399.霊獣との契約そして名付け
イリィとは王都近くで落ち合おうと決めた。王都には入らないで。といってもイリィの方もまだ2ヶ月はかかるって。ここから約2ヶ月かかる王都。普通に行けばちょうど会えるんだけどね。あまりここで足止めされると困るんだ。
もちろん、ナリスにはその事情を話ししてないけど。
「あ、あぁそうだな。ギルド派遣の調査員とも相談なんだろうが、俺たちは中級だし…調査員では無いから。ロキに伝えて早めに町に帰りたいと伝えよう」
「そうして欲しいな」
そこにちょうどロキが出て来た。僕を見るとへにゃっと笑った。ナリスたちが固まったことをアイルは気が付かない。
「おはよう、ロキ」
「おはよう、アイル。どうした?調査には同行しないよな」
「この子たちを連れて来た」
リスとテトだ。まだ仮名だけど。
「そうか、ありがとう」
そばに来て僕の頭を撫でる。なんか雰囲気が変わったかな。
「ロキ、俺たちはなるべく早く町に帰りたいが…いつ頃、帰れそうか?」
ロキは驚いて、でも頷いた。
「調査員に話をして、明日にでも帰れるように。僕も報告を兼ねて、一度帰るから」
良かった。テオもラルクもそこそこお金は稼げただろうし進めるね!
「ナリス、テオ、ラルク。この子たちの名前どうする?」
「あ、あーどうするか。託されたのがアイルならアイルが決めたら…」
僕はジトッと3人を見る。
「迷宮の中ではそばで寝てたんでしょ?責任を持って付けて?」
(アイル、名付けはイコール契約だからね。託されたのはアイルだから。案を貰うのはいいけど、名付けは自分でしなきゃ)
うっビクトル、それはまぁそうだけど。迷宮で苦楽を共にしたのなら、一緒がいいと思ったんだよ。
(それだと僕と共に来る事になるよ?)
(もちろん、そうだよ!アイルの魔力由来で霊獣に進化したんだから…)
そう言われたらそうか。
「今は仮でリス、テト、ルクだよ。最後の子は僕が決めるけど」
ナリスたちは考えるている。
「俺はシークにして欲しい。家名からな」
「じゃあ仮名リスはシークだね。うん、いい名前」
テオとラルクを見る。
「俺は…テトでいいぞ!」
「私はルーク、かな」
「分かった。じゃあ名付けしちゃおう」
仮名リスに向かって
「君の名前はシークだよ!」
ふわんと水色に光る。これはどうやら僕にしか見えないらしい。
『シーク、ご主人よろしくー!』
しっぽがふりふり揺れる。首元を撫でると飛び付いてきた。ふふっもこもこだね。
もう1頭に向き合う。もうしっぽがすごい事に。
「君の名前はテトだよ!」
ふわんとまた水色に光る。その勢いで
『ご主人ー!!』
押し倒された。ぶんぶんと揺れるしっぽ。ふふっ可愛い。胸毛もふかふかだな。
ナリスに起こしてもらう。
横で3人が目を丸くしている事には気が付かないアイルだった。
本来、聖獣や霊獣とは意思疎通が出来ない。すくなくともそう伝えられている。この意思疎通が出来ないは、言語でのと言う意味ではあるが。
こちらの意思は分かっても人間の言葉を話さない。それが共通認識なのだ。
もっとも文献もごく僅かなので、それが正しいと言える訳では無いかもしれないが、少なくとも言語による意思疎通はできないと思われている。
それがアイルの周りはみんな人語を話す。言語による意思疎通が出来ているのだ。
契約したばかりの霊獣ですら。だから大いに驚いていたのだ。
当のアイルは全く気が付かずに狼たちと戯れていた。
「なぁ、契約って凄いんだな」
テオが呟く。ナリスが
「いや、違うと思う。あれはアイルだからだ。聖なる力が強いから…それに引きづられてるんじゃ無いか」
家の車庫には聖獣に関するものがかなりある。でも、言語による意思疎通が可能であるとの文言は見つからない。契約者の聖なる力によるのか?
あの髪と目だけでも充分な気がするが。
「じゃあ僕は森を散策するね!シークとテトをよろしく」
僕は家に向かう。家の外ではハクとナビィ、コムギと狼2頭が待っていた。ブランは空を飛んでるらしい。
「お待たせ、行こうか!」
『わーい』
『やったー!』
ハクとナビィは楽しそうにあちこち走り回っている。僕のそばにはコムギとビクトルにバクセル。ドーナはいつも自由に空を飛んでいるらしい。
歩きながらビクトルに教えてもらって薬草とかきのこ、時々お芋なんかも収穫。薬草なんだけど食べられるものもそれなりにあって、薬味に使えそうです嬉しい。
そういえば、野菜がかなり減っちゃったんだよね。町で沢山仕入れないと。行商しながら進むけど、なるべく早く王都に行きたいな。
お昼の休憩で、狼たちに名前を付けた。やっぱり水色に光ったよ。名前はルクとイライザ。そのしっぽはぶんぶん揺れていたから喜んで貰えたみたい。
お昼ご飯はカツ丼とスープ。ご飯と肉の間にもりもりのキャベチ。ソース欲しいけどなぁ。醤油とマヨネーズで食べたよ。
その日は一日中、森の中で色々採取した。狼たちが案内してくれてね。
だから僕もビクトルに確認しながら、狼でも食べられる薬草を教えたよ。
お腹を壊した時とか、怪我した時とかに使えるからね。
帰ったらリーダーに共有するって。
それがいい。
でもまた生肉食べるのかって他の狼が愚痴ってたらしい。それもそうか。誰が火魔法が使えたらいいのにね。
家に戻った。
シンラが迎えてくれて
『迷宮の方に顔を出して欲しいと伝言だ』
今日の調査が終わったからかな。
「ありがと、シンラ。行ってくる」
僕は小さくなったハクを連れてロキたちのテントに向かう。
外で8人が話をしていた。ロキとナリスにバグスと他5人だ。もちろん、僕はフードをかぶっているよ。
ロキが
「アイル、悪いな。少し話を聞きたいんだ」
僕は身構えた。迷宮についてはあまり話をしないようにビクトルに言われていたから。
「何?」
少し離れたところで止まる。
知らない5人のうちの1人、少し年嵩の人が僕に話しかける。
「我々は探索者ギルド所属の迷宮調査員だ。私はそのリーダーのクライブ。罠の解除と探索が専門だ。君に聞きたいのはドロップ品についてだ。あ、その前に…迷宮の貴重な情報をありがとう。ロキに聞けば、本来なら初めに伝える情報提供が任意であることや報酬についての説明が抜けていた。申し訳ない。だから今から聞く内容もあくまでも任意だ。回答は拒否できる。教えてもらえたら報酬は出るがな」
一気に話をした。言わなくていいなら言いたく無いかな。
(ビクトル、どう思う?)
(どちらでも。あの雲の階層を抜けられるのは多分、アイルだけだしね)
(言わなかったらどうなるの?)
(敢えてなら、例えばシルクの価値が低くなるくらいかな。迷宮産は高値で取引される。それが誰も到達できないような階層からでたら…価値はとても高まるよね)
それもそうか。でもお金は要らないし、目立ちたく無いんだよね。
(言ったら目立つ?)
(とても…)
「低層は僕は知らない。僕だけが知ってる階層については回答はしたく無い」
ロキが申し訳なさそうな顔をする。
クライブさんは僕を見て頷く。
「分かった。君はドロップ品の価値よりも大切なものがあるんだね」
この人はどうやら僕が目立ちたく無いと気が付いたらみたいだ。
「ちょっといいかしら?ねぇ、分かってるの?この迷宮はかなり難易度が高いわ。たまたま深層に飛ばされて生き残った。運がいいのよ。情報だって、ドロップ品だってかなりのお金になるわ。何が不満で口をつぐむのかしら?探索者としての義務とまでは言わないけど、後進のための情報なのよ?それとも、そうやって情報料を釣り上げたいの?」
なんだか避難されてるみたいだ。
「名乗りもしない知らない人に、行動を避難される謂れはない」
僕はそれだけ言うと背中を向けた。
「なんですって!?たかだか平の奴らに私から名乗る必要なんて無いわ!!」
僕は唸るハクを宥めて背中を向けた。なのにあのおばさんは僕に向けて魔力を練った。ならば反射するだけだ。僕を殺そうとしたなら、自分からが死ぬ。それだけ。
「やめろ!」
「落ち着け!」
「何をしてる!」
背後で怒号が飛び交うが知らない。
そして
「やめろ!」
「平伏しなさい!」
魔力が、いや、これは魔法か。威力は無いけど意識を刈り取って隷属させるものだ。
(人に向けて隷属魔法を放つなんて悪質だな!)
珍しくビクトルが怒っている。いいよ、別に。返すから。
当たり前だけど、その魔法は僕に当たらず返された。
「ぎゃあ…」
汚い声が聞こえたけど、知らない。
ナリスとロキが追って来る。
「アイル!」
「アイルッ」
僕は振り返る。
「何?僕はもうここを出るよ。ロイカナの町には戻らないから」
そう言い捨てて家に戻った。




