49.白銀王の物語
章設定をしました(20241204)
私の故郷はとても遠いところで、家族がいました。でも私は遠く離れたここに…。
急なことで、別れの言葉も言えずに…。
私はこの国のことをあまり知りません。今少しずつ学んでいて。
だから予想外のことをしているとしたら知らないからです。この国の知識と故郷はいろいろと違うみたいで…。
ここに来てからハクと出会いました。
この子は聖獣である銀狼です。少し特殊な子みたいですが、間違いなく聖獣です。
すると生命樹から精霊王が出てきた。
『この子は確かに聖獣の子。銀狼の中でも特殊個体の白銀狼という。白銀狼の子は群れから幼いころに出される。
そこで契約者と出会えれば封印された本来の力が解放される。他の銀狼よりはるかに強い個体だよ。
ハク、君はアイルと出会えて力が増したよね?』
『うん。小さな蛇に怯えていたのが嘘みたいだよ』
そう言えば今の力があればあの時、蛇に咬まれる事なんてなかったのか。
『そうだよ、アイル。君が僕を助け名を授けてくれたからね』
『白銀狼の子はその強すぎる力を封印されている。契約者と出会う事でその力を正しく使えるようになる。一種の呪いのようなものだな。それを解くカギは契約者と出会う事のみ…。ハク良い契約者と出会えたな』
ハクはしっぽをぶんぶん振る。
ロルフ様とラルフ様は私とハクを見て精霊王を見上げる。
「白銀狼…初めて聞く」
「もしかして…兄様、屋敷の書庫にあったあの物語?」
「フェンリル…白銀の王…白銀狼…」
2人はハクを見て…跪いて頭を下げる。
え?
精霊王が
『そういうことをこの子は望まないよ。頭をあげなさい』
2人は顔を上げる。
『僕はただのハクだよ』
2人は頷いて座る。
『白銀狼の契約者は私の愛し子となる。何年ぶりかな?ずいぶん長く眠っていたようだ』
それだけ言うと木に戻って行った。
えぇ、言いっぱなし?いたたまれないんだけど…。
ロルフ様たちが私を見る。
「ハクと出会ったときに聖獣だと知ったのですが…その意味すら知らなくて」
私はまたポツリポツリと話をする。
「俺、いえ私は魔法の使い方も知りませんでした。ギルドの資料室で本を読んで試してみたんです。
そしたら全ての属性を上級以上使えて。全魔法属性でした。
あと、私のジョブは少し特殊で。あらゆるものを生産出来ます。
創造することが出来るものであれば、物でも物以外でも作れます」
「あの固形スープの素も?」
「あれはただの魔法です。クッションですね、特に留め具とか」
「なるほど」
「あとあの…ロルフ様ごめんなさい」
「ん?」
「私のスキルが…その」
「スキルがどうした?」
「ポイズンスネークに咬まれた時、ロルフ様の状態を確認するためにスキルで状態をみたんです。その時にその、能力まで見えてしまって…」
ラルフ様が私の肩を掴んでなんだと?と見つめる。
「鑑定では人の能力は見れない」
「鑑定ではないんです。物や人の能力が見れる…」
「私の看破でも君の能力は見れなかった」
「私のスキルは洞察力。あらゆる事柄の本質を見抜く力です。物も人も。パッシブスキルですが、知りたいと強く思わないと見えないようになっています。ロルフ様の時は毒が体から抜けたことを確認するために見ました」
ラルフ様が私の肩を離す。
ふぅ。とんでもないなと呟いて。
「君一人でどれだけのことが出来るんだろうな。私のスキルが弾かれるはずだ」
私は困ったように笑う。
ロルフ様が握る手に力を込める。
「大丈夫…私たちは味方だ。良く話してくれたね…」
涙がこみあげてくる。本当は怖かった。とても…受け入れられなかったら?恐れられたら?
ロルフ様は私を抱き寄せ大丈夫、大変だったね。そう言って頭を撫でてくれた。
すかさずラルフ様が間に割り込んだ。
この人本当にぶれないなぁ。
「事情は分かった。全てではないんだろうが、納得した。兄さんが言ったように我々は味方だ。この情報は秘匿する。代わりに兄さんとそれから私の領地のために出来ることをして欲しい、強制はしないよ。ただ君がいるだけで充分恩恵にあずかっているからね」
ロルフ様が頷く。
どれくらい前だろう?
まだラルフは体が弱くて、私はそのベットの横で絵本を読み聞かせていた。
ラルフは白銀王の物語が大好きだったから。
とある国に悪魔が現れた。
悪魔は民を虐げ、食べ物を取り上げ水を枯らし人々は飢えに苦しんでいた。
それを憂いた王様は神に願った。
どうか、私の身がどうなろうとも構いません。民を、民を助けてください、と。
その切なる願いを聞いた神が王に言う。
其方の命と引き換えに望みを叶えよう。
神が何かを呟くと王様の姿は消えていた。
その頃、悪魔の目の前に目が覚めるような白銀の大きな狼が降臨した。
「我、魔を払うものなり」
そう言うと前脚を振り上げて悪魔に向かって振り下ろす。
やがて悪魔は断末魔の悲鳴をあげて消滅した。
民は喜んだ。悪魔が滅びたと。
しかし王宮は静まり返っていた。
王がその身を捧げて民を救った。もう王はいない。
そこに白銀の狼が降り立つ。
嘆き悲しむ前にするべきことがあろう。我はそなたたちをいつでも見守っている。
王妃さまと王子たちはその狼こそが王だと分かった。
父上…。
白銀の狼を抱きしめる。
しかし、白銀の狼となった王は行かねばならぬ。息災に過ごせ…そう言って姿を消した。
王妃と王子たちは嘆き悲しんだ。
しかしひとしきり泣くと立ち上がる。
父上の守ったこの国を私たちが引き継いで行きますと。
その誓いを胸に民を立派に導いた。
王の間には絵が飾られている。
そこに描かれているのは白銀の狼となった王の人と狼の姿。
それからいつしか王は…「白銀王」と呼ばれるようになった…。
懐かしい物語。しかしこれは白銀狼の物語なのではないか?
なんとも不思議な感じだ。
アイル…君は本当に不思議な子だ。
「実はラルフ様が占領した土地の隣を私が占領しました。死の沼を含む一体です」
「何があるのだ?」
「死の沼。それこそが大きな資源です」
2人はまた目を見開いた。
人が近寄れない危険地帯だ、驚くのも無理はない。
「沼?」
「私の故郷では貴重な資源でした。ただ、私ではどうすることも出来ませんが」
「なら何故?」
「悪用されないためです。同郷のものが見つけたら…」
「悪用される?」
「可能性ですが…とても危険です」
「それほどの?」
頷く。
「白の沼は危険ではなく、単に自分がその…楽しみたくて」
「楽しむ…?」
2人は訝しげに眉を寄せる。
「出来たらお2人にも見せます」
淡く微笑む。
握った手をまた強く握りしめる。
アイルは私を見て
「ロルフ様の手は温かい。まるでお兄ちゃんの手のように…」
そう言って目を潤ませる。
そして瞬きして涙を止め、ラルフを見る。
「私は平穏に過ごしたいだけです。ハクのことも何かに利用する気もありません」
「信じよう」
そう言って大きく頷いてくれた。
生命樹から
『良きかな…』
と声がした。
第1章終わり
物語はまだまだ続きます
※読んでくださる皆さんにお願い※
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