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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第7章 新しい迷宮

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389.ロキとアイルと

 僕はお粥を作ることにした。ここの台所は小さいけど、食材は豊富だから。


 作り終えるとサフィアから話を聞く。

 どうやら罠にかかって誰かが飛ばされたのが分かったんだって。さすが元ボス。で、探しに行ったら42階層の階段近くで彼が倒れていたと。

 もうすぐ夜だったから動くのは危険と判断して、階段まで運んで寝たんだとか。大きくなってすっぽりとその人に覆い被さって。


 その絵面を想像して羨ましいのか怪しいのか悩んでしまった。起きて目の前に圧倒的な胸毛と大きなネズミがいたら…想像してちょっと怖かったのは内緒だ。



 そして朝が来ても彼は目覚めず、急いで僕の元に来ようとして僕が見つけたと。せめてトムかジェリーを寄越してくれたらいいのに。

 えっ?子供たちだけでは危険?まぁそれは分かるな。仕方ない。

 とそんな話しだった。


 お粥が出来た頃

『起きた!』

 トムが知らせに来た。僕は居間に向かうと困惑した顔の職員さん、確か名前はロキさんがいた。

 僕を見ると目を開き

「アイル、無事だったか?良かった…」

 こんな時ですら真っ先に僕を心配するロキさんにじーんとしてしまった。


「僕たちを探しに?」

 頷くと少し咳き込む。その背中をさする。

「ご飯作ったよ、少しでも食べられそう?食べたら薬もあるから」

 辛そうだけど頷いた。僕はその体を起こすと台所にお粥をとりに戻る。それからふかふかの室内ばきも持って。


「足が冷えてるから」

 室内ばきを履かせるとお粥をお皿に取り分けた。スプーンを持とうとしても力が入らないみたいだ。だから隣に座ってお粥をスプーンで掬うと

「はい、口開けて…」

 ロキさんは恥ずかしそうに口を開ける。その小さな口にお粥を流し込むとロキさんは軽く噛んで飲み込んだ。


「美味しい…」

「良かった、温まるし消化もいいから体の負担にならない」

 そうしてまたスプーンで掬う。ロキさんは大人しく口を開けて食べる。少しずつ顔の赤みが落ち着いて、呼吸も安定した。作った分は食べ切れた。良かった。

「ありがとう…とても美味しかった」

「ワイバーンの肉も入ってるからね、エネルギーになる」

 一瞬固まったロキさんだけど頷いた。


 僕は安堵した。そして薬を渡す。()()()風邪薬だ。侵入した菌を追跡して死滅させるという。どこが普通なのかもはや自分でも分からない。というか、元僕はなんでこんな薬作ったんだろう。

 ロキさんが薬を受け取ったので、聖水を入れたコップを渡すと躊躇なく飲んだ。


 あれ?何かしら確認とかしなくていいの…?

「この状態では僕は無抵抗…何をされても抗えないから」

 えっと何もしないよ?

「何もしないよ?いや、するけど…回復するためのあれこれだけね」

 ロキさんは驚いてからふっと笑った。ぎこちないその微笑みは、それでもロキさんの精一杯だと分かった。

 あぁこの人も不器用だ。


 ん…もって?また分からない。でもきっとそんな人が近くにいたんだろうな。

「お水たくさん飲んで?聖水だから体にいいよ!」

 あれ、大丈夫かな?また固まった。けどすぐに頷いてくれた。


 おでこに手を当てる。まだ熱いか。お風呂は無理そうだな。でも体が冷えてるなら温まった方がいい?

(ビクトル、聞こえる?)

(聞こえるよ!)

(彼の状態は?お風呂で体を温めたほうがいい?)

(体が冷えてるね。薬の効果は寝てからだから、温めた方がいい)

(入った後に体を冷やさなければ?)

(そうだね)


「ロキさん、あの…」

 真っ直ぐに僕を見つめて

「ロキでいい。ここはどこの町?」

 町?あ、そうか。まさか迷宮に家があるとか思わないか。

『まだ迷宮だよー』

 ロキの後ろで小さくなってたナビィが話しかける。あちゃーやったか。ただのペットに見せかけてたのに。

「喋った…」

 そうなるよね。

『私はアイリの…家族で黒曜犬なのーよろしくね!』

「家族…黒曜犬…?えっ…えぇ?」

 ふらりとロキが倒れた。


 僕はナビィを撫でながら叱っている。

「ナビィ、驚かせちゃダメだよ?せっかく安定したのに、倒れちゃっただろ?優しくな?物事には順番と程度があるんだから!」


『おい、ビクトル。主の口から順番と程度がという言葉が出たが?それを分かっていないのは主では無いのか?』

『アイルは基準が色々と突破してるだけで、本人的にはやり過ぎて無いんだよ…一応』

『なるほど』


 そんな会話がされてることは知らないアイルはコンコンとナビィを説教していた。もっとも倒れたロキの頭を膝に置いてそこに寄り添うナビィを撫でながら。

 いや、むしろご褒美では?と思ったディシーだった。ナビィのしっぽが寝ている人の太ももをバシバシ叩いていたから。



 ロキが目を覚ました。僕の膝の上で。

「ロキ、大丈夫?」

 ロキは何度か瞬きをして状況に気がつくとあわてて起きようとした。僕は手伝って体を起こす。

「ごめんな…ナビィが。驚いたろ?詳しい話はまたするから、とにかくお風呂に入ろう」

 頷き掛けて

「お風呂?」

 頷く。

「使い方教えつつ僕も入るよ!」

『ナビィも!』

『僕も!』

 はいはい、みんなで入ろうな。


 ロキは探索用の服しかないというので、夜用のシャツとズボンを渡した。手触りのいい布だ。

 それで脱衣室に支えながら連れて行き、服を脱がす。嫌がることなく脱がされるロキ。細いのに凄い筋肉だった。

 思わず触るとビクッとしたから

「ごめん…凄い鍛えてるんだね。カッコいい」

 そう言って僕も服を脱いだ。


 その時、ロキが真っ赤になってたことをアイルは気が付かなかった。


 ロキの手を引いて浴室に入る。そこの椅子に座らせるとシャワーっとお湯をかける。それから髪の毛と体を洗った。

 自分でやる?と聞いても

「いつも洗浄するだけだから」

 とやり方が分からないと言われ、結局手伝った。


 だから立ち上がらなくて大丈夫。見えなくても洗えるから。えっ?見るか触らないと洗えない?洗えるよ!

 ほらよく見てって、だから…はぁ。

 なんかシルフィを思い出す。僕はなぜ男性のソレを手にそっと洗ってるのだろうか?遠い目をしてしまった。


 触ってるしと思ってなるべく見ないようにしたら

「ちゃんと洗えてるか見て?」

 って。触ったらいいんじゃないの?強い力でしっかりと確認させられたよ。うん、立派なって違う、そうじゃない。はぁ疲れた。

「洗うの手伝う…」

 その申し出は体調が悪いんだからと全力で断った。


 そうしてささっと自分は髪と体を洗ってロキとお湯に浸かる。うん、気持ちいいね。

 何故か正面にロキが座り、僕の顔を見ている。普通は横並びでは?

「本当に、無事で良かった…」

 様子の分からない新しい迷宮に探しに来てくれたんだよな。それはとても有難い。たとえ仕事だとしても。


「探しに来てくれてありがとう、ロキ」

 ロキは驚いてから少し恥ずかしそうに俯く。

「助けられたのは僕の方」

「それはただの結果だよ、僕は凄く嬉しかったから」

 ロキは僕の頬に手を添えると

「アイルは不思議だ…僕を変な目で見ないし。とても居心地が良い」

「変な目?もちろんそんな風に見てないよ」

 だって表情はあまりないけど、心配してくれたし。探しに来てくれたし、無事を喜んでくれた。

 ちょっと偏屈に見えるから、そういう目で見られてるのかな。


 実際はその見た目の可愛らしさで変な人に追われたり、女性探索者に後を付けられたりしていたのだが。もちろん、偏屈なのでそういう目で見られるという意味もあったが大半は狙われる方の意味だ。


 ロキはふっと微笑んで軽く抱きしめて来た。僕もそっとその背中に手をやる。やっぱり、少しのぼせてる。

「ロキ、出よう」

 素直に頷いて手を出す。僕はその手を握るとお湯から上がった。

 魔法で水分を飛ばして髪の毛も乾かす。服を着るのを手伝うと

「柔らかい…」

「でしょ?良く寝れるよ」

 服を着たら台所でフルーツ牛乳を渡す。ゴクゴクと飲むロキと僕。もちろんハクたちにもあげたよ。みんなお風呂では大人しくしてたからな。偉いぞ!


「ロキ、ここの家は狭くて…ベットが一つしか無いから使って。寒く無いようにナビィも一緒だよ」

 ロキは驚いてから

「いや、僕がソファで」

「ダメだよ?体調悪いんだからベットでちゃんと寝て!」

 ロキは目を彷徨わせると

「なら、アイルも一緒に…」


 やっぱり弱ってる時は人がそばにいたら安心なのかな。僕はハクたちがいるから分からないけど。

「分かった。じゃあみんな一緒に寝よう。ふかふかのもふもふであったかいよ!」


 こうして狭いベットでぎゅうぎゅうになって横になった。目の前にロキの顔がある。

「狭くてごめんね?でもあったかいでしょ?」

 ロキはまだ顔が赤いけど大丈夫かな?おでこを合わせる。熱いけどこれぐらいならなんとか、かな。


「な、な、な…」

 ロキは慌てていた。どうしたんだろ?

「大丈夫だから、目を瞑って…」

 僕はロキの細い髪をそっと撫でて頬にキスをすると、僕も目を瞑った。ぎゅうぎゅうだけど温かい。そんなことを思いながら、背中に回されたロキの少し高い体温を感じて…そしてすぐに寝た。



*****



 私は信じられない気持ちで目の前で目を瞑るアイルを見ていた。

 ローブに隠されていた彼の髪と目は銀色だった。聖なる色、とてもきれいな銀。吸い込まれそうなほど澄んだ目は虹彩の縁が青。なんときれいな目だ。

 彼は自ら食事を作り食べさせてくれた。恥ずかしいが嬉しい。あまりにも居心地が良かったので当然、どこかの町だと思った。するとまさかまだ迷宮だと言う。

 迷宮なのに家?温かい食事…。しかもワイバーンの肉入り。いったいどれだけの価値が?

 しかもあの黒い犬は黒曜犬で喋った…?伝説の黒曜犬、意思疎通が出来る、ふらっ…僕はそこで意識が飛んだ。


 次に目が覚めると何やら柔らかな感触が後頭部にあった。目を開けると上からアイルが僕を見ている。

 これは…慌てて体を起こすと、やはり。

 僕はアイルの膝枕で寝ていたのだ。体がカッと熱くなる。

 心配そうに僕を見るアイルは真っ直ぐで、何の欲も伺えない。

 そしてその後はお風呂に入れてくれた。迷宮なのにお風呂?もう考えることを放棄した。アイルの体は細くて小さくて、良く鍛えられてると言われて誇らしかった。


 変な目で見られていない。いや、むしろ見ないようにしている。嫌がってるのではない、なら照れてる?そう考えたら愛しさが溢れて来た。

 髪の毛をあげておでこが見えるアイルは少し大人びて見える。


 風呂から上がると僕にベットを譲り、自分はソファで寝ると言う。それならいっそ…。

「分かった。じゃあみんな一緒に寝よう。ふかふかのもふもふであったかいよ!」

 嬉しかった。ベットは狭くてぎゅうぎゅうだけど、その分アイルに近づけた。僕の髪の毛を撫でる手は優しくて、頬にキスをされて体温が上がる。こんなに近くに人がいて安心出来るなんて。


 ギルドで働き始めてから使ったことのない僕、なんて言葉が口をつくくらい。僕はアイルに気持ちを委ねていた。

 良い夢を…そう呟いてそっとキスをした。それは、柔らかくて温かな唇だった。




時系列整理

1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く


1月2日 麓の村をナリスと出発


1月6日 ロルフがフィーヤ着

アイルが町レイニアに着く。馬車を買う


1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着

アイルが布を仕入れて町を出発

ライラたちが襲われる

ゼクスと王都にロルフから手紙が届く


1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発

魔術師団がゼクスに出発


1月9日 アイルがハク、ブランと再会


1月10日 ミュジークと捕虜を解放

アイルが村が救う


1月11日 魔術師団がゼクスに到着

近衛騎士たちが村を出発

アイルたちが村を出発

 

1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発


1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着


1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする


1月18日 ロルフたちがフィフスに到着

アイルが川蛇の依頼を受ける


1月19日 ロルフたちがゼクスに到着

アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける

アイルたちが迷宮を発見する

アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層

ラルクたちが迷宮に潜る 9階層


1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う

コムギと再会する 42階層

ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層


1月21日 ロルフたちが死の森に行く

イーリスたちがアレ・フィフスに到着

迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前

ハクたち 37階層終わり


1月22日 イーリスがゼクスに到着

迷宮4日目 アイルたち39階層に到着

ハクたち38階層で休む


1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く

迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始

アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう 5階層で仮眠

アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう

39階層に戻り休む


1月24日

ロキたちは迷宮10階層に到達、転移陣で地上へ

迷宮6回目 40階層でひたすら採取


1月25日

ロキは19階層で罠に飛ばされる

バグスたちは迷宮20階層に到達、転移陣で地上へ 

迷宮7日目 またしても採取


1月26日 イーリスたちが王都付近で襲撃される

迷宮8日目 40階層到着 転移陣でナリスと狼は地上へ

アイルはサフィアが助けたロキを保護する


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