383.その頃、バナパルトでは…
その頃バナパルト王国では…
総勢14名…なんでこんなことになった。僕はため息を吐く。
僕たちはゼクスを出発したその日のうちに、森人の隠れ里に着いた。と言うか、街道近くで待っててくれた。
イザークが声をかける。
「テト、託されたペンダントは渡せなかった。アルテノは?」
「お待ちになっている」
「馬車は」
「そのまま来い」
テトと呼ばれた森人について行く。馬車のまま通れる道を進み、やがて里に着いた。
全員である屋敷に入る。そして、その部屋には…目を瞑ったおばばがいた。やっぱり。
僕は駆け寄るとおばばに抱きついた。
「おばば!」
「良く来たの…イーリス。さぁ顔を見せてご覧。あぁいい顔になった。良き出会いがあったのだな…出会えるとは思わなんだが」
最後は震えるような声で言う。
そう、昔々…おばばが話してくれた魂の番。出会える筈のない番。おばばがどうしてその話を僕にしたのかはわからない。でも僕は出会えた。
おばばは森人の巫女として生きて来た。お父様の家計なんだとか。
ゼクスより少し南の隠れ里に住んでいたおばばは、僕が生まれてから時々訪ねて来た。
魂の番の話はいつ頃聞いたのか、多分5才くらい。もう僕の人生は18才までと分かっていた頃。
おばばは何処まで分かっていたのかな。
「ほっほっほっ.秘密じゃな。巫女にも掟があっての。イーリスや、その心が曇っておるのはアイルかな?」
「おばば…その前に祈りをありがとう。アイルは持ち堪えたよ。でも…」
「なんのなんの、生命樹の願いじゃ。それに可愛い子孫のためでもあったしの。役に立てて僥倖じゃ」
「倒れたのでは?長いこと儀式をしたのでしょ…」
僕はおばばを見る。いつ見ても若々しく美しい。その人に見えるものは見えず、人に見えないものが視える目は開かれていた。
視ている…僕を。もしかすると僕の未来を。
その目が優しく細まる。
「イーリスとアイルの絆は離れてなお堅固であるな。案ずるな…例え記憶がなくとも、あの子はあの子のまま。イリィを想っている。心を強く持て。イーリス、絆は時に試されるが…運命を乗り越えて出会った番じゃ。決して離すで無いぞ」
アイは記憶が無いのに?僕を、イリィを覚えているの…?いや、きっと覚えては無いんだ。でも僕を想っている。湧き上がるような歓喜が心を満たす。
「もちろん、僕はアイと共に…この心はもう離れられないよ」
おばばは満足そうに僕の頬を撫でるとおでこにキスをした。僕もおばばの頬にキスをして離れた。
僕と変わるようにベル兄様がオババの前に出る。
「リベールも息災か?まだ誰とも結ばれておらんのか…難儀であるな、そなたも」
そう言って兄様を抱きしめる。兄様もおばばをギュッと抱きしめた。
「僕はまぁ自分の気持ちに素直なだけだから…」
「そこはイーリスとアイルと良く話をしなされ。イーリスにはアイルが必要じゃ」
兄様は切なそうな顔をして、でも
「うん」
と答えた。その後に小声で話をして、離れ際にキスをした。
なんか背後から色々な視線を感じたからね。
振り返ると珍しくあのイザークが驚きに固まってた、飄々としているフェリクス様も驚いていた。
スーザンとリアは興味深げにこちらを見ていて、ロルフは淡々とした顔だけどアイの話を聞いて僅かに頬が上気している。
ハウラは完全にこの場に興味深々で部屋を見渡しておばばを見てテトさんやメルラさんを見ている。
サリナスは楽しげにブラッドは静かに、しかし明らかにわくわくとした顔をしていた。
そしてエリアスとイグニス様にグライオール様。まじまじとおばばを見ていた。
「そ、その…イーリスとアルテノは?」
イザークが声を上げた。
「孫のまた孫の…孫?」
分からなくなっておばばを見る。
「子孫じゃ。テトとイーリスの父親も親戚じゃな。遠すぎて分からんが…親戚なのは間違いない」
「そうか…アルテノ。預かったペンダントは渡せなかった」
イザークがおばばに話しかける。
ラルフ様の救出の時、おばばと会ってアイにペンダントを託されたとイザークからは聞いていた。
見せて貰ったそれは森人の巫女による守護のペンダント。単なる攻撃とかではなく、さまざまなものから持ち主を守る。過去には王族がその守護のペンダント欲しさに森人の巫女を拉致したことすらあると言う。
それをアイに託したおばば。それほどアイが重要なのだ。それは僕にとってではなく、生命樹を守る一族としての。
生命樹の大元である神聖国の世界樹、その精霊であるユーグ様の愛し子。それ程までに大切な存在ということだ。
それでもきっとアイはそうなんだね、としか言わなさそうだ。自分は本当に普通だって思ってるから。ほんと何処までも無自覚なんだから。
イザークがそのペンダントをおばばに返そうとすると
「少しは役にたったであろう?そこにあるだけで」
どういう意味?
「あぁ、アイルの名を忘れそうになった時に、ペンダントのお陰で忘れずに済んだ」
おばばは軽く笑うと
「ならば良い。それはイーリスに託そう」
僕はイザークから受け取った。おばばの強い思念が感じられた。
「子孫の為に、アイルの為に同行する主たちにもお土産を渡さねばな。テト、これへ」
「はい」
テトさんが持って来た箱には沢山のお守り。森人の巫女が作る守護が入っていた。
「イーリスはこれじゃな…」
手渡してくれたのは銀色の透ける葉で出来たペンダント。これはまさか?
「ほっほ。生命樹の葉じゃな…守護には最適じゃ。アイルのは世界樹じゃがな?ユーグ様に託された」
全くもう、アイはこんな時でもやっぱりアイだ。僕は少しおかしくなった。
おばばが優しい顔で見ていて恥ずかしくなった。
「そんな顔をするようになったのだな…良きや」
頭を撫でるおばばの手が優しくて、思わず抱きついてしまった。
少しして離れる。優しく頬を撫でるとキスをしてくれた。おばばは
「これはそこの貴族の子に」
一つを手に取って僕に渡す。僕は一見すると淡々としながらも、そわそわしていたロルフを呼ぶ。
ロルフは上品にかつ素早くおばばの正面に来ると、その手を優雅に取ってそっと唇を寄せた。触れてはいない寸止めだ。凄い、完璧。
「お初にお目にかかる。森人の巫女よ…私はロルフリート。アイルの為の祈り、ありがとう」
そう言って顔を上げた。真っ直ぐにオババを見る。
「良き目をしてある。汚れなき魂…見事じゃ」
目を開けたおばばを見てもロルフはいつも通り。
「光栄…それは生命樹の一葉…素晴らしい」
おばばは微笑むと
「流石じゃな。貰っておくれ」
ロルフは僕の手からペンダントを受け取ると
「素敵な贈り物…お礼はアイルをここへ」
「それはまた最高のお礼じゃな。待っておる」
おばばはそう言うとロルフの手を引き、抱き寄せるとキスをした。ロルフは驚きながらも受け止め、おばばを軽く抱きしめる。
「イーリスを頼む」
「確かに…」
その後もスーザンとリア、そしてサリナスとブラッドにも守護のペンダントが贈られた。
それはもうみんな恐縮していた。サリナスだけはおばばをとても興味深く見ていたよ。
そしてエリアスを見たおばばは
「そなたも難儀な星の元に…。しかし良く耐えたの。良き面じゃ。どれ、こちらにおいで」
エリアスはおばばの前に跪く。おばばは優しくその体を撫でる。
「ほぉ、辛い記憶も手放したくないと?」
「アイルが…誇りに思ってと言ってくれた。だからこれは私の大切な記憶。彼と私だけが知っている。それでいい」
「やり直せるであろうに。それで良いのか?」
「イズワットの愛は生涯ただ1人にだけ注がれる。深く激しい…私はアイルだけを…」
「そうであるか…ならば良き」
おばばはエリアスにキスをしてペンダントを掛けた。
それから後ろにいたイグニス様とグライオール様を見ると
「なかなか豪華な客人じゃな…」
と笑った。
「我の失態じゃ…後始末をせねば」
「あれは致し方ないかと…しかし、それも良きですかの。今宵はゆるりと話をしましょうぞ。大地神殿もおります故な」
「よしなに…」
その日は結局、郷を案内して貰ったりして休むことにした。
僕は兄様とロルフ、エリアスに神様たちとおばばの屋敷に泊まったよ。
そして翌日、やたらと眠そうなサリナスと平然としているブラッド。いつもと違って少し目が赤いフェリクス様とイザークにハウラと兄様、いつも通りベタベタのスーザンとリアで郷を出発した。
ナニがあったかは聞かない。でも隠れ里は出会いが少ないからね…年頃の男性たちがたくさん来た。
郷にはやはり適齢期の森人が10人近くいた。ここには生命樹がある。
絶やしたくない種族。ナニがあったかは明白だろう。きっとサリナスはとっかえひっかえしたんだろうな…。
そう言う場を求める森人は少なくないから。森人はみんな美形だし。
僕やロルフにエリアス、スーザンとリアは普通に寝たけど…兄様はきっとおばばに説得されて誰かの元に行ったのだろう。
こうして里を出て南へと向かった。
時系列整理
1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層
ラルクたちが迷宮に潜る 9階層
1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う
コムギと再会する 42階層
ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前
ハクたち 37階層終わり
1月22日 イーリスがゼクスに到着
迷宮4日目 アイルたち39階層に到着
ハクたち38階層で休む
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発 森人の隠れ里にに着く
迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始
アイル捜索隊がロイカナの町を出発し、迷宮に向かう
アイルたち39階層でハクたちと合流し40階層に向かう




