55.やはり何かを引き寄せる?
飛び立ったブランを見送ってハクとスーザン作のお昼ご飯を食べる。スープは例の固形スープの素。
もっと色んな味のを作ろうかな。
森をさらに南に進む。木が密集した付近にキノコを見つけた。天然の菌床だね。倒木にびっちりとキノコが生えていた。これもせっせと収穫。
夢中でキノコを採っていたらかなり南に進んでしまったみたいだ。
そろそろ戻らないと。
そう思った時、空からピィーーとブランの甲高い鳴き声が聞こえた。なんだ?この感じ…。
ハクが耳と鼻をピクピクさせる。そして
『乗って!』
大きくなって伏せる。ハクに飛び乗ると走り出した。空では相変わらずブランが警戒している。
胸がざわざわする。嫌な感じだ。
急にハクが止まった。ガサッ。
茂みの中から何かが出て来た。そしてドサッと倒れる。直前に
『あの人を…』
そう言って。
私は駆け寄り、その体にある夥しい傷に傷薬(超)をかける。
「がんばれ、助けてやる!死なせない」
洞察力さんオススメのあらゆる傷を治し、菌まで追跡して殺すヤツだ。傷はすぐに塞がったが目を覚さない。その子を抱えたままハクに乗り進んでいく。
ブランは変わらず警戒の声をあげている。さらに進むと血だらけで横たわる人を見つけた。周りにはオークの群れがいる。ここに来るまでかなりのオークが死んでいた。
この子が陽動して倒したのだろう。
それでもまだかなりの数がいる。私はハクから降りて横たわる人に駆け寄る。
見た感じ大きなケガはない。ただ、肩と足にケガをしている。
ハクがオークに向かってる前脚を振り上げて降ろす。ザシュッ…。
一瞬の出来事だった。
ハクさん、パネぃっす…。
そこには5匹のオークが倒れていた。
ハクはそのままヤツらをささっと収納すると、こちらに来た。
『かなり大きな群れだったようだ』
「なんか大きいのいなかったか?」
『あぁ、オークキングあたりだね、雑魚だよ』
はい、ドヤ顔いただきました!
取り敢えずここは離れた方がいいだろう。ハクに乗せて運んでいく。私は支えながら歩きだ。
途中に落ちていた?オークは歩きながらハクが踏んづけて収納して行く。まぁハクだし?
最後に採取をした辺りで日が暮れてしまった。今日は野営だな…。
心配しないようイリィに念話をする。
そう、実はユーグ様の元に行った日の夜、イリィの体に変化が起きた。それまで私より小さかったのに背も高く体も大きくなった。ハクが言うには魂の契約で成長が止まってたんだって。それが完全に解放されて成長が促されたらしい。少しだけ高くなった目線と逞しくなった体にドキドキしてしまった。
その後は、まぁね…たっぷりと可愛がって貰ったよ?
う、うん…それで成長と共に能力もさらに向上して念話が出来るようになったんだ。
だから心配しないでと伝えると、ソイツは大丈夫なの?だって。これはケガの心配じゃなくて私にとって害がないかっていう意味の大丈夫か、なんだよな。
もちろん、まだしばらく目が覚めないと思うからと伝えたよ?
テントを張ってその人を中に寝かせる。傷は大丈夫そうだったから治していない。
そして、この子だよな…見た感じは黒い犬?犬には弱いんだ。あんなに傷付いて、それでも必死に戦ってこの人を守ろうとするなんて…助けずにはいられないよ。
『コイツはヘルハウンドだな』
「ヘルハウンド?」
『幻獣だ。普段は何かの影に潜んで滅多に外には出てこない』
「ほぇー幻獣なんているんだ?」
『単発の魔獣は奇襲で戦えるが、正面からあの数では厳しかっただろうな、良く堪えた』
ピクッ…そのヘルハウンドの体が震えてゆっくりと目を開けた。その目は見事な金色で黒い体との対比で一層輝いて見えた。
のそりと体を起こすと伏せの姿勢になる。
『聖獣様、助けてもらいありがとうございます』
『お前を助けたのは僕の契約者だよ。感謝なら彼に』
いや、オークを殲滅したのはハクだよね?
『聖獣の契約者様、ありがとう』
「体は大丈夫?」
『あぁ、むしろとても調子がいい』
なら良かった。
行商人と別れて、彼と順調に進むその行く手に突然、暗雲がたちこめる。追われるように森の深くに入ってしまい囲まれた。
ちっ、オークか。俺とは相性が悪い。責めて彼だけでも逃さなくては。
昔、川のほとりで傷ついて死にかけていた。でも俺を狙ったヤツはまさにトドメを刺すために襲いかかってきた。
覚悟を決めてその時を待つが、耳に聞こえたのはドサッという音。目を開けるとそこにはフードを被り足を引きずった人がいて、剣をしまうと俺の側に来た。
「僕を魔力をお食べ」
そう言って手を差し出してきた。その指を舐めて魔力を食べる。甘くて優しい味がした。
それが彼の人との出会い。俺たち幻獣は魔力を力として生きている。その大気や地、魔獣や時には人の魔力も食べる。大気や地の魔力は自然回復のようなもので、一気に取り込むには魔獣がいい。その狩りに失敗して返り討ちにあった。
助けてくれた人の魔力は俺と相性が良かった。何かお礼をと言えば、それなら契約してくれと。
幻獣である俺たちと契約すると、お互いに魔力が増す。一部の力は共有出来るし、その人の影に潜れるようになる。俺にとっては常にその人の魔力が貰えるのでお互いにいいことばかりだ。
断る理由もなく契約する。そして名前を付けて貰った。ラック。それが俺の名だ。
『俺たちを助けてくれたんだな、礼を言う』
聖獣の契約者である少年は困ったように
「ハクがオークを殲滅したんだ。俺は何もしてない」
そう言って肩をすくめた。
そんな筈はない。今度こそ死を目の前にして、意識が鮮明になっていたあの時、確かに
「がんばれ!死なせない」
そう聞こえた。その声は間違いなくこの少年だった。
聖獣様を見ればドヤ顔をしている。
『僕の契約者は優しくて強いんだぞ!』
そんな聖獣様を、透明に微笑んで優しく撫でている。
「君、名前は?」
『ラック』
ふふふっ素敵な名前だね、そう言って少年は笑った。
「君は何を食べるの?」
『コイツら幻獣は魔力を食べる。アルの魔力を分けてあげたらいいよ』
首を傾げて
「ハクの魔力じゃなく?」
なぜかドヤ顔で頷く。
『聖獣様の魔力では俺が受け止められない』
よく分からないけど、どうぞ?
そう言って手を差し出す。
俺はその手を舐めて魔力を食べた。その魔力は暖かくて優しい味がした。
『私の祝福も少し君に渡そう』
そう声が聞こえた。
ん?誰だ?
『精霊王の加護がついたな』
何でもないように言うけど、幻獣にとっては最高の加護だ。生命樹に宿る精霊王だぞ?
なんか、感覚がおかしくなりそうだ。
一瞬で傷を治す薬って有りか?有りなのか?なんか疲れた。俺は眠る主のそばで丸くなった。
目を覚ましたラックは主のそばで丸くなった。こうして見ると黒くて大きな犬だよなぁ。もふりたい。ピンと立った耳に触りたい。しっぽもふかふかしてそう。触りたい。お尻も柔らかそうだ…顔面ダイブしたい。
そう思っているとなぜかハクが拗ねていた。
「ハク、どうした?」
『アルはピンと立った耳がいいの?』
えぇー、垂れ耳だって大好きだよ?ハクが立ち耳でも垂れ耳でも…ハクの耳なら何だって大好きなのに…拗ねちゃうんだ?可愛い。凄く可愛い。今日も明日もずっと可愛い。私のハク…その首をモフって頭にキスをした。
嬉しそうにしっぽが揺れている。
さて、寝るかな。私はローブにくるまり、大きくなったハクとブランに挟まれて眠りに落ちて行った。
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