391.地上へ帰還からの…
その日はロキにそれぞれが自分からの視点で話をした。僕はビクトルに指示されるまま話したよ。
空気銃とか空気飛行機とか、魔力の放出やディシー、シルフィとの出会い、サフィアの呪い解呪は厳禁だって。だから必死で記憶が曖昧とか、トムとジェリーの頑張りとか、諸々ね?話を盛りつつ。
ナビィが空を翔けるのも言っちゃダメって。
聞き取りは人間だけだったから良かったよ。ナビィに聞いたら自慢気にナビィは空を翔けるって言いそうだからね。
ナリスたちとの話も合わせて今の所は問題なし、と判断されたみたい。
40階層で雲が上下する理由は分からないって言った。人外の何か?かも。とは伝えたけど。
だってシルフィは精霊だし?聖なるものががんばったのかな?ってね。
納得してたよ。お風呂に入らなければ、シルフィは儚くてきれいで。名乗る時は威厳もあってね。
ごまかせる。
ギルドから調査員が来るまではこの辺りで待機か…。僕はロキたちには悪いけど秘密が多いからね?
シンラたちと行動するからと、迷宮の入り口付近から離れて少し奥に入った。
そこは洞窟で、シンラたちの縄張り。
迷宮のせいで居心地が悪くなってて、困ってたからきれいに整えたよ!
ついでにゴールデンピーチとかゴールデンアップルの種を植えて聖水をかけたら若木になった。ふふっ、これで食べ物には困らないな。
もうついでだし、近くに穴を掘って聖水を湧き出させた。正しくは僕の無限に聖水が湧く水筒からの自動転移だけど。
「これなら便利だよね?後は縄張りの入り口に簡単な結界も付けるよ!変な人が入ってこれないようにね!」
『アイル殿…ありがとう。一つ頼みがある。この子たちを連れて行ってはくれまいか?外の景色を見せたいのだ。いつか郷に戻りたいと願ったら返して欲しい。頼まれてくれぬか…』
そのにはまだ若そうな4頭の子たち。しっぽが緊張気味に揺れる。
あ、この子たちはナリス、テオ、ラルクと一緒にいた子か。後の子はまだ本当に小さい。
「もちろんだよ!ねぇ、僕じゃない人のそばでも構わない?」
シンラはしっぽを緩く振ると
『出来ればそなたのそばが良いが、それも定めか。お主に全て委ねる。良きに計らってくれ』
「分かった。別行動になる時に意思を確認するよ!名前は?」
『お主が付けてくれ』
「相談して決める」
シンラは安心して去って行った。といっても僕も近くに家を出してしばらくはまったりするけどね。
「えっと名前は少し待ってな?相談して決めるから、仮でリス、テト、ルク、イラって呼ぶから」
イラはライラからね。
みんな緩くしっぽを振る。こちらの話は理解出来てるみたいだ。良かった。
家に案内してハク、ブラン、ナビィ、コムギとビクトルにバクセル、トムとジェリーとサフィアにシルフィを紹介する。
みんな匂いを嗅いだり鼻鼻あいさつしてたよ。
ナリスたちは他の探索者と麓近くで過ごす。僕はシルフィも含めてこっちに家を出して過ごす。明日にでも狼たちのこと、相談しよう。
しばらく僕もゆっくりしたいからね。
そうそう、シルフィは人目に晒さない方がいいとロキに言われたんだ。だから僕と一緒。
「その、精霊様はあまりにもおきれいで…」
やっぱりそうなんだ?気をつけよう。僕ってば凡人だしね。
守るなら目立たないのが1番だ。
「シルフィはもうナリスたちと寝なくていいの?」
「充分…アイルがいいし」
諦めてないのな?
「僕は無理だから…」
コクリと頷くと
「分かってる…それでも、アイルのそばがいい」
なんか、元気ない?
「シルフィ、もしかして調子悪い?迷宮から出たからかな」
「長く囚われてたから、魔力が迷宮に引きづられて…気分が…」
僕は驚いた。そんなこと言わなかった。いや、言えなかったか。
「そうか、気が付かなくてごめん。時間が経ったら解決する?」
「多分…でもアイルのそばにいたい」
これは仕方ない。
「うん、いいよ。おいで」
手を広げればぽすりと腕に収まる。本当に華奢だ。その体を抱きしめる。首元に顔を埋めるとさらにぎゅっと抱き付いて来た。背中をトントンするとそのまま力を抜いて目を瞑る。少し後で寝息が聞こえた。
魔力に依存する精霊にとっては、魔力が乱れるのは辛いんだろうな。経験が無いから分からないけど。その背中を優しくさすりながら僕も目を閉じた。
そろそろお昼ご飯かなって頃にシルフィが目を覚ます。
「少し良くなった?」
頷く。
「お昼ご飯作るから待っててな」
「一緒に行く」
付いて来た。ご飯を作る僕を後ろから抱きしめる。そんなに辛いのかな。振り返って頭を撫でて、また作る。
今日はラザニア。前に作ったことがある。前は前の世界。何故かパスタマシンがあったんだ。元僕、グッジョブだ。それで小麦粉で板状のパスタを作って、オークの挽肉でミートソース。ホワイトソースと交互に重ねてたっぷりのチーズを掛けて焼いたら…熱々のラザニアの出来上がり。
デュラムセモリナ粉欲しいなと思いつつ、今はこれで良しとしよう。
振り返ってシルフィに
「食べよう?」
コクンと頷く。僕の近くを離れないまま、椅子に座る。もちろん隣に。体が触れるくらい近いね。
「そばにいたら楽になる」
なら仕方ないか。
「熱いから気を付けてな!」
と言ったのにそのままパクリと食べようとしたからあわてて止めた。
小さく掬ってふうふうしてから食べさせる。
パクリッ…
「!!」
もぐもぐしてから
「アイル、凄く美味しい…」
「良かった。熱いからゆっくりだよ?」
ジッと僕を見る。仕方ないな。そのまま食べさせたよ。だってさ、弱ってる美形ってズルいよね。しかも上目遣いとかさ。
食べ終わるとまた僕にしがみ付いてうとうとしていた。
しばらくはシルフィと寝るかな、と考えていた。でもナビィがなぁ。困った。
*****
俺は探索者のバグスだ。えー近況報告だな。
俺たちは迷宮が出来たかもしれないって事で調査と救出の緊急依頼を受けた。
そしてやって来た場所にはやっぱり迷宮があった。新規の迷宮だ。依頼を受けた探索者は不明。
多分、迷宮の中だろう。だってな、狼が馬を守ってるたんだぜ?意味わからねぇ。だから迷宮に俺たちも入ることにした。
しかし、探索の途中でギルド職員が罠に飛ばされた。俺たちは転移陣で地上に戻ったが、一旦待機したんだ。
しかし、翌日になっても職員は戻らず。
次の階層を見て進むか判断しようと決めて、転移陣で20階層に飛んだが、ありぁ無理だ。マグマだ。
仕方なくまた待機をしていた。
しばらく待って誰もが戻らなきゃ町に戻ってギルドに報告して、と思っていた。
そしたら翌日、先に行方不明になってた探索者3人が無事に帰還した。なのにもふもふとアイルは戻らねぇ。
もちろん詰め寄ったさ、置いて来たのかって。
そしたら無事だと。翌朝迎えに行くから大丈夫だって言うじゃないか。
ほんとかよ?と思ったけどな、彼らはまったく普通でよ。ケガもしてなければ顔も艶々。いい香りまでする。
なら信じて一日待つかってな。
翌朝、40階層に、いやそんなに深くにいたのかって思ったけどな、迎えに行ったんだ。いたぜ?本当に。
しかもロキもだ。あ、ロキってのは飛ばされたギルド職員な。しかも何やら楽しそうじゃねぇか。肩透かしだ。
信じられねぇが、確かにアイルは元気そうで、そしてあのロキも無事で一緒に帰って来た。
しかもよ、迎えに行って驚いたのなんの。本当に空の階層だったから。
分かるか?空だぞ空。雲がぷかぷか浮いててな。
いや、良くこんな階層を抜けられたよ。飛獣が2頭に沢山の狼たち。戦力としては充分だったのが幸いか。
ロキはなんと雪原に飛ばされて、危うく氷漬けになる所を、アイルのペットに助けられたとか。
なんだそれ?迷宮の階層を進むペット、謎だ。
しかし、そのふかふかな胸毛を見て思った。そう、もふもふは正義だと。
大きなネズミの胸毛はみっちりと毛が詰まっていて見るからにふかふかだ。
うん、有りだな!そう結論付けた。
アイルも全くいつも通り、白と黒のもふもふももちろん、元気にしっぽを振っていた。可愛い。全て問題なしだ。
いや、敢えて言うなら一つ問題がある。
あのロキが変わった。表情筋の職務放棄が甚だしかったが、ついに仕事熱心な姿を見せた。柔らかな表情で時々笑う。
俺は思わず2度見した。しかも、照れて微笑んだり口を開けて笑ったり。
お、おう…笑えるんだな。少し目が離せなかったのは秘密だ。あんなに可愛い顔をするとはな。
これはまた良からぬ輩が湧くな、と思ったが大丈夫だった。表情筋はアイルの前でしか仕事をしない。分かりやすく、だ。ならばいいのか?
あのロキがアイルに微笑む。アイルの頬を撫で顔を赤くする。いいのか?アイルはまだ子供だ。いや、ロキだって充分若いがそういう問題じゃ無い。アイルは未成年だ。
気を付けて見ていないとな。そう思った。
それにしたってな、ロキは死にかけたのに何故かツヤツヤだ。肌もぷるぷるで頬は色付き、唇も赤い。いい匂いまでする。
ナリスたちもだ。これは何かあると思うが、詮索するほどヤボでは無いぞ。
この迷宮の詳しい構成はギルドの発表待ちだが、あのマグマの階層は注意が必要だ。それにロキみたいに深層(多分)に飛ばされることもある。
俺たちも調査への同行を依頼され、了承した。問題はアイルか、狼たちと過ごすと言ってももふもふごと奥に入ってしまった。素直とは言え、やはり難しい年頃だ。
しばらく1人にさせてやろう。
ナリスたちもロキも慌てていたが、男子たるもの、1人になりたい時もある。そっと見守るのが親の、親じゃないがな、まぁ大人の務めだ。俺はそう思うぞ。
ただ、時々はもふもふを連れて来て欲しいがな?
ようやく迷宮探索が終わりました…
時系列整理
1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層
ラルクたちが迷宮に潜る 9階層
1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う
コムギと再会する 42階層
ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前
ハクたち 37階層終わり
1月22日 イーリスがゼクスに到着
迷宮4日目 アイルたち39階層に到着
ハクたち38階層で休む
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く
迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始
アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう 5階層で仮眠
アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう
39階層に戻り休む
1月24日
ロキたちは迷宮10階層に到達、転移陣で地上へ
迷宮6回目 40階層でひたすら採取
1月25日
ロキは19階層で罠に飛ばされる
バグスたちは迷宮20階層に到達、転移陣で地上へ
迷宮7日目 またしても採取
1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される
迷宮8日目 40階層到着 転移陣でナリスと狼は地上へ
アイルはサフィアが助けたロキを保護する
1月27日 迷宮9回目 全員が地上に帰還




