46.青い石の発見
顔を上げて上目遣いでロルフ様を見るラルフ様。
「誤解…だよね」
ラルフ様は嬉しそうに頷いた。
ロルフ様はそっとラルフ様の腕をほどくと地面を見る。
「これは…」
「ブランが見つけて…」
ロルフ様とラルフ様が膝を着いて破片を手に取る。
「ラリィの瞳と同じ…凄く綺麗だ」
少し濃い青の方を手に取り
「こっちは兄様の瞳の色、凄く綺麗だよ」
えっと、どこの恋人同志の会話ですかね?
男兄弟の会話とは思えないけど…どんだけ好きなんだろうね?まぁ私も兄とは仲が良かったけど…会いたいなぁお兄ちゃん。
少し寂しく思っているとハクが体を擦り寄せてきた。ハク…大丈夫。ありがとう。でももふらせて…?
ラルフ様が
「アイル、帰ったらギルドへ直行。魔法契約するぞ」
神妙に頷いた。やっちゃった感あるけど仕方ない。
そもそもハクとブランと洞察力さんがいたら最強だと思うからね。ここはお2人に占領して貰いましょう。
近くにいいのがあるよーってハクが言うからさ。
そろそろお腹が空いてきた。一度洞窟を出てお昼ご飯を食べることにする。
持ってきたパンサンドを取り出して2人に渡す。
ロルフ様はいそいそと、ラルフ様は興味しんしんで包みを開ける。
躊躇せず食べるロルフ様…毒味は!?
シャクシャク音をさせて食べてる…
驚いてラルフ様を見ると頷いている。いいのか?いいんだろうな…?
スープを乾燥させた固まりをカップに入れてお湯で溶かす。軽く混ぜたそれをロルフ様に渡す。
驚いて見てるけどそのままゆっくりと飲んだ。
「美味しい…」
だから少しは警戒を…。
あ、はい。ただいま…ラルフ様から催促の手が伸びてている。
同じようにして渡す。
マジマジとカップの中を見てから口をつける。
「これは、美味しいな…」
気にしちゃいけない。気にせず食べ始める。
ラルフ様が私を見てなぜかため息をつく。
「一応聞くが、これは何だ?」
「固形スープの素です?」
「なんだそれは?」
「?お湯に溶かすとスープになるものですが?」
「どうやって作っているんだ?あ、いや、これは言えないよな」
「言えますよ?キビと牛乳とオニオンで造ったスープの水分を水魔法で抜いて風魔法で乾燥しました。それをカップ1個分になるよう分包にしただけで」
重ねて言う。
「特別なことはしていませんので」
…ロルフ様とラルフ様は顔を見合わせて盛大にため息をついた。
「簡単そうに言うがな…そんなやり方聞いたこともない」
「たまたま誰もしていなかっただけでは?」
「アイル、君の魔法属性は風と水か?」
頷く。
「どれくらい使える?」
「?中級程度は…多分」
「多分?」
「魔法の本を自分で読んで試しただけなので」
「あのクッションを膨らませていたのは?」
「?風魔法です」
「どうやって?」
「指先から?」
「はぁ?ピンポイントであの小さな穴から全く外に漏らさず?」
「指先から噴射するだけなのですが?」
「言っておくが、そんなことは出来ない。上級まで使える私でも兄様でも出来なかった」
「?」
「君はいったいどんなイメージでやっているんだ?」
「クッションの空気を入れる口に細い中が空洞の棒をあてて、その先に大きな袋が付いていて、袋の空気を押し出すと勢いよく入って行きますよね?」
ロルフ様がポーチに締まっていたクッションを取り出す。
そして留め具を外して手を当て目をつぶる。
シューっと音がしてその目を開く。
「出来た…これは凄いな」
私は彼の方を向く。アイルは私の手元を覗き込んでいる。少し体を傾けて顔にかかる髪を耳にかけた。
その耳には不思議な形のピアスと紫水晶のピアスが付いていた。
思わず手を伸ばしてそっと耳に触れる。
ビクっとして私の手から逃げてしまった。髪の毛で耳が隠れる。
また手を伸ばすと困ったように体を引く。
「素敵なピアス…紫水晶?もっと見せて…」
俯いてしまった。だからその髪をすくい上げて耳を出す。
抵抗はされなかったが、頬を染めて固まっている。少し近づいて耳のピアスを見る。
繊細な加工がされたシンプルなデザインのものだ。
アイルを見ると俯いたその頬が一層赤い。誘われるようにその頬に手を添える。
ピクリとしたけどそのまま固まっている。
耳にかけた髪が頬にかかる。その髪をまた耳にかけてアイルを見る。
まつ毛の作る影とその銀色の目が印象深い。まつ毛がふるっと揺れて目が合う。
目の外側から下に向かって虹彩の縁が青に縁どられたその瞳は吸い込まれそうで…もっと近くで見たいと思っていたら…。
目を伏せてそっと体を後ろに引いてしまった。
「兄様、近いよ」
と腕を引かれる。
あ、あぁ…虹彩の縁の青がまぶたに残っていた。
ロルフ様がお肉が挟んであった方を食べ終えてもう一つの方をかじる。ん、これは…。
「美味しい…凄く」
ラルフ様を見る。同じくラルフもかじる。そして目を見開いた。お行儀悪くパンをめくって具を見る。
「これは?」
「?キビに衣をつけて油で焼いてます」
「これは宿の…?」
頷く。スーザンごめん?
「後で呼び出すか、スーザンだな」
とラルフ様が言う。頼んだよ、スーザン。私は何も知らない…。
私はキビの方だけ食べて終わり。お腹いっぱい。
「この後、少し周りを見てもいいですか?沼を見に行きたくて」
ロルフ様が眉を顰める。
「危険だ」
「ハクと一緒に行きます」
「しかし…」
「兄様、遠くに行かないならいいんじゃないか?」
渋々と
「分かった。あまりここから離れるな」
頷いてハクを連れて歩き出した。
なんか、話が大きくなったなぁ。
たかがスープで。
それにロルフ様の顔が近くて困る。相変わらず青白いけど眉間にシワもなくてなんだか優しい目で私を見るから…顔立ちは整ってるんだから破壊力がね…無自覚かな?
見た目はガラス細工のように繊細なんだよね…ロルフ様は。
空気読まないけど。
『アルが見たら喜ぶよ』
ん?何を?
『沼だよ』
ハクに案内されて黒の沼に着いた。
くさっ…凄い臭い。
黒くてねっとりしてる?ん?何だか知ってるような…。
(天然のオイル 精製前 あちらでは石油と呼ばれていた)
何ですと?!石油とな?
うわぁ、これは…うん。見なかったことにするか…。
『アルと同じ世界から来た悪い人がこれを手に入れたらどうなるの?』
ハク…それ言っちゃう?
そうなんだ…転移した人がいい人ばかりとは限らない。分かっている。でもこれは荷が重い。
どうするべきか…いっそここを私が占領して封印するとか?
それなら悪用されずに済むのでは?
「ハク、白の沼って…」
『温泉だよー硫黄ってやつ』
はい?温泉??
『アルの記憶で見たよ。黒い玉子』
うん、温泉だね。
「見に行こう」
ハクはしっぽふりふりで先導する。お尻までふりふりしてる、可愛い。
『着いたよ』
湯気が立ち昇っている。しかもボコボコしてる。かなり高温かな?
(硫黄成分たっぷりの硫黄泉。皮膚炎、打ち身、筋肉疲労、眼精疲労、血行不良などに効く 源泉温度80度)
うん、温泉だね。
沸騰してるんじゃなくて沸いてるのか?
火山とか下にあったり…怖い。土に手を当てる。暖かい。地熱だ。
(この周辺は地熱により年中暖かい。マグマが吹き出すようなことは無いので、安心だよ)
あぁ、洞察力さんありがとう。安心したよ?
近くに東屋建てて温泉作りたいな。イリィと露天風呂…楽しいだろうなぁ…うふふ。
温くしたらハクも入れるかな?ハクと一緒にお風呂…楽しすぎる!
『ここ占領する?』
「したいな」
『分かった。この辺りを僕の縄張りにするよ』
するとハクからブワッと風が巻き起こった。
え?何?
鳥が一斉に飛び立つ。ざわざわ…
『終わったよ』
「なにが?」
『もうこの辺は僕たちしか入れない。森の出入り口も確保したからね』
…さすが聖獣だね…遠い目。
「ありがとう、ハク」
もふもふすりすり、さわさわなでなで…スーハースーハー。うん、ハクの匂いだ。
もう本当に可愛くて可愛くて可愛くて大好き。
その首に抱きついて背中を撫ででお腹も撫でてお尻もついでに撫で撫で…。
あ、ごめんなさい…調子に乗りました。渋々お尻から手を離す。
せめて匂いだけでも嗅がせて?後ろからしっぽをめくってお尻に顔面ダイブ。柔らかい…お尻最高。スハースハー。
しっぽで顔をパシパシされる。あ…それはご褒美かな?
ぐほっ…ごめんて…でもオナラしなくても良くない?少し咽せたけど大丈夫。ハクのエキスは取り込んだ。さて、戻るか。ここの話もしないとだし。
洞窟に戻るとブランが見つけたラリマーの採取をロルフ様がしていた。