45.再び採掘へ
ラルフ様の顔が怖い以外は順調に馬車が進んでいく。途中、朝食を食べるために止まった時、宿の筋肉、もとい主人からの差し入れだとスープを出す。
2人は要らないかな?と思って見るとどこから出したのか、スープ皿を差し出してきた。
あ、はい。食べるんですね?毒味入りますか?えっ?要らない?はい、ではどうぞ。
「美味いな…」
「あぁ」
それだけ言うと黙々と食べていく。
上品なのに早いって何で?まだ私は一口しか食べてないのに完食してこちらを見ているのは何で?
「おかわりしま…「頼む」」
被せて来たよ…所詮は小さな宿の主人作だよ?食いつき可笑しくない?
私も食べ終える。まだ少し残ってるな…え?ラルフ様がまたおかわり?まぁちょうど無くなったし。
「美味しかった。そう伝えてくれ」
「はい、ラルフ様は朝からたくさん食べるんですね?」
「あぁ、体が資本だからな」
なるほど…まぁ探索者も同じなんだけどな?
私は相変わらず食が細いみたいであまり食べられない。
食べ終わるとまた馬車に乗る。私は静かに窓から外を見る。まだこの世界のことはほとんど知らない。たくさん知りたいな。
そう思いながら外を眺める。
ここには高い建物も派手な看板も車もない。原初の風景のように感じる。素朴で未発達で…でも不思議と懐かしい。
そう物思いにふけっているとラルフ様が話かけて来た。
「アイル、君はどこの出身?」
私は困った顔をする。
「かなり…遠くの町」
これは嘘じゃない。
「田舎の領地か?」
領地ではない。何て答えよう。
「領地ではないです」
アイルの答えは妙だ、とラルフリートは思う。しかし嘘は付いていない。
「ここからどの程度か?」
「…とても遠い」
目を伏せたその顔はとても寂しそうだ。
「帰らないのか?」
正直今でも帰りたい。でも…隣でハクが起き上がって口元を舐める。私はハクを見て、緩く微笑む。
『大丈夫』
ハクはそのまま私の太ももに顎を乗せる。
「帰れない…です」
途切れたその言葉はまるで帰りたいのに帰れないと訴えているようで。
アイルは顔をあげて外を見る。君はその目に何を写しているんだろうか?
「いつか、君の故郷の話を聞かせてくれ」
彼は私の目を見てしっかりと頷いた。
やはりこの子は何かを隠している。でも…今はもう少し待つか。
やがて森の近くに着いた。前と同じで、馬車と御者はここで待機だ。
この国には貴族がおさめる領地以外の空白地帯と呼ばれる場所がある。
森林などがそれでこの森、死の森もそうだ。しかし、空白地帯は占領した人のものに出来る。
白の森や黒の森には住んでいる人がいて、そこは住んでいる人のものになっている。
しかし、簡単に占領出来ない場所だからでもある。
前回、偶然にもこの死の森で貴重な鉱物が発見された。ラルフ様がここを調査し、価値があると認められればここを占領することを考えている。
その為の調査を兼ねているそうだ。
だからラルフ様が来たのか…ただのブラコンじゃなかったのな、なんて失礼なことを考えていた。
といってもこの死の森は広大だ。だから例の洞窟の周囲を含めた森の一部を占領しようと考えているようだ。
私たちが入った森の入り口は死の森の南東側。森への出入口付近は暗黙の了解で占領しない。出入口を避けた東側から洞窟を含んだ一体が今回の調査対象だ。
最も調査はラルフ様の担当で、ロルフ様と私はこの間の洞窟で六角柱の水晶と紫水晶を採掘する。
この森が死の森と呼ばれているのは、森の中に死の沼があるから、と言われている。
黒色と白色の沼があって、どちらも大変危険な沼だそうだ。
そして例の洞窟はその沼から1キロル(キロ)ほどとかなり近い。それもあって慎重に調査する必要があるということだ。
しかし、私には関係がないし…この時はそう思っていた。
3人で森に入っていく。
ラルフ様が1人で調査とか危ないんじゃないのかと思ったけど、ラルフ様も全魔法属性待ち。しかも剣聖に認められるほどの剣の腕前なんだとさ。
チートだな。下手な護衛より強いんだとか。それとまだ公開出来ない情報だからって。
うん、貴族の考えることって良く分からないね。
森の入り口から直行だと約1時間半ほどで洞窟に着く。そこで一旦ラルフ様と別行動だ。
その前に自作の灯を渡す。吊り下げタイプと手持ちタイプ、そして頭装着タイプ。渡す前に火魔法で灯りを灯す。ラルフ様が不思議そうに
「燃えてないのか?熱くない」
「はい、灯だけ。洞窟の中でも安全です」
マジマジと見ながらため息をつく。
「まぁ、アイルだからな」
横でロルフ様がウンウン頷く。えっ?何で?
首を傾げるとこの話はまた後でと言って森を進んで行った。
ん?まいっか…深く考えたら負けだ、うん。
ロルフ様と例の洞窟に入ってゆく。
今回はロルフ様が脚立とか梯子を持参している。またその肩に乗らなくて済んで何より。
私はまだ採掘していない範囲を調べてみる。
あればいいな、と思っているのが青い石、そうデュモルチェだ。
あちらで人気があるのはデュモルチェライトインクォーツ。透明な水晶の中に苔のような、ふわふわしたデュモルチェの結晶が入っているヤツ。
入り方が一つ一つ違ってとても可愛いらしい。
デュモちゃんおいで、と思っていると、ハクが
『青い石ならこの奥だな』
とその横壁を前足でトゴンと打った。はい?ハクさん…前足振っただけでこの威力?
ロルフ様から見えないとはいえ大胆だね。
ハクはしっぽをブンブン振って
『ほら、青い石』
ライトを当てるて見ると確かに青い石だ。
ハクを撫で回す。
「ハク凄いよ!」
しっぽがさらにブンブン…ゲホッ。激しいしっぽで粉塵が…でもハク可愛い。
さらにもふる。期待に満ちた目で見るハク。
ギュッと抱きしめて青い石に触る。ひんやり冷たい。
青い石の縁にノミを当ててトンカチで叩く。
ぽろっと取れた。じっと見つめる。
(デュモルチェライト。この付近にまとまってある。中品質。もう少し右よりにお求めのブツあるよ)
ぶほっ…吹いたよ。お求めのブッって言い方よ!危ない薬みたいだから…しかももうすでに人格持ってない?洞察力さん…
ハクがある場所をテシテシする。そこが削れるとその壁の中に水晶が現れた。
そして…きたよ、これ。
デュモルチェライトインクォーツ
(高品質な水晶の中に内包されたデュモルチライトの結晶が美しい一品 最高品質 この付近と少し左側にも内包されている)
すごく透明度の高い水晶でその中にはふわふわとと苔のように生えた青い結晶。
取るよ取るよ!
たくさん取って満足してからロルフ様に知らせよう。
ふふふん。
その付近をある程度採掘して欲しい分を確保。少し左にもあるってさ。
どこかな?
ハクが鼻をすんすんしている。そして前脚でザシュッとな。
大きな水晶の塊が見える。
『僕の斬撃でまとめて採るよ。小さいのは欠片で充分だろうし』
『ハク…大好きだよ』
その鼻先にキスをする。しっぽを揺らしてから
『やるよー?』
ドゴッバコッズダダン…。
…目の前に1m大の塊が落ちていた。すぐにポーチに隠蔽…じゃなくて入れる。散らばった欠片も採取。
さすがに大きな振動がしたので、ロルフ様がかけてくる。
「どうした?大丈夫か?」
「…はい、大丈夫です。ロルフ様見て下さい!」
私は手の中の欠片を見せる。
ロルフ様は大きく目を開いて
「…君って子は…」
そのまま手の中の欠片を握ると私を見て…ふんわりと抱きしめたのだ。
ビクッ…固まっていると離してくれた。
「あんまり…嬉しくて…」
なぜか頬を染めて言う。石をうっとりとした目で見つめるロルフ様。
「この辺り?」
ロルフ様に見せたのは青い石と少しの水晶だけの場所。でも掘っていけばもっと水晶に内包された所にあたる。探す楽しみもないとね。
頷く。すぐにでも掘り出しそうなので、別の場所を掘るからと告げて移動する。
じっと岩肌を見ていく。すると今度はブランが上の方をホバリングする。
ん?見ているとヒュン…ドドン。
えっ?ブランちゃん何したの?そのふわふわな羽毛に包まれた手乗りサイズの体で?
上から塊が落ちてきてびっくり?
『ぴきゅきゅ…』
…なんて?
『あの辺りに波模様の青い石があるって』
ハクは何て言ってるか分かるんだ?
まて、波模様って…まさか…?
ここはロルフ様から見えないな?よし、風魔法で体を浮かばせて天井付近にっと。
灯りを当てる。…。
ブランが削った場所には確かに青くて波模様のある石が見えていた。
んん?母岩と混ざっていて分かりにくいな。少し奥まで採掘するか…空中に浮かんで考えていると
『アル、降りてきて。少し先で待っててね』
うん?ハクさんは何をするのかな?
ドガガン、ズズン…パラパラ…。
煙が収まった後には綺麗な波模様の青から水色の石が塊で落ちていた。
やっぱり…ラリマーだよ!凄いなここ。
即座に塊をポーチに隠蔽…んんっ確保した。
欠片や破片があったのでそれも拾う。あれ?ロルフ様来ないな?
後で報告するか。と思ったらすぐ後ろから
「これは何かな?」
恐る恐る振り返ると笑顔のラルフ様…もう調査終わったの…?
「兄様の魔力が膨れ上がったから戻って来たんだよ。何かあったのかもと思ってね」
おぉ、ブラコンは健在だな。
「ロルフ様はこの先で採掘しています」
「あんなに魔力がだだ漏れするなんてね…何をしたの?」
そう言って私の背後にある壁に手を突いて迫ってくる。はい、いわゆる壁ドン。
全然色っぽくない…むしろ違う意味で危険なヤツ。
ハクに助けを求める。
目をキラキラさせて見ていた。ダメだ、楽しんでる。
ブランちゃんは…?ハクの上で羽つくろいしてる。
ズイッ。いや、近い近い。眉間にシワ寄ってるけど美形の迫力が…怖い。
「ラリィどうし…」
奥から来たロルフ様がラルフ様に気がついて声をかける。涙目の私と目が合うと
「あ、邪魔した…?」
そう言って慌てて後ろを向く。
ラリィの魔力を感じたから来てみたら…ラリィがアイルに迫っていた。振り向いたラリィはとても優しく微笑んでいて…いつの間に2人はそういう関係に?アイルは目を潤ませてラリィを見ている。
慌てて背を向けた。なぜか心が騒つく。
ラルフ様はロルフ様にスッと駆け寄ると後ろから抱きしめる。
「兄様、誤解だよ。私は兄様以外に興味ないよ?」
ラルフ様、それはそれでどうかと思うのですが?そのままロルフ様の肩に顔を埋めて頬にキスをする。
「誤解だよ?」
「うん…」
ラリィの髪の毛をそっと撫でると嬉しそうにキスをしてくる。本当に大きくなっても甘えただな。優しく髪にキスを返す。
顔を上げて上目遣いでこちらを見るラルフ。
「誤解…なんだね?」
嬉しそうに頷いた。
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