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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第7章 新しい迷宮

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365.新しい迷宮8

 なんか音がした。あの禍々しい剣が何やら青銀に輝き、キラキラしてる。あれ、さっきまで黒くて禍々しかったのに?

『魔剣を浄化して聖剣にした』

 念のため聞くけど

「誰が?」

『アイルが』

 やっぱり?何でだよう…もう。聖剣って勇者が使う剣だよね?僕は勇者じゃない、むしろ弱者だ。なのに聖剣?

 いや待て、持ち主と認められなければ関係ないか。よし、全力で拒否してもらおう。


 剣がふわりと浮き上がり

『主と認める…』

 厳かに宣言した。

「えっといや、力不足だから…遠慮するよ」

『はっ…?』

「うん?だから力不足だから遠慮する。他を探して!」

『…はっ?我は魔剣から聖剣となった伝説の剣、ディスタンシアであるぞ?』

「知ってるよ?だから丁重に断ってる。他を探してね?」


『…いやいやいや、何を言ってる?我は聖剣ぞ?』

「ん?だから知ってるよ…。僕がうっかり聖剣にしちゃってね!でも僕には持て余すし、ね」

『だから我は聖剣であるぞ!崇め奉る剣ぞ!その剣が持ち主と認めたのだ、光栄に思え!!』

「だから光栄というか、押しかけはもうね。間に合ってるから。他を当たってね…」


 しばし剣が沈黙した。

『ふふふっアイルはね、聖剣は面倒だなとしか思ってないよ。正面から主と認めたって言っても遠慮するって言うから、ボソボソッ』

 ビクトルが聖剣に何かを囁く。

『う、おほん…わ、我は目覚めたばかり。自分だけだけでは何も出来ぬ。我を助けると思って…どうか連れて行ってくれ!』


 う、ビクトルってば狡いぞ。そう言われたら確かに可哀想だ。目覚めて不要認定なんてな、はぁ仕方ない。

「分かったよ、くれぐれもやり過ぎ注意だからね!ならよろしくだよ、ディシー」

『うむ、良き心がけだ。で、そのディシーとはなんだ?』

「やだなー愛称だよ?ディスタンシアなんて如何にもな名前はね…だからディシーだよ、可愛いでしょ」


『デ、ディシー…う、おほん…認めてやろう』

『本当にアイルってば聖剣までたぶらかして…節操が無いんだから…』

 ビクトルが何か言ってるけど聞こえないよ?もう、失礼なんだから。

『さすがご主人ー』

『やるぅー』

 トムとジェリーもね、僕はただ思った通りにしてるだけだよ!


「ディシー、紹介するよ!この子は妖精のビクトルで、僕のスキルでもあるんだ。で、こっちの子たちはトムとジェリーね。他にも仲間が居るんだけど、はぐれちゃってさ…再会したら紹介するよ」

『よろしく頼むぞ、ビクトルにトムとジェリーよ』

『よろしくだよー!』

『だよー』

『だよー』


 さて、だいぶこの階で時間をかけて取ってしまった。

『アイル、近くにカオの木がある』

「それは行きたい!」

『なんじゃ、カオの木か?』

「うん、美味しいお菓子の原料だよ」

『ならば、我を捉えておったあの虫の棲家にたくさんあったぞ』

「ディシー、ほんと?ありがとう…!」

 ディシーはふわふわと浮いてる。


「ねぇ、ディシー。剣が浮いてるとなんて言うか不穏だけど、何か他に方法ないの?」

『むっ、これが我の姿なのだ』

「んー分かるけど、不便じゃない?ご飯も食べられないし」

『ぐぬっそれは確かに…』

「僕ね、自分で言うのもなんだけど…料理上手なんだ。だからせっかく仲間になったし、ディシーにも食べて欲しいなって思って」


 ビクトルも、トムとジェリーも、アイルはまた無意識にたらし込んだな…と思った。

 そもそも魔剣が聖剣になるなんてあり得ないし、聖剣に認められて断るのもあり得ないし、その聖剣に愛称を付けるのも照れさせるのもあり得ない。

 それを無自覚にやってのけるのがアイルだけどな、と思ったのだった。


『ならそこらの魔獣を乗っ取れば良いな』

「ダメだよ…カブトムシは可愛くないし。どうせなら可愛いもふもふが希望」

『ぐっ可愛いじゃと?我は聖剣ぞ!』

「だってね、せっかくだし仲良くしたいから。たくさん撫でてあげられるよ?」

『撫でて…ポッ』


 あ、またやらかした。これはもう手伝うしか無いか。

 ちょうどふよふよと力無く飛んでる子がいるから。

 珍しい黒子だ。


 本来、妖精はその力の元となる髪の色を持っている。水なら水色、草原や森なら緑。土なら茶色で火なら赤。光なら金色で氷なら白、雷は紫という風に。ただ、ごく稀に拠り所を持たない妖精が生まれる。その子たちは黒髪に紫の目をしているから黒子と呼ばれる。他にも神々の眷属となる妖精がいて、彼らは神様由来の銀色の髪だ。


 元となる力を持たない黒子はあまり長く生きられない。力を貰えないため、大地や大気に漂う魔力を取り込まないとダメだから。

 実はアイルが良質な魔力を垂れ流しにしてるからか、彼の周りには黒子が何体かいる。その中でも小さな子はやっぱり弱くて精神が離れかけている。あの子となら共存出来るな。


 ディスタンシアは体から抜けることも出来るし、剣としてだけでなく妖精の体も持てる。妖精はディスタンシアの聖なる魔力を取り込める。まさにウィンウィンだ。

 僕はその子に話しかける。

『あの聖剣殿に体を共有させて貰えないか?』

 その子は大きな目を開いて

『助かる…?』

 小さな声で聴く。

『もちろん、聖剣は聖なる力に溢れてるから…強くなれるよ!』

『お願い…もう体が』

 私は強く頷くと、その子を伴って聖剣に近寄る。


『あー聖剣殿、ここに漂う妖精は拠り所を持たない。その子に魔力を分け与えれば、体に共存してもいいそうだ』

『なぬっ、そうか!ならば撫で撫でして貰えるのだな!』

 聖剣の気高さはどこいった、と思ったものの時間も無い。

『思う存分、アイルは小さな子が好きなんだ!』

『ならばよろしく頼むぞ、黒子よ』

『うん、ありがとう…聖剣さん。僕に入って…』



 シュン



 あれ?何やらビクトルが珍しい髪色の子と話をしたと思ったらディシーが消えた。

「ディシー?えっどこに行った…ディシー」

 焦って周りを見る。いない。近くに感じられるのに。

「ディシー…」

『ここだ!主よ』


 えっ?目の前には黒髪に大きな紫の目の、とっても可愛い妖精がいた。その羽は透明で紫に光っている。

「ディシー?」

『そうだ、そうであってそうで無いが、そうだ!』

 謎かけかな?

「ディシー?」

 手を差し出すとその上にのる。小さな妖精は何やら期待に満ちた目で僕を見る。


 良く分からないけど、ビクトルの時みたいに妖精に入ったのかな?でも元の子もいるね。それが感じられる。

 そっとその小さな頭を指で撫でる。あ、指に抱きついて来た。か、可愛い。その髪の毛を撫でる。短くてくりんとしてる。ヤバい、可愛い。


 その頬を撫でて髪を撫でてまた頬を撫でる。これは無限に撫でていられる。

 目を瞑って僕の指にすりすりする姿はどっちの意志なんだろう?

『わ、我では無いぞ!』

「だよな…元の子は甘えん坊さんなんだな…ふふっ可愛い」

『か、か、可愛い…キュン…』


 ビクトルは絶対あれは聖剣の意思だと思った。


「元の子って言い方もへんか。何か名前あった方がいい?」

『うん!』

 そうだなぁ、言ってから思った。名付けは苦手なんだ。やっぱり紫だし、パープル?ぶどうとか、アメジスト…紫って難しいな。芋とか?怒られそう。

 色は違うけどぶどうからのマスカットとか。後は石だとチャロアイトやスギライトかな。

 よし、決めてもらおう。


「何がいいか選んでな?パープル、ぶどう、アメジスト、マスカット…」

『ぶう…』

 ダメか。

「チャロアイト、スギライト…」

『あっ…』

 どっちだ?

「チャロアイト…」

『それ!』

「なら少し長いし、チャロは?」

『僕はチャロ!』


 ぐっこんなに可愛いのに…まさかの男の子か。ビクトルによると性別は無いらしいけど、男型とか女型があるんだって。良く分からないよね?

 確かにたまにお胸が膨らんでる子がいる。そんな子は女型なんだろう。僕が名前を付けた子は何故かみんな男型。なのに凄く可愛い。


 チャロもクセのある黒髪に零れ落ちそうなほど大きくて潤んだ紫の目、白いシャツとパンツに白いブーツ、腰には紫のサッシュ。羽は透明で青紫に光る。いつの間にか羽に青が入ってる。多分、僕というかディシーの影響だね。


 こうして魔剣改め聖剣で妖精チャロに入ったディシーと出会った。


 ディシーの案内でキングケンタウロスオオカブトの棲家に向かう。そこは洞窟で、中はかなり広い。しかもそこら中に鉱物が落ちてる。

『金、銀、白金…』

 どこかのCMみたいだね。もちろん、収納したよ?僕が欲しいと思うとポーチが自主的に拾うんだよね。吸い込む、かな。便利だな。


 で、かなりの鉱物を拾った。何でこんなにあるかな?

『食べ物だな…ヤツの』

 へー鉱物食べてたんだ?なら硬いわけか。

 最奥に着いた。そこはまるで楽園。麗らかな日差し、柔らかな緑。僕はそこにある湖に目が吸い寄せられた。

 何故なら、そこに人がいたから。

 何でここに人が…?


 その人は湖の上で浮いていた。腰まである長い水色の髪、細い腰に長い手足。そして何故か裸。形のいいお尻が見える。あれ、かなり遠いのにくっきり見えるな。そういえば少し前からだ。僕は視力良くなった?

『ジョブだよ!遠視だね…遠くがよく見える』

 手元見えてるよ?

『自動切り替え…』

 なるほど、っていやいや何それ?

 ま、便利だしいいか。いやいや、良く無い。それに今はダメだよ、人の裸をしっかりと見るなんて。


 だから気が付かないフリをした。

 優しさだよ?決して面倒だとか思ってないからね!

 ビクトルとトムとジェリーはまたアイルは引き寄せたな、と思っていた。





時系列整理 年明け以降


1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発

アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く


1月2日 麓の村をナリスと出発


1月6日 ロルフがフィーヤ着

アイルが町レイニアに着く。馬車を買う


1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着

アイルが布を仕入れて町を出発

ライラたちが襲われる

ゼクスと王都にロルフから手紙が届く


1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発

魔術師団がゼクスに出発


1月9日 アイルがハク、ブランと再会


1月10日 ミュジークと捕虜を解放

アイルが村が救う


1月11日 魔術師団がゼクスに到着

近衛騎士たちが村を出発

アイルたちが村を出発

 

1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発


1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着


1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする


1月18日 ロルフたちがフィフスに到着

アイルが川蛇の依頼を受ける


1月19日 ロルフたちがゼクスに到着

アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける

アイルたちが迷宮を発見する

アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる 

ラルクたちが迷宮に潜る


1月20日 迷宮2日目 アイル聖剣と出会う


1月21日 ロルフたちが死の森に行く

イーリスたちがアレ・フィフスに到着


1月22日 イーリスがゼクスに到着


1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発

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