371.新しい迷宮14
ナビィを振り向くと手を広げる。
「ナビィ、おいで!」
『アイリー!!』
吹っ飛んで来たナビィを受け止め。きれずに仰向けに転がる。
『アイリー探した…』
大きな舌で顔中ベロンベロンだよ。
ナビィは僕が持たせたブーツにふかふかの服、帽子にマフラーまで巻いてた。もこもこのナビィも可愛い。胸毛は服から大胆にはみ出してるからそこに顔を埋める。あぁナビィの匂いだ。
うわ、顔が冷たい。すぐに洗浄する。濡れたままだと凍るよ。
ナビィごと起き上がるとコムギを抱き上げてローブを着る。フードを被るとビクトルとディシーがフードの中に避難して来た。
『あ、アイリってばちょっと目を離したらもう仲間を増やしてる!』
「あぁ、この子は聖剣のディシー、元の妖精はチャロだよ。で、そのきれいな子はシルフィ…水の精霊だ」
『…聖剣?なんか空気が、あ…元は魔剣か。へー珍しいね。えっとナビィだよー!よろしく』
鼻で挨拶するナビィ。それからシルフィを見ると少し複雑そうな反応をした。
『アイル、なんでこの子?』
「ん?なんか弱ってて。僕の魔力を取り込まないと消滅しそうだったから」
『だからアイリの魔力を感じるんだね…でも』
珍しくナビィが口籠る。
「ナビィ?」
『こんなきれいな子はそばに置いちゃダメ!』
ナビィ?本当に珍しい。それを聞いたシルフィは少し青ざめた。
「ナビィどうしてそんな事を…」
『…』
ナビィはわがままで言ってるんじゃ無い、多分。そんな子じゃない。消えそうだったシルフィを助けた事というよりは。きれいな子?僕の魔力が付いてる…から。
何となく僕の思い出せない記憶と関係していそうだ。
「わ、私はもうアイルから離れられない…魔力がアイルと繋がったから」
シルフィが話す。ナビィは所在なさげにしっぽを揺らす。
『それも…ここ以外では言ったらダメ』
シルフィは目を大きく開いて泣きそうな顔になる。
『アイリは君と出会う前に大切な人と出会ってる。横入りは許されない。分かって!みんなアイリが好きなの。順番は守らないと…』
シルフィはナビィが意地悪で言ってる訳じゃないと感じ取ったのか、驚きつつも納得したようだ。
「そう、確かに…私は会ったばかり。分かった、順番守る」
『うん、そうしてー!一緒に寝るのもダメだよ』
「ナビィ?」
『アイル…この子はダメ!』
こんなにハッキリ言うならちゃんと意味があるんだろう。
「分かったよ、ナビィ。きっと僕の思い出せない記憶だよね?イリィとロリィ、かな。時々夢を見るんだ。淡いきれいな金髪と柔らかくて温かい肌。顔は見えないのにきれいだよって言ってる僕。ナビィはその、僕の大切な人と僕自身を守ろうとしてくれてるんだね?ありがとう…ナビィ。探しに来てくれて。知らずに僕が誰かと仲良くなったら、その大切な人が傷付くもんな」
『アイリー大好き!』
またナビィに押し倒された僕だった。その大きくても柔らかなお腹に顔を埋める。
起き上がると
「進もう!次も雪原だ」
『おー』
『やー』
『うぬ』
「…」
シルフィには悪いけど僕も抵抗があったし、きっとナビィは正しい。そんな思いを胸に階段を上がる。
そしてやっぱり雪原だった。
「ナビィ、ここは何の魔獣?」
『トムとジェリーだよ』
「ネズミ?」
『そう、小さいから見落としやすい』
言いながらナビィがしっぽでネズミを跳ね飛ばす。気が付かなかった。
『魔力も弱いからね、保護色だし』
確かに、雪原に小さな白いネズミ。小さなって言っても15セルくらいあるから、凄く小さな訳ではない。
適当に先頭で剣を振り回すだけで当たる。ってか凄く多いな。コムギも今は歩きながら前脚を振ってる。走って蹴散らしてもいる。
トムとジェリーはそのまま追いかけてしっぽで攻撃。
本来、妖精は魔獣を討伐なんかしない。でもチャロは聖剣と共存してるからか、ふよふよと飛びながらネズミを狩っていた。なんかシュールだな。
そして、周りの子が倒した分はそのまま僕のポーチに転送されてくる。
ネズミのドロップ品は前歯と小さな毛皮。これもまたもこもこで質がいい。たまに真っ青な宝石。
これは他の階もなんだけど、魔石とは別にたまに宝石が落ちる。この雪原は青い宝石。下の虫とかの階層は緑だった。
サクサク進んでいたら黄金の木が見えた。
「あそこでお昼ご飯を食べよう!」
『やったー』
しばらく離れてたナビィは大喜びだ。
辿り着いたね。お昼は家に入らないでここで食べる。今日はキムチ鍋だよ。
オーク肉に白菜、唐辛子に味噌、豆腐、ネギ。ガーリケも入れてコトコト。煮込む過程馬もちろん時間促進で。
「出来たよー!」
みんなの器に盛ってあげる。ナビィは大盛りだね。コムギも?いいよ。沢山よそうからな。
僕も食べる。ふうふう…ぱくっ、美味しい!唐辛子の辛味と味噌の甘味。温まるな…。
ふとみんなで食べたいな、と思った。ナリスたち心配してるかな?きっと町に戻ってギルドに報告してるだろう。捜索されちゃうのかな?それは恥ずかしい。だってね、水の精霊を連れてるし。なんなら聖剣もある。
妖精も増えたし。ま、今は考えても仕方ない。
食べ終わると少し休んで出発。次からは迷宮の仕様が変わるからね。
同じ日の朝、35階層では…
私は目を覚ました。いつの間にか両脇に狼が寄り添っている。その背中を撫でる。思った以上にふかふかだ。
狼のしっぽが揺れる。
最後に軽く頭を撫でると起き上がった。ハク様とリーダーはやっぱりいない。私はテントを出る。後ろから狼が付いてきた。一見すると同じに見えるが、狼たちにも個体差がある。私に付いてきたのはまだ若そうな狼だ。キリッとした顔の毛が真っ白な子だ。どうやら年齢が上がると白が少し灰色に近くなる。真っ白なのは若い証拠だろう。
外では珍妙な光景が見えた。ハク様とリーダーが細い通路に出て魚を狩っている。それがハク様は水に前脚を入れて魔力を流している。魔法は使えないから純粋な魔力だろう。すると魚がプカーっと浮いて粒子となる。ドロップ品は水に沈む前に高速で飛ぶブラン様が回収していた。なんと見事な連携。
リーダーは他の狼とそれぞれ飛び上がって仕留め、また通路に戻るという離れ業をやっていた。空中で仕留めたら水に落ちてしまう。それを反対側から飛んだ狼が軌道修正して着々するのだ。
凄い連携だ。そうやって駆逐する勢いで魚が粒子となっていた。
狼たちのドロップ品はバクセルが飛んで回収していた。
朝の運動が終わったのかハク様もブラン様も狼も戻って来た。いつも通りブランが出した朝食を食べる。
そして出発した。我々はまたブラン様の背に乗せてもらい岸に着く。しかし階段は無い。
すると水から巨大なヒゲを生やした魚が飛び出て来た。そして岸に上がる。よく見れば脚がある。
動きは素早そうだ。しかも体表はぬめぬめしている。これは剣が通りにくいか?
テオが先陣を切る。岸は狭いので気を付けなければならない。水からは魚が襲ってくる。
テオは盾で攻撃を防ぐと剣で斬りつけた。やはり滑ってしまう。私も剣を振るうが、滑る。剣とは相性が悪そうだ。するとハク様が飛び出てその魚に食い付いた。
魚は暴れるが、ハク様は離さない。
「テオ、尾びれを剣で縫い止めろ!」
私も剣を持って近づく。テオに向かう尾びれを交わして避ける。テオはその尾びれに剣を突き刺した。
よし、私はその少し上にやはり剣を突き立てる。
『ギョギョッ』
悲鳴を上げる魚。ナリスが止めとばかりにハク様が噛んだ首に近い辺りに狙いを定める。
それを見たハク様は素早く退く。ナリスはその首に剣を突き刺した。
やがて痙攣したと思ったら粒子となった。ふっ、倒せたな。
『ハク!』
振り向けばハク様が横たわっている。バクセルがブレスレットから薬を取り出して、ハク様の口に含ませる。すると水色に光ってハク様は立ち上がった。
『バクセルありがとう』
『良かったよ、もう分かってて喰らいつくなんて…』
『アルの解毒剤は良く聞くから』
『アイルに言っちゃうよ!』
『それは…』
『ダメ!無茶したらアイルが悲しむ』
ハク様はしっぽを垂らしてゆらゆらする。
「バクセル、ハク様も早くアイルに会いたいのだ。あまり叱ってやるな」
『むう、仕方ないな…もう無理しちゃダメだよ!』
『分かったー』
そして階段は、と探すとなんと水が割れてそこに階段が姿を現していた。不思議な光景だった。
こうして35階層を終えて、いよいよ36階層に進んだ。
時系列整理 年明け以降
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる
ラルクたちが迷宮に潜る
1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う
コムギと再会する
ハクたちはブランと再会する
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
迷宮3日目
1月22日 イーリスがゼクスに到着
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発




