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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第7章 新しい迷宮

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395.再会そして別れ

閑話こみで500話…

まだまだ終わりません




 そして精霊のシルフィーヌ様、僕の記憶が正しければ水の精霊王だ。腰まである水色の髪に薄い水色の目。額にはアクセサリー。小さな顔は作り物みたいに整っている。切れ長の目に細くて形の良い鼻、小さな口。僅かに色付いた頬が艶めかしい人型の精霊。

 僕はスッと跪く。


 シルフィーヌ様は僕を緩く抱きしめると僕の頬を手で挟み至近距離で見つめた。吸い込まれそうな目だ。

 目を伏せてそっと唇が触れた。冷たくて不思議と心地よい唇だった。


「あ、こら…シルフィ。イリィはダメだよ!僕のなんだから」

 アイがかけてくる。シルフィーヌ様は僕を抱きしめて

「イーリスのそばも心地良い…」

 アイは少し嬉しそうに

「それはね、イリィだし。肌も柔らかくてなめらかで、唇もとても柔らかくていい匂いがして、温かくて…凄く気持ちいいんだよ!」


 アイ、待って…不意打ちは。僕は頬が熱くて仕方ない。

「そんなにいいなら、僕もしたい…」

「「えっ…?」」

「イーリス、ダメ?」

「「えっ…?」」




『お腹空いたー!』

 ナビィ、いいタイミングだよ!完璧だ。

「ほら、イリィもシルフィも座って」

 僕はアイがお皿に盛って配るのを見ている。僕はアイの隣。シルフィもアイの隣。なんで?反対側に誰もいないよ。

「シルフィは精霊だし、ご飯食べなくても大丈夫だからか、熱いものをそのまま食べようとする。危ないから結局、そばで見てるんだよ」 

 だって。ほらもう、そういう所だよ、アイ。



「イリィ、これはキャベチで細かくしたお肉を巻いたんだ。スープにキャベチの甘みが滲み出て、とっても美味しいよ。パンを付けて食べてな。熱いから気を付けて」

 と教えてくれる。アイは僕を見てる。恥ずかしいけど、少し切ってふうふうして口に運ぶ。ぱくっ…美味しい!

 お肉の旨みがじわっと滲み出る。キャベチってこんなにトロトロで甘いんだ?びっくり。


 やっぱりアイの料理はとても美味しい。久しぶりにアイのそばで食べて僕はもう涙が止まらなかった。

 アイは何も言わずにに抱きしめてくれる。

 時々、涙を拭ってくれる手は優しくて、瞼に触れる唇は温かくて、せっかく熱々なのに。なかなか涙は止まらなかった。



 ようやく顔を上げると、布で顔を優しく拭いてくれた。

「落ち着いた?」

「うん、ごめん…」

「謝らないで。多分、泣かせてるのは僕だし」

 優しく撫でられて甘えてしまった。

 見上げると

「食べられる?」

 僕はアイを見たまま甘えた顔をする。ねぇ、もっと甘やかして?離れた時間を埋めるように。


 アイは恥ずかしそうに僕の口にフォークを近付ける。口を開けると、美味しいお肉が。

 そのまま甘えまくって、アイはとことん甘やかしてくれて。幸せな食事だった。



 僕が食べ終わるとアイはシルフィーヌ様に食べさせていた。

 唇の汚れを拭って、食べさせて。もぐもぐと。シルフィーヌ様も甘えてるね。真顔だけど、あれは喜んでる。

 僕に目をやると頷いた。今のはきっと仲間だねって顔。


 もう参ったな。アイを好きになる人(精霊)はやっぱり優しくて清らかだ。

 なんか仲間とか同志って感じ。不思議だ。

 シルフィーヌ様も食べ終えるとハクやナビィ、僕とシルフィーヌ様にもおかわりを出してくれた。

 相変わらず、アイは少ししか食べないのにね。



「ハクとブランも初めてだよね?離れてる時に作ったから」

『初めてー美味しい!』

『ご主人、凄く美味しいのー』

 2人を撫でるとアイは嬉しそうだ。本当にみんなに優しい。

 みんながおかわりも食べ終わると、アイは片付けに席を立った。


「イーリス、アイルは人から守らなきゃ…僕が守るよ。だから安心して」

 真っ直ぐな目で確かな信頼を感じた。

「はい、お願いします」

「敬語、いらない…同志、は仲間。まだアイルは子ども。あの髪と目。危険」

 それはそうかもしれない。

「王族からも守れる?」

「大丈夫、私も神獣も聖獣も。アーシャもいる」



 そうだ、アーシャ様を見かけないな。

「理りに関わる制約。沈黙してる…。でもそろそろ、かな」

「僕はまた戻らなきゃならないから。アイのこと、お願いするよ」

「任せて…大丈夫、僕は意外と強い」

 意外でも何でもない。水の精霊といえば苛烈な性格で有名だ。国を水の底に沈めるなんて簡単な筈。


「イーリスが笑うとアイルの魔力が緩む。僕は心地良くなる。いいことばかり」

 ほんと敵わない。アイは分かってて助けてるの?なんて思ってしまう。



 ご飯の後にアイが

「これね、新しい甘味。こっちは果物にかけて、こっちは初めて作って、まだ誰にも。試食もだよ?初めてはイリィとって思ったから」

 これは、あの夢で見た甘味だ。茶色くて不恰好。でもアイみたいに甘くて美味しかった。


 本当にアイは僕を思ってくれてたんだ。すごく嬉しいよ。ぼくはそれを口に含む。甘くてとろけた。

「美味しいよ…」

「初めてで不恰好なんだけど…良かった」

 優しく笑ってくれるアイが可愛くてまた抱き付いた。あぁ君は本当にどこまで僕を虜にしたら気が済むの?

 そっとキスをする。アイの唇は甘い香りがした。



 夜は久しぶりに2人でお風呂に入って、その細い体を隅々までね。ふふっ照れてて可愛い。いっしょにお湯に浸かって、髪の毛を上げたアイは少し大人びて見えた。やっぱり可愛い。

 そしてもちろん、その夜は2人で寝たよ。いや、寝てないか。僕がね、アイを離さなかったから。でも許して。またしばらく会えないから。たくさん君を…




 目が覚めると眩い銀髪。きれいな色、僕の大好きな色。そっと撫でてキスをする。くるりと上を向いたまつ毛が可愛い。毛布から覗く肩は細くて昨日は何度もキスをした。細い髪の毛は指をすり抜けてさらさらとこぼれる。

 耳と胸元には僕の髪の毛。まだあどけない顔にピアスが嵌ってて、不思議な色気を纏う。

 僕はここにいるんだね。



 アイは目を開けるとふわりと微笑んだ。そして僕の胸に顔を埋める。

「ふふっ大好きなイリィの匂い…幸せだなぁ」

 可愛いことを。僕はね、アイのことを大切にしたい。そう思うのに、朝からそんなことするの?

 ねぇ、僕は年頃の男なんだよ…アイ。

「ねぇ、朝から僕を…んっ…」

「えっ?いや…そのっ」

 ダメだよ?離さないから。

「…イリィ…」




 流石にそろそろお腹が空いて、起きることにした。

 アイは柔らかいパンとベーコンとオムレツとスープを作ってくれた。とっても美味しい。アイが作るものは何でも美味しいけどね。

 そろそろ帰らないとなのかな。

「イリィ、少しだけまだ時間ある?見せたいものがあるんだ!」

『まだ大丈夫よ!私も見たいわ』

「ニミ、ありがとう」


アイはぽかんとしてから

「きれい…真っ白だね。ニミって言うの?よろしくね!イリィを連れて来てくれてありがとう」

 そう言って首元を撫でた。ニミが固まってる。あれは照れてるな。

『なっなっなっ…おほん。我ならばたわいもない』

「そうなんだね!きれいでカッコいいよ…ふふっすべすべであったかい」

 ニミの首に寄り添ってもたれるアイ。あ、ニミが震えてる。アイってばやっぱりなんか幼くなった分、より素直で可愛くなってる。ニミもこれにはデレた。



 それからアイはニミも一緒に、と迷宮の転移陣で40階層に飛んでくれた。




 僕はその光景をきっと忘れない。

 迷宮の中の空、空の上の雲のカケラとアイの魔力のカケラ。それはあまりにも美しい光景だった。

 そう、あの夢で見た光景そのままの。いや、隣にアイがいて…僕の手を握るアイの手を感じられて。だから一緒じゃない。もっと特別で、素敵なものになった。

 僕たちは雲のカケラが舞い散る迷宮の中の空で、キスをした…




「あ、こらナビィ押さないの!」

『アイリとチューするの!』

『僕も!』

「あ、こらハクまで…押さないの」

『僕も!』

「ブランまで大きくならないの!」

『パパー僕も!』

「あーコムギたんまで大きくならないよ!」



 なんだかみんながアイルに群がってわちゃわちゃしてたよ、しんみりしてたのにね?

「せっかくイリィといい雰囲気だったのに、もう…」

「くはっ…」

 僕は思わず吹き出した。アイの顔がおかしくて、凄く嬉しくて。

「例え思い出せなくても…これからたくさんの初めてを2人で。新しい思い出をたくさん作ろう。大好きで大好きだから」

 アイは優しく笑うと

「うん、僕も大好きで大好きだよ。でも…やっぱり思い出したいな。だってさ、内臓がこぼれてるのに治る普通の傷薬とか、なんで作ったのか知りたいし」



 僕たちは顔を見合わせて笑った。

「僕も知りたいかも」

「だからね!」

 そうだね、アイ。きっとこれからの旅はアイの記憶を取り戻すための旅だ。

 どんな旅になるのか、不安もたくさんあるけど。またアイが僕のいない間に誰かたぶらかなさいか、とかね。

 でもやっぱり好きな人の横で、たくさんの初めてを一緒に。

 寂しいけどしばらくお別れだよ。



 ありがとう、アイ。想ってくれて、待ってくれて。

 だからもう少しだけ待ってて。再会するその日まで。

 大好きな人…また会おう。



 こうして僕は笑顔でアイと別れて、ニミとバナパルト王国に戻った。




第7章完結です…



時系列整理

1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く


1月2日 麓の村をナリスと出発


1月6日 ロルフがフィーヤ着

アイルが町レイニアに着く。馬車を買う


1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着

アイルが布を仕入れて町を出発

ライラたちが襲われる

ゼクスと王都にロルフから手紙が届く


1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発

魔術師団がゼクスに出発


1月9日 アイルがハク、ブランと再会


1月10日 ミュジークと捕虜を解放

アイルが村が救う


1月11日 魔術師団がゼクスに到着

近衛騎士たちが村を出発

アイルたちが村を出発

 

1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発


1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着


1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする


1月18日 ロルフたちがフィフスに到着

アイルが川蛇の依頼を受ける


1月19日 ロルフたちがゼクスに到着

アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける

アイルたちが迷宮を発見する

アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層

ラルクたちが迷宮に潜る 9階層


1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う

コムギと再会する 42階層

ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層


1月21日 ロルフたちが死の森に行く

イーリスたちがアレ・フィフスに到着

迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前

ハクたち 37階層終わり


1月22日 イーリスがゼクスに到着

迷宮4日目 アイルたち39階層に到着

ハクたち38階層で休む


1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く

迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始

アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう

アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう


1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される


1月28日 イーリスが目覚める


1月30日 イーリスがアイルと再会する


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