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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第8章 帝国の王都へ

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407.弾劾のあとで

 場は沈黙の後、荒れた。

「証拠はあるのか?」

「そこにいるものは王女を騙っているのだろう」

「王女を出せ!」

「幽閉ではなく死を」

 などだ。


「証拠なら掃いて捨てるほどあるぞ。そして…王女ならそこにおる。誰よりも凛々しいであろう」

 みんなの目線が私に注がれる。私はマントを付けていたから余計に混乱したのだろう。そのマントを翻して肩にかける。そこで場は完全に静まった。

「まさか…」

 王から声が漏れた。


 お祖父様が私を見る。私は一歩前に出ると

「私が帝国の隠された姫と呼ばれていたミュジークだ。母は私に呪いをかけた。自分の命を削る呪いだ。せめて無事に生きられるようにと願ったのであろうな。かえって舐められて命の危険に晒さられるとは思っていなかったであろうが。それは性別を偽る呪いだ。

 私は私として生きたかった。王族として扱われないのに、責任だけを託されるなど御免だからな。助けるべき民に罵られる王など要らないであろう?その頃にはすでに毒と他の呪いで満身創痍であった。だから、生きるために王都を出た」


 言葉を切って周りを見る。青ざめた顔で私を見つめる人々。

「霊峰ミュシュランテス。その御神木へと向かって。山頂付近の瘴気毒で身体が動かず、死ぬ所だった。もう目の前に母上が迎えに来ていたからな」

 誰かが息を呑んだ。

「しかし、我はある出会いにより救われた。そして御神木に辿り着き…本来の自分へと戻れたのだ。呪いも解けて体も戻った。物心着く頃には当たり前にあった怠さが無い。自由になれたと思った。

 しかし、追っ手に捕まり喉の先に槍を突き付けられた。これで終わりだと思った。もうそれで良かった。悪口を聞かなくて済む。命を狙われなくて済む。死は私にとっての救済だった」


 誰もが口を閉ざしている。謂れ無い噂を喜んで流した奴もいるだろう。

「しかし、また私は救われた。そして今、ここに辿り着いた。私は王位など要らぬ。そんなものの為に命を脅かされた16年。どうして欲しいと思えようか。しかし、首謀者が生きている限り、自由にはなれぬ。正当な処刑を望もうと思ったが、私怨には私怨で応えよう。な、ムジカよ」


 青ざめた弟は動けない体で必死に逃げようとする。その腹を蹴り上げると顔を踏み付けた。

「簡単に死ねると思うなよ」

 顔を踏みつけると顎を蹴った。


 王女に近づく。その服は下腹部が濡れていた。

「なんだ、失禁か?王族が情けないな」

 その腹を蹴る。背中を踏みつけて頭を蹴り上げた。

「そんなチャラチャラした服装でお前は国にどう貢献したんだ?」

 そう、金を使う以外は何もしていない。だからその頭を踏みつけた。

「私に使った毒は高価なんだ。一匙で金貨1枚。どれほどの金を使ったんだろうな?なぁ、平民の食事は銅貨5枚だ。いくら使った?」

 最後に腹を蹴った。鞠のように転がって止まった。


 私は妃に近づく。

「わ、わ、私は…」

 青ざめている。

「母上を殺してもまだ収まらなかったのか?」

「ひっ…」

 こんなことの為に翻弄された16年間。その怒りを鎮めながら、妃の顔を手で掴む。


「なぜ放っておかなかった?何故…他の種を貰ってまで子を望んだ?」

「そんなっ…」

 私はそのまま妃に顔を近づける。

「王族の血を引いた子は…青銀を引き継ぐ。見た目に見えずとも、切れば分かるのだ。父上も、な」

 妃は私を見る。それはもう青を通り越して真っ白だ。


 お祖父様が父上の金色の髪の毛を一房握ると、短剣で切った。お祖父様の手に残った髪の毛は青銀だ。

 私は上の弟の髪の毛を一房取って切る。手の中の髪の毛は金色のままだ。弟は目を丸くしてそれを見ている。

「嘘だ…」

 妹の元にも行くと、その髪を一房切った。やはり手に残ったのは金色の髪。

「そんな…」


 父上を見れば青ざめている。

「そんな、まさか…我の子では無いと!?」

 妃は黙っている。

「何か言え!」

「…きないから、あなたの種が弱くて出来ないから!貴方のせいよ!私は正妃なの。正妃なのよ!!」

 その声が響き渡った。

 私は最後に残った弟の髪の毛を一房取って切る。それは私の手元で青銀に輝いた。


「王よ、法の改正を望む」

 それでも首を縦に振らない。

「第一子に国を継がせるのは理由がある。過去に血を血で争うことが度々あったのだ。だからこそ決まった。過去、王になれるのは青銀の髪持つものばかり。しかし、それが諍いの元になり暗殺が横行した。それ故か、本来の色を隠すように呪いをかけた王妃がいたのだとか。

 文献にはあるものの、詳細は不明だ。それからだ、本来の青銀を持たずに生まれる子が増えたのは。なのに、髪を切れば青銀。だから第一子に継がせる。それは長い王家の歴史で決められた事。これを変えることは出来ぬ」

「ならば私が死ねば良いのですね。死は自由への扉。妃はおりませんが、一人子どもが残って良かったですね」


 そう言うって宝剣を握り締めた。その手を押し留めたのはお祖父様だ。

「命を絶たせる為に渡したのでは無いぞ」

「しかし、私は王位など継げませぬ」

「継がなくても良い。隠された帝国の姫はすでに身罷ったのだからな…ミュゼ。そなたはミュゼじゃ」

 お祖父様…。私はその逞しい腕にすっぽりと包まれた。





 私はお祖父様の屋敷でライラにもたれてぼーっとしていた。いいのだろうか?突然手に入った自由に戸惑う。

 そして目標を見失った。

 物心ついた時の目標は生きること。長いことそれが目標だった。毒と呪いに犯された時も同じだ。

 そして、本来の自分を取り戻した時は身の潔白と近衛騎士の救出。


 全てが叶ってしまった。そして、叶ったことには悉くアイルが関与していた。

 生きていたこと、カイゼルとナイゼルの救出、そしてベイクも。近衛たちは少なからずケガをしていた。それを治したのはアイルの薬。


 そして、ポポロンたちの献身もまたアイルが関わっている。私はアイルに生かされているのだな。遠くを見て思う。一目でいいから会いたい、と。


「ここにおったのか」

 お祖父様が横に座る。ここはお祖父様の屋敷の中庭だ。晴れた日差しの中で、時々吹き抜ける風は冷たい。

 お祖父様は私の手を握ると

「こんなに冷えて。中に入らなくては」

 私はお祖父様と一緒に居間に移る。


「本当に良かったのか?」

 お祖父様が聞く。私は頷き

「はい。私は新しく生き直すのです。16年も籠っていたのでこの国のことを何も知りません。学びたいのです。魔法を。人々を救う魔法を…」

 お祖父様は優しく微笑むと

「そうであるか、まぁ近くであるしな。たまには訪ねよう」

「はい!」




 私はあの日、王宮で起きたことを思い出す。つい2日前のことなのに、遠い昔のようだ。


 あの日、妃たちは終身塔に幽閉された。正妃と第二妃は治癒師付きで。王族を幽閉する塔の中では1番過酷な塔だ。部屋には粗末はベットと便所用の桶があるだけ。

 食事は1日1回。死なせない為の最低限の食事だ。贅沢な暮らしに慣れた王族は1ヶ月もしないうちに狂う。そして2か月ほどで自死する。


 しかし、治癒師が付属すると狂っても治す。ケガしてももちろん治される。

 自死など出来ないように口には紐を咥えさせられ、手足を縛られる。

 牢屋番はすべて男性で、囚人は逆らえない。例え汚されても文句も言えないのだ。治癒師も男性だ。汚されて治されて…それは16年も続く。

 体も心もボロボロになって、それでも死ぬことを許されない。狂えば正気に戻される。まさに地獄だ。


 子供たちを王の子と偽った罪は深い。相手は国王の従兄弟にあたる国務大臣と祭り事を取り仕切る政務官だった。従兄弟だけに顔が似ている。だから誤魔化せたのだろう。もっとも17才の年に行われる儀式では、先に王の前で髪を一房切り取る。遠からずバレたのだ。


 もちろん、本人もその隠蔽に関わったものもその場で王に切り捨てられた。

 第一王子と呼ばれていた者と第二王女と呼ばれていた者も、その場で王が切って捨てた。知らなかったでは済まないのだ。

 王妃の家系も、第三妃の家族も元に罰を受ける。爵位の剥奪だ。


 そしてその場で王が宣言した。

「我が国の第一子である王女は不遇に耐えた後、その身に受けた呪いを退ける為の旅に出た。しかし、その甲斐なく…この世を去った。第一王女のミュジークを讃え、黙祷せよ!」

 終わった、のか…。16年に及ぶ私の戦いは終わったのか。

 涙が溢れ出す。


「そこなミュゼよ。王女を支えて旅をしたその功績を鑑み、爵位を与える。また、その名を改めミュジークと名乗る事を許す。公爵位を継いで、元王の領地を任せる。励め!公爵家の家名は決めて宜しい。他に異議がある者はおるか!」

 有無を言わせぬ力強い言葉だった。


「次期王はどうされまする?」

 宰相の言葉に

「我は本日をもって退位する。王には元王である父上にしばらくついてもらおう。次期王は第二王子のムロランとする。しかし、ムロランの子は王とはならぬ。亡きミュジークの子を探し出せ!以上だ」


 めちゃくちゃな宣言だが、誰も異を唱えなかった。いや、唱えられなかったか。

 こうして私は公爵家を与えられた。

「公爵家の名はどのように決めたのだ?」

 お祖父様が聞く。

「秘密です」

 お祖父様は笑う。


「お前を助けてくれた人に、会いたいか?」

 私は驚く。聞いたのか…じいたちだな。私は頬が染まるのを感じる。

「会いたい、です…」

「子を儲けねばならぬしな」

 そうなのだ。父上なりの優しさなのか…私の子を探せと言った。それは私に子を作れと言っているのだ。


 公式には私は死んだ。そして新しい公爵が誕生した。それも国の中でも最高位の爵位。私は16才で成人している。加えて後見にお祖父様が付いた。俗に言う有料物件だ。それからは婚約の申し込みが殺到した。

 無理だろ、普通に。人とほとんど接した事など無いのだ。辟易しているとじいが悪い顔でやって来た。


「誰もおりませなんだら、ベイクを差し出しましょう」

 うっ…ベイクか。まぁ可もなく不可もなく、か。良く知ってるからな。

 しかしじいには娘もいたであろう。なんで息子を勧めるのだ。私は男なのだが。


「可愛らしい少年を想っておいでなので…てっきり男性好きかと…」

 そのにやけ顔を蹴っ飛ばしてやろうと足を出したが避けられた。

 男性好きではなく、アイルに想いを寄せているのだ。そう、それはもう認めざるを得ない。


 会った事もないのに、その手の温もりも頬に触れた唇の感触も覚えている。

 おでこに触れた唇だって。考えたら頬が熱くなる。それが好意だと言われたらそうなのだろう。

 じいたちにどんな見た目かと聞いても

「可愛らしいですな…」

「小さくて細くて…抱きしめたくなる感じですかな」


 要領を得ない。ライラに聞いても

「空気が澄んでいる…」

 見た目を聞いたのだが?

「我の人型を見て少年?とがっかりしておった」

 だから見た目だよ。

「神に愛された子だ…」

 ため息を吐き、私はまだ見ぬアイルにただ想いを馳せた。




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