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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第8章 帝国の王都へ

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406/420

400.王都へ向けて

祝400話

 時は遡って…1月10日

 ピュリッツァー帝国のとある場所で…



 我々は捕虜たちを解放してから王都へ向けて進み始めた。近衛はもともと騎兵だ。馬がいる。

 私はライラに乗り、兵士たちは馬に乗る。物資を乗せた馬車が並走する。

 私と近衛15名。食料は調達しながらの旅だ。王都へは馬車で約2ヶ月。馬なら1か月までは短縮出来そうだ。みんな体調が良さそうだからな。


 魔獣を狩って探索者ギルドで売る。売るだけなら登録は不要だ。近衛の制服の上からフード付きのローブをかぶればバレない。

 なんせ今は追われる身。近衛の制服には左肩に紋章がある。私付きなら金に1と書かれたものだ。

 弟たちは紫に生まれた順番を示す数字。

 タウリンが見たのは紫に3、それは妹の近衛だ。捕虜とした近衛は紫の2、弟だ。


 私を狙っているのは私以外の兄弟、かもしれない。

 弟とは言っても同じ年だ。正妃の子。妹は一つ下で第3妃の子。ついでまた一つ下に弟。彼は第2妃の子。

 妃たちも子が生まれず、妾に初の子が生まれてしまった。それでもこの帝国では第一子が次代の王となる。死なない限りは。


 会ったことも無い王、同じく会ったことも無い兄弟。私は王宮の離れでひっそりと育てられたから。

 それでも、ライラがいてくれたから…あからさまな事にはならなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()ではあるが。


 それが毒だ。遅効性の、しかもほんの少しずつ盛られた毒は気が付かないうちに体内に蓄積した。

 そして、その毒を発現させる別の何かを盛られ…体内で急速に毒が回り始めた。それとともに呪いも発動して。

 体が変わっていく事に危機感を覚える。思えばいつ頃からか、絶えず気怠さはあった。

 本来なら成人して次代の王が告げられ、立太子する。その連絡もないまま、身体が蝕まれて行く。


 このまま朽ちるのか、そう思った時。ライラが言った。

『本当の姿を取り戻して、見返してやろう。王位など要らなければくれてやれば良い。でも生きて欲しい。其方に。だから霊峰ミュシュランテスに行くぞ!』


 私は半ば諦めていた。生まれた時から偽り続けた私。それは母の愛情。それでも私は本当の自分になりたい。

『呪いも毒も全て浄化すると言う御神木に、委ねよう』

 私は生きることを諦めていた。しかし、ある時に聞いてしまったのだ。

「ミュジーク様を謀反で捉えたら、近衛やあの離宮のものたちは全員処刑だな。くくっこれは大捕物だ。近衛100名…くたばりやがれ!」


 それを聞いて悟った。私だけが死ぬのではないと。謀反をでっち上げられれば、確かに周りのものにも影響がある。謀反とならなくとも、私がここを出ればそれすら残されたものの責任となる。

 どちらを取っても、彼らには死しかないのか?


『嵌めた奴らを白日の元に晒すのだ。それしか方法は無い』

 ライラの言葉で目が覚めた。そうだ、奴らを弾劾すればいいのか、と。

 その想いをタウリンに伝えると、

「聞いたのであれば私はもう一蓮托生、お供します」

 カイゼルとナイゼルも当然

「孫のために頑張らねばなりますまい」

 言い切った。私は頭を下げた。


「なりませぬぞ、あなたが頭を下げては。さぁ胸を張って行きましょう」

 私付きの100名の近衛騎士。その中からタウリンが信用できると判断した30人に声をかけた。誰1人嫌がることなく、共に来ることを誓った。

 こうして我々は王宮を脱出した。月の細い日の夜のことだ。


 万全では無かった。だから追っ手が来た。やむを得ず王都を出る際に3人を残す事になった。彼らが無事であれば良いが。

 物思いに耽りながら進む。

 捕虜たちを解放した翌日、



 ピィーーーーー



 澄んだ鳴き声が響く。足を止めるとそこには大鷹に乗った8人がいた。彼らは重傷者だった筈では?

 何故か顔もツルツルで怪我も治っている。

 大鷹は私たちの少し前で着地すると体勢を低くして彼らを背中から降ろした。そして颯爽と飛び去った。


 降りた8人は肩の紋章が無い。そして一斉に跪き、胸に手を当て頭を垂れる。

()第一王子近衛副隊長のポポロンです。我らはミュジーク様をお守りするために馳せ参じました。微力ではありますが、おそばにいることをお許しください!」

 私は驚いた。彼らは近衛の任務を捨てると言うのか?

「ミュジーク様の近衛に加えていただきたく!」


 隊長のタウリンを目を合わせる。頷くと

「我はミュジークさま付き近衛隊長のタウリンである。肩の紋章が無いことが、貴殿たちの意思ならば…我らと共にあることを許そう」

 ポポロンは顔を上げると

「有難き幸せ。我らはとある吾人に命を救われました。しかし、かの吾人は礼など受け取ってくれません。それならば、白い馬に乗った女の子が困っていたら助けて欲しいと。自分は何も求めず、温かく美味しい食事とテントを差し出し、村を救い。なのに…我々は目が曇っておりました。その尊きお方は我らを救ってくださった。人を殺しに向かった我らを。そして、その方が助けて欲しいと思う人を襲いました。殺す為に。なのに、その方は…それを知っても我々を許したばかりか、ケガをさせてごめんねと。その言葉に胸を打たれました。この方が、何も求めないこの方が助けて欲しいと言われるのなら、死ぬ所だった我々の命を差し出そうと決めました」


 その話を聞いて思った。あぁやっぱり彼は…盲目的に突き進んだ彼らを許したのか。自分の従魔が付けたキズを癒して。全く敵わない。聖人がいるのなら、それは彼のことだろう。

 追いかけて馬車と馬が来ると言う。その近くで野営をして馬と馬車が合流するのを待って出発した。


 その間にポポロンから何があったのかを聞いた。

 そうか、彼らは重傷者だった。ゴブリンに襲われている村を救う為に奮闘し、死にかけたものもいるとか。

 いや、正しくは死ぬはずだったか。アイルが来て、普通の傷薬で治ったとか。もう笑うしか無い。

 その後は先にポポロンが語った通りだ。こうして23人となり王都へ進んで行った。


 旅は順調で、金を稼ぎながら食料を買い進んで行く。そして1月末には王都まで半分の距離まで来ていた。

 その間に新たに5人と合流出来た。あるものは片腕を失い、あるものは片目を失い、あるものは両足を失い。

 這いずるように生きていた。アイルの普通の傷薬と妖精の力で彼らは元の体を取り戻す。見つからなかった馬もいて、相乗りをしながらも順調に進んだのだった。



 ******



 その頃、バナパルト王国では…




 僕はニミとバナパルト王国に戻った。アイの温もりをたくさん感じて。

 侯爵家が共同管理する屋敷の客間。魔術師団への説明とか何かは全部ロルフに任せっぱなしだったから。きっと疲れているだろう。

 魔術師団の副隊長にはアイの防御について簡単に話してあるはず。そろそろ出発したい。再会までの2ヶ月は長すぎる。なんとかもっと早く合流したい。


 僕はロルフの部屋を訪ねる為、外にいた人に伝言を頼んだ。

 しばらくすると扉が叩かれた。扉を開けるとロルフがいた。

「入っても?」

 僕は体を開いてロルフを部屋に入れる。ロルフは僕を見ると僅かに目を細めてそっと近寄る。そのまましばらく見てから腕に抱きしめた。


 その身体が震えている。

「…会えたの?」

 やっぱり気が付いたか。僕の体にはアイの魔力がたくさん付いているだろうから。

「ニミが…感知して」

「イルは…元気だった?」

 不安そうに震える体、そして声。

「元気だったよ…。ロルフ、アイはやっぱり僕たちを覚えていない。でも…」


 ロルフは顔を上げて僕を見る。

「でも…?」

「名前を、覚えていたよ。覚えていたというか、思い出したかな。僕たちのことを認識出来ないけどね」

 ロルフは目を開いて頬を染めた。

「名前を?」

「ロリィって言ってたよ。助けたかった人は僕と後はロリィかなって」


 それから僕たちはソファに隣り合って座る。

 僕はニミと転移をした後の話をする。ロルフはアイが名前しかわからない僕たちを探そうとしていたと聞いて、その目を潤ませた。

「会いたいと思ってくれてる?」

「間違いなく、ね。でもロルフのことはきれいな女の人って思ってるみたい」

 ロルフが変な顔をした。

「なんで?」

「顔は分からないけど、細い体とかきれいな肌とか長いまつ毛とか、そういうパーツは覚えてるみたい」

 それを聞いてロルフの頬が染まる。

「細い…きれい…もう、イルってば…」


 


時系列整理

1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く


1月2日 麓の村をナリスと出発


1月6日 ロルフがフィーヤ着

アイルが町レイニアに着く。馬車を買う


1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着

アイルが布を仕入れて町を出発

ライラたちが襲われる

ゼクスと王都にロルフから手紙が届く


1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発

魔術師団がゼクスに出発


1月9日 アイルがハク、ブランと再会


1月10日 ミュジークが捕虜を解放

アイルが村が救う


1月11日 魔術師団がゼクスに到着

近衛騎士たちが村を出発

アイルたちが村を出発


1月12日 ポポロンたちがミュジークに合流

 

1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発


1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着


1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする


1月18日 ロルフたちがフィフスに到着

アイルが川蛇の依頼を受ける


1月19日 ロルフたちがゼクスに到着

アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける

アイルたちが迷宮を発見する

アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層

ラルクたちが迷宮に潜る 9階層


1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う

コムギと再会する 42階層

ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層


1月21日 ロルフたちが死の森に行く

イーリスたちがアレ・フィフスに到着

迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前

ハクたち 37階層終わり


1月22日 イーリスがゼクスに到着

迷宮4日目 アイルたち39階層に到着

ハクたち38階層で休む


1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く

迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始

アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう

アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう


1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される


1月28日 イーリスが目覚める


1月30日 イーリスがアイルと再会する


2月1日 イーリスがバナパルトに帰還


2月2日 迷宮調査員が到着



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