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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動

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54.旅の目的地

 僕たちの旅は順調に進んだ。王都を迂回して町を周り、売って仕入れて。

 僕を変な目で見た護衛たちは早めに力で分からせたから、それからは大人しくしている。よほど怖かったんだね…。


 今日は街道の側で野営だ。この辺りは町も疎らだから仕方ない。

 僕は途中で狩った獲物を渡すだけ。自分のテントは設営するけど、料理は作らない。

 出されたものを食べるだけだ。

 夜の見張り?僕には必要ないよ。頼れる相棒がいるからね。普段は隠れてるんだけど、強い子だよ。

 今日も僕がテントで休むと代わりに警戒をしてくれる。

 あぁ、そういえば僕のことを変な目で見てた連中だね。先まわりしてたのか。


「ぐぇっ」「何やってんだ!」「やめてくれ!」

 その後ドサッと音がした。

「ヤッタの?」

『少しな』

 くすくす、怖いなぁ。でも頼れる。その体をサッと撫でる。すり寄るように体を擦り付けて離れて行った。

 また外で見張ってくれるんだね…。


 そんなことがありながら、漸く目的地ゼクスの隣、領都であるツヴァイに辿り着いた。

 ここまで来るとやはり少し涼しい。

 ここは先輩と迷宮に潜るためにしばらく滞在した町だ。知り合いもまだいるかもしれない。

 そろそろ顔を隠した方がいいだろう。


 行商のエルはここからゼクスに寄って北を目指す予定だった。しかし僕がここまででいいと言ったこともあり、ゼクスには寄らず北上することにした。ここでお別れだ。


 同行する行商人を探していてお勧めされたのがエルだ。堅実で無理をせず、手堅い。何より奥さんの尻にガッチリ敷かれていてよそ見どころか、興味すら持たない。身持ちの固い人。僕にとって理想だ。僕が乗せて欲しいと言っても嫌な顔をするだけ。

 自分でも周りより容姿が優れている自覚はある。その僕を見ても顔色一つ変えない。適任だ。


 そして予想通り、エルはいいヤツだった。護衛に対して僕の心配をするぐらいには。

 彼の目利きはなかなかで、派手さはないけど堅実。小さな町や村にも嫌がらずに回って行って、皆信頼されている。

 護衛もちょっとアレだけど、実力はあった。いい人選だったよ。


 そこでエルと握手をして別れる。昔馴染みの宿には行きたくないから、適度に寂れた宿に入る。

 やっとここまで来た。ふぅ。

 先輩はまだゼクスにいるのだろうか?別の町に移っていたら?不安になって少し手前のそれなりに大きな町の酒場で情報を集めた。

 意外なほど簡単に集まる。当たり前か、突然引退した見目麗しい上級探索者が注目を集めない訳がない。

 熱烈なファンがいたくらいだ。噂にもなるか…。

 先輩がゼクスにいることは分かった。あと少し、あと少しで会える。期待と不安がない混ぜになったふわふわした気持ちでその夜を過ごした。


 翌朝、夜が明けて早々に町を出発した。ここからゼクスまでは1日かかる。なんとか日暮までには辿り着きたい。足早に街道を行く。






 死の森から帰ったらすぐに探索者ギルドへ呼び出された。スーザンとなぜかレオ、ルドも一緒だ。イリィは工房に籠るからと、送り届けて皆でギルドに来た。

 扉を入ると人で賑わっている。

 すると何故か視線が集まって来た。何だ?と思っていたらその視線はスーザンに向いていた。

「疾風だ」「相変わらず凄い筋肉だな」

「引退したんだろ?」「かっけー」

「推し」

 ん?最後に変な呟きが聞こえたような?


 スーザンを振り返ると眉間に深いシワが寄っている。怖!見なかったことにして前を向くと、ギルマスがドシドシやって来た。

「おう、来たな!奥に行くぞ」

 そう言ってスーザンの肩をバシバシ叩いた。それをウザそうに払うとギルマスはスーザンと肩を組んで連行…んんっ並んで歩いて行った。

 慌ててレオ、ルドと後を追う。レオとルドは目をキラキラさせてギルドを眺めていた。うん、子供は可愛いね。


 そしていつもの会議室の扉は開け放たれ、中には奥にイザークさんとフェリクス様が座っていた。

 相変わらず胡散臭い笑顔で

「やぁ、アイル。元気かい?」

「こんにちは、フェリクス様」

「あまり僕のイズを困らせないでくれよ?僕以外に意識を向けられたくないからね」

 この人も全くブレないな。

 何て答えたらいいんだ、これ。


「お前も相変わらずベッタリだな」

 と快活にギルマスが笑う。

 そして手前の席に座るよう促された。

 皆が触ると

「良く来たね。今日は顔合わせとスケジュールの話だよ。まず、私はここの領主、ダナン・アフロシアの息子でフェリクス・アフロシア。次期領主だ」

 そう言って皆を見る。

 レオとルドは緊張どころか目を輝かせてスゲーとか言ってる。大丈夫そうだ。

 フェリクス様は2人に優しく笑いかけ(胡散臭くないヤツ)話を続ける。


「屋台は中央広場で、感謝祭に合わせて開店する。それまでに試作品を作って欲しい。キビサンドとキビスープは決まっているから、後1つか2つ」

「お前ら出来そうか?」

 出来そうかって聞いてるけど、多分強制だよね…?

 うーん。何がいいかな?


「「考えてみる」」

 私とスーザンの声が重なる。後は屋台の大きさとか必要なものなど細かいことを詰めていく。

 その際に、ルドが活躍した。

 家族で食べられるように小さなのも欲しいとか、片手で食べやすくとか。

 その意見も取り入れて一度ラルフ様と協議すると言うことで解散した。

 でもなんでラルフ様じゃなくてフェリクス様なんだろ?そう思っていたらフェリクス様がこの領地でもキビ栽培を始めようと検討していた矢先の話で、収益に繋がるなら積極的に植えたいと考えたそうだ。

 確かに絶妙なタイミングだったな。


 そんな話をしてギルドを出た。新しいメニューねぇ。

 ん、そう言えば保存食として乾燥させたものを備蓄してるって言ってなかったか?

 それならあれがいいかも。

 私はもう思いついたからね、スーザン頑張れよ!


 ふふんって思っていたらスーザンに睨まれたよ。だから

「疾風って何?」

「あぁ?」

「さっきギルドで」

「昔の話だ」

 目をキラキラさせてスーザンの手を掴むレオとルド。

 ため息やついてから

「昔、まだ探索者だった頃の二つ名だ」

「疾風のごとくとか…?」

 ブスッとして答えてくれなかった。

「スゲー。筋肉だけじゃないんだな!」

 やめなさい、私も思ったけど言わなかったのに…。

「昔の話だ。もう今はただの宿屋の主人だ」

 その横顔は少し寂しそうで、誰かの名前を呟いたような気がした。



 さて、私はもう新しいのを考えた方から後は作るだけ。時間が空いたから南門から行ける森に行くことにした。留守番だったハクとブランを連れて南門から外に出る。

 南に向かう街道にそって進んでいくと左手、東の方に森が広がっている。

 そこでハクとブランとのんびりお散歩がてら薬草でも探そうかな?

 そんな感じで森に入る。

 ここは少し薄暗くてジメっとしている。なんだかキノコが好きそうな環境かな?

 薬草もシダッぽいのが多いような。


 フーチバーの葉が群生してる。これは殺菌と保存の効果があるから食べ物を包むのに使える。

 せっせと採取。

 ハクは土を掘っていて何かを探しているみたい。

『アル!』

「どうした?」

 土の中をテシテシする。ん?

『芋だ』

 芋?山の中に?もしかして…ハクの隣に並んで土の中を見る。

 それは長くて細いものだ。周りの土を払って引っこ抜く。やっぱり

「山芋だ!」

 隣のハクはドヤ顔をしている。ハク可愛い。

 その首に抱きつく。もふもふスーハースーハー。頭にキスをして山芋を見つめる。凄いぞ!あ、キビの新しい料理を思いついた。

 それならたくさん採るぞ!

 ハクと土だらけになりながらたくさん山芋を掘った。


 そろそろお腹が空いたなと思ってブランを探す。あれ?いない…羽毛に包まれたふわふわなブランちゃん…どこ?

 慌てて見回しているとハクが呆れたように

『あそこにいるだろ?』

 どこ?見えないよ…空には大きくて立派な鳥が飛んでるけど…ん?大きくて?

 また空を見る。力強く羽ばたいた鳥は私を目掛けて降りてくる。


『どう?』

 はい?どうって…えぇ…ブランちゃん?羽毛は?

『大きくなったんだよー。でもご主人は小さな僕が好きみたいだったから…』

 しょんぼりと言う。

 私はブランの羽をそっと撫でて

「大きくても小さくてもブランはブランだよ?」

 そう言って小さな頭を撫でる。

 頭を私の頬に擦り付けると、ピタっと寄り添って来た。あぁ、可愛い。小さくても大きくてもこんなに可愛い。その気持ちが伝わったのか、大きく羽ばたくとふわりと上昇した。

 そして力強く羽ばたいて空へと向かい

『散歩してくるー』

 と飛び立って行った。


 びっくりしたなぁ。いつの間に大きくなったんだろ?

 ハクの胸毛に埋もれてる姿しか想像できない。

 でも良かった。あの弱々しいブランがこんなに立派になって…嬉しいよ。




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