370.新しい迷宮13
なんか、苦しい…隣に温かな体温を感じる。あぁイリィだ…ふふっいつも私が抱き枕だもんね。その柔らかな体と大好きな森の匂い。
またいつもの日々が戻って来たんだね…イリィ。
ふと目が覚める。イリィ…?目を開けると水色、イリィじゃない。あれ、イリィって誰だ?僕の大切な人、多分。相変わらず思い出せない大切な思い出。
軽く息を吐き出す。シルフィががっしりと抱きついている。しかも頬が触れ合って。僕の腰を抱きしめて、足は絡めて。そんなに魔力を触れ合わせたいのかな。
理由は良く分からないけど弱ってたみたいだし。ビクトルが言うには僕の魔力は聖なるものにはとても美味しいらしいし。
そっと抜け出そうとしたらギュウギュウと抱きしめられた。
「シルフィ…起きてるの?」
まつ毛が揺れる。首を振る。聞こえてるんだから起きてるよな?その反応が可愛くてその頭を撫でる。
抱きつくのは平気なのに頭を撫でると真っ赤になる。変なの。
その頬を撫でて頭にキスをして
「起きよう…」
と言えば真っ赤になったまま頷いて体を起こす。水色の髪が頬をすべりふわりと広がった。
「きれいだよ…」
ごく自然とそう言葉が出た。言い慣れた言葉。それが誰に対してか覚えてないけど、多分イリィだ。
僕が考え事をしていたらキスされた。
「起きる…」
そうだったね。僕も体を起こして着替える。シルフィはスポポンと脱ぐ。そのまま移動しようとするから服を着せた。目のやり場に困る、華奢で白いその体となめらかな肌。ちょっと年ごろ男子的には宜しくない。
居間に行って飲み物を飲む。そうだ!コヒの実を取ったんだ。それは中庭に植えよう。
土を掘ってタネを巻く。3個くらい。育てーと願いながら聖水を掛ける。
居間に戻ると僕の行動を見ていたシルフィが目を開いて驚いている。
「それ…」
僕の水筒だ。中身は聖水。
「聖水だよ」
手を出すので渡すとゴクゴクと飲んだ。飲み干してからあっと言う顔をする。
「大丈夫」
蓋をしてまた開けたら満杯だ。
「ほらね?」
「…あり得ない」
『ふっ主のやることにはあり得ないは無いのだ!』
何故かディシーがドヤってる。可愛い。
「おいで、ディシー。おはよう、今日も可愛いよ!チャロも」
『お、おはよう…なのだ』
期待するような目。その頭を撫でる。あ、また指に抱き付いて来た。くっ可愛いぞ。まさかあの禍々しい魔剣がね。こんなに懐くなんて。
「ご飯作るから待ってて」
声を掛けて台所に立つ。コムギが足元に座る。寂しかったかな?よしよし、いい子だから少し待ってな。
小麦に卵とイースト菌を混ぜてパンケーキ。これはみんな大好きだから。朝だしフルーツ乗せてて練乳で食べよう。飲み物はフルーツジュースだな。
コンロに火をつけて弱火でバター、溶けたら一度火から下ろして布に当てて冷ます。
タネを入れて丸く丸く…表面がポツポツして来たから返して…っと出来上がり。ささっと何枚も焼いておく。
焼いたものはアリーナなら保管すればほかほかのままだから。
ふう、沢山焼いたな。後はポーチから切ってある果物を出して散らばす。
実はあのゴールデンピーチ、種を取っておいたんだ。後で中庭に植えよう。
コムギにだけ特別にのせてあげる。よし、出来た。ジュースもコップに注いだら完成!
机にそれぞれの分を置いた。
「ご飯できたよー!」
つい昨日まで1人は気楽って思ってたけど、やっぱり沢山は楽しい。
「うん」
『はーい』
『パパ大好き!』
コムギたん、パパも大好きだよー。ギュッとしてもふもふした。
「コムギのはこれな!特別だぞ」
『ヤッター!黄金桃だ』
「コムギは好きだろ?」
『うん…』
何故か僕の膝に乗って食べるコムギ。可愛い過ぎる。後ろからそっと抱きしめながら僕も食べる。うん、ほかほかふわふわだね。
「…!」
ふふっシルフィの頬が色付いたね。あ、ほらディシー慌てない。溢れてるよ。ほらもう…こっち向いて?うん、取れたよ!ゆっくり食べな。
ふふっ可愛いな、ほっぺを膨らませて必死に食べてる。ほら誰も取らないからな。
よしよし、みんな可愛い。トムとジェリーは鼻に果物付いてる。取ってあげる。ほら…ふふっ美味しいな。ヒゲがそよいでる。
「……美味しかった」
『美味であった』
『パパーコムギこれ大好き!』
「そうか?また作るからな!」
僕の膝に背中をすりすり。可愛いぞ。お腹を撫でる。コムギにも耳標付けてて良かったよ。
『パパー』
「なんだい?」
『今日は抱っこして…』
うーそうしたいけど、早く進みたいし。
「魔獣が来た時に抱っこだと危ないんだ」
コムギが俯く。だから
「背中ならどうだ?パパと密着出来るぞ!」
『パパと密着?』
頷くと抱き付いて来た。もう、なんて可愛い。剣で戦わないで魔石攻撃にしよう。そう思った。
家を出て雪原に足を踏み入れる。ふふっ背中のコムギは僕にぴったり張り付いてる。可愛い。落ちないようにおんぶ紐(蜘蛛シルク)でお尻と背中は固定してる。ローブの下に入ってるからあったかい筈。背中が膨らんでるのは愛嬌だ。ローブは自動で大きさが調整されるから苦しくない。
コムギは僕と密着、僕は背中が暖かい。ウィンウィンだ。
そのアイルの後ろでディスタンシアがビクトルに囁く。
『なぁ、相手は子供だが聖獣だぞ?過保護過ぎないか?』
『うーん、アイルは保護者だから自分が助けるって思ってるんだよ』
『だよー』
『そうだよー』
トムとジェリーも続ける。
『聖獣だぞ?』
腑に落ちないディスタンシア。ビクトルは
『アイルは自分が名前を付けた子は等しく可愛くて大切なんだ。強いか弱いかじゃなくて、ただ大切。だから守りたい。自分より強くても大きくても関係ない』
『そうであるか…』
『だから周りにいつも沢山…』
『沢山…でも自分以外にだけ手厚い』
『自分以外?』
「自分は?」
ディスタンシアとシルフィーヌがビクトルに聞く。
『自分はどうでもいい』
『普通は逆であろう?』
「逆…」
『そうなんだけど…色々ね?理りに触れるから』
『ならば、止めるものが必要であるな』
ビクトルは我が意を得たとばかりに頷く。
『そう、ここに来る前はね…いたんだ。でも1人でここに飛ばされて。そしたらすぐにコムギと、それからトムとジェリーとも出会って』
『お互い放っておけぬか…』
「孤独…だから優しい」
『そう、見張りがいるんだ!無茶しないように』
『ふん、我が見張りをしてやる!美味な魔力も食事も手放したくないからな』
「美味しい魔力、温かい魔力、柔らかな体…大切」
すでにディスタンシアもシルフィーヌもアイルが大好きになっていたのだ。
『一緒に見張ってて!』
『任せれた!』
「うん…」
『よろしくー』
『しくー』
そんな会話がされてるとは知らず、魔石に魔力をぶつけて片っ端から魔獣を蹴散らしているアイルだった。
ふう、階層を上に向かうって魔獣は弱くならから少しお得かも?
ちなみにここ42階層は白うさぎ。もふもふで普通に可愛い。一見な!こちらを見つけると途端に前歯をシャキーン!って剥き出しにして襲いかかってくる。
でも見た目はうさちゃん。だからね?傷付けたく無いってのもあって。ちなみにドロップ品はもちろん毛皮。ふっかふかで真っ白な。
これはイリィの白い肌に生えるな…ロリィのしっとりした肌にもこもこも見てみたいかも。
ん…イリィとロリィ、白い肌に生える?しっとりした肌…?まただ。肌のことまで分かるなんて。やっぱり特別な存在なのかな。でもイリィは何となく分かる。
ロリィは誰だろう…分かるようでやっぱり分からない。
考え事をしながらもうさぎはどんどん倒して行く。
これはボスも楽勝かもね!
はい、ボスが楽勝って思ったの誰?…僕です。すみません。嘘です、楽勝とか無しで。
困った。僕たちは順調に進んで明らかにボス間満載なうさぎに会った。大きさがおかしいから。2メルもある巨大うさぎ。胸毛なんてもっふもはのふっかふか。多分…でもね、目が真っ赤。もうね、血の色。
前歯なんて尖ってるんだ、あれだけでまともに受けたら死ねる。
階層上がって弱くなるんじゃ無いの?
だって空気銃も弾かれるし、魔力をぶつけても弾かれる。剣ももちろんもふもふな毛皮で弾かれる。どうしよう…。魔石に魔力をぶつけてもダメだし。万事休す。
少し体勢を整えてから出直しか、と思った時
『アイリーやっと見つけたー!』
これはナビィか、何処からって、あっ…。
気が付いた時には巨大うさきは飛ばされて粒子になった。あぁうさぎにちょっと同情した。
だってさ、まさか階段の上から爆走してくると思わないよね?巨大な犬が、助走付けて。
うさぎは魔力を弾けるけど、ナビィは物理的に来た。しかも最後は警戒したうさぎの上に飛んで落下の勢いでしっぽを振り抜いた。
うさぎは呆気なく飛ばされて…地面を跳ねて粒子になった。
『アイリー!』
どうやらナビィは目の前にいたうさぎが単に邪魔だからしっぽで蹴っただけらしい。
そのままの勢いで来るナビィ。いや、待て…コムギたんが背中にいる。あの勢いで押し倒されたらコムギたんが危険だ。よし、必殺の…
「ナビィ、お座り!」
直前でナビィが
「わん!」
しっぽを振りながらお座りした。よし、いい子だ。
「そのままステイ!」
「わん!」
くっ期待に満ちた目だ。これはきっと激しい。待たせた分は余計に激しくなるだろう。
致し方ない。背中からコムギを降ろす。ローブを着せて
「コムギ、少し待っててな!」
『はーい!』
ナビィを振り向くと手を広げる。
「ナビィ、おいで!」
『アイリー!!』
吹っ飛んで来たナビィを受け止め…きれずに仰向けに転がる。
『アイリー探した…』
大きな舌で顔中ベロンベロンだよ。
ナビィは僕が持たせたブーツにふかふかの服、帽子にマフラーまで巻いてた。もこもこのナビィも可愛い。胸毛は服から大胆にはみ出してるからそこに顔を埋める。あぁナビィの匂いだ。
時系列整理 年明け以降
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる
ラルクたちが迷宮に潜る
1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣、精霊と出会う
コムギと再会する
ハクたちはブランと再会する
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
迷宮3日目
1月22日 イーリスがゼクスに到着
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発




