364.新しい迷宮7
家を出て、イヤーカフにしまう。体を軽くほぐしてから黄金の木から離れる。
トムが先導する。少し進むとケンタウロスオオカブトが3匹いた。なんとか剣で倒したい。避けながら剣を振るい、2匹まで倒した。よし、と思ったら
ダン
あ…背後から狙われてたのか。空気銃が発動した。残念。でも昨日よりは剣が振れてる。体力も付けながらなんとかものにしたいな。
その後も時々、オオカブトにあったけど大きな群れはなくて淡々と倒しながら進む。
角はかなり立派だけど何かに使えるのかな?
『剣になるんだよ!』
へーこれが?でも僕には魔剣があるよな。なら要らないかな?憧れはあるけど。
「僕には魔剣があるから要らない?」
『作ってもらってもいいかもよ。魔剣は元から持ってたんじゃなくて、アイルが魔剣にしただけだから』
もう何度目かな、どゆこと?
『アイルが魔法が剣に乗ったらいいのにって考えた結果』
「結果?」
『魔剣が誕生』
「…」
ほんと元僕は何をやってるの?いや、何を目指したの?
『安泰な生活』
はぁ、安泰な生活に真剣は要らないと思う。
『あそこだよー!』
『だよー!』
遠くに濃い緑色の葉の立派な木があった。あれがカカオの木?
『こちらではカオの木』
「迷宮以外にも生えてる?」
『生えてない』
…マジか。やっぱり植えるしか無いな。種を沢山とって。というか実がカカオか。
その木には沢山の実が成ってる。この木はこのままにして、実から種を取ってここで発芽させて苗にしたらいいか。
全部はやり過ぎかもだし、適度に残してジョブで収納。
その内の1つを地面に植える。
水は…聖水しかないか、まぁいいだろう。それを掛けて土に手を当てる。ジョブで発芽を促す。
硬い実から種が出て、そこから小さな芽が出る。そこから土の中に栄養を補給して、成長を促す。
よし、芽が出た。そこからはドンドン成長させて、苗木よりは若木まで成長させてから…イヤーカフの家に収納した。収納されてる家の中に収納っていうね、不思議なんだけど出来ちゃう。
「ちょっと家を出したいけど大丈夫かな?カオの木が植えられるか確認したい」
『僕は離れられないから、トムかジェリーに見張ってて貰おう』
『僕が残るよー』
「ジェリーよろしくな?」
家を出して
ドンッ
玄関から家に入る。居間にはいって…若木を探す。あれ、ここって…えぇ!!
いつの間にか中庭が出来てる。
そこにはちゃんとカオの木が植ってた。いつの間に?
『大丈夫だねー』
ビクトルが言う。
「これでもう大丈夫なの?実が成る?」
『大丈夫ー!』
なら戻ろう。ジェリーが留守番してるからね。
玄関から外に出る。
ヒュン
あれ、さっきと同じ場所だよね?
景色が違う。えっとジェリー?これは何かな、
目の前には沢山のケンタウロスオオカブトの角と殻が落ちていた。
どしたの、これ。
『倒したー!』
ジェリーが??
『うん、僕はご主人の力が少し使えるから。雷でね?ふふふっ』
知らなかった。ジェリーも強いんだね!
それからカカオも沢山あるよ?
『また実が付いたからー』
へっ?もしかして自動で実が復活するの?迷宮使用かな。
でも、家に入ってたのは本当に少しだけだよ?
『えへっ』
分かったよ、もう聞かない。何かジェリーの秘密かもだしね?
実際には昨日の夜からトムと探索して倒していた魔獣のドロップ品を集めてあって、それをアイルが付けてくれた首輪に収納してたのだ。
相変わらず、首輪には食べ物とか薬とか巣箱とか毛布とかが入ってる。収納量もかなりあるからね、と思っているジェリーだった。
「まだカオの木あるの?」
『あるよー』
『果物もあるよー』
「えっほんと?連れてって」
『おけー』
緩くしっぽを振ってトムが先導する。この階層は本当にケンタウロスオオカブトしか出ない。戦い方が分かってるから楽勝だね。
待って待って、何でだー!
楽勝って言ったの誰だよ…僕だよ。はぁぁ。もう何でこうなるかなぁ。
僕の目の前には約7メルほどのキングケンタウロスオオカブトがいた。
『大きいねー』
ビクトル、そんなのんびりしてる場合じゃないからー!
僕は逃げていた。何故なら、この個体には空気銃が効かなかったから。弾かれてしまうんだ。もちろん、剣もほんの一筋のキズがつく程度。逃げるしか無い。
必死に逃げてて、あれ…肩の上にいたトムとジェリーがいない?振り向くとキングケンタウロスオオカブトの前に小さな小さなトムとジェリー、危ない!何でそんなところに。どうしよう、助けなきゃ。でもどうやって?
考えろ!頭をフル回転させる。
前にビクトルがジョブなら使えると言った。ならば…
想像する。あのオオカブトを動けなくする。ならばその動力をとめたらいい。
実は魔獣や魔虫には格となる石があるそうだ。魔石と呼ばれるそれは、破壊したり魔石の役割が出来なくなると魔獣は消える。
もうそれしか無い。動きを止めろ!
まさにトムとジェリーがオオカブトの下敷きになると言う瞬間に、動きを止めた。咄嗟にトムとジェリーを空気砲でこちらに飛ばす。胸にふんわりと抱きしめる。
「トム、ジェリー…ケガしてないか?なんであんな事…危ないだろ!」
安心した途端に恐怖が襲ってきた。もしトムとジェリーを守れなかったら?
『大丈夫ー』
『アイルの防御は鉄壁ー』
「だとしても、失うかと思って怖かったんだ…ぐすっ良かった…良かったよ…」
僕は涙が止まらなかった。2匹に何かあったら、僕は…。でも結局、2人が立ち向かったから僕も戦えた。それのやり方が良かったとは思えないけど…逃げ切れる保証もなかったから。
『アイル…』
『ごめんなさい…』
僕の涙はなかなか止まらなかった。弱い自分が嫌で、助けられてばかりの自分が嫌で。
実際にはトムとジェリーが助けられているのだが、アイルに取っては助けたとすら思っていない。安全に暮らせるのはアイルのそばだから。だから2匹はいつだってアイルの為に立ちたいと思っている。
勝算はあったから。でもまさかこんな風に泣かせるとは思わなかった。申し訳ない気持ちと同じくらい嬉しい。アイルは僕たちのことをこんなにも大切に思ってくれてると分かったから。
そうトムとジェリーは思った。
僕は泣き止むとトムとジェリーを抱きしめて頬ずりした。全身確認してケガして無いかを見る。大丈夫だね。良かった。あ、お股に小さな鈴が付いてる。可愛い。
頭を撫でて顔を上げた。キングケンタウロスオオカブトはすでに消えていて、そこには3メルほどもある大きな角と殻、大きな盾に箱が落ちていた。
箱…あ、これが宝箱?
そっと近付く。見ていると
『罠は無いよ!』
ビクトルが言うので近づいて開けた。中には一振りの剣。何だかとっても禍々しい。
『魔剣 ディスタンシア 魔を斬る』
意味が分からないんだけど?
『名付きの魔剣は意思を持っているんだ。魔を斬るのがこのディスタンシア』
「具体的にはどうなるの?」
『アイルが持ち主だと認定されれば、アイルの為に勝手に動く』
「もはや僕は要らなくない?」
『持ち主が無いと力を発揮できない』
「魔を斬るってどゆこと?」
『魔だよ。魔獣も、魔剣も、魔力も魔術も…斬る』
要は魔法の付与された攻撃とかを防げるのかな?
「持ち主として認められるってのは?」
『手で触れてみたら分かる』
ひとまず触ってみるか。その禍々しい剣の持ち手に触れる。
ビリッ
なんか音がした。あの禍々しい剣が何やら青銀に輝き、キラキラしてる。あれ、さっきまで黒くて禍々しかったのに?
時系列整理 年明け以降
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる
ラルクたちが迷宮に潜る
1月20日 迷宮2日目 アイル魔剣と出会う
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
1月22日 イーリスがゼクスに到着
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発




