410.ピュリッツァー帝国の王都
王都に向かうことが決まってから約1ヶ月となる3月13日、僕たちはピュリッツァー帝国の王都に到着した。そこの門はいつになく厳重な様子で沢山の兵が詰めていた。
途中、僕たちは商業ギルドで屋台の権利を取得して王都に乗り込んだ。
ナリスもテオもラルクも同様に商業ギルドの身分証を提示する。僕の金色の身分証と、屋台の出店証明書が功をそうしてアッサリと王都に入ることが出来た。
そのまま馬車を走らせ、ナリスの実家に向かう。
馬車が止まったので扉を開けようとしたら、外から開いた。開けてくれたのはナリスより少し年上の男性。
無言で手を差し出すので恐る恐る手を置くと、力強く降ろしてくれた。僕はフードを被ったままだ。
「ご無事で何よりです、ナリスリーベル様」
恭しく迎えるのは執事さんか?僕の手を握っている男性は、手を離さないまま僕を見てふわりと抱きしめた。
えっと、えぇーーー!!
ど、どうしたら?手をあわあわさせていると
「兄さん、離れて!全く馴れ馴れしい」
慌ててナリスが腕に庇ってくれる。えっ兄さん…えっ?
良く見たらとても似ている。
「あははっお前の澄ました顔が慌ててるのは愉快だな、はっは」
えっと…?
僕の後からシルフィとハク、ナビィ、コムギ、サフィアたちが降りてきた。ブランとトムとジェリーは僕の肩だ。
「また豪華だな…」
ナリスのお兄さんは唖然とした後、顔を引き締めると
「そなたたちが元近衛か?」
馬から降りたテオとラルクに声を掛ける。
「「はっ!」」
テオとラルクは跪いていた。
「顔を上げろ!案ずるな。ポポロン、アイリール公爵家の領軍で副隊長を努めるポポロンより、そなたたちのケガによる退団がすでに報告されている。良く戻った。そして、そこのお方を良くお守りした。退任の近衛として、自由に努めよ!」
「「はっ!…」」
お咎めなしって事?ナリスを見れば頷く。僕は2人に駆け寄ると
「良かった…2人とも。でも、きっと家族の方は心配してる。顔を見せてあげなよ!」
「「しかし…」」
「僕は家族と遠く離れてしまって、もう会えないんだ。会えるうちに…きっと心配してる。ケガによる退団なんだよ?」
「ふはっ。これはまた、ナリスが寄り添う訳か」
豪快に笑ったナリスのお兄さんは
「家族に連絡をしておけ。遠いなら手紙だけでも。安心するであろう」
「「はいっ!」」
2人の声が涙声だったから、僕より下にある頭を撫でる。あれ、固まった。
「嫌だった?」
顔を覗き込むと、手を口に当て首を振る2人。嫌じゃないならいっか。
「会えなくなる前に、親孝行して…」
テオとラルクが目に涙を溜めて顔を上げる。
「アイルは…もう会えないのか?」
「うん…会いたいけどね」
何故か両側から抱きつかれ、背後からも抱きしめられた。
「だから兄さん、馴れ馴れしい」
えっと背後はナリスのお兄さん?
「坊主の言う通りだぞ!」
僕は頭を撫でる手を払う。
「坊主じゃないよ!」
「ふははっ可愛いからからついな!」
「坊ちゃま、いい加減になさいませ。ご案内もにせずに…」
「おっとそうであったな!」
「坊ちゃま…」
思わずポツリと呟いた僕にナリスのお兄さんは顔を赤くしたのだった。
「アイルだけ父上に。他のものたちは客間は案内する」
ハクは緩くしっほを振っている。寂しいけど、また後で。その頭を軽く撫でると屋敷の中へ案内される。
なんか大きいお屋敷だなぁ。適度に華美で、でも仰々しくない。品の良い華やかさ、と言うのかな。
ほんわりと目に入るものを見ながらナリスのお兄さんについて行く。ナリスは部屋に戻ると言って離れたから。僕だけ…少し心細い。
執事さんがある扉の前で止まり、軽くて叩いて
「お着きになりました」
「入って貰え」
威厳のある声が響く。僕、こう言うの苦手。
扉が開かれてナリスのお兄さんが入る。僕はどうしていいか分からず、立ち止まっていた。だって僕はフードを被ったままだ。
「入りなさい」
命令することに慣れてる人の声。僕はフードを取らずにおずおずと進む。
その部屋にはソファが置かれ、威厳のある中年の男性とまだ若い線の細い男性が座っていた。
線の細い男性は僕を見て立ちあがろうとした…?気のせいか。
凄く見られてて居心地が悪い。執事さんが下がると
「アイル、フードを取ってくれるか?」
ナリスのお兄さんに言われた。僕は戸惑った。信用していいの?イリィに迷惑をかけない…?分からないよ。黙って俯いているとそっと誰かが腕に触れる。
「大丈夫、みんな、君の味方…」
穏やかで、決して流暢ではない話し方。でも不思議と安心出来た。僕の為に言葉を選んでくれてると、そう思える。それに触れた手はとても暖かい。僕は顔を上げる。僕を見てその人は僅かに息を呑んだ。
そして優しい眼差しで、僕のフードを取った。この人なら安心して良い。そう思えたからされるままにした。
「「…!」」
「また見事な…」
僕は開けた視界で目の前にいる人を見る。改めて見ればとてもきれいな人だ。濃い金髪に鮮やかな青目。透けるほどきめの細かい艶のある肌に長いまつ毛。
あれ?この感じ…どこかで?
折れそうなほど細いけど、背は高くて僕は見上げている。するとその人の目が潤んでいるのに気がつく。それに髪の毛に隠れているけど、耳にあるピアスは懐かしい魔力がする。
僕は驚いて
「大丈夫…?」
その頬に触れる。なぜ会ったばかりの人にそんなことをしたのか分からない。でも自然と手が動いた。
それに気が付いて慌てて手を戻す。この人は貴族だ。どうしよう…勝手に触れてしまった。
「ごめんなさい…」
俯く。怒られたらどうしよう…?
「いや…ありがとう」
その人の手が僕の頬を撫でる。懐かしい優しい手。懐かしい…?
僕は顔を上げる。既視感…濃い金髪、細い体、長いまつ毛、整ったきれいな顔。
「ロリィ…」
呟いた言葉はとても小さかった。なのに、目の前の人は驚いてから目を潤ませて…ふわりと僕を抱きしめた。
この感触…僕はその背中に手を当てる。細い腰、なめらかな肌。そして爽やかな匂い。
その人の耳元でもう一度
「ロリィ…?」
僕をギュッと抱きしめると
「イル…」
―イル、もう一度会いたかった―
あの声だ!
「僕を呼んだよね?もう一度会いたかったって…それはロリィだよね?」
僕の頬がロリィの涙で濡れる。
その頬に僕は頬を触れ合わせる。
「探してくれてた?」
子供のように頷く。
「僕も…探してた。良かった、会えて…ロリィ」
そのまましばらくは抱き合っていた。
「う、おっほん…座らないか?」
あ…どうしよう。知らない人の前で。慌てる僕に涙を拭いたロリィはふわりと微笑んで
「座ろうか」
手を引いてソファに連れて行ってくれた。そのまま隣に座る。僕の手は握ったまま。
嬉しいけど少し恥ずかしい。ロリィは無表情だけどこれはたぶん、喜んでる。
「まずは私からかな。アルファード・スカイシーク。スカイシーク公爵家の当主で、そこのロルフリートの父とは従兄弟だ」
中年の男性はここの当主、ナリスのお父さんか。
「アイルです…」
他にも言うこともなく、名前だけ伝える。
「うむ、見事なる銀髪であるな」
僕はきらきらしたこの髪が少し苦手だ。
「目立つので、いつもフードを被っています。先ほどは失礼しました」
軽く頭を下げる。
「構わぬよ。そなたは大切な客人だからな」
僕が?目をパチパチさせていると
「じきに分かる」
「次は私だ。アイル、ナリスリーベルの上の兄でセオドア・スカイシークだ。私はナリスの2つ上で次男だ。さっきは驚かせてごめんよ。ナリスが行動を共にする子に興味があってね…予想以上だったよ」
「セオドア様は豪快ですね」
「ははっ良く言われる。でも君は凄いよ。あの騎士たちに僕が守るって言ったんだろ?それを聞いて俄然、興味が沸いたんだ!」
うわぁ恥ずかしい。もじもじしているとロリィがギュッと手を握ってくれる。
「大怪我をしていたのに、村のために体を張って死にそうになってたんです。カッコいいなって思って。それなのに、最悪は処刑だって聞かされて。助けた人には幸せになって欲しいから、つい」
「近衛騎士は国にとって貴重な存在だ。助けてくれてありがとう。私からも礼を言おう」
僕は慌てる。
「したいからしただけで、たまたま出来るから…」
「そうか」
優しい顔で見られる。恥ずかしい。ロリィの手を無意識にぎゅっと握る。
そこにナリスが入って来た。
「遅くなりまし、た…えっ?」
ナリスがロリィを見て固まった。
「お、お前…ロルフリートか?」
ロリィは少し冷めた目でナリスを見ると
「それ以外の何に見えるのかな…目まで悪くなったか?」
「お、お前…はぁ間違いないようだな」
僕はロリィとナリスを交互に見る。ロリィは僕を見るとふわっと笑う。ケンカじゃないよね?
「能天気なのは無視していい…」
えっとナリスのことかな。
「変なこと、されなかった?」
変なことは特に。
「一緒にお風呂に入ったり、同じベットで寝たり抱きしめられたり、キスされたくらい?」
と僕が言うとロリィはぐりん、とナリスを振り返った。
あれ、なんか…寒気が。
時系列整理
1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークが捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月12日 ポポロンたちがミュジークに合流
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層
ラルクたちが迷宮に潜る 9階層
1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う
コムギと再会する 42階層
ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前
ハクたち 37階層終わり
1月22日 イーリスがゼクスに到着
迷宮4日目 アイルたち39階層に到着
ハクたち38階層で休む
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く
迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始
アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう
アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう
39階層に戻り休む
アイルの動向がギルドを通じて伝わる
1月24日
ロキたちは迷宮10階層に到達、転移陣で地上へ
迷宮6回目 40階層でひたすら採取
1月25日
ロキは19階層で罠に飛ばされる
バグスたちは迷宮20階層に到達、転移陣で地上へ
迷宮7日目 またしても採取
1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される
迷宮8日目 40階層到着 転移陣でナリスと狼は地上へ
アイルはサフィアが助けたロキを保護する
1月27日 アイルたち地上に帰還
アイルの無事がバナパルトに伝わる
1月28日 イーリスが目覚める
1月30日 イーリスがアイルと再会する
2月1日 イーリスがバナパルトに帰還
2月2日 迷宮調査員が到着
アイルたちはロイカナの町に向けて出発
2月3日 イーリスたちが王都を出発
アイルたちがロイカナの町を出発
2月12日 ミュジークたち王都へ帰還
2月14日 王宮にて弾劾が行われる
2月15日 帝国の話が世界を駆け巡り衝撃が走る
アイルたちが町に着く
3月13日 アイルたちが王都に到着
ロルフリートと再会する




