403.帝国の王都へ…
そして出発だ。僕はラルクの馬に乗せて貰って出発。急げば街の近くまで戻れるからね。シルフィはテオと馬に同乗。
ナリスは町に戻って宿の清算とギルドへの依頼達成の報告、報酬の受け取り。僕はワイバーンのお肉や骨、報酬も貰っていないから、ナリスに託した。
迷宮のある山の麓から離れたら僕はハクに乗った。そこから2時間で町が見えるところまで戻って来た。そこでナリスは町へ、僕たちは野営をする。
なんだか色々あったな。
雲のカケラはひとまず一定数だけギルドに売った。その報酬は仮で、迷宮の級が確定したら追加分が支払われるとか。
その仮の報酬でもかなりの額になる。更に迷宮の発見とゴブリンの巣の討伐。それは特別報酬になるらしい。
僕には良く分からないけど、かなりの額だったみたい。これで町にとどまる理由も無くなったしね。
ただ、次の町までは行商せずに進む。売るのが肉と小麦だけってのはね。
その日は3人とシルフィで同じテントに横になって寝たよ。僕はいつも通りコムギとハクを抱きしめて背中にナビィ、首元にはブランのほわほわを感じて寝た。
目が覚めた。あれ、目の前に金髪。顔を上げるとラルクだ。背中にはがっしりとした何か暖かいものを感じた。
腰に回った手を見る。テオか。
なんか寝てる間に団子になってたみたい。
背中のナビィとハクのしっぽが毛布の中で揺れる。ふふっ可愛い。
僕が動いたからか、目の前のラルクが目を開ける。薄い水色が僕を見る。
「おはよう、アイル」
「おはよう、ラルク」
ラルクは僕の頬にキスをすると
「いよいよ旅の再開だな」
「そうだね…」
確かに旅の再開だ。イリィと合流する為の旅。目指すのは王都の東。早く会いたいよ、イリィ。
一緒に起き上がる。テオも目が覚めたのか、目を擦りながら起き上がった。
「ふわぁ、おはよう…アイルと寝ると暖かくて良く眠れるな!」
そりゃもふもふたちが沢山いるからね。
昨日は遅い時間だったからナリスも何も出来てないだろう。テッドの屋台も気になるけど仕方ない。
面倒ごとは避けたいからね。
ナリスが合理するまではここで待機だ。テントは置いたまま、僕は剣を振ることにする。ラルクとテオが剣筋を教えてくれる。やっぱり筋力が足りないか。
そっちが先かな。まぁ素振りは頑張ろう。
シルフィはテントでのんびりしてる。コムギを膝に抱えて。
汗をかくくらい剣を振ったら、朝ごはんだ。汗もかいたしお腹も空いたから。白ごはんに焼き魚とお味噌汁。
テオとラルクも沢山食べた。
その後は僕はテントに籠った。イリィに作ってあげたいものがあるから。
何がいいかな。シルクも手に入ったし、下履きと寝巻かな。イリィの柔肌を包むようにね。
服を作り終わると次は雲のカケラと僕の魔力のカケラで作るアクセサリー。でもすでに沢山のアクセサリーがこれでもかって付いてるんだよね。
これは付けているピアスに追加するようなチャームに加工するかな。
小さな雲のカケラを透明なのと紫と青を集めて作った。おへそのアクセサリーにも小さなカケラを追加すればいいかな。
イリィの可愛いおへそを思い出してドキドキしてしまった。本当にきれいだったなぁ。考えてさらにドキドキしてしまう。あんなにきれいなイリィと僕は肌を触れ合わせたんだ。周りに誰もいないから1人でごろんごろんしちゃったよ。そのまま寝た体勢で目を瞑る。
イリィの白くてなめらかな肌。思い出すほどに会いたさが募る。そのままうとうとしていたみたい。
ハクが口元をペロンと舐めた。あれ、寝てた?
『ナリスが戻るよ!』
そうか、起きなきゃね。起き上がって伸びをするとテントを出る。ポーチにしまって町の方を見る。確かに、あの馬車は僕のだ。何故か爆走してくる。
あれは…ショーグだな。置いていかれたのがそんなに悔しかったのか。
まぁ預けっぱなしだっからなぁ。
土煙をあげてこちらに向かってくる馬車。もう御者とか要らないよね?
そして目の前で止まる。
ヒヒヒーーーン!
脚をかいて僕を見る。僕が近寄ると首を伸ばして来た。
僕はその首を叩いて労う。
「急いでくれてんだね、ありがとう!ショーグ」
ブルルゥッ
よしよし。僕は隣のハルアラにも労いの声をかける。
ナリスが馭者台から降りて来た。
「振り落とされるかと思った」
「そうなんだね」
笑っていたら頭を叩かれた。
「ゴブリンの討伐とか、ワイバーンとか他の分も。凄い金額だったから、アイルの分は口座に入れて貰ったぞ。後で説明する」
僕にそう声を掛けると
「お前たちにはこれだ」
袋に入ったお金を渡す。重そうだね。
受け取ったテオとラルクは中身を見て固まった。
「こ、これは…」
「こんなに?」
「ゴブリンは全部で500以上あったんだ。アイルがな、みんなで受けたから等分でと言って。他にも迷宮の情報料とか諸々な」
いくらか分からないけど、良かった。
「それでしばらくはどこかの町に留まらなくていいよね!」
「あぁそうだな」
「充分だ」
ナリスはさらに
「それと、アイル。これ…」
馬車の荷物入れを開ける。えっ凄い。
「市場に向かったらテッドに会ってな。アイルが町に戻らず出発すると伝えたら小麦粉をたくさんくれたんだ。買うと言ったんだがなぁ…受け取ってもらえなかった。それから商業ギルドからも野菜とか果物をたくさん持たされた。他の町でも何か登録してもらえたら、だそうだぞ」
それは嬉しい。
「そうなんだね。有り難い。ならばしばらくは街道から近い村を回りながらどんどん進もう」
こうして僕たちはロイカナの町を出発した。
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バナパルト王国のゼクス 探索者ギルドにて
俺はいつも通りに自分の部屋で仕事をしていた。今はお忍びでやって来る国王を歓待する為の警護に関わる準備だ。イザークもいないしフェリクスもいない。主にダナン様と王都から派遣された魔術師団の第1師団の隊長、ダウルグスト殿と打ち合わせをしたり。
歓待と言われても何をどうしたらいいのやら。
システィアとも話をして、ラルフが占領した死の森へは案内することを決めた。
ダイヤモンド鉱山へは入れないが、ロルフが見つけた貴重な鉱物が取れる場所だ。ならば歓待になるだろうと。
キビの屋台にも招待する。
切り盛りするのはスーザンとリアが居ないので、あの子供たちだ。
メニューの開発から携わっているから適任だろう。ただ、言葉遣いだけは直さなくては。
その為に、手を挙げたのはロルフの執事であるリベラだ。
そんな采配をしていた。そんな時に来たのだ。待っていた連絡が。
しかしその内容には腹が立った。結局、アイルが今も無事でいるのかが分からないのだから。
すぐさま、核心に触れないその伝言に答えを返す。
―ギルドに立ち寄った日と、依頼を受けた日。同行者の級と分かる範囲を素性を求む―
そして帰って来た文に考え込む。特例か、しかも預言者の一族。これはフィフスのギルマスに連絡だな。
それからシスティア様とも話をして、返した。すぐさまシスティア様からスカイシーク家へ何かしらの方法で連絡を取るだろう。
俺はゼクスを出発したばかりのロルフたちに連絡をするか悩み、保留にした。森人の隠れ里では探せない。ドライには立ち寄るだろうから、ドライの探索者ギルドに伝言を託した。
その3日後、ロルフたちが襲撃されて王都は移送されたと聞いて、バージニアは腰を抜かすことになる。




