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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第8章 帝国の王都へ

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409.バナパルト王国にて2

 時間は少し遡り…




 イーリスを別の場所で休ませるとニミから知らされた翌日、イーリスを訪ねた。

 イルの動向が帝国の探索者ギルドからもたらされたから、知らせようと思って。

 部屋を訪ねると、イーリスは幸せに満ちた顔をしていた。何があった?

 イーリスを腕に抱きしめる。これはアイルの魔力?ニミの言っていた他の場所って。


「…会えたの?」

「ニミが感知して」

「イルは元気だった?」

 僕の声は震えている。

「元気だったよ…ロルフ、アイはやっぱり僕たちを覚えていない。でも…」

 僕は顔を上げてイーリスを見る。

「でも…?」

「名前を、覚えていたよ。覚えていたというか、思い出したかな。僕たちのことを認識できないけどね」


 僕は驚いてでも嬉しくて頬を染めた。

「名前を?」

「ロリィって言ってたよ。助けたかった人は僕と後はロリィともう1人かなって」


 その後はイーリスから話を聞く。

 僕はイルが僕たちを、名前しか分からない僕たちを探そうとしていたと聞いて、涙が溢れそうになる。

「会いたいと思ってくれてる?」

「間違いなく、ね。でもロルフのことはきれいな女の人って思ってるみたい」

 思わず微妙な顔をしてしまった。

「顔は分からないけど、細い体とかきれいな肌とか長いまつ毛とか、そういうパーツは覚えているみたい」

 頬が熱くなる。たとえそれだけでもやっぱり嬉しい。


 その後はアイの周りにまた聖獣や霊獣が増えたことを聞く。それを聞いてやっぱりイルはイルなんだと嬉しくなった。

 ただ、気になることもある。イルの騎士として二人のまだ若い男性が一緒に行動しているということ。

 それはちょっと危険だ。だって、イルは周りの人を虜にしてしまう。

 イーリスによればすでに気持ちが傾きかけているようだ。気を付けないと、早く合流して見守るんだ。


 そして驚いたのがアイルが3歳も若返ったこと。今は13歳だって。

 そんな、まだ子供じゃないか。でもイーリスからはイルの魔力を全身から感じる。

 思わず

「した?」

 聞いてしまった。イーリスは頬を染めて頷く。

「まだ、子供だよ?」


 でもそれにはちゃんと事情があった。

 なんと水の精霊王様がそばにいるという。しかも消える寸前でイルに助けられたとか。

 精霊にとって魔力は命そのもの。アイの魔力を求めたのならすなわち体が交わることを求めたのと同義だ。


「アイはね、断ってくれたって。出来ないと。でもまだ精霊王様は完全ではなかった…いつまでアイが拒めるのか。弱っている状態と知ったら、手を指し伸ばすだろうことも予想が出来る。その時に僕が足かせになってしまう。アイはね、名前しか思い出せない僕の為に断ったんだよ、精霊王との交わりを。だから…それに僕も我慢できなかった」


 それは仕方ないのかもしれない。見捨てられないイルが苦しまないように…

 名前しか分からないイーリスを思って貞操を守るなんて、やっぱりイルはイルのままなのだ。それは単純に嬉しい。

 きれいな女の人はちょっとショックだけど、やっぱりあの襲撃の時、助けてくれたのはイルなんだね。僕たちの声が届いたのかな。


「声が聞こえたって言ってたよ。だから大切な人を守って、って願って…魔力を飛ばしたって」

 それだけのことで僕の頬は染まり目が潤む。

 早く会いたいよ…イル。


 その後で、探索者ギルドからアイルの動向について連絡があったと伝えた。

「もう知ってたみたいだけど…」

「偶然ね…でも、ありがとうロルフ。聞き取りの対応を任せてしまった」

「大丈夫、慣れてるから…」

「早く会いたいね、ロルフも、エリアスも一緒に」

「そうだね、会いたいよ…とても」





 僕たちはバナパルトの王都を出発し、順調に旅を続けていた。時々出る魔獣は全て魔術師団の餌食、こほん獲物として瞬殺されている。

 彼らの士気の高いことと言ったら。

「我らの救世主の為に!」

「「「我らの救世主の為に!」」」


 どこかの怪しい宗教もかくや、と言った感じ。ロルフとエリアスは苦笑いしながらも嬉しそうだ。

 ロルフは基本、無表情だ。それは貴族として相手に心を読ませないための武器。だから幼少の頃から身に付いた貴族としての振る舞いだ。


 エリアスも基本は無表情だが、彼の場合はその生い立ち故にそうなったらしい。

 僕は僕で余り感情を表に出さない。出せないが正しいかな。心を閉じ込めるように暮らしてきたから、笑うことが今でも苦手だ。


 だから馬車の中は基本静かだ。僕はひたすらアイを思って、その温もりを反芻している。

 ロルフやエリアスが何を思っているのか分からないけど、その面差しは優しい。アイの事を考えている時は何となく分かる。それこそ同志だから。


 そんな風に順調な旅は続く。基本、町には寄らずに進むけど、物資の補給や連絡を取る為に魔術師団だけが先行して町に寄ったりもしている。

 その話がもたらされたのは、先行して町に寄ったハウラルからだった。

 ロルフ宛に来たシスティア様からの手紙とフェリクスさま宛てのダナン様からの手紙、そしてハウラル宛のイリリウム閣下からの手紙だ。


 帝国の隠された姫は亡くなり、新たな公爵家が出来た。王は退位し、また国王が繋ぎで立った。さらには急遽、祝賀を執り行うと言う。

 ロルフとフェリクス様、ハウラルは国を代表してその祝賀に参列するようにとの話だ。また、システィア様からは帝国の親戚、ロルフのお祖母様のご実家と連絡が取れたとのこと。


 そして、そこの三男とアイが一緒に行動していると言う衝撃の話だった。

 世界はこんなにも広いのに、なんて狭いんだろう。

「スカイシーク公爵家は歴史も、序列も1番…彼なら安心、かな。多分…」

 なんで多分なの?

「イルはあんな感じの子だからね。年が若くなってて良かった。16才だと色々危なかった。たしかナリスリーベルは僕と同じ年だから…自制出来る、ギリギリ」


 ロルフの顔を見る。安心している訳ではなさそうだ。

「間に合う?後1ヶ月だよ」

「僕とフェリクス、ハウラルだけでも先行しろと言われた…イルにもそこで会うようにと」

 会えるの?アイと。


「王都のスカイシーク公爵家の屋敷で。僕もフェリクスもハウラルも正装を持ってきてないから。借りないと。出席するのは僕とフェリクス、魔術師団を代表してハウラルだよ。イーリスは目立たない為にも出席はしなくていい」

 それは助かるけどアイは?

「イルはもちろん出席しない。ただ、気を付けて。新しい公爵は多分、隠された姫。北のミュシュランテスでイルと会ってるみたいだ。そしてイルを探しているようだから」

 それは、ダメだよ!


「分かってるよ。イリリウム閣下も動いてるし、大叔父様にも助力をお願いした」

 僕は焦ってしまう。貴族がアイを無理やり取り込んだら…


「イリリウム閣下と帝国の今の王は旧知の仲。閣下はイルがバナパルトにとって、どれほどの存在かご存知だ。横槍は許さない、よ。だから安心して。イルの祖父を自称してるくらいだし。スカイシークもバナパルトにカルヴァンとエバルデルを敵に回したりはしない」

 ロルフはなんて頼もしい。それに引き換え僕には何の力もない。


 俯く僕をロルフはゆるく抱きしめながら

「イーリスにしか、出来ないことがある…」

 僕は顔を上げて涙で滲んだ目でロルフを見る。

「イルを引き留めること。それはイーリスにしか出来ない」


 ロルフはその細い指で僕の涙を拭い、頬を撫でる。

「だから大丈夫。渡さないよ…帝国にも、神聖国にも」

「そう、だね…」

「くすっイーリスは可愛い…」

 僕は少し抗議の目線を送る。


「大丈夫…イルは勝手に他所になんて行かない。顔も分からない僕たちを、探すくらいだから、ね…それに、精霊王のお願いだって拒んだ…だから」

 そうだね、僕が信じなきゃ。


「それに、後たったの1ヶ月で会えるんだよ…イルに。早く、会いたい…」

 ロルフの震える肩を抱いてキスをする。

「お祭りになるの?アイと過ごせるかな…」

「きっと過ごせるよ…」


 僕はアイと歩くお祭りを想像して嬉しかった。




 そしてアイルたちは…




 王都に向かうことが決まってから約1ヶ月後となる3月13日、僕たちはピュリッツァー帝国の王都に到着した。

 王都の門はいつになく厳重な様子で沢山の兵が詰めていた。

 途中、僕たちは商業ギルドで屋台の権利を取得して王都に乗り込んだ。

 ナリスもテオもラルクも同様に商業ギルドの身分証を提示する。僕の金色の身分証と、屋台の出店証明書が功をそうしてアッサリと王都に入ることが出来た。




新連載投稿しました!

基本ギャグ系チートです

宜しければそちらも是非…

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