞がり、痛みも消えた。

 ほどほどってこれが?マジマジとその瓶を見つめる。

「どうかな?」

 心配そうに僕を見ている。あぁ、凄いな。

「ほどほどだった?」

 真剣に聞く。頷くとホッとしたように薄く笑う。ほどほどじゃないけど…まぁいいか?


 動けるようになったので出発することにした。

 聞けばゼクスの町から来ているそうだ。目的地が同じだから一緒に、と誘われて有り難く受けた。

 この子はかなり強い。そして何より子犬ぐらいのこの犬だ。とんでもない魔力を感じる。それに雛なのか、小さな鳥もいるが、こちらも得体が知れない。

 ただ、今の僕には心強い味方だ。


 急がないからと、キノコや薬草の採取をしながら進む。途中、土を掘り始めたのにはビックリした。土の中から芋が出てきたのも。

 そうして1時間半で森を抜けた。

 ここからはもう町が見えている。

「どこか行くのか?」

 少年が聞く。

「宿に。先輩がやってる」

「へーそうなんだ?」

「あぁ、古い知り合いなんだ」

 宿の近くまで案内して貰おう。そう思っていたが、門を入ると

「アイ…待ってたよ」

 少年を迎えた男がいた。フードを深く被っていて顔は見えないが、睨まれているようだ。

 サッと彼を後ろに隠すと、もういいだろうと言って引っ張って行った。

 少年はこちらを心配そうに振り向きながら、手を引かれて行った。


 保護者か?ずいぶん過保護だな。呆れながら見送る。

 宿まで行けるかな?そう考えていると、影に潜ったラックが匂いで分かると言う。そのまま宿屋が集まる方に歩いて行く。

 ラックの誘導で通りから少し入ったその宿を見つけた。先輩…今頃になって緊張してきた。

 受け入れてくれなかったらどうしよう?先輩…。

『行かないのか?』

 ラックの声に押されるように宿の扉を開ける。


 入り口の奥から声がした。

「ん?誰だ。少し待て」

 懐かしいその声に体が固まったように動かない。

 そして来るであろうその人を待つ。大きな体を屈めるように厨房から出てきたその人は懐かしい思い出の中の姿のままに、そこに立っていた。





 起きてテントの方を見る。まだ寝ているみたいだ。音をなるべく立てないよう朝食の準備を始める。

 昨日の夜食べてないからスープとパンがいいな。野菜は柔らかく煮て…そろそろ出来るかなって頃にテントで動く気配がした。声をかける。

「起きてるか?」

 返事があった。ご飯も食べるというので、テントをめくって差し入れた。


 何となく、顔を見られたくないかなって思って。昨日はフードを被っていたけど、チラリと見えた口元は凄く整っていた。

 これはイリィ並の美貌なのかも?深入り禁物だな。

 食べ終わったみたいだ。

「体はどうだ?痛みを止める薬ならあるが?」

 そう、例の作った中で唯一、人に渡せるほどほどのヤツ。他のは…ダメだろ。チート過ぎる。

 貰えるか?と返事があったのでその前に様子を確認するためテントを開けた。

 そこに起き上がっていたのは…綺麗な金髪に目が覚めるような青い目の美男子だった。まだ若いかな?

 左目の下のホクロが色っぽさを増している。雰囲気のある男の人だ。


 うん、イリィとはまた違う美形だね。イリィは本当にひたすら清く美しい感じ。その人はもう少し妖艶な感じ。これはまた苦労しそうだ。

 薬を渡す。じっと見てるから鑑定待ちかな?それからグイッと飲んだ。そして驚いている。

 私はドキドキして見ていた。やり過ぎて無いよね?

 すると、ほどほどに効いたと言われてホッとした。良かった。胸を撫で下ろす。



 そしてテントを畳んで出発。行き先はゼクスだと言うので町まで一緒に行くことにする。

 途中でまたキノコと薬草、芋を掘っていたら驚かれた。物静かな人で隣を歩くラックもしっぽフリフリで楽しみながら1時間半ほどで森を抜けた。町までもう直ぐだ。


 門を入る。ドキドキしたけどギルドからの呼び出しはなかった。ホッと思ったらなんと、イリィが待っていた。

 確かに戻るよって念話したよ?でもまさか迎えに来てるなんて。

 あの人は深くフードを被ってラックは影に潜って付いて来ている。そして当然何事もなく門を通過する。

 宿をしている知り合いの所に行くと言うから、近くまで案内するつもりがイリィに手を引かれて離されてしまった。振り返るとあっけに取られていた。



 イリィは私の手を握り歩いてゆく。路地を入った辺りで振り返ると私の顔をじっと見つめて頬に手を添える。

「お帰り」

 そう言ってふんわり抱きしめてくれる。私もイリィの背中に手を回して抱き合う。キスをされて、今度はギュっと抱きしめられる。

「本当にアイは…面倒を引き寄せないと済まないのかな?」

 うっ、私も少し思ってたよ…。

「あまり心配させないで?」

 そう言ってまたキスをしてくる。うん…赤くなりながら答える。宿まで送るよ、と言われて一緒に歩き始めた。




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