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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第7章 新しい迷宮

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355.次の依頼とギルドの職員

 アイルの危うさ、それは自分だけで充分過ぎること。それは他の追随を許さない。許さないが故の孤独。

 寄り添わなければ、そう思ったのだ。きっとナリスも同じ感覚だろう。それが、いつの間にか、その人柄に強烈に惹かれ始めている。

 参ったな…


 世の中には何かをした対価に自分を要求される事がある。俺はたちならその存在や体だ。

 実際にそういう要求をされ、断れずに相手の所有物になる事もある。普通はそこまでならないが、今回のように命を救われた、となれば別だ。

 俺の自由や今後の全てを差し出さなければならない可能性もあったのだ。


 それなのに、アイルはまるで何もしてないよ、とばかりの態度だ。もし、アイルが何もしていなくても…彼の連れている魔獣が命を救ってくれたなら。アイルはその対価を要求する権利がある。


 だからこそ、自分の全てを彼に捧げるつもりでいた。なのに、結局は助けられてばかりだ。食事にしろ、昨日の討伐にしろ。あの網が無ければあんなに簡単にはいかないだろう。

 しかも危険がない依頼で食べ物が手に入り、さらに稼げるなんて最高だ。

 依頼を選んだのも、網を作ったのもアイルだ。全く…。


 首に感じるアイルの唇の柔らかさに居た堪れなくなった頃、アイルが身じろぎした。そのまま顔を上げて俺を見る。間近でみるその目はまだ眠そうだ。何度か瞬きをしてから

「テオ…良く眠れた?」

「あぁ、ぐっすりだ」

「顔、赤いけど…大丈夫?」

「そ、それはお前が抱き付くから…」

 アイルは首を傾げる。なんでって顔だ。

「お前な、少しは危機感を持てよ…その整った顔と銀色の髪と目。目立つし、儚くて離したくなくなる。変なやつに攫われないような気を付けろよ!」


 アイルは目を開くと

「大丈夫だよ…僕は目立たないようにしてるし、地味だから」

「だー、そういう事じゃ無いんだ。顔だって充分整ってるだろ!」

「そんな事ないよ。テオたちの方がよほどカッコいいし。それに、守ってくれるんでしょ?僕の騎士なんだから」

 うっ…真っ直ぐな目でそれを言うのか。その銀色の目に吸い込まれそうになる。

 なんて澄んだ目…ごく自然にその唇にキスをした。柔らかな感触に何かが心の中で動く。その頬に手を当てて、見つめ合って。もっと触れたい、そう思った。


 目を瞑ってまたその唇に触れる…


 前に


 ベロン


 …生暖かい舌で


 ベロン


 鼻ごと舐められた。アイルをのり超えてナビィ様に。顔にぎゅむと前脚の肉球が当たる。そしてしっぽを振りながら


 ベロン


 顔中舐められた。




 僕はナビィが僕を乗り越えてテオの顔を舐めるのを見ていた。

「ふふっナビィおはよう。朝から激しいね?」

『おはようアイリ!』

 そこでようやくテオの上から退いて僕の口元をペロペロする。可愛いなぁ、ナビィは。その柔らかな体を撫でる。今日も垂れ耳可愛い。頭もあったかいね。


 あ、ハクもおはよう。ふふふっしっぽ凄いね?毛布が持ち上がってるよ。

 あははっくすぐったいよ…耳は舐めないで。

 あ、ブランのほわほわな胸毛がおでこに。幸せだな。


「お腹空いたね」

『空いたー』

『ご飯』

「テオ、起きよう」

「お、おうっ」

 体を起こしてベットから降りる。うーん、良く寝たぁ。着替えたらご飯だね。


 ちょうど用意が終わったら扉が叩かれた。

「おーい、朝飯とギルドで依頼見ようぜ!昨日のは捕獲だったからな、今日は討伐がいいぞ」

 扉を開けるとナリスが手を挙げる。


「そうだね!何かいいのがあるといいけど。別に同じ依頼じゃ無くてもね。僕は1人でも大丈夫だし」

「「「ダメだぞ」」」

 ん、何で?

「ハクたちがいるから移動も問題無いし、戦力だって問題無いよ?」

「それでも、だ」

「そうだぞ」

「危ない」

 どこに危ない要素があるの?

「「「やり過ぎ注意だ!」」」

 あ、そっちか。でも僕がいたら暴走はしない筈。


「僕がいれば大丈夫だよ」


(だから暴走する可能性があるんだよ!)


 3人の意見は一致した。


 宿を出てギルドに向かって歩く。過保護だな、僕ってかなりの防御が付いてるんだよ?

 でもそれを知らないか…。

 やっぱり朝だから人が探索者ギルドに吸い込まれていく。

 僕たちも入る。賑やかだな。

 依頼紹介の窓口に並ぶ。


 あちらの知識だと、ギルドの窓口はきれいなお姉さんなんだけど、見渡す限り男性だ。そもそもそんな荒くれ者を相手にするのに、女性では大変だ。

 すると入り口付近で何やら怒鳴り声が聞こえる。ケンカ?これも風物詩みたいなもんかな。


 完全に他人事だと思ってたら

「聞いてんのか、おら!」

 すぐ近くで声がした。何だろう?振り向くと何やら厳つい男性が3人、こちらを睨んでいた。

 誰を睨んでるの?後ろを振り向く。前の人かな?脇に避ける。

「何避けてんだ、お前だよ!ペットなんて連れて来てんじゃねーよ!!」

 ペットって?さらに首を傾げる。

「そこに白いのと黒いのだろ、分かんねーのかよ」

 ハクとナビィ?ま、可愛いから仕方ないのか…。コムギはいいのかな。


 僕はナリスを見る。

 ナリスは心配ないという風に頷くと

「彼らは従魔だ、ペットじゃない」

「そんなもふもふで、どこがだ!」

 あれ、もしかしてこの人…。テオが遂に掴み掛かりそうになる。僕はテオを抑えると

「大丈夫、危険なことはさせない」

「しかしだな、やはり…」

「一緒にいたがるんだ、置いてくほうが可哀想だよ?寂しくてないちゃうかも」

「う、そ、それは確かに…しかし、危険じゃないのか?」

「大丈夫、全力で守るよ!元々、魔獣に襲われてる所を助けたんだ。だから今でも守ってあげたいと、そう思ってるよ」


 その人は僕を真っ直ぐに見ると、破顔した。

「よう、坊主…分かってるじゃねーか!」

「おう、くれぐれももふもふたちにケガなんてさせるなよ?」

「分かってる!そんな事させないから。安心して」

「俺は上級のバグスだ」

「同じく上級のガネラルク」 

「同じく上級のガリレイ」

 うわ、強面なのに礼儀正しいな。

「中級のアイルだよ、お兄さんたち」

 と応えると

「お兄さん」

「お、お兄さん」

「お兄さん…良き」

 どうしたのかな?なんかブツブツ言ってる。まいっか。


(また無自覚にたらし込んだ…)


 3人の意見はまた一致した。



 あ、次だ。

「次だね、どんなのがいいかな?討伐か、でも僕は採取にしようかな?みんなが受ける近くで取れそうな薬草とか」

「それがいいかもな。おっ、空いたぞ」

 職員さんはまだ若そうな男性。

「カード」

 僕たちはカードを出す。

「希望は?」

 ナリスが代表して

「討伐系、その近くで薬草採取があれば」

「中級ならゴブリンの巣の討伐が緊急案件。3人以上の中級者を派遣するのが適当と判断した。行けるか?巣の規模にもよるが、緊急だから依頼料もまぁまぁ高い。1人大銀貨3枚と、討伐数に応じた金額が上乗せされる」

「巣の規模の見込みは?」

「…最低100」

 それが大きいのか小さいのか僕には分からなかった。


 ナリスはテオとラルクに確認する。

「どう思う?最低はほんとに最低かも知れないぞ?」

「緊急なら確かに…」

「しかし、誰かが受けなくてはいけないのなら…受けるべきではないか?」

 ラルクは真面目だな。僕はチラッとハクを見る。しっぽがわっさわっさと揺れてる。ナビィを見る。しっほがブンブン振れてる。ブランはソワソワと羽を動かして、コムギは足元で丸まってた。

 うん、コムギたんはまだ赤ちゃんだからね。パパと一緒だよ?

「それなら僕も参加する」

 ラルクが僕を見て優しく笑った。その笑顔を見てテオが固まっていたけど、何でかな。


 ナリスが

「その依頼、4人とも受けるぞ」

「その子供もか?」

「子供じゃない」

「そんなに小さくて細かったら子供だろ?」

 魔力が動く。何だ、これ?僕は手を伸ばして、その人の指にそっと触れた。するすると魔力が抑えられる。

 この人もごく自然に魔法を使えるみたいだ。

「雷…?」

 僕を真っ直ぐ見る。

「魔術師…か」

「ん?違うけど」


 僕から目線を外すとカードを機械に通して書類を書く。

 カードが返却される。

「場所はここから西へ5時間ほど行った場所だ。急ぐなら馬車も借りられるが?」

 テオとラルクは馬がいたよね。馬車を引かせてる馬にナリスが乗れるなら馬車はいらない。

「ナリスはあの馬車の馬に乗れる?」

「あーあのヤンチャじゃ無い方なら乗れるぞ」

「なら馬車はいらないね」

「馬があるから大丈夫だ」

「なるべく早く行ってくれ」

 ナリスは頷く。

 窓口を離れようとすると、職員さんは

「ロキだ」

 ん?

「死ぬなよ」

 そう言って僕の頭を軽く撫でた。

「ありがと、ロキさん」



 ロキが名乗ったこと、アイルの頭を撫でた事、そしてありがとと言われて僅かに口角が上がったこと…それを見て回りの探索者が完全に動きを止めた事に、アイルは気が付かなかった。



 雷神という二つ名を持つロキ。さらには表情筋が死んでいることから機械人形という別名もある。そのロキが誰かの頭を撫でる…あり得ない。

 しかも死ぬなよ、と。普段のロキなら依頼を選んで紹介しているんだから、死んでも自己責任。力量も分からないのが悪い、と公言する。

 そのロキが、だ。さらには口角って上げられるんだ、と誰もが思った。



 ロキはロキで自分の魔法の発動には自信を持っていた。それを見破られた。さらには発動寸前で霧散された。衝撃だったのだ。まだ小さな手が自分の指に優しく触れたその温もりに、不思議な感覚がした。悔しさではなくそれは歓喜。


 そして、フードの奥から自分を見るその目が、真っ直ぐだったことが新鮮だった。ただひたすら真っ直ぐに自分を見る多分、少年。顔は良く見えなかったけど、心地良い声、自分の手に触れた細い指。

 感じたことのない気持ちだった。また会いたい、そう思ったら名乗っていた。死ぬなよ、なんて言ったことなどない。

 その出会いが今後、自分を変えるような予感がした。




時系列整理 年明け以降


1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発

アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く


1月2日 麓の村をナリスと出発


1月6日 ロルフがフィーヤ着

アイルが町レイニアに着く。馬車を買う


1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着

アイルが布を仕入れて町を出発

ライラたちが襲われる

ゼクスと王都にロルフから手紙が届く


1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発

魔術師団がゼクスに出発


1月9日 アイルがハク、ブランと再会


1月10日 ミュジークと捕虜を解放

アイルが村が救う


1月11日 魔術師団がゼクスに到着

近衛騎士たちが村を出発

アイルたちが村を出発

 

1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発


1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着


1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする


1月18日 ロルフたちがフィフスに到着

アイルが川蛇の依頼を受ける


1月19日 ロルフたちがゼクスに到着

アイルたちがゴブリンの討伐依頼を受ける


1月21日 ロルフたちが死の森に行く

イーリスたちがアレ・フィフスに到着


1月22日 イーリスがゼクスに到着


1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発


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