361.新しい迷宮4
少し歩いて行くと、黄色の幹をした木があった。狼やリーダーたちは、その木の周りで、ゆったりとくつろぎ始めた。
近くにやってきたバクセルが
『黄金の木の周りには魔獣がやってこないから安全地帯なんだ』
なるほど。ならば少し休めばいいのか。
『次の階層まで降りたら今日はもう終わりだね』
ハク様が言う。確かになんやかんやと結構な時間になってそうな気がする。本当はギルドに依頼達成の報告に行かないといけないのだが。その元となった場所に迷宮が発生したと、それが原因でゴブリンが大発生していたと。
しかし、ギルドに伝えに行くと言う事は、アイルをここに置いていくと言うことと同じだ。今の俺たちには、そんな選択肢はない。少なくともアイルが渡してくれた食料が尽きるまでは、ここで探したいとそう思った。
短い休憩を終えると、また進み始める。今までの階層と同じように魔獣を譲ってもらったりしながらそのまま進んだり。
ここまでは、危機に陥るようなこともなく、適度に体も動かしながら。ドロップ品も回収しつつ、安全安心な迷宮探索ができている。
いや、安全安心の迷宮探索ってなんだ。自分で考えておいて突っ込んでしまった。少なくとも、そんな明後日のことを考える余裕があるほど、快適に進んでいくのだ。
そして、この階層はまたあっさりと階段が見つかった。今までの傾向から見ると、偶数のときには普通に階段が見つかり、奇数のときには隠蔽された扉の奥にいる魔獣を倒さないといけないということらしい。
しかし、それも階層が進むに従って変わる可能性がある。大体5層ごとに階層主と呼ばれるボスを倒さないといけない仕様になっている迷宮が多い。
とするならば、ちょうど今階段を降りたこの第5層に、その階層主となるボスがいるかもしれない。
迷宮の中には、朝や昼がないから、時間の感覚がいまいちない。しかし結構進んできたからそれなりの時間になってるのだろう。
そう考えたところで、空腹であることに気がついた。
5階層に降りてからしばらく進むと、黄金の幹の木が立っていた。
狼たちがまだそこで寛ぎ始める。今回はかなりしっかりとくつろいでいることから、今日はここまでなんだろうと推察した。
『ここで寝るよー』
ハク様が言う。もちろん寝る前にご飯を食べるのだが。しかし干し肉と干し魚と水しかないのはさすがにちょっと辛いなぁ。
そう思っていたら、バクセルが料理を取り出した。どっから?何もない空間から出したように見えた。
しかもそれは暖かいスープと柔らかなパン、そしてステーキだった。
えっ、いや、ここは迷宮の中だよなぁ?なんでほかほかのスープが出てくるんだ…しかも焼きたてパンまで。
『アイルが持たせてくれた!僕たちの食事はアイルの魔力なんだけど、離れてしまったりしたときに魔力が貰えなくなるから、その代わりになるようにって食料持たせてくれてる。アイルが作る食事にはアイルの魔力が籠ってるからね!』
どんだけ過保護なんだ…妖精に持たせるにしては、ずいぶんと手厚い食料だ。しかし、我々の分も出してしまったら、バクセルの分がなくなってしまうではないか。
「バクセルの分がなくなってしまうよ」
しかし、バクセルは
『大丈夫ー減ったら自動で補充されるから』
はっ?減ったら自動で補充される…どこから誰によって?
ポンッとナリスに肩を叩かれる。
「ラルク、考えたら負けだ!」
た、確かに。何に負けるのかは分からないが…アイルのすることに理由を求めてはいけないだろう。へんに納得してしまった。
ということで、有り難く頂く。うん、美味い!安全な場所で温かなスープと焼きたてパン、そしてステーキ。これは迷宮探索だよな?いいのか、これで。
何かが大きく間違っている気がするが、やはり考えても仕方ないんだろう。アイルだから、な。
迷宮の中は寒くも暑くも無く、快適だ。そう思っていた。しかし
『あーアイルの防御は快適なんだよね!』
とバクセル。防御に快適とかあるのか?
『もちろん、苦しみを伴う防御なんて嫌でしょ?』
それはそうだが。
はぁ、疲れた。ゴロンと横になる。すると、近くに狼が寄って来た。直ぐそばに密着する。柔らかな毛と暖かな体温。疲れもあってアイルを心配しながらも、スッと眠りに落ちていった。
ラルクたちがアイルを探して迷宮に潜っている頃、アイルは…
う…ん、眠い。あれ、1人?いつもは周りにもふもふとかふかふかがいるのに。ここ2日ほどは人も一緒に寝てたから、なんか新鮮だ。
ゆっくりと伸びをして起き上がる。あれ、ここは…?
あ、思い出した!家の中だ。
イヤーカフの家。ポーチにはさらにしっかりした家があるけど、流石にね?1人だし。
でもここも快適だよ。食料はあるし、ベットもふわふわの毛布もある。シャワーだって普通にシャワーって出るのがある。
居間にはソファもあってね?まさか芋虫や凶悪顔のうさぎがいる迷宮の中だとは思えないよな。
ふぁぁ、良く寝た。今何時かなぁ?
『夕方の4時頃だよ』
ビクトル、そんなに?
「僕、結構寝てた?」
『うん、スヤスヤと』
「快適だったから。これからどうしよう。ねぇ、ここは迷宮の何処かなんだよね、僕はどうしたらいいの?」
『アイルは迷宮のこと知ってる?』
「知らない…」
『そこから説明するよ』
それからビクトルによる僕のための迷宮講座が始まった。ふむふむ、罠があったり魔獣が襲ってくると。
で、何やら報酬?ドロップ品というご褒美付きと。
階層というのがあって、深いほど難易度が高い。その分、報酬もいい。
階層によっては主と呼ばれる魔獣がいて、倒さないと先に進めない。
うへー大変。
「僕はどの層にいるの?」
『…』
「ビクトル?」
『多分、48階層』
「それって深いの?出るの大変?」
『一般的にはキリ番の階層には地上に向かう転移陣がある。ただ、階層を降りる場所には使えるけど、上がる時には使えない』
なんで?
『倒さず下から上がって来たから』
「良く分からない」
『降りて来て、その階層の主を倒さないと転移陣は現れない』
「登ると階層主を倒しても、転移陣は現れない?」
『階層主に出会えない』
それはもうひたすら上がるしかないのか。
「ちょうどいい感じの罠で上の階層に飛ばされたりは?僕が飛ばされたみたいに」
『可能性あるけど、さらに深く飛ばされるかも…』
う、それは嫌だなぁ。芋虫とか芋虫はもう嫌だし。
「今日はもう少し上に上がったほうがいいかな?」
『もしくは、下に降りて50階層のボスに挑むか』
「それは危なくない?ボスって強いんでしょ?魔法は使えないし」
『ジョブがあれば大丈夫かと』
うーんでもやっぱり深く降りるのは無しかな。
「上がるだけにする」
『ならば、少しでも上の階に行ったほうがいい』
「芋虫いない?」
『多分、45から50は昆虫とか小型魔獣の階層だと思う』
「昆虫?えー嫌だよ…もふもふがいい。あ、凶悪顔以外のな」
『難しいと思うよ』
残念…。ま、仕方ない。上がるか。
家を出てイヤーカフに仕舞うと、歩き始めた。
「階段の場所分かる?」
『僕には分からない』
『分かるー!』
トム?
『ジェリーとさっき散策したから』
えっ、危なくない?
『くすっアイルの防御があるから』
僕の?何それ…
『アイルは彼らに防御結界をしてるんだ!』
「…いつ?」
念の為な、答えは想像付くけど。
『無意識に…』
やっぱり。ま、いいことだろうから、良しだ。元僕の能力は相変わらずチートだな。
時系列整理 年明け以降
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
アイルが川蛇の依頼を受ける
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける
アイルたちが迷宮を発見する
アイルが迷宮の罠に飛ばされて行方不明になる
ラルクたちが迷宮に潜る
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
1月22日 イーリスがゼクスに到着
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発




