393.襲撃の後そしてアイルと
あ、アイリスとルイ、それにアイリーンとリツももちろん無事だったよ。僕のベットのそばにはアイリスが置かれて、ルイがそばに寄り添ってたって。
何はともあれ、良かった。
僕はその日、侯爵家が共同で管理する屋敷の部屋いた。
ニミにもたれて休んでいると、ニミがふと顔を上げた。
『感じ取れた!』
「えっ?」
『アイルの魔力よ!』
えっ、じゃあアイの元に跳べるの?
『飛べるわ、でもまだちゃんと会うのは早い。遠くから見るだけよ!』
「それでもいい。一目でも見たいんだ」
『分かったわ。掴まってて』
僕はニミと転移した。そこは森の中?少し離れた場所に家があって玄関の扉が見えた。
ドキドキする、あれは間違いなくアイの魔力。
その玄関の扉が開いてアイが出て来た。
アイ…少し幼くなった姿だ。背も低くなってさらに小柄になった。
前は180セルはあったけど今はどれくらいか、170セルないかもしれない。
顔も明らかに幼くなってる。
『魂の生まれ変わり、その影響かしら…幼くなったわね』
確かに。でも間違いなくアイだ。ただ、あのくすんだ銀の髪はキラキラと輝くきれいな銀色になっていた。
それだけで見違えるように華やかだ。
僕はじっとアイを見る。アイは玄関の扉を開けて体を半分出した状態で後ろを向いている。
ハクが脇から飛び出して来た。
目があった。はぜかハクは少し慌ててアイを扉の中に押し戻そうとしている。
アイはハクを撫でるとするりと扉の外に出た。
アイ…えっ…なんで…その人は誰?
僕は呆然とその2人を見ていた。
そう、アイはとっても儚げできれいな人と手を繋いで出て来たのだ。
そして、そのきれいな人に寄り添ってその肩を抱く。
そんな…アイどうして。
その人に向き合って、そして2人は顔を寄せ合って…チュッと聞こえた。
そんな…キスを?嫌だ、アイ…何で。
僕はとっさに駆け出した。後ろで
「ナビィ!」
アイの声が聞こえた。
すると横から柔らかい体に押し倒されて仰向きに倒れる。
ナビィが僕にのしかかって顔をぺろぺろ舐め始めた。
えっ…?唖然とする僕に構わずナビィはべろべろ舐める。驚き過ぎて涙が止まった。
アイが掛けてきて
「ナビィ、何してるの!離れて…あ、ごめんね。こらナビィ!」
アイが引っ張ってもナビィは動かない。とうとうアイは僕とナビィの間に体を滑らせて僕をナビィから庇う体勢になった。
僕とアイの体が密着して目の前に大好きなアイの顔がある。
アイは僕を見て
「ごめん、驚いただろ?悪気はないんだ。僕以外には興味を示さない子なんだけど…君のことは気に入ったみたい」
そういって僕の髪に触れる。
「ナビィ、こんなにきれいな髪の毛がべちょべちょだよ」
きれいな髪と言われて頬が染まる。
「すぐキレイするから…よし。とってもきれいな淡い金髪だね…僕の大好きな色」
僕の髪を一房取ってキスをする。
それだけで、それだけのことで僕は泣きそうになる、アイ…
「え、ごめん嫌だった?ごめん‥泣かないで」
慌てて僕の髪を離す。
僕は首を振って
「いや、じゃない…」
ホッとした顔で
「良かった。僕の一番好きな色…大切な人の色なんだ」
少し寂しそうに言う。
「大切な人?」
困ったように
「うん…思い出せないのに、大切で大好きだって分かる。その人の色…とってもきれいな」
僕はまた涙が溢れる。
「え、ごめん。こんな話。何かあった?僕で良ければ聞くよ!君はとても良い匂いがする…初めて会った気がしないよ」
ほんの少し照れた顔で言う。
「さっきの人じゃないの?」
キョトンとした顔で
「さっきの?あぁシルフィか。彼は人じゃなくて…精霊で。それでえっと、気分が悪くなって魔力が欲しいって…頬にキスされたんだ。あ、でも大切な人は違う人。イリィっていうんだ」
イリィ?それは…僕は心臓がどきどきした。
「覚えてないのに名前は分かる?」
「うん、時々夢で見るし。それにきれいな風景を見たら自然に考えるんだ。この風景をイリィと見たいなって」
懐かしそうでやっぱり寂しそうなアイ。
さっきの彼は大切な人じゃなくて、それは僕でいいの?
なぜだか涙が止まらない。アイは焦って
「えっとなんかごめん。僕ばっかり。良く見たら君、とってもきれいだね」
僕はアイを見る。よく見たらって、やっぱりアイはアイだ。困ったような顔で
「悲しいことがあったの?」
頬を撫でながら聞いてくれるアイ。
「うん、僕も大好きな人に会えなくて」
「そっか、僕と一緒だね。僕はアイルっていうんだ。君は?その、また、いつか会えるかな…」
恥ずかしそうに聞く。
「イーリス、きっと会えるよ」
「イーリス、月の女神?さらさらな髪も滑らかな頬もとってもきれいだよ、イーリス」
そんなこと言われたら、僕は…我慢できなくてアイにキスをした。
アイは凄く驚いて、でもはにかみながらふわりと笑ってくれた。
「夢の中で見るイリィとキスしてるみたい。あ、でもイリィが知ったら怒るかな。ねぇ、その…キスしていい?」
僕は頷いて目を閉じる。
優しく触れるアイの唇。温かくて柔らかな。頬を撫でる手は優しくて、僕はアイにしがみついた。
そのままそっと抱きしめ返してくれる。
「ねぇ、僕と一つに…」
思わず言ってしまった。
アイは困った顔で
「僕は…ごめん。思い出せないイリィを裏切りたくないんだ。僕の初めては…イリィとって思ってるから」
「なら僕がイリィになる」
「えっ?」
戸惑っている。でももう僕は…だって僕がそのイリィだから。
「取り合えず、起きようか?ここは、ね」
あ…ここは森の中で、周りに人はいないけど外だ。僕は恥ずかしくなった。
アイは起き上がると僕の手を引いて立たせてくれた。
小さなアイ、思わず胸に抱きしめる。
「イーリス?」
「少しだけそのままいさせて…」
アイはふわりと抱きしめ返してくれた。
腕の中にすっぽりとおさまる。相変わらず細くて滑らかな肌だ。
その頭に頬を寄せて、ぎゅっと抱きしめた。大好きなアイの匂い。
「イーリス…懐かしい匂いがする。夢の中で嗅いだ大好きな森の匂い…に似てる、気がする」
「覚えていてくれたんだね…」
ぽつりとこぼした言葉をアイが拾う。
「覚えていてくれた…?」
体を起こしてアイが僕を見る。そして目にみるみる涙を溜めて俯いた。
「アイ…?」
「…ると思ったのに。会ったら絶対に分かるって思ってたのに…僕は君に触れても、思い出せない。匂いとか肌の温もりは思い出せるのに、僕は…ごめん、イリィ」
アイ、そんな風に思っててくれたの?
「いいんだ、アイ。泣かないで。アイのせいじゃない。だって僕の名前を思いだしてくれたじゃないか。髪の色も大好きだっていってくれた。匂いも温もりも…それだけで十分だよ、アイ」
「でも…きっとイリィは待っててくれたんだよね?なのに…僕は何も覚えてない。2人で見た景色も、会話も…」
「アイ、聞いて。アイは何も悪くない。悪くないんだ。僕の為に、僕に会うために…待っててくれたんだよね?」
涙をまつ毛に付けて頷く。
「イリィに会うまでは誰とも親しくならないって、会いたくて会いたくて。あったら思い出せるって思ったのに…」
また俯いてしまう。
僕はその頬に手を当ててキスをする。深く強く。
始めはこわばっていたアイの体はゆっくりをその力が抜けて、僕に体を預けて来た。
「アイ、もう我慢できない。お願いだから…」
アイは恥ずかしそうに頬を染めて
「い、今から?」
今はまだ朝。でもそんなことは関係ない。だってアイだって覚えてないのに待っててくれた。もう抑えられない。
「ダメ、待てない。ずっと待ってたんだよ?」
アイは頬を染めて静かに頷いてくれた。
家の中に入るとアイは寝室に僕を連れて行ってくれる。そして2人ではにかみながらベッドに横になる。間に合って
「本当にいいの?」
「それは僕のセリフ。僕がイリィだって、信じられる?」
「それは…信じるよ。だってあまりにも似ているから、夢で感じた温もりに」
そう言って僕にキスをして、そうして…もう僕は止まれなかった。
大好きなその体を、たくさん感じさせて…アイ。体を触れ合わせる。アイの肌の温もり。
相変わらず白くて細いその体。滑らかな肌。僕は夢中で…アイ、大好きだよ。
アイは体が小さくなったからか、少し辛そうだったけどそれでも僕が求めるままに、受け止めてくれた。
そして…僕はアイを胸に抱いて目を瞑った。
夢みたいだ。まったく覚えていないと思った。あのきれいな人と今は仲良くなって、僕を忘れていると思った。
なのに、アイは思い出せない僕を待って、貞操を守っていたなんて。
それを聞いて止められるわけが無い。
だってこんなに愛しているんだから。
また一つになれたね、アイ。大好きだよ…
「少し前、僕はアイに助けられたんだ。覚えてる?」
「えっ?少し前って、あれかな。守らなきゃって思ってジョブで大切な人を守ってって。魔力を飛ばした。それのこと?」
「大切な人を守ってって?」
「うん、そう願って…発動した。それがイリィのもとに届いたんだね、良かった。助けられたのかな、僕は大切な人を」
僕は胸が熱くなった。そんな風に。
「どうして分かったの?」
「夢だと思ったんだけど…なんとなく、かな。胸がざわついて…守らなきゃって。具体的に何かってことじゃなくて。感じた?助けを呼ぶ声が」
「届いたんだ…僕が呼んだ声が。アイ、助けてって思わず言ったんだ」
「声が聞こえたような気がしたのは気のせいじゃなかったんだね。他にも聞こえた…イル、もう一度会いたかったって声とアイル、最後に会いたかったって声」
アイは僕の頬を撫でながらそう言う。
「助けたい人、一番はイリィだけど…きっと他にも助けたい人がいたんだよね」
やっぱり記憶をなくしても、アイはアイのままだ。
この部屋にもたくさんの光が溢れている。きっと妖精や精霊だ。
「アイはやっぱりアイだね」
「ねぇ、イリィ…その小指」
僕の左手を見て言う。そうか、アイは僕と結婚したことも忘れてるんだ。
「蔦模様…伸びた?」
「あ、ほんとだ。アイにあって伸びた」
僕はアイの耳を見る。僕の髪の毛で作ったピアスがない。手で触れる。
アイは僕を見て
「そのピアスとネックレス。僕とお揃いだよね?」
「アイはピアスを…」
するとさわりと魔力が動いてピアスとネックレス、おへそのアクセサリーに指輪も見えた。
「隠蔽?」
「うん、手触りも誤魔化してる。だってたくさんついてて。それにこの淡い金髪は誰にも見せたくなくて。僕だけのものだから」
僕は何て言っていいか分からず、泣いてしまった。
「イリィ…隠してるの嫌だった?」
僕は首を振る。
「理由が分かったからいいよ」
「だってこんなにきれいな色、みんな好きなってしまうから…僕だけのものにしたくて」
僕はアイを抱きしめて
「ならいいよ。でも一緒にいる時は見せて…アイに僕の髪が触れてるのを見たいから」
頬を染めて頷くアイ。僕の腕の中にアイがいる。それを噛み締めた。
時系列整理
1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層
ラルクたちが迷宮に潜る 9階層
1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う
コムギと再会する 42階層
ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前
ハクたち 37階層終わり
1月22日 イーリスがゼクスに到着
迷宮4日目 アイルたち39階層に到着
ハクたち38階層で休む
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く
迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始
アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう
アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう
1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される
1月28日 イーリスが目覚める




