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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第8章 帝国の王都へ

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398.シルフィーヌ

 僕たちはロキだけを連れて40階層に転移した。それから雲に乗って下に降りる。姿を消した聖剣のディシーが周りの鳥を駆逐してくれる。有り難いな。

 そして採掘開始。シルフィは僕から離れたがらず、手を握っていた。そのまま

「水よ、削れ…」

 と唱え、削岩機も真っ青な威力でどごんどごんとミスリルとオリハルコンを取っていた。


 滞在時間僅か10分でかなりの量が取れた。そして

「僕の亜空間にも収納した」

 と平然と言っていた。そっとその亜空間収納を見たら、すごい量が入っていた。

 うん、見なかった事にしよう。


 そうして地上に戻る。

 シルフィは僕をじっと見ると頭を少し下げた。僕はその頭を撫でながら、髪の毛を梳く。そのさらさらの毛先にキスをすると、耳まで真っ赤になった。

 裸を見られるのも、体を触れ合うのも平気なのにね?シルフィの恥じらいスイッチはどこに転がってるのか不明だ。


 そしてそのまま僕の腰をぎゅっと抱きしめた。シルフィ…あの、当たるんだけど?発情のスイッチも不明だ。そのまましばらく抱きついていた。




 その時の僕はシルフィがどうしてそこまで僕を求めるのか、分かっていなかった。



 シルフィは精霊だ。その体は魔力で成り立っている。なのに、その体からは魔力をあまり感じたことがなかった。でもそれは弱っていたことと関係があると思っていたんだ。

 僕といればたくさんの魔力を使う場面はほぼ無い。だからシルフィがその魔力をある事に使っていた事に気が付かなかった。


 その夜もいつも通り、ハクたちとわちゃわちゃしながら寝た。シルフィとは初めの時以来、ベットを共にしていない。ナビィにキツく言われたからね。

 僕自身もやっぱりイリィを思うとちょっとなって思ってたから。



(…)

(…て)

(…けて)



 ん?なんだ…声が?耳を澄ますと聞こえない。でもなんとなく胸騒ぎがしてそっとベットを降りる。部屋を出て歩いて行くとシルフィが使っている部屋に着いた。

 扉を開けるとシルフィが半分透けていた。

 えっ…?回復したんじゃ無かったのか?



(助けて…)

(シルフィーヌ様を)

(助けて)



 この子たちの声か。シルフィの周りには淡い光が飛び交っていた。

 僕はここでようやく気が付いた。なぜシルフィが僕と交わることを望んだのか。

「ビクトルは気が付いてたの?」

『…うん』

「どういう状況?」

『彼はあの湖の水に残った束縛の呪いの残滓に魔力を吸われている。自然と溜まるはずの魔力は貯まる以上の勢いで吸い取られて来た。彼が精霊王だから耐えられた。アイルの魔力で満たされたのは確かだけど、また吸われている。彼は穴の空いた桶のような状態なんだよ』


 僕は透けているシルフィの頬を撫でる。

「どうしたら?」

『…』

「ビクトル…教えて」

 静かに問いかける。


『…交われば、アイルの魔力が満ちる。そうすれば呪いの残滓を振り払うことが出来る』

 そうか、思えば今日のシルフィはおかしかった。人に興味のないシルフィがわざわざロキに威嚇をした。僕が傷付いた訳でもないのに。

 あれは自分の存在が僕を守ると分かっていたから。消えてしまう前に、僕を守ろうとした。


『本来、精霊は人の頼みなんか聞かない。自分が欲しければ奪う。弱っていても精霊だ。それくらいの力はある。でもアイルにはそれをしたくない。だから縋った。でも…それをアイルが望まないと分かって、シルフィーヌ様はアイルを煩わせるくらいなら、そっと消えようと考えた…多分そういうこと』

「ハクたちは知ってたの?」

『…知ってたよ』

 そうか。ハクたちは自分たちの想いで僕を見る。


 シルフィも自分の考えで行動した。

 でも違うんだ。僕はね…シルフィ。助けたものは幸せにしたいんだ。その為のあれこれは面倒かもしれないけど、嫌じゃない。僕が手をかけて幸せに出来るのならそんなのは手間にすらならない。だってあたり前なんだから。


 呼吸をするのと同じくらい、当たり前のこと。それを僕に気を遣って消えるなんて。シルフィは僕のことをちっとも分かっていない。





 僕はベッドの横でシルフィの頬を撫でる。冷んやりとした冷たい頬だった。

 シルフィが目を開けて少しだけ驚いた。

「シルフィは僕のことを何も知らないね。僕は君が消えたら悲しいよ。消えない為に何が必要?」

 シルフィは真っ直ぐな目で僕を見る。でも何も言わない。それはシルフィなりの僕への想い。でもそれは僕の想いとは違う。

 その冷たい唇にキスをする。目を合わせてもう一度

「シルフィは何を望むの?」


 今日、僕を抱きしめたシルフィは本能的に生きたいと思ったのだろう。だから体が僕に反応した。心とは別に、その体は消えたくないと主張していた。今だってそう。

「消えたく、無い…アイルが欲しい…うくっひっく…1人はもう嫌…」

 それこそがシルフィの、自分のための想い。それでいい。僕は君に消えてほしく無いから。

 またキスをする。シルフィは受け止めてねだる。

 僕はまたキスする。その意味を理解したシルフィも応える。そして僕たちは夜を共にした。


「シルフィ、呪いなんて吹き飛ばそう。だから僕と一緒に…生きて」

『アイル、アイル、アイル…』

 僕の名前を呼びながら何度も、何度も…その魔力がどれほど枯渇していたのか、シルフィは僕を離さなかった。


 翌朝、僕は目をを開ける。目の前には水色の髪。シルフィは完全体に戻っていた。そしてその魔力は溢れるばかりに満ちていた。

『昨日ので…シルフィーヌ様は完全に力を取り戻した。アイル由来の魔力。アイルは交わりながらシルフィーヌ様の湖に魔力を飛ばしていたよ』

 魔力を飛ばした?記憶はないけど。


『呪いなんて吹き飛ばせって多分、無意識に…それをアイルに力を貰った妖精たちが聞いて、頑張った。もちろんシルフィーヌ様の魔力が満ちたことも大きい』

「ならもう大丈夫か」

 ぎゅっと抱きしめられた。

「まだダメ…まだ」

 駄々っ子のように言う。精霊王だよね?威厳はどこに置いて来たの?


『アイルは僕の全てを知ってるから…それでいい。だから…』

 どう繋がるの?全てを知ってるとだから、は。

 上目遣いの美形な精霊はちょっと反則だと思う。長いまつ毛を揺らしてキスをして…僕は眠いんだけどな。

 強制的に起こされた感じで、でもシルフィは頬を染めて満足そうだ。はぁ、そんな顔されたらね。仕方ない。

 その体を抱きしめて二度寝したよ。





 ふぁぁ、眠いけど…お腹空いた。ご飯食べないと飢えるのは僕だけだからな。

 起き上がって体を洗浄すると寝ているシルフィにキスをして部屋に戻る。みんな起きてベットに座っていた。なんか怖い。

 身構えると一斉に飛びかかって来た。嬉しいけどやめて。せっかく洗浄したのに、もう顔なんか唾液まみれだよ、もう。

 また洗浄して起き上がると、着替えてみんなで部屋を出た。

 さてと、今日はお粥の気分。またワイバーンの肉でも入れて食べよう。

 ふぁ、胃に沁みる。ふうふう、ぱくり…美味しいね…


 あ、だからシルフィは。ふうふうしてから食べるんだよ。え?熱くないから大丈夫?

 ダメ、見てるこっちが熱い。ほらもう仕方ないな。

 ふうふう、はいどうぞ?

 頬を染めて食べるシルフィが可愛いからな。

 みんなにおかわりを出して、食べ終わったら片付けをした。


 今日辺り、ギルド派遣の調査員が来るんだって。だからナリスとテオが同行する。

 案内には狼の(仮名)リスに(仮名)テトが付き添う。もちろんバルクさんたちやロキも同行する。

 僕はお留守番。と言ってもこの森で薬草でも採取する予定。

 足止めされてるからな。


 そうそう、ナリスたちに報酬についての話があると言われていた。迷宮で出た素材とか諸々について。

 そのまま彼らのものにしたらいいのに、ハクたちのお陰だからと返すって言われたんだ。僕は要らないけどね?だってハクもブランもナビィもコムギも色々なドロップ品を持っていた。それは全て僕のものだし、売ればかなりの額になる。


 雲のカケラは一定数を売って欲しいと言われていたからね。この迷宮の調査の結果で、格付けされれば価値が決まる。

 今の段階ではまだ正確には決まっていない。それでも新しい物質というだけで十分な価値だって。

 だから、僕はかなりの稼ぎがあるのだ。ナリスたちのものは貰わなくても大丈夫。ただ、やっぱりビクトルにはケジメだから受け取るべきと言われた。


 そうしないと彼らは僕に寄生する事になるから。それもそうかな?配分については今後の調整だけど、ビクトルが言うには結構な額になるだろうと言われている。



 迷宮の調査にはかなりの時間がかかると思うんだけど、いつまで足止めされるのかな?僕はそろそろ進みたい。急いでるわけじゃ無いけど、早くイリィに会いたいし。

 それもナリスたちに相談かな。僕は別に1人でも問題ないし。


 朝ごはんの片付けが終わると(仮名)リスと(仮名)テトと共に迷宮の入り口近くに向かう。

 テントのそばにはナリスとラルクがいた。僕に気が付いたらナリスが

「おはよう、アイル」

 声をかけて来た。

「おはよう」

 僕は2人に挨拶をする。

「ねぇ、いつまで足止めされるのかな?僕はそろそろ進みたい」


 イリィとは王都近くで落ち合おうと決めた。王都には入らないで。といってもイリィの方もまだ2ヶ月はかかるって。ここから約2ヶ月かかる王都。普通に行けばちょうど会えるんだけどね。あまりここで足止めされると困るんだ。

 もちろん、ナリスにはその事情を話ししてないけど。




時系列整理

1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く


1月2日 麓の村をナリスと出発


1月6日 ロルフがフィーヤ着

アイルが町レイニアに着く。馬車を買う


1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着

アイルが布を仕入れて町を出発

ライラたちが襲われる

ゼクスと王都にロルフから手紙が届く


1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発

魔術師団がゼクスに出発


1月9日 アイルがハク、ブランと再会


1月10日 ミュジークと捕虜を解放

アイルが村が救う


1月11日 魔術師団がゼクスに到着

近衛騎士たちが村を出発

アイルたちが村を出発

 

1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発


1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着


1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする


1月18日 ロルフたちがフィフスに到着

アイルが川蛇の依頼を受ける


1月19日 ロルフたちがゼクスに到着

アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける

アイルたちが迷宮を発見する

アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層

ラルクたちが迷宮に潜る 9階層


1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う

コムギと再会する 42階層

ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層


1月21日 ロルフたちが死の森に行く

イーリスたちがアレ・フィフスに到着

迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前

ハクたち 37階層終わり


1月22日 イーリスがゼクスに到着

迷宮4日目 アイルたち39階層に到着

ハクたち38階層で休む


1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く

迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始

アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう

アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう


1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される


1月28日 イーリスが目覚める


1月30日 イーリスがアイルと再会する


2月2日 迷宮調査員が到着


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