413.仲間との再会2
鼻水出てる。僕は洗浄で顔をきれいにして、シルクの布でその涙を拭いた。
「落ち着いた?」
コクンと子供みたいに頷く。
「我はイグニスじゃ…ぐすん、エリの親戚で…うぐっごめん、我のせいで…アイルは飛ばされたんじゃ。怖かったであろう、寂しかったであろう…許せ」
目に涙を溜めて、震える声でそう言うイグニス様。
「1人だったけど、孤独じゃなかったよ。ビクトルがいてくれたから。それにすぐコムギにも会えたし。その後はナビィが僕を見つけてくれた。ハクもブランも、イリィも…みんな探してくれて。だから寂しくなかったよ!泣かないで、僕は大丈夫…大丈夫だから」
イグニス様はまた泣きながら
「だからじゃ…アイルはそうやって…うわぁぁん」
くすっ大人なのに、素直で可愛いらしい。
「本当は、ほんの少し寂しかったけどね…でもビクトルが出会わせてくれて…ふふっ僕ってば恵まれてるよね。こんなに探してもらえて、僕のために泣いてもらえるなんて。だから大丈夫。イグニス様のせいじゃ無いよ…」
「やっぱりアイルは変わらんな…それが救いじゃ。望みがあれば叶えてやろう。何かないか?我を抱いても良いぞ!」
思わずイグニス様の胸を見る。たわわだ。想像して顔が赤くなってしまった。
「ふふふっ恋しいか?」
なんか全方位から冷気が。僕は慌てて首を振る。
「だ、大丈夫」
「触っても良いぞ?」
「母上…」
ちょっと拗ねたような顔をするイグニス様。良かった。泣き止んだ。
「イグニス様が笑っているのが僕の願い、かな」
と言えば一瞬固まった後、
「だからそういう所じゃ…うわぁん…」
また泣かせてしまった。オロオロしているとイリィが
「アイ、ふふっダメだよ?」
えっと何が?
「威力が増してるね…イル」
だから何が?
「ほどほどにね…アイル」
だから何がなの!
「「「無自覚天然たらしだよ!」」」
酷くない?
「ふはっ!」
「あ、笑った」
イグニス様がやっと笑顔になった。良かった…。
ホッとした所で
「紹介は終わったか?俺は外すぞ!アイル、また夕飯でな」
「うん、ナリス。また後で」
そこでようやく僕はソフィに座った。スーザンがすかさずお茶を淹れてくれる。
一口飲むと柔らかな味わいの紅茶だ。ふわぁ、美味しい。緊張してたから喉が乾いてたんだ。
飲み干してからポーチの聖水を取り出してそっちもゴクゴク飲む。
ぷはぁ、美味しい。
「イル、喉が乾いてたんだね…」
「うん、緊張してたから」
「気が付かなくて…」
「大丈夫だよ!いつでも聖水が飲めるし」
「「「聖水!?」」」
「うん、これ…無限に湧くんだ!」
ロリィが僕の手から水筒を受け取ると、一気に飲む。
「増えてる…」
イリィも横から覗き込む。
「増えてる…」
一斉にみんなが見てくる。
「間違いなく聖水だね…」
ロリィが言う。
「魔法でも聖水は出せるけどね、魔法が使えない迷宮だと少し困るから…あると便利」
「「「魔法が使えない迷宮!?」」」
「「「魔法で聖水が出せる!?」」」
あれ、スーザンとリアが凄く見てる。
「うん、この間ね…新しい迷宮が出来るのにあって。そこは魔法が使えなくって。罠で1人飛ばされたし…」
「それは、困るな…」
ん?全く困らなかったけど。首を傾げた。
「アイ、困らなかったんだね?」
頷く。だってジョブが使えたし。お水もあるしね。
「…」
「どんな迷宮なんだ?」
それからみんなに迷宮の話をしたら、なんだか凄く変な顔をされた。何でかな?
話が終わった頃に誰かが部屋に入って来た。
男性が3人だ。2人は多分、探索者。残りの1人は分からないけど、凄い力を感じる。イグニス様みたい。
「よぉ、アイル。っつっても分からないよな。俺は上級探索者のサリナスだ。で隣のが同じく上級のブラッド」
「えっと…よろしく。初めまして、じゃないんだよね?」
「あぁ、違うな」
「ま、初めてだと思ってりゃ大丈夫だ!」
「う、うん…よろしく」
なんかさっぱりした人だな。見た目は軽そうだけど、今はその気さくな感じが嬉しい。
最後の1人は僕のそばに来て僕の体を上から下まで見ている。
「あの…?」
「良かった…これでシシラルに話が出来る。はぁぁ、良かった」
崩れ落ちた。
「えっと…シシラル様?」
すくっと立ち上がる。背が高い。
「あー俺はグライオールだ。イグニスの旧友だな。シシラルもそうだ。みんなアイルが可愛くて仕方ないんだ。無事で本当に良かった…」
そう言うとそっと抱きしめてくれた。温かい…この人の魔力はまるで包み込むような、大地みたい。安心感が半端ない感じ。
ほっとしていると
「ふふっ相変わらず可愛い…また会えて良かった」
そう言っておでこにキスをして離れた。
「「えっ、迷宮!?」」
声が聞こえた。サリナスとブラッドだ。
ん?迷宮が何か…。
「俺たちにも聞かせてくれよ!」
それからしばらくは迷宮の話で盛り上がった。
部屋の扉が叩かれる。
「お昼ご飯の用意が整いました」
呼びに来てくれ人が食堂へと案内してくれる。
そこはとても広い部屋で何人座れるのってくらい大きな机があった。みんは適当に座るとパンとシチュー、サラダとお肉、魚の焼いたのが出て来た。
給仕の人は大皿で置く前に少量取り分けてくれる。お代わりはご自由に、だね。
僕は一通り食べたら充分かな。
どれも凄く美味しかった。周りはみんなバクバク食べてる。
ハクたちはさっきの部屋に用意してもらってるよ。
食べ終わったら、またさっきの居間に集まる。
そこにナリスともう1人がやって来た。その人は僕を見て立ち止まってまじまじと見つめる。すると走ってやって来て
「やっと会えた!ずっと会いたかったんだ!!」
僕の手を手を握りしめて興奮している。
えっと…誰?
「ハウラルだ。ラルフの捜索の時に、探すための魔力を…」
それは元、僕かな…?ロリィを見れば
「ラルフは僕は弟。嵐で行方不明になって、イルが探してくれたんだよ…魔力を追ってね」
そうなんだね?自分の事だけど分からない。
「無事に見つかった?」
「もちろん…」
「なら良かった」
ハウラルさんは驚いてから
「この子が…これは閣下が構うわけか。予想以上だな…」
閣下?
「イルの自称お祖父様だね…」
「僕に家族は…いないよ」
ロリィは曖昧に笑うだけだった。
「少しいいか、ロルフにフェリクス様、ハウラル。衣装の件だ。今日、合わせに来る。ただな、幅が。作り替えるぐらいの勢いで直さなければ着られん」
ナリスの服かな?
確かにナリスは細身だけど、肩幅はガッチリとしているし背も高い。
ロリィは背こそ同じくらいだけど肩幅も腰も相当細い。
フェリクス様はナリスを縦も横も縮めた感じだし、ハウラルさんはロリィとフェリクス様を足して2で割った感じ。背はあるけど全体的にひょろっと細い。ロリィよりはもちろん幅はあるけど。
でも、大きさなら自動で調整したらいいのにね?
僕が不思議そうな顔をしていると、気が付いたナリスが
「アイル、言っとくが大きさの自動調整は普通じゃないからな!」
えっ、まさか…便利なのに、何で?目をパチパチしていると
「イル、それは凄く高度な技術…僕はイル以外に出来る人を知らない、よ」
「えっ…そうなの?」
イリィを見ると頷いている。
「便利なのに…?」
「便利でも、出来ないんだ。普通は」
知らなかった。僕は普通に出来るから。
あ、もしかして僕のジョブは凄く使い勝手のいいジョブなのか?
(そうだよ、と言っても使いこなせるのはアイルくらいだよ。発想が違うからね。アイルはあちらの知識があるから)
(そうなんだ?みんなは知ってるの?)
(知らないよ…殆どの人が。イーリスとロルフは知ってる)
ビクトルとの会話を終えると、僕は少し考えてから
「ナリス、布があれば作れる?」
「時間がない。採寸して一から作るんだ。礼装だからな」
僕は礼装が分からない。
「ロリィ、決まりがあれば教えて。色とかタイの種類とかデザインとか。それが分かれば僕が作るよ!デザインはイリィと考えるから。ナリス、それならいいよね?」
ナリスは驚いて
「いいよねって生地はあるのか?」
「うん。蜘蛛シルクと普通のシルクと麻と綿。混紡にすれば上着にも使えるし…色も染められるから。黒じゃなくてもいいの?出来れば紺とかグレーがいいんだけど」
「あ、あぁ。黒じゃなくても濃いめの色なら大丈夫だ。っていや、作れるのか?明後日だぞ?その前に蜘蛛シルク!普通のシルク!!おいっ国宝も真っ青だぞ」
「大丈夫だよ、沢山あるし。ただどんな服装か分かれば、間に合うから」




