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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第8章 帝国の王都へ

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404.弾劾の激震と順調な旅

 2月3日、私たちはあれからもかなりの速度で進み、王都から10日ほどの場所まで辿り着いた。

 1月末で20名の近衛と合流出来た。その後さらに2名もなんとか助かり、22名となった。


 最後に助けた2名は7人で離脱して足止めをしたという。その際に2名が死亡、他の3人とは散り散りになったそうだ。やはり全員は無理だったか。虚しい気持ちもあったが、これだけの騎士を助けられたことを喜ばなくては。もっともアイルがいなければ、出会えても救えなかった命が殆どだ。

 もう彼には感謝以上の気持ちしか無い。


 ここまでは他の近衛(弟妹の)とすれ違うこともあったが、そこはポポロンが上手く情報を聞き出した。

 そして、どうやら王都に足止めとして残した2名の近衛騎士は処刑されたそうだ。父上が視察で王都にいない間に、下の弟の主導で。


 謀反人の協力者として。その他の私たち付きこ近衛たちは謹慎させられているとか。彼らは何も知らない。間に合えばいいが。

 追っ手は全て弟妹の近衛騎士。帝国軍は動いていない。本来、近衛騎士を裁けるのは任命した国王だけだ。それを勝手に断罪するなどあり得ない。


 王位など欲しくは無いが、私に連座する形で関わったものが処刑されないように。私は戻って身の潔白を分からせなければ。

 離宮の者たちも謹慎させられているという。私が出奔してから2ヶ月以上は経つ。余り遅くなるのは良く無い。もちろん、国王が早計に全ての者を処刑するとは思わないが。


 王都に乗り込むとタウリン、カイゼルとナイゼルに話をすると

「そのまま入るのは余りにも愚策ですな」

「そうですぞ、捕まえてくれた言うような者です」

「しかし、ならばどうやって…」

「私の実家を頼りましょう」

 タウリンの実家は侯爵家だ。いわゆる中立派と言われる穏健派。息子が不遇の第一王女に仕えることに異を唱えず認めたお方だ。


「しかし、タウリンも入れまい」

「ポポロンに頼みましょう」

 私は悩んだ。信用して良いのか、と。彼らとて危ない橋を渡っている。戻る為には元の近衛騎士になるしか無い。それは敵だ。


「大丈夫でしょう。彼ならば。元々堅物でしたからな。職務に忠実が故に。だからこそ、彼なのです」

「そうですぞ、それが寝返ったのなら我らの目が狂っていただけのこと。それ以外の方法で王都へは入れますまい」

「門では顔を改められるとか。ならば隠すのは無理です」

 私は自分の長い青銀の髪に手をやる。そして腰の短剣を引き抜くと、根本から切った。


 目を丸くして驚くタウリンとじいたち。

「なっ…」

「何を!」

 長い髪は王族の風習の一つ。私には要らないものだ。飢えこそしなかったが、王族として必要な物は何一つ与えられなかった。

 知識も食べ物も持ち物さえも。


 それでいて王族であることを強要される。何も与えられないのに、責任だけを押し付けられる。ふざけるな、と思う。私はただのミュジークとして、自由に生きたいのだ。今更王になった所で、何も出来ない。傀儡になどならない。


「これをポポロンに渡せ。道中で拾ったと言わせて」

 タウリンはため息を吐くと

「分かりました。それならば、我々はポポロンたちと時を同じくして王都へ入りましょう。商業ギルドのギルド証が使えますから」

 そう、我々はここに来るまでの間、各々が商業ギルドに別名で登録した。


 私はジーク、タウリンはリンディ、カイゼルとナイゼルはゼルダとナダルという風に。

 私は長い青銀の髪と同じく青銀の目が特徴だ。髪の毛を切ってももちろんバレる。しかしライラの耳票に服を染める染粉が入っていた。

 服を染めようとして誤って髪の毛についたそれは色移りして、しばらく抜けなかった。それで私の髪を染めるのだろう。


「何色に?」

「赤ですかな」

 目立つだろう?それは。

「目立てば良いのです。まさか堂々と入って来るとは思いますまい。髪の毛を目の近くまで下ろせば、目の色も誤魔化せます」

「なるほどな!」


 じいたちは背中を丸めて杖を突く。ライラやカイル、ナイルは隠蔽で鹿毛に見えてるから大丈夫だろう。少しばかり汚してボロ布でもかけたら良いか。

 タウリンは茶色の髪と緑の目を、髪色はそのままに目をまた青に変えた。良くある色だけに目立たない。


 その夜はポポロンに王都へ進むとだけ話をして寝た。


 2月12日

 いよいよ王都は目の前だ。その昼、そこでようやくポポロンに作戦を詳細に伝える。

 彼の役割はとても重要だ。まず、今日の内に王都へ入りタウリンの実家であるヤングラト侯爵家に手紙を届けてもらう。


 普通に近衛騎士として、だ。タウリンの伝言でもなんでもいいのだ。捕えたでも見つけたでも、理由はつく。

 それから近衛騎士7名を連れて帰還する。私の血と土が付いたあの髪の毛を持って。

 生死は不明と。


 我々はポポロンと同時に同じ門に辿り着く。ポポロンの帰還で慌ただしい門を通って王都に入り、宿を取る。

 その後は待ちだ。


 逸る気持ちを抑え、王都へ向かう。時間はまだ午後2時。人の出入りはそこそこあるが、混むほどでは無い。我々が門に着いて身分証を提示しようとするそのタイミングでポポロンたちが馬で門に辿り着く。


「我らは近衛騎士である。通せ!」

 慌てて衛兵が出て来る。

「騎士様、規則です。身分証の提示を!」

 青い顔で衛兵が言う。

「急ぎだ、通せ!」

 威圧的にポポロンが馬上から言う。

 私は目の前の門番に身分証を見せてフードを取る。

「通っていいか?」

 門番は私の髪色を見て頷く。

「は、はいっどうぞ!」


 なんなく王都へ入れた。チラと後ろを振り返ると顔を顰めながら身分証を提示しているポポロンが見えた。

 隣でタウリンが笑っている。

 私たちは何人かずつに別れて王都に入った。ベイクたちは先行して宿を確保してくれている。同じ宿には泊まれないから、やはり分散して。

 そこでしばらく待機だ。上手くいくかは分からない。しかし、逃げていては何も変わらない。ならば、戦うだけだ。


 連絡は思いの外、早く来た。

 その日の夜に、タウリンの元へ。そう、彼の実家のヤングラト侯爵その人から。


 ―タウリン、事情は分かった。お祖父様の屋敷に向かいなさい。彼の方と共に。王宮のことは任せよ―


 ごく短い手紙。タウリンにお祖父様などいたか?

 タウリンはニヤリと笑った。

「明日にはここを出ますぞ!」

 その日は宿の食事を食べて寝た。翌朝、まだ髪の毛は赤いままに宿を出て、タウリンに着いていく。


 王都の端か?貴族街の奥まった所に大きな屋敷があった。

 タウリンが門番に身分を明かすと、すぐに通される。ここは何処だ?

 王宮から出たことのなかった私には全く分からない。

 そのまま長いアプローチを進むとようやく玄関だ。そこには白髪をきれいに撫でつけた品の良い壮年の男性とやはり壮年の女性が姿勢良く立っていた。


「ようこそいらっしゃいました。私は執事のセバスチャンと申します。馬はそちらにお預け下され」

 控えていた馬番が馬から降りた私たちから手綱を預かった。

 私はタウリンを見るが笑うばかりで何も言わない。


「お館様がお待ちです。ご案内しますぞ」

 先頭に立って歩き始めるセバスチャン。その名前に聞き覚えはない。屋敷の中は静かだ。適度に華美で、適度に落ち着いた居心地の良い屋敷。タウリンの祖父ではなさそうだ。

 どこぞのお方なのだろうか。タウリンもカイゼルにナイゼルもいつも通り。いや、むしろ楽しんでる様子すらある。


 セバスチャンは立ち止まると豪華な扉を叩く。

「お連れいたしました」

 しばしの間の後

「入って貰え…」

 厳かな声が響く。セバスチャンは扉を恭しく開けると我らを中に通した。そしてタウリンたちは即座に跪く。

 私はただ立っていた。

 その部屋にいたのは窓を見ている壮年の人。逞しい背中には威厳が滲み出ていた。

 その方は…?  







 2月15日、世界に激震が走った。

 ピュリッツァー帝国の王宮で起きたその話は、瞬く間に世界を駆け抜けたのだった。




時系列整理

1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く


1月2日 麓の村をナリスと出発


1月6日 ロルフがフィーヤ着

アイルが町レイニアに着く。馬車を買う


1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着

アイルが布を仕入れて町を出発

ライラたちが襲われる

ゼクスと王都にロルフから手紙が届く


1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発

魔術師団がゼクスに出発


1月9日 アイルがハク、ブランと再会


1月10日 ミュジークが捕虜を解放

アイルが村が救う


1月11日 魔術師団がゼクスに到着

近衛騎士たちが村を出発

アイルたちが村を出発


1月12日 ポポロンたちがミュジークに合流

 

1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発


1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着


1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする


1月18日 ロルフたちがフィフスに到着

アイルが川蛇の依頼を受ける


1月19日 ロルフたちがゼクスに到着

アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける

アイルたちが迷宮を発見する

アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層

ラルクたちが迷宮に潜る 9階層


1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う

コムギと再会する 42階層

ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層


1月21日 ロルフたちが死の森に行く

イーリスたちがアレ・フィフスに到着

迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前

ハクたち 37階層終わり


1月22日 イーリスがゼクスに到着

迷宮4日目 アイルたち39階層に到着

ハクたち38階層で休む


1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く

迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始

アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう

アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう

39階層に戻り休む


1月24日

ロキたちは迷宮10階層に到達、転移陣で地上へ

迷宮6回目 40階層でひたすら採取


1月25日

ロキは19階層で罠に飛ばされる

バグスたちは迷宮20階層に到達、転移陣で地上へ 

迷宮7日目 またしても採取


1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される

迷宮8日目 40階層到着 転移陣でナリスと狼は地上へ

アイルはサフィアが助けたロキを保護する


1月27日 アイルたち地上に帰還


1月28日 イーリスが目覚める


1月30日 イーリスがアイルと再会する


2月1日 イーリスがバナパルトに帰還


2月2日 迷宮調査員が到着

アイルたちはロイカナの町に向けて出発


2月3日 イーリスたちが王都を出発

アイルたちがロイカナの町を出発


2月12日 ミュジークたち王都へ帰還



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