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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?

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40.ギルドの会議室で

 時は少し遡り、ギルドの会議室にて…。



 アイルが出て行った扉を皆んな無言で見つめている。どこからともなく溜め息が漏れる。

「兄様、その…」

 ラルフの髪を撫でて頷く。

「いや、びっくりしたぞ。急に泣くなんてな…」

 ギルマスのバージニアが頭をガシガシとかく。

「もう会えないって死んだってことか?」

「分からない」

「本当に危ういヤツだ。なんて言うか、手からこぼれ落ちてしまうような…そんな危うさだな」

「兄様から聞いていた以上に儚いね?地に足が付いてないっていうか…脆くて壊れそうだ。私も驚いたよ」

「でも私の手…振り払わなかった」

「ん?どういう事だ?」

「分からない…人と触れ合うことを恐れてる?」

「あの子が兄様を見る目は、兄様に自分のお兄さんを重ねているような遠い目だった。そこを見ているようで見ていない…そんな目」

「私の奥に…お兄さんを見ていたのかな…」

「まぁとにかくだ、目を離すなよ!急に消えても俺は驚かんぞ。見ていなければ溶けて消えそうだ」



 僕たちは馬車で兄様の家に向かっている。僕は焦っていたんだな。兄様はあの子の涙を拭いていた。とても優しく。周りに人がいなかったら抱きしめていたんじゃないかな?そんな兄様、初めて見た。

 人付き合いが苦手な兄様があんなに興味を持つなんて、なんて危険な!そう思ったのに…まるで僕の一人芝居だったなんて。まだまだだな、僕も。

 あの子はいったいどんな風に生きて来たんだろうか?限りなく透明で危うい。あの涙も()()()()()()。参った…兄様だけじゃなくて僕まで気になってしまっている。マズイなぁ…ほんと。

 ラルフは考え込んだ。





 なぜアイルは突然泣いたのだろう?もう会えないお兄さんがいたとしても、あまりにも唐突だった。無表情な子だから、あんな風に泣いている姿を見せられて…気持ちが落ち着かない。

 人に興味を待てない私がこんなにも気にするなんて…。しかもあんなに自然に涙を拭ってやれるなんて…。アイル、君は不思議な子だね。

 ロルフは思案にくれた。





 全くよ、ラルフは喧嘩腰だし、アイルは突然泣くし、ロルフは涙を拭ってやってるし…カオスだぜ…。

 アイルが来てから浮き足立ってるって言うのか?なんかふわふわしてんだよ。あの純粋な目がな…周りを巻き込んでく。次の日依頼は何事もなく終わってくれよ?

 バージニアは1人ため息をついた。





 バナパルト王国のとある街道脇の森の中で…

「お父様、今日はもう休もう」

「しかし、少しでも早く」

「無理をして傷を悪化させては余計に時間がかかる。急く気持ちは分かるがどうか…」

「分かった。すまない、焦っていたようだ。では早めに休むよ」

 それは父親と息子二人だけの旅人だった。

 良くある幌つきの馬車。御者台から荷台に声を掛けた息子。年のころは10代後半くらいか。

 幌を上げた荷台から降りたのはお父様と呼ばれた男性、20代に見えるほど若々しい。もう一人の息子は20才ぐらいの青年。

 父親に肩を貸して荷台から降りる。

 父親は肩を大きな布で吊っていて足を引きずっている。

 

 青年たちは一見するとケガをしている様子は見受けられない。

 探索者が良く着ている野外で活動する様な服装で腰には剣を下げている。

 街道から逸れた森の中で野営をするくらいだから、テントを張るのも火を起こすのも手早い。

 

 すると全員が森の方を見る。そして風の刃が通り過ぎでドサっと音がする。

 息子が茂みにはいりそこから1mほどの蛇を引きずり出した。

 

「ポイズンスネーク。革も血も毒も素材になる。肉はちょうどいい、今夜の食事に使おう」

「やはり森の中は魔獣が出るな」

「仕方ない、交代で休もう」

「お父様は休んで」

「おや、お前たちはいつから私を年寄り扱いするようになったんだい?今だって仕留めただろ?」

「しかし、お父様はケガを…」

「魔法を使うだけなら大丈夫だよ、まだまだ息子に寄りかかるほど耄碌してはいないからね」

「分かった!では先にどうぞ」

「あぁそこは素直に受け取っておくさ」

 

 夜の警戒は途中が一番辛い。少し寝て起きてまた寝てとまとまった睡眠がとれないからだ。

 ケガをしている父親を一番楽な最初の警戒にしたのだろう。日が暮れる前には食事を終えて、交代で警戒に当たり始めた。

 

 パチパチと薪がはぜる音が聞こえる。静かな夜だ。ふぅ、息子に気遣われるとは、私もまだまだだな…。

 すっと顔を上げて軽く手を振る。

 一陣の風が巻き起こりザシュッと音がする。ゆっくりと椅子から起き上がり茂みの中に倒れている角うさぎを拾う。

 体を動かすのは辛いが、魔法だけなら問題ない。

 全魔法属性の私にとってはこの程度は造作ないことだ。



 

 ある夜、私たちは襲撃された。

 屋敷の全員で迎え打ったが、別働隊がいたのだ。あの時、子供の部屋に向かった襲撃者を追いかけて我を忘れてしまった。

 待ち構えた魔術師に横から攻撃をされ、それを受けてしまうなんて。悔しくてしょうがない。

 子供は無事に逃げられたようだが、まだ無事かどうかの確認が出来ていない。だからこうして旅をしている。早く見つけてやらなくては。

  お金に困っていないだろうか?元気に暮らしているだろうか?心配は尽きない。

 

 襲撃者たちは撃退したものの、身を隠さざるをえなかった。私が呪いの魔術で攻撃された、その傷が思うように治らなかったからだ。

 私たち一族は植物との親和性が高い。薬草にも詳しく薬を作ることが得意だ。

 それでも呪いの進行を止めるのが精いっぱいで歯がゆい時間を過ごした。

 

 やっとなんとか旅に耐えられまで傷が癒えて体力も戻り、こうして旅に出ている。出発までに2か月もかかってしまった。

 呪いの元を断たなくてはいけないが、厄介な呪いで押さえ込むのだけでいっぱいいっぱいだ。こんな姿を見せたくはないが、どうしたもんか。

 早く会いたい気持ちと元気になってから会いたい気持ちと…ままならないものだな。

 その後は何事もなく息子に交代した。しっかし眠って明日に備えよう。



 

 

  その日は結局、お昼過ぎまでベットから起き上がれなかった。朝食をベットに運んで貰って何故か食べさせて貰って。イリィが甘やかすんだよ…恥ずかしい。

 イリィの話を泣きながら聞いた。自分よりも大変な思いをしたんだね。そう言うと生きた時間の全てを失った君よりも僕は辛くないよ、と。

 僕のために泣いてくれる君は本当に優しいね。いつか君を家族に紹介できる日を楽しみに待っているよ、だって。

 イリィは自分も大変なのに、そうやって私のことを気遣ってくれるんだね。優しいのはイリィだよ。



「そうだ、探索者の仕事は大丈夫なの ?」

「2日後に1泊の指名依頼が入ってるんだ。貴族の案件だから断れないし、前にも依頼を出してくれた人だから安心だよ」

「1泊なんだね。寂しいけど、お互いに頑張らないと」

「だからさ、今日と明日で依頼のための準備とその前にしておきたいことをやろうと思ってるんだ。この間、解毒剤を入れられるネックレスを作ってくれたから。調薬もしないと。それ以外にも傷薬とかいくつか作っておきたいんだ」

「解毒剤を入れるためのネックレスはもう出来上がっているから、中身さえあればいつでも使えるよ」



「うん、それに昨日見つけたんだけど、イリィの新しい作品に使えるかもしれない材料があって、一度一緒に見に行きたいと思ってるんだ。

 花を乾燥させてそれを閉じ込めた作品が作れないかってそう思って…アクセサリーとかだけじゃなくて、食器とかにも使えるんじゃないかな?

 イリィが作る、あのとてもなめらかで美しい曲線の金属の食器とその表面に花が扱われていたらすごく素敵だと思うんだ。

 イリィの作品はどれもとても優美で、金属と組み合わせた作品があってもいいかなって。そのままの良さもあるし、少し装飾したら違う良さも出せるからどちらもイリィの作品にしたらいいと思う」

「本当に君は…」

 イリィに抱きしめられてしまった。

「だってこんなに可愛い人なんだよ…?」

 顔が紅くなる。相変わらず美形の破壊力が凄い。


「花を乾燥させたりするのは私が協力できるから2人で作品を作ってもいいかなって。あの素晴らしい作品をたくさんじゃなくていいから評価してくれる人がいたら嬉しいね」

「君はどうしていつもそんなに僕のことを考えてくれるの?君と会ってから僕の周りはとても鮮やかになったよ。今までだって色づいてたと思うんだけど、ものすごく色彩が豊かになって、僕の心もどんどん豊かになっていく。おかしいね。まだほんとにあったばかりなのに、僕たちはきっと出会う運命だったんだよ」

 熱の籠った目で私を見る。


「君が全てを捨てなければならなくなったのは、とても悲しいことだけど、でもせめて僕に会えたことを心から喜んで欲しい。この世界で君が幸せになれるように、僕が君を支えていくから。まだ僕たちの物語は始まったばかり。一緒にいろんな物語を紡いでいこうね…アイ」

 そう言って淡く微笑んでキスしてくれた。

 そうだね、ここに来たことは意味があったんだね。ありがとう。本当にありがとう…イリィ。




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