表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
37/419

37.ラルフ

少し長いです

 伏せた目の上のまつ毛に涙の粒が付いていて…光に反射してきれいだった。


「あの、今日は何の用で…?」

 アイルが聞く。

「あ、あぁ、ラルフの紹介と次の指名依頼の件だ」

 そう言えばロルフ様がまた指名依頼を出すと言っていたか…。

「ん、その…大丈夫か?」

 ロルフ様はまだ私の頬を撫でている。頷く。このまま強引に話を進めるのはロルフ様に失礼だよね。

「私にも兄がいて…もう会えないので…」

 言葉に出してしまうとまた涙が溢れてくる。必死に瞬きをして誤魔化すつもりが一筋、涙が目から零れ落ちる。

 それをロルフ様がまた優しく拭ってくれる。涙をたたえた目でロルフ様を見る。兄とは全く似ていない。でもやっぱりロルフ様はお兄ちゃんなんだ。目を伏せるとまた涙が溢れた。ロルフ様の手は優しくてまた少し泣いてしまった。

 ようやく収まった涙を上を向いて散らす。

「次はどんな依頼ですか?」




 目を伏せて泣いているアイルのその温かい涙を指で拭う。やっと開けた目はまだ涙で潤んだいたけどもう大丈夫そうだ。切れ長の珍しい色の目に少し目を奪われた。



「次はどんな依頼ですか?」

 落ち着いたので話を進める。

「例の水晶のところ…採掘」

「同じ所で?」

 頷くロルフ様。

「あーその、悪かったよ。今度の採掘は私も行く。だからその…な気を悪くしないでくれ」

 ラルフ様がそう言う。もちろん気を悪くした訳ではない。

「ラリィは少し…あれなトコがあるが…優しい子だから」

 ロルフ様にかかればラルフ様も優しい子扱いなんだね。微笑ましい。

「気を悪くしてもいませんし、俺は大丈夫。お気遣いなく。こちらこそ、その…泣いてしまって…」

 最後は消えるように小さな声だった。

「ありゃあラルフが悪い。まぁ兄想いが暴走しただけだ。気を悪くしてなくて良かったぞ」

 頷く。

「いつから行ける?」

「私は早くて3日後。仕事を押し付け…んんっ割り振らないとだから」

 押し付けって言いましたね、今。

「私はいつでも。あぁ、準備があるしラルフに合わせて3日後ならちょうどいい」

「こちらもそれで」


 今日は帰ってから精油を作る。やっとだよ!2日あれば薬も作れる。イリィに解毒剤を入れるネックレスを作って貰えれば私の能力を使わなくて済むし。


 こうして次の指名同行依頼が決まった。今度はまだ調査だから1泊2日。今度は大丈夫でしょ。それに私は1つ決心したことがある。だからきっと大丈夫。

 窓口で手続きをする。報酬は大銀貨2枚。宿とか道具は依頼者待ち。多分、破格の待遇なんだと思う。まぁ私は出来ることをするだけだ。


 そしてハクとの楽しいお出かけは終了。まだ午後も半ばほど。イリィが帰ってくる前に精油を作ってしまおう。

 宿に帰るとスーザンがすっ飛んで来た。その言葉通り気がついたら目の前にいたよ。早!

「アイル、お帰り!」

「ただいま!」

 声をひそめて

「あの花の蜜凄いな!味が濃厚で香りも高い。本当に貰って良かったのか?」

「もちろん!まだあるし。気に入ったなら良かったよ」

 そうか、と頷くと初めてのお祝いに美味いもん作るからな!と言って去って行った。ん?初めてって何だ?初めての採取?初めての依頼??首を傾げながら美味しいものは嬉しいからまぁいいかと思ったアイルだった。

 スーザンが昨日の夜のことを盛大に勘違いしていたことをアイルはまだ知らない。



 部屋に戻るとポーチからラベンダーとジャスミンを取り出す。

 これよ、これ!ついに精油作りだ。

 このために今日も森でガラス瓶を大量に作ったのだ。しかも茶色いの。

 ラベンダーは蒸気でジャスミンは圧搾だったかな?どちらにしても出来上がりを想像したら生産で出来る筈。気合いを入れるぞ!

 ラベンダーは北海道、富良野の有名ラベンダーのお高い品種を、ジャスミンは某シャンプーの香りを想像する。一雫でふわっと広がる純度100%のヤツ。

 さぁいくぞ!小さな茶色の瓶、純度100 %で仄かで上品な香り。来い!生産〜

 途端に部屋の中に芳しい香りが広がる。瓶に入っているから今は本当にほんのり。うわぁ、最高〜。異世界(ここ)に来て初めて、本気でやったーって感じ。自作の精油だよこれ。

 洞察力さんどうかな?


(ラベンダー 最高品質の精油 その香りで眠りに誘う。落としたい人に使えばイチコロ♡)

(ジャスミン 最高品質の精油 その香りで皆んなをメロメロにできちゃうぞ!)


 ……なんかいらん解説入ってますやん!

 メロメロとかイチコロとかあなた、そんな言葉どこで覚えたの?


 そう言えばハクは匂い大丈夫かな?とハクを見るとベットに横倒しで寝ていた。うん。寝ているね!大丈夫そう。ハクの頭付近にはブランも寝ている。こっちも大丈夫だね。

 作ってしまえば簡単だったなぁ。まぁイリィがいたしすぐには取り掛かれなかったからね、仕方ない。

 次にオリーブを取り出してオリーブオイル作り。料理にも使えるし、化粧水とかラベンダーウォーターに使うかとも出来る。取り敢えず一瓶分かな。これはまぁエキストラバージンオリーブオイル。非加熱の生タイプだね。保管はポーチの食料品置き場。


 あっさり終わったな。今回の精油は小さな瓶に5個ずつ。オリーブオイルは良く見るサイズが一瓶。これで採取した量の1/4くらいかな。まだまだ作れる。

 ラベンダーは樹脂で固めてアクセサリーにしたいな。あの濃い紫なら私の髪色に合いそう。樹脂についてはイリィに相談だな。うん。楽しくなってきた。

 楽しめる余裕が出来たのかも?これもイリィのおかげかな。受け入れて…あの言葉はそのまま私が誰かに言いたかった言葉だ。

 それをイリィが私にくれた。それなら私も…。


 作ったラベンダーの精油と花、アロマストーンをサイドテーブルに置いてベットの上のハクと戯れていると下からレオ、ルドとイリィの声がした。

 部屋を出て階下に下りるとスーザンと話をしている。私に気がつくとルドが抱きついてきた。その腕にはブレスレットがついている。嬉しそうに

「あっちの兄ちゃんが作ってくれた!」

 これは革かな?ルドの細い手に巻いてある。ブレスレットよりはミサンガに近いか。


(防御 防汚)


 マジか…これ誰が付けたんだろ?首を捻っているとイリィが後ろからレオナルドだな、と言う。

 え?レオってばそんなこと出来るの?

『つける時に願ったんだろ。付与魔法のスキルが生えたな』

 はいぃ?スキルって生えるの?しかもイリィはこの効果が分かる?

 今日は情報の波に押し流されそうだよ。

「自分の作ったものだからね、分かるよ」

 なるほど、そんなもんか。

 ルドの頭を撫でて似合ってるよ、良かったなと言う。レオの腕にもある。お金どうしたんだろ?後でイリィに聞かなくちゃ。帰るという2人を見送ってイリィと部屋に戻る。


 扉を開けて中に入ると

「ん?何かいい匂いがする…」

 そう言って私の匂いを嗅ぐ。恥ずかしいからやめて…とそのまま私を抱きしめた。固まる私。

 多少は慣れたとはいえ、美形の破壊力を舐めちゃいけない。心臓がバクバクする。不整脈かな?


 私の首付近でスーハーすると離してくれた。ふー。

「彼らのブレスレットは場所を貸してもらってるお礼だよ。手持ちの材料で簡単に使っただけだから。僕がつけたのは防汚ね」

 そうか、場所代か。占拠からの持ち家?だけどね。作業は捗ったのかな?


 イリィはカバンからブレスレットとネックレスを取り出す。ブレスレットはバングルかな?少し太さがあって丸ではなく隙間が開いている。真ん中には紫水晶。良く見ると透明から紫のグラデーションになっている。うわぁ、こんなの渡したっけ?するとそのブレスレットを私の腕にはめてくれる。おぉ〜サイズ自動調整。ブランの足環と同じだ。

 そしてイリィの腕にもお揃いのブレスレット。

「石は加工して組み合わせたんだよ。大変だったけど綺麗に出来た。アイの事を考えながら作ったからかな?」

 美形が頬を染めて上目遣いしながら私の腕を愛おし気にさする。うわぁぁ、まだダメ。それはちょっと…体がゾクゾクする。そっと腕を引くと、イリィは寂しそうに笑う。ごめんよ、でも今はまだ決心がつかない。

 お次はネックレス。こちらはステンレスの小さな容器になっている。ミニ香水瓶ネックレスって感じだね。留め金がなくてかぶって付ける。長さがあるので男性でも着けやすい。解毒剤入れかな?凄いな。昨日少し話しただけなのにもう作ってるよ。ポテンシャルの高さだね…イリィに解毒剤を後で入れてみると言って一旦返す。


 すると扉がノックされる。開けるとスーザンがいい笑顔で記念だからな!と言って豪華な食事を運んでくる。出ていく前に

「そうそう、2階の部屋な…予定が変わってしばらく空かない。このまま2人で部屋を使えば安くしとぞ!」

 と言い放ち、返事も聞かずに出て行った。そう言えばそろそろ部屋が空くはずだったな。 

 スーザンは2人が結ばれたと勘違いして気を回しただけで、()()()()()()()()。しかし2人はそれを知らない。

「お祝いって何だ?」

 首を傾げる2人だったが、まぁ豪華な食事は有り難い。美味しく頂いた。


 食器を下に持っていき、厨房のスーザンに渡すと小さな声で

「あまり無理するなよ?初めては色々と大変だからな。応援してるぞ!昨日、扉の前で聞こえちまってな」

 そう言うと肩を叩いて片付けに戻った。


 階段を昇りながら考える。昨日の会話、初めて…?

 扉を開けてイリィを見て思い出した。昨日の初めてとか入れるとか穴がとか痛いとか…馴染むまでとか?

 わぁぁぁぁぁぁーーー。恥ずかしい。イリィはこちらを見て首を傾げる。イリィと夜にそいうことをしたと思われたのか!

 恥ずかしくてイリィの顔が見れない。そのままベットに顔を埋めているとイリィかそばに来て背中をさする。

「アイ…大丈夫?」

 恥ずかしさで顔が上げられない。スーザンが何を誤解したか気がついた時にその場面を想像してしまったから。裸でイリィと抱き合う自分を。


 あー最低だ。こんなこと考えるとか私、最低だろ…だって思い出したんだ。無防備だと言った私に君なら構わないよ、とか…受け止めてもいいと思ったら僕を思い出して…とか。それはイリィが受け止めて欲しいと思ってるってこと?

 私はあちらで女性としての経験がある。でも今は男で、まだこの体をどうしていいか分からない。イリィと体を重ねるとかはまだ…。





 部屋に戻って僕を見たアイが突然顔を赤らめてベットに顔を埋めてしまった。隣に腰掛けて背中をそっとさする。ビクっとはしたけど嫌がられてはいないようだ。

 昨日まではアイは他人と触れることを怖がっていた。その他人から自分は外れたと思っている。今も背中の手はそのままだけど…いいんだよな?触れて。

 屈んでアイを見ると耳が真っ赤だ。声をかけても顔を上げない。少し強引にその顔をこちらに向けさせる。

 その目は潤んで頬は紅く染まっている。僕は目を細める。アイの纏う色は淡いピンク。昨日の薄いピンクより少し色付いた。


 あぁ、アイ…君はどれだけ僕の理性を試すの?僕に無防備だと言ったのに、その君は僕の好意を知っていて僕の横で安らかに寝ていたんだよ?

 僕が理性を総動員させてほとんど眠れなかったのを君は知らないでしょ?僕の髪に頬擦りしてその唇を当てて眠って…なのに今も潤んだ目で頬を染めて上目遣いに僕を見て…。


「宿の主人に何か言われた?」

「初めてのお祝いっていうのがその…昨日の夜のやり取りを小耳に挟んだみたいで」

 昨日の話?あぁ、ピアスの穴を開けている時か…確かに扉の外に主人の気配がしたな。それで初めてか…ふふふっなるほど。

 まだ涙目でこちらを見ているアイ。


「それで僕を見て恥ずかしくなったの?」

 多分違う。アイの色に白が混ざる。困惑…。ごめんね、アイ。可愛くてイジワルしたくなっちゃうんだ?

 片手を握ってもう片手で頬を撫でる。

「それを聞いて()()()()()()?」

 目を見開いたアイの頬がさらに染まる。あぁ、本当に君はどうしてこんなに僕を喜ばせてくれるの?

 頬を撫でる手を唇に添わせる。そのままその唇にキスをする。

 もっと僕のことで君を困らせたい。でもまだ早いよね。僕はあとほんの少しだけ待つよ。だから今はこれで許してあげる。もう一度その唇に長いキスをして僕はアイを開放する。

 お楽しみはまた後でね。





 上から私を見るイリィの目はとても色っぽくて、気持ちが騒つく。想像してしまって恥じる気持ちとか最低だと思う気持ちとかイリィの温もりを思い出したりとか…2回目の長いキスの後、解放される。起こして貰ってから順番にシャワーを浴びた。


 イリィに精油を作ったことを話し、少しアロマストーンに垂らしてもいいか聞く。匂いを嗅いで大丈夫だと言う。安心して一雫垂らす。優しいラベンダーの香りが部屋を満たす。

 私はベットに座るイリィを見る。決心した。今なら話せる。イリィの横に並ぶ。そして

「話したいことがあるんだ」

 と言うと、静かに頷いてくれる。

 どう話したらいい?何から?まだ決心したばかりで迷いがある。イリィが私の手を握る。

「大丈夫だよ、どんなことでも受け止めるから」

 それでも迷っている私にイリィはキスをする。不安なら何度でもこうするよ?僕を信じて…アイ。そう呟いて。



 私は決心してポツリポツリと話始めた。

「私の本当の名前は愛理(アイリ)黒須賀(クロスガ)。ここではない世界から来た。なぜか転移した時に性別が変わっていて…」

 ジョブとスキルを選ばされたこと、この町に飛ばされたこと、他の転移者には会っていないこと、そして自分の能力のこと。

 ここに来てからの出会い。ハクとブランが聖獣であること。そして、指名依頼を受けて、貴族と知り合いになったこと。

 自分のジョブが生産系で、想像することでいろいろなものを作れること、派生スキルで魔力回復超があること。スキルは洞察力、あらゆる人やもの能力が見えること、そして魔法は全魔法属性で、ハクが言うには全てが上級以上使えること。


 隠さなければならないことが多すぎて人と親しくなること避けていた。

 戻れないあちらの世界に家族がいて、もう会うことができないと。その喪失感から人と触れることが怖かったこと。

 昨日イリィが言ってくれた受け止めなくてもいいから受け入れて…その言葉は私こそが誰かに言いたかった言葉なんだと気がついたこと。

 イリィの想いにこの世界で生きていく覚悟ができたこと。

 今私が言えるのはこれだけ。こんな話信じられないかもしれないけど全部ほんとの話。

 イリィは信じてくれる?




面白いと思って貰えましたらいいね、やブックマークをよろしくお願いします!

励みになりますので^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ