379.その頃のアイルと
さてと、今日の朝食は何にしようかなぁ。んーパンも少し飽きた。あ、アレにしよう!
お米を取り出して洗ってから水につけて野菜とワイバーンのお肉も入れる。出汁を少々…これでコトコトせずに時短でね。
鍋の蓋を開ける。もわぁ…うわ、いい匂い。
『ゴクリ…』
振り返ると全員集合していた。
「いい匂い…」
『ぐぅ…』
サファイアのお腹は盛大に鳴ったね?
「もう出来たから、座って待っててな!」
各自のお皿に盛って、残りは鍋ごと机に置く。もっともシルフィ以外は僕がおかわりをよそうんだけどね。
さて、頂きます。
ふうふう、いい匂いだ。ぱくっ…はふっひ。はふっ…ごくん。あー美味しい。朝のお粥は味も優しい。
ふうふうぱくっ、あふいけどおいひい…ごくん。
ふぁ、なんか生き返る。
『バクバク』
『ガツガツ』
『パクパク』
「もぐもぐ…」
みんな無言で食べてる。
「味、大丈夫?薄めにしてるけど」
『美味しい!』
『パパ、すごく美味しい』
『美味いぞ』
『うんおいしー』
『おいしー』
「もぐもぐ…」
シルフィは一心不乱に食べてるな。良かった。
みんなに言われるままおかわりをついで、大鍋にたっぷりあったお粥は完売したよ。
すぐ満腹になるのにね?ま、お腹もすぐ空くけど。この温かさと柔らかさがね。沁みるんだ。
海苔が欲しい。この国を南まで進んだら海かな?行きたいな…海。海鮮丼食べたい。
いつか、そうイリィと再会出来たら…一緒に海を見たいな。
考え込んでいたら
『アイリー!どうしたの?』
ナビィ…その垂れ耳を撫でる。
「うん、海が見たいなって思って。美味しい魚も食べたいなってさ」
『一緒に行こう!』
ナビィは何も考えてなさそうで、色々と考えてて…でもやっぱり深くは考えてない。なのに、僕の気持ちに的確に寄り添って、欲しい言葉をくれる。
「そうだね、ナビィ…一緒に行こう!」
ささっと片付けをして出発だ。
みんなで家を出るとポーチにしまった。
「ねぇ、今日は雲に乗ろうよ!」
『いいね!』
『そうじゃな…我は適当に鳥を攻撃するぞ!』
『うん、お願いだよディシー』
その小さな頭を指で撫でる。チャロは頑張らなくていいぞ?
「僕も…雲のカケラを」
「うん、シルフィもよろしく!」
そっと頭を僕の方に向ける。あぁはいはい、そのサラサラな髪の毛を撫でる。
毛先にキスすると真っ赤になる。昨日はお風呂であんなに開放的だったのに、恥じらいのツボが分からない。
僕の頭にキスを落とすと雲に乗る。
僕はコムギを抱っこして雲に乗った。ナビィも続く。サファイアは身軽に飛び乗ってきた。ビクトルもチャロもいるな。トムとジェリーはサフィアの頭に乗ってる。小さくなってるとはいえ1メルはあるサフィア。安定感は抜群だ。
みんなが乗ると雲は勝手に動き出す。へー自動運転なんだ?面白い。
ディシーは早速そこら中を舞ってる。もちろん、攻撃を防いでるようだ。全方位から何かしらの攻撃が来る。それでも40階層よりは少ない。
僕も全方位に向けて魔力を少し放出する。
バリバリバリッ
『おい、見える範囲は全滅だぞ?』
てへっ…笑って誤魔化そう。
「試し撃ちしたら当たったみたいな?」
ディシーは剣なのに、器用に呆れたと言う雰囲気だ。顔すら無いのにな。
『アイリだしね!』
ナビィは通常運転だ。
これって上とかに移動出来るのかな?
「雲って上にも行けるの?」
するとスススーッと上昇した。えっ自動で上げ下げまで?
「凄い!」
キラキラと周りが煌めく。
『聖なるものたちがアイルの為に雲を押し上げてるんだ』
え?ほんと…。嬉しいな。
「みんなありがとー!」
僕が魔力を振り撒くとそれはカケラとなって降り注いだ。水じゃなくてもカケラになるんだ?凄い!
僕は魔力に薄い紫の色を付ける。薄い青、淡い金色、銀色、青、薄い緑…色付きの魔力を放出する。
『うわぁ…』
『きれい』
『凄いのー』
『あわわっ』
『美味しい…』
キラキラとカケラになった僕の魔力に光るものが触れる。すると大きくなったり人型になる。
たくさん召し上がれー。
僕が魔力を振り撒くのと合わせるようにシルフィが
「水よ…」
ぶわっと水が噴き上がる。その水と僕の魔力が混ざって一段と輝く。そのカケラに群がる聖なるものたち。沢山あるからね!僕はそのカケラを雲の周りに踊るように舞わせてからポーチに収納する。なにやら集めている子もいる。
チャロが沢山のカケラを抱えて来た。
「チャロ、ちょっと待ってな」
僕は銀でチャロ用の小さなブレスレットを作ってその手首に嵌める。
『これは?』
「空間拡張がされてるから、仕舞うって思ってごらん」
ヒュン
『うわぁ、消えた。凄い!もっと取って来るー!』
元気に飛び回っている。
ツンツンされたので振り向くとシルフィもカケラを抱えている。
「僕も…欲しい」
シルフィにはバングルを作ろう。
「少し待ってな」
銀を取り出して加工する。表面には水の螺旋を書いて…チャロアイトを表面に埋め込む。
シルフィの細い腕に付けると、カケラは吸い込まれた。
「ありがとう…きれい。宝物」
真っ直ぐに僕を見て頬を染める。
そろそろいいかな?
「少し下に行こうか?」
『はーい』
それだけで聖なるものたちが雲を押し下げてくれる。
下はどこまで行けるんだろう?
『地面があるの』
『美味しい果物』
『たくさんある』
『降りるよ』
『降りよう』
「果物?それは欲しいな!よろしくだよ」
『はーい』
『はいなの』
『はいだよー』
雲はぐんぐん下がってやがて地上に着いた。本当に地面があったよ。凄いね。
そして見上げるほど大きな木がたくさんあった。
『凄い!』
ビクトルが興奮してる。
『アイル凄いよ!』
「きれいだね」
『違うよ!果物が全部…神の庭に生えているものばかり』
「神の庭に?」
『そう、ここはまるで神界の楽園みたいだ』
「へー。あ、あれはゴールデンピーチ?」
『そう。ゴールデンアップル、ゴールデンマンゴー、ゴールデンパイナップル、ゴールデンマスカット、ゴールデンメロン、ゴールデンキウイ、ゴールバナナ、ゴールデンオレンジ…』
「この種を植えたら生えるかな?ぜったい美味しいよね?」
『箱庭なら出来そう』
「箱庭ってあの家の周りとか中庭?」
『そんな感じ』
「たくさんとってもいいのかな?」
『大丈夫ー』
『すぐ生える』
『たくさんとってー』
聖なるものたちが答える。ならば遠慮なく。
『我も手伝おう』
「僕も…」
ディシーはそこら中で剣を振るって果物を採取、シルフィは水の力で果物を採取、僕は魔力で捕獲して採取、ナビィは走り抜けながらしっぽで採取、コムギは幹を揺すって実を落とし、サフィアは木に登って前歯で採取、トマとジェリーはやっぱり木に登って食べている。
ふふっ可愛い。
一瞬で取り切ってもすぐにまた生える。無限ループだね。最高。さて、そろそろ上がるか。
あれ?夢中で気がつくのが遅れたけど、これはハクとブランの魔力?
ナビィも気が付いたみたいで
『アイリー乗って』
僕は何となくシルフィを呼ぶ。
「シルフィも来て!」
手を伸ばせば僕の手に掴まったシルフィがナビィの背中に乗る。
「みんなは雲に乗って上がって来て待機!」
叫びながらナビィにしがみ付く。
ぐんぐんと高度を上げる。ディシーは周囲に復活した鳥さんたちを駆逐している。
なんだ?何か…落ちて来る。人…?雲で受け止められたらいいけど。よし、頼もう。
「みんなー、落ちて来る人たちを雲で受け止めてー!お願いだよー」
『はーい』
『任せてー』『雲を動かすよう』
『たくさん展開ー』
『散らばすよー』
『敷き詰めて!』
『受け止め用意ー』
ぽよよーーーん
落ちて来たものが跳ねる。
あれ、もしかして…
『ハクー!ブランー!』
ナビィが駆ける。
「水よ…」
シルフィが水膜を展開…どうやら雲から溢れたものたちを受け止めてくれたようだ。
「シルフィありがと!」
嬉しそうにもじもじする。可愛いな。
見えた!鳥さんたちがハクとブランを囲んでいる。
「ディシー奴らを!」
『任せろ!』
バシュ
一瞬で終わった。
ふふっ聖剣って凄いな。こちらを見て胸を張る聖剣…僕は手を伸ばしその柄を掴むと刀身にキスをした。
「ディシー凄いよ、ありがとう」
手を離すとふわふわと漂ってからチャロに入った。
ハクとブランにはすでに癒しの魔力を流してある。僕はナビィに乗って近づく。
「ハク、ブラン!」
『アル!』
『ご主人…』
『『会いたかった!』』
僕に抱きついてすりすりするハク、そしてブラン。
「大丈夫?ケガしてないか…」
『治ったよ!』
ハクはしっぽをブンブン振る。ブランは頭を擦り付けて
『僕も治った!怠かったけどもう大丈夫。ご主人の魔力…落ち着く』
「良かった。もしかして探しに来てくれた?」
『もちろん』
『そうだよ』
「そうか…ケガさせてごめんな。あ、お腹空いてないか?下に美味しい果物があるんだ」
『空いたー』
『食べたい!』
そこでハクがシルフィを見て
『アル、またたらし込んだの?』
たらし込むって…僕は何もしてないよ。
「弱ってたから助けただけだよ」
『ふーん』
『へー…』
信用ないなぁ。
『もちろんアイリがたらし込んだの。ところ構わずなんだよ?』
ナビィ、言い方。もう、そんなんじゃないのに。
「ナビィ、下に降りて!」
『はーい』
ハクとブランを抱えて、背中にはシルフィがいてナビィは駆け降りる。
地上と今いた場所の真ん中くらいにたくさんの狼たちとそしてナリス、テオ、ラルクが雲の上にいた。
「おーい!無事ー?」
こちらを見上げた狼たちはしっぽを緩く振る。ナリスたちは唖然としながらも手を振ってくれた。
良かった、無事か分からないけど大丈夫そう。
雲の上のみんなのところに行くと
「このまま降りよう。みんなもう少しよろしくだよー!」
『任せて』
『任せろ』
『後でご褒美』
『魔力欲しい』
『魔力…』
もちろん、たくさん上げるよ。
「みんな、仲間を助けてくれてありがとう!」
時系列整理
1月1日 アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 46階層
ラルクたちが迷宮に潜る 9階層
1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う
コムギと再会する 42階層
ハクたちはブランと再会する 30階層まで転移 35階層
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
迷宮3日目 アイルはナビィと再会する 40階層手前
ハクたち 37階層終わり
1月22日 イーリスがゼクスに到着
迷宮4日目 アイルたち39階層に到着
ハクたち38階層で休む
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発
迷宮5日目 ハクたち39階アタック開始
アイル捜索隊がロイカナの町を出発
アイルたち39階層でハクたちと合流




