36.ハクとのお出かけ2
そよ風が髪を揺らす。心地よい微睡からゆっくりと浮上する。暖かい…目を開けると鮮やかな緑が目に入る。あぁそうだ。ハクとお出かけしてたんだ。手を頭の方に伸ばすとハクの顔に触れる。優しくその頬を撫でるとペロリと舐められた。
顔を上げてハクを見る。しっぽがパタパタ揺れる。首元の毛に手を入れてもふもふする。柔らかい…。
そうだ、ハクにリル草の蜜を使ったクレープを作ってあげなきゃ。ゆっくりと起き上がってハクを撫でる。
「ハク、クレープ作るよ!花の蜜のオヤツ」
『やったーー!食べたかったんだー』
竈にフライパンの乗せて温める。ポーチから材料を出して混ぜ混ぜ。バターをひいて生地を薄く広げる。ちゃっちゃっと焼いていく。10枚焼けた。
蜜をかけて畳む。ハクのお皿に4枚、自分には1枚。自分用から少し千切ってブラン用に。皆んなで一斉にパクリ。
『美味しい〜』
『ぴきゅっ(美味しい〜)』
おっ、昨日より蜜の味が馴染んだ?より濃くなってるかな?うん、美味しい。
ハクもブランもすぐに食べてしまった。
「まだ食べる?」
『食べるー』
『きゅぴぃ(食べるの)』
残りは5枚。食べ過ぎは良くないからハクにはあと3枚と半分。後の半分はブラン。少し多いかな?と思ったけどすぐに無くなったよ。
喜んで貰えてよかった。今日の目的だったからね。
片付けをして少し早いけど戻ろうとした。するとハクが鼻をヒクヒクさせて
『珍しい花が咲いている』
と言う。近いから寄って行こうと言うので並んで歩き出す。
草原に並行に進むこと10分くらい?でお花畑に出た。一面黄色。これはまさか…?
(菜の花。食べられる。おひたしにすると美味。蕾はフライにすると美味。油が取れる)
うほーい!これまた来たよーー。菜の花油。天ぷらとか天ぷらとか作るのに欲しかったんだよね。油。こっちのは脂なのか臭いがね…揚げ物とか無理って思ってたからこれは嬉しい。
さらに菜の花に混ざってラナンキュラスらしき大輪の花を発見。
(ラナンキュラソー 観賞用 高価 ドライフラワーにすると長く持つ)
思わず吹き出してしまった。キュラソーって料理用のお酒の名前でしょ。オレンジキュラソーは良く使ったっけ。
菜の花はまだ咲き始めで直ぐには散らないみたいだから近くの蕾と花を少々刈り取る。油取るなら人手がいるね。レオとルドに手伝ってもらおうかな。
菜の花は押し花とかでも可愛いよね?それならイリィの作品にも使えないかな?金属に花を付けるのってどうするんだろう?透明の膜で覆う?
うーん樹脂とかあれば出来るのかな?近くの木を見る。樹皮に脂が滲み出てないかな?
ん?この黒いのは樹脂?いや、ゴムか。
(樹液 粘性がある)
他も見てみる。茶色い水かな?
(樹脂 固まると透明な膜になる)
おぉ、これだよこれ。
取り敢えず、今は放置するけど菜の花を採りに来る時、イリィも連れてこよう。
さて、今度こそ帰りますかね。ご機嫌なハクと肩が定位置になったブランと草原に出て町に歩いて帰った。
今日は何事も無く終わるね!と思ってのがフラグだったよ…平和な1日よカモーン!
東門から入ろうとすると、
「アイルだな、少し待て」
と衛兵に言われた。既視感…するとこれも既視感のある衛兵が奥から出てきた。
「ギルマスから伝言だ。ギルドに来い。伝えたぞ?」
そう言うと、今度は何したんだ?と笑いながら奥に戻って行った。
時間のある時にって付いてないのか…ハクを見る。
『仕方ない』
今朝寄ったばかりなのに…嫌々ギルドに向かうのだった。その途中に気がつく。そう言えばブランの足環を付けていない。少し寄り道して市場に向かう。確か金属製品を売っているお店があった筈。その店先にガラクタ?みたいなのが格安で箱に入って…あったあった。何に使うのか分からない物や壊れたものが雑多に入っている。材料用なのかな?丁度いい。
壊れたブレスレットを発見。いくつかあって、どれも欠けたり割れたりした色付きの石が付いている。
(アクアマリン、シルバーストーン、サファイア、ブルートパーズ、エメラルド 割れているが小さくても上級)
おぉ〜上級とな。はい、石付きは全てお買い上げ。ブレスレットに限らず石が付いているものはけっこうあって結局37個買った。
ガラクタがまとめて売れて店主も大喜び。いらないのにオマケで3つのガラクタを貰った。まぁいいか。容量には余裕がある。人目につかない所で1つ以外はポーチにしまう。手元の1つには鮮やかな青い石、サファイアが嵌っている。これを加工してブランの足環に…想像して生産っと。よし、出来た。
門を入ってからはまた胸ポケットに入ったブランをそっと出すと手に載せる。その左脚に先ほどの足輪を嵌める。自動サイズ調整機能付き。記憶合金のイメージね!もちろんブランの体温の。
ではギルドに行きますか。その場しのぎのつもりで寄った市場でいい買い物が出来た。たまにはギルドも役に立つね、なんて失礼なことを考えながら。
東門からは探索者ギルドが近い。すぐに着いた。その時扉から出て来た4人組がいて、なにか悪態を付きながら私が来た方向とは逆に歩き始めた。珍しく黒髪が2人いたよ。びっくり。
中に入るとすぐにイザークさんが私に気がつき目配せをする。はい、いつもの会議室ですね。勝手知ったるでイザークさんに続いて行く。ここ何回通ったかな?なんて少し遠い目をしなら。
扉を開けると奥の席にロルフ様ともう1人。手前の席にはギルマスがいた。なんかこのメンバーはもう鉄板ですか?今日は知らない人いるけど。
そっと溜め息をつく。
ロルフ様は相変わらず無表情でもう1人の人と反対側の椅子をトントンする。これももう決まった流れですか…諦めてまた椅子の端っこにちょこんと座る。ハクが膝に飛び乗る。もふもふもふもふ…。
「おう、アイル。今回は早かったな!」
そらね、時間のある時にって付いてなかったからね。私は平穏な生活を望んでいるのですよ。
「殊勝な心掛けだな」
…私の心の声と会話してます?いや、まさかね…。
「流石に心は読めないぞ」
と笑う。いや、普通に会話してるよね?
「兄様、紹介して?」
ん?今なんか兄様って聞こえた?誰?
「アイル…弟のラルフ」
弟さん?そのラルフと呼ばれた弟さんはロルフ様の反対側の隣に座っている、知らない1人だった。
体を乗り出してこちらを見ている。
「君がアイル君か、兄さんから聞いてるよ。色々とお世話になったみたいだね」
笑顔だけど怖い。目が笑ってなくて、なんだか品定めをされいるみたい。
膝の上のハクが体を起こしてラルフ様を見る。ラルフ様はハクを見ておやおや、怒らせたかな?と可笑しそうに笑った。
その笑顔はごく自然で力が入っていた体が脱力する。
「ごめんね?試すようなことして。だって兄様が君の話ばかりするから…警戒するでしょ?侯爵家の長男に近づく人なんてさ」
いや、私は近づいて無いです。むしろ遠ざかりたいんです(遠い目)
「あぁ、僕はラルフリート・カルヴァン。カルヴァン侯爵家の次期領主だよ」
うわぁ、やっぱりガッツリお貴族様かぁ。知り合いたく無かったなぁ。
「初級探索者のアイルです」
ラルフ様はその手を伸ばして私の手を優しく掴む。その時にゾクっとして慌てて手を離す。驚いてラルフ様を見るとロルフ様が
「ラリィ、何をしている…?」
「ふふふっ兄様、大丈夫。見れなかった」
目を細めてこちらを見る。今のゾクっとしたの何?
『看破というスキルだな。アルの洞察力みたいな人の能力が見えるヤツだ。もっとも洞察力による自動排除で弾かれたようだ』
待って、情報量が多過ぎ!人の能力が見える?自動排除?私なんかした?
情報過多でぐるぐる考えていると
「ラルフ、やり過ぎだ」
ギルマスの言葉に肩をすくめる。
「バレないと思ったんだけどな。よほど人に知られたくないのかな?」
えっ?怖い怖い…
「アイル、申し訳ない…ラルフは私のことになると少し…自制が効かなくて」
ロルフ様を見る。心なしか寂しそうな顔。ラルフ様は次期領主と言った。ロルフ様の方が年上なのに?
知りたくなかったような…何か事情があるんだろう。だからラルフ様はロルフ様と採取に行った私を警戒して何かしらのスキルで私のことを調べようとしてってことか。
されて嬉しくはないんだけど、そんなに思われているロルフ様が少し羨ましく思う。ロルフ様は弟のために謝ってしまうくらいラルフ様を大切にしている。私にはもう家族がいない。もう会えない…ふと目の奥から熱いものが溢れてきた。
慌てて俯く。ハクが涙をペロペロ舐める。その首に縋り付いてしばらく泣いた。あまりに急に感情が昂って人前で泣いてしまった。いや、バレてない?
ハクの陰でそぅっと涙を拭うと顔をあげる。
心配そうなロルフ様と慌てているギルマス、ラルフ様は気まずそうだ。
目をパチパチさせる。どうしよう。困っているとロルフ様がそっと手を伸ばして涙を拭ってくれた。これまでなら手を振り払ってしまったと思うけど、今は大丈夫。
軽く頭を下げた。
ラルフがアイルに看破スキルを使った。彼は咄嗟に手を引いて青い顔をしている。スキルを使ったのが分かったらしい。
ラルフの看破スキルは人の能力を見ることが出来る。近くにいるだけでも見えるが触るほうが詳細に分かる。かなり高度なスキルで、知らずに見られている人が多い。稀に弾かれるかともあるがほぼない。なのにラルフは見えなかったと?
なおも挑発するようにラルフが言う。人に知られたくないのか、と。確かに彼は謎が多い。しかし誤魔化そうとしているというよりは、言えないことに罪悪感を感じていると思う。言いたくても言えない理由があるような。
慌ててラルフのことを謝罪した。するとアイルは怒るでも呆れるでもなく突然犬に顔を埋めてしまった。その細い肩が揺れている。
理由は分からない。でも彼は何かに苦しんでいる、いや、悲しんでいるのか。その抑えた泣き声が心に染みた…ラルフは驚いた後に気まずそうにしている。
怒ると思ったのだろうか?アイルが怒っている姿は想像できない。それくらい穏やかな子だ。むしろ人と接するのを避けようとする様子が伺える。
ラルフの困惑が手に取るように分かる。周囲から散々な言われ方をした私を、ずっと寄り添い庇って来たのだ。私は人付き合いが苦手だから、一人暮らしを始めても既知の人以外と話をすることすらなかった。
その私が同行の強制指名依頼を出したのだ。驚くのも分かる。強制依頼を出すと領主と貴族家に連絡が行く。しかも日帰りの予定が3日になり、さらにケガをしたとなればラルフが警戒するのも頷ける。
だからこそ、心配させないために席を設けたのだが、拙速だったろうか?
ようやく顔を上げた彼は見えないように涙を手で払拭う。おずおずとこちらを見たその頬は涙で少し濡れていた。思わず手を伸ばして顎に手を当て、親指の腹で涙を拭う。今回は手を払われなかった。
軽く頭を下げるアイル。伏せた目の上のまつ毛に涙の粒が付いていて…光に反射してきれいだった。
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