47.ラリマー
洞窟に戻るとブランが見つけたラリマーの採取をロルフ様がしていた。
私に気がつくと
「この石も…さっきの青い石も…新しい発見」
「君の名は…歴史に残る」
え?
「当然だよ…君が見つけた」
「待って下さい。それは困ります」
「なぜ?」
「それは…」
「君は…何を隠している…?」
「そのことは少し待って下さい…」
「いつまで?」
「…あと少し…です」
「私だけの判断では…ラリィと相談して」
頷く。
ラルフ様が戻るまで無言で採取をしていた。
「兄様、ここから500メル(m)ぐらいなら占領しても問題ない。結界石を配置して来たよ」
「お疲れ様…」
そこからは3人でそれぞれ採取をしていく。するとロルフ様がルチルクォーツを見つけた。ゴールドとシルバーだ。
「凄い!細い針が密に入っている。兄様、大発見だよ!」
うんうん、ロルフ様の大発見だ。
ラルフ様に手放して褒められて少しだけ頬を染めて喜んでいるロルフ様。ラルフ様はそのままギュッとロルフ様を抱きしめた。
私は微笑ましくそれを見ていた。
そろそろいい時間になったとラルフ様が声をかけて帰ることになった。
ラルフ様はロルフ様に話しかけてとても楽しそうだ。
私はハクと並んで後ろを歩いている。
何だこれ?
ハクも立ち止まる。
『囲まれたな』
前を歩く2人も止まる。さっと緊張が走りラルフ様がロルフ様を背に庇う。
グレイウルフの群れだ。見えるだけで10頭はいる。
『21いる…』
『そんなに?』
『僕が本気を出せばすぐ解決するよ』
グレイウルフがラルフ様に飛びかかる。それが合図のようにこちらにも飛びかかってくる。
私は風魔法で彼らを飛ばす。
キャン…飛ばされたグレイウルフはそのまま起き上がれない。
ラルフ様は戦うことよりロルフ様を逃すことを優先している。ならば、ロルフ様に近づくグレイウルフを風で弾き飛ばす。
「ロルフ様と先に!」
ラルフ様は頷くと振り返ることなく倒れているグレイウルフの横をロルフ様を庇ってを抜けていく。
追い縋るグレイウルフは私が牽制した。
2人の気配が遠ざかる。もういいかな?
私は癒しの水を撒く。倒れたグレイウルフたちが起き上がった。
すると一際大きいグレイウルフが進み出てきた。
そしてハクの前で脚を折る。
他のグレイウルフも同じく脚を折って頭を下げた。
『この地に聖獣さまが来られたと他の者に聞き、探しておりました。先ほど大きな気配を感じこちらに来たのです。沼より少し奥に縄張りを持つグレイウルフのグレイです。縄張りが隣です。ご挨拶に』
『僕はハク、手荒いあつさつだね』
『ハク様が側にいることを許す人がどれほどかと』
ハクはなぜかドヤ顔で
『アルは優しくて強くて最高だろ?』
『はい、我らの仲間を傷付けず、しかも癒しまで…素晴らしいお方です』
『当然だよ』
『試すようなことをして…』
『聖獣の契約者だから仕方ないよ』
グレイは私を見てからハク見て
『良き方と巡り会われましたな』
ハクはゆるくしっぽを振る。可愛い。
『今日はほんのご挨拶です。ハク様の縄張りも私たちが見回りましょう』
『よろしくね、グレイ』
グレイウルフたちは森の奥に帰っていった。
『戻ろう』
『ハクは気が付いてた?』
答えず、代わりにしっぽが揺れる。
『私は認められたかな?』
しっぽがブンブン揺れる。私は笑ってロルフ様たちを追いかけた。
だいぶ先でロルフ様たちが待っていた。
「アイル…大丈夫?ケガは…」
慌ててかけ寄りロルフ様が私の体を確認する。
最後に頬に手を当ててじっくりと顔を見ると良かった…そう言ってふわっと抱きしめてきた。
いえ、むしろ巻き込んだのはこちらです。
ラルフ様が近寄ってきてさり気なくロルフ様を私から離す。上から下まで確認して大丈夫そうだな、戻るぞ。とロルフ様の手を握り歩き始めた。
ロルフ様の手は震えていた…。
それからは何事もなく馬車に着いて、前にも泊まった宿に着いた。
夕食は各部屋で、となり解散。
今日もまた濃かったなぁ。シャワーを浴びて夕食を部屋でハクとブランと仲良く食べる。量が多いから皆んなで食べてちょうどいい。
疲れたなぁ、もう寝よう。
ハクを抱き枕にと思ったらベットの足元でブランを胸毛に埋もれさせて寝ていた。
ハクも大活躍で疲れたよね。そっと頭を撫でてベットに入る。すぐに睡魔がやって来た。
(…)(……)
ん?誰か呼んでる?
ふいに目が覚めた。何だろ?
起き上がる。ハクは寝ている。まだ夜明け前で外は暗い。
何でだろう?呼ばれている気がする。
ローブを羽織って部屋を出る。
(…)
外から?
音を立てないように宿を出る。空気がキンとしていて冷たい。
(…)
声?に導かれるように進む。するとそこには大きな木があった。月の光を浴びて幹が白く光って見える。
「…カタ」
ん?ロルフは目を覚ました。
「キシッ」
扉が締まる音?アイル?
そっと扉を開けるとアイルが階段をおりる背中が見えた。なんとなく追わなきゃと思ってローブを来て後を追う。
アイルは宿を出て歩いてゆく。こんな夜中に?
すると大きな木の前で立ち止まって上を見上げている。
私は目を見開いた。何が起きてる?
無数の光の粒がアイルに降り注ぐ。踊るように、跳ねるように。そしてやがて木から人が降ってきた。いや、違う。あれは…精霊!?
その頃には私にも声がハッキリ聞こえた。
(来たよ来たよ)(待ってたよ待ってたよ)
(愛し子来たよ」(ユーグ様起きたー)
(ユーグ様起きたー)
精霊はアイルに向かって手を伸ばし頬を撫でた。
そしてアイルの頬に触れ
『我の愛し子よ、祝福を…』
そう言うと彼の唇にキスをしてゆっくりと木に戻り消えた…愛し子?精霊の…?君は一体。
ゆらりとアイルの体が揺れて崩れ落ちる。
駆け寄って受け止めたその体はとても軽かった。
抱き止めたまま地面に座る。その顔は少し青ざめていて、顔にかかる髪を避ける。頬に手を当てその唇を指でなぞる。
(大丈夫大丈夫)(祝福だから)
(受け止めるのに体力使っただけ)
(すぐ目を覚ます)(心配いらない)
(優しい人)(愛し子に優しい人)
(祝福をあげる)
(ユーグ様ほどじゃないけど)
(祝福をあげる)
小さな精霊がおでこにキスをする。
体の中に風が通り抜けたような気がする。
(風の精霊の祝福)(優しい人の弟にもあげる)
(ユーグ様は精霊王)
(精霊王は全ての精霊の祝福)(特別なの)
(凄いの)(あなたは風の祝福)
(普通の人はこれで充分)(またねー)
ざわざわと好きなように喋ってそれから木に戻って消えた。
アイルはまだ目覚めない。そのおでこにキスをする。まぶたに…頬に…唇に…冷たくて…柔らかな唇だった。
アイルのまぶたが震えて目を覚ます。
「あれ?…」
「精霊の祝福…倒れたんだ」
あっ…思い出した。
『私は精霊王のユーグ ド ラシール。愛し子よ、祝福を与える。この地で健やかに過ごせるように…この世界を好きになって欲しい。アイル…私の愛し子よ』
精霊王と名乗る、腰まである白い髪と銀色の目の儚い美形精霊王はそう言って唇にキスを落とした。
その瞬間、体に嵐が吹き荒れたような感じがして立って居られなくなった。そして意識を失った。
気がつくとロルフ様に抱えられ、頬を撫でられていた。
「精霊の祝福…倒れたんだ」
「ロルフ様が…?」
「部屋を出るのに気がついて…」
「ありがとうございます」
もう大丈夫、そう言って起き上がろうとするとロルフ様に抱きしめられた。え?
「消えてしまうかと…思った…」
「…」
「こうしていないと君は…」
体を離すと私を間近で見つめる。ロルフ様の目が潤んでいる。頬を撫でてもう一度抱きしめられる。
「昔、弟がまだ体が弱かった時、…いつも怖かった…もう会えなくなるかと…いつも怖かった」
ガサッ。ラルフ様がロルフ様を後から抱きしめる。
「兄様…僕はここにいる。いなくなったりしないよ。だから泣かないで…」
ロルフ様はラルフ様を振り返る。そのままラルフ様の頬にキスをする。ラルフ様もロルフ様の頬にキスをする。
私、部屋に帰っていいかな…邪魔者感が半端ないです。
ラルフ様が立ち上がり、ロルフ様に手を出す。ロルフ様はその手を握り私を抱えたまま立ち上がった。
いや、歩けます。おろして下さい。
ラルフ様がロルフ様から私をささっと奪い、宿に戻り始める。だからおろして?
「あ、歩けます」
「兄様が心配するから却下だ。大人しくしてろ」
はい。ロルフ様に抱っこされてるのが嫌なんですね…相変わらずぶれないな。
部屋の前でようやく下ろして貰えた。ロルフ様が私の頭を撫でて、目を覗き込み…おやすみ。おでこにキスをして部屋に戻って行った。ラルフ様も私のおでこにキスをして…兄様のは消しといたよだって。
えぇ…。
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