351.川蛇の討伐
ビクトルは僕が1人で寂しい時にコムギと出会わせてくれた。精神体になったのも、実体化したのも僕の為。
ビクトルの言う通りにしたらナビィやハク、ブランにも会えた。
僕には分からないけど、ビクトルは絶対味方だって信じられるから。僕は小さなビクトルの頭を撫でる。
「分かったよ、これからもよろしくな!」
ビクトルは嬉しそうに飛び回ると僕の鼻にキスをした。
「行こうか!」
去っていくアイルをアスクルがドアを細く開けて見ていた事をアイルは知らなかった。ビクトルは気が付いていたが、問題ないと判断した。
窓口に戻るとナリスたちが心配そうに待っていた。
「アイル、どうだった?」
「うん、依頼達成の手続きと、これ!」
銀色のカードを見せた。
ナリスもテオもラルクも驚いて
「凄えー」
「やったな」
「頑張ったな」
それぞれに声をかけてくれる。
前の自分がやった事だし、実感はないけど嬉しい。
「へへっ」
「おう、報酬渡すぞ?」
職員さんが声を掛けてくれる。
「あ、お願い!」
カードを渡す。機械を操作して固まった。何度か確認してから声を顰めて
「凄いな…これ現金はやめた方がいいぞ?」
え、なんで?
「金貨10枚とか危ないだろ?」
へっ…何でそんな大金。
「そ、そうだね?どうしたら…」
「口座に入れるか?」
「出来るの?」
「普通はしないが、な。金貨を超える報酬の場合は出来るぞ!」
「じゃあお願いね?」
「任せろ!」
良かった、親切な職員さんで。ヒソヒソしてたからまた3人が心配そうに見てる。
終わったらナリスが
「大丈夫だったか?」
「うんお待たせ。依頼は紹介してもらった?」
「アイル待ちでな、似たような討伐系が受けられたらと思って」
「依頼だな、討伐なら群れが棲みついたってのがいくつかあるぞ?」
「どんなのだ?」
「ゴブリン、コボルト、ジャイアントトードー、魔魚、オークもあったか…よりどりみどりだ!群れは受ける奴がなかなかいなくてな…」
(ビクトル、食べられる?)
(ジャイアントトードーはそこそこ、美味しく食べれるものなら魔魚とオークだね)
うーん迷う。
「リバースネークってのもあるぞ?」
リバー?川の蛇?
(うなぎってやつだよ!)
「それ!受けるよ!!」
「10匹単位だからな、相当数が群れてるらしくてな…4人で行って狩ってくれたら助かるぞ」
「残さなくていいの?」
「全部狩ってもいいってさ」
僕は振り向く。
ナリスたちは嫌そうだけど、僕だけでも行くからね!
「それでいい」
ラルクが一緒だ、嬉しい。
「ラルクありがとう!」
するとナリスとテオも渋々頷いてくれた。やったーうなぎの蒲焼だー!
ってタレがないか。それなら白焼きだー!
場所を聞いてから出発。もっとも僕は全く分からない。
あ、その前に朝食だね!
ナリスが
「なぁ、アイル。昨日のあのパンが食べたい」
「ふわふわ?甘々?」
「どっちもだ」
んーふわふわは発酵の時間があるからなぁ。
「朝食に?」
「おうっ」
「ならちょっと工夫するよ。ふわふわは時間かかるから無理だよ」
「甘い方は作れるのか?」
「少し変えるけどね?お腹いっぱいになるように!屋台に行こう!」
ぞろぞろと屋台に向かう。
門の出口付近にいくつか出てた。あ、あった!串焼き。後はハムとかソーセージが欲しいな。
「金は出すぞ?」
「串焼き10本とハムとソーセージも…10本」
「おうっ」
ナリスが買いに行く。
「朝から串焼きか?」
「うーん、秘密?」
テオに頭をクシャッとされた。
「楽しみにしてて!」
ナリスが買ってきたのでそのまま進む。
もちろんハクとナビィにコムギも一緒だよ。今日はいい天気だ。
門を出て少し歩いた所で、街道から逸れる。ここでいいかな?
(ハクー机と椅子、後は調理台作って!)
(分かったー!)
ドドンッ
さてと、配合は同じ感じだけどイースト菌なし。で、フライパンにバターを塗って火を弱めて…薄く薄く伸ばす。それをとにかく沢山作る。余ったらポーチのアリーナに仕舞えばいいし。
よし、出来た!後はトッピング。
葉野菜とハム、葉野菜と串焼き、葉野菜とソーセージ。
ソースはトマトとニンニクの塩ダレ風。串焼きは味が付いてるからコショウだけ追加。
最後のはリル草の蜜を掛けて、生クリームと桃。ゴールデンピーチはビクトルに止められた。すごく貴重らしいからね。だから普通の桃。チョコとバナナが欲しいなぁ。ま、その内ね。
ゴクリッ
振り返ると3人が唾を飲み込んでいたよ。
「お待たせ?」
「おうっ」
「お美味しそう」
「昨日と違うな?」
「食べて!こっちのは最後だよ?」
ハクとナビィ、ブランとコムギにも分ける。腕のポーチからトムとジェリーが出てきた。どうぞ?好きなの食べてな。僕はハムと桃のヤツで充分。
パクンッと、美味しいね。懐かしいなぁおかずクレープ。甘い生地と味の濃いおかずはとっても合う。
みんな無言でも食べてる。あ、はい。ハクはどれがいいの?串焼きね、はいよ。ん、ナビィも?どれ?ソーセージと甘いのね、はいはいどうぞ。コムギも?甘いのね、他のも食べなさい。んとブランはどれが、甘いのか、はいおかわりどうぞ。
トムとジェリーは流石にお腹いっぱいだね。ふふっ。
「あー美味い!」
突然テオが叫んだ。びっくりしたー、もう。
「急に叫ばないでよ…」
「テオ、うるさい。でもな、叫びたくなるのも分かる。それは美味い」
「あぁ、あの串焼きがこんな風になるんだな…もう普通に串焼きが食えんかも」
「野菜とパンで巻いただけだよ?」
「塩辛いのと甘いのとが絶妙なんだよ、この甘いのとか女子が好きそうだな」
「甘くないのも好きそうだぞ?野菜も取れて、生地は甘い。最高だろ!」
ふふふっ女子には人気だよ!
おかずクレープは男子に人気かも?持ち歩きが出来るからね?そこがまたいいんだ。
「良かった。手軽でいいよね!」
「おう、ありがとな!」
ナリスが頭を撫でる。サクッと片付けて出発。目的の川は町から歩いて30分くらい。
「そういやアイルも空間拡張カバンなんだな」
「うん。みんなそうだよね?」
「そうだな。川蛇って大きいのか?」
「だいたい1から2メルらしいぞ?」
「入るのか?籠とか持ってきてないが」
「大丈夫じゃない?手分けすれば。ハクたちもいるし」
なんたって亜空間収納が使えるからね!
だいたい30分ほどでその川についた。近くに村がある。覗くまでも無かった。だってもうそこら中にね、うなぎが溢れてる。
これは困るだろう。跳ね回るし、もうバチャバチャしてる。
「うわぁこれはまた…」
「凄まじいな」
「どうやって取るよ?」
「網で掬う」
僕はそこら辺に落ちていた木の枝で網の骨角を作った。後は布を嵌めればいい。
水が通るような布ってあったっけ?
あ、これは?虹蝶の羽。大きいからちゃうど良さそう。
うん、嵌ったね。試しに、あっと水は通すんだね!うん、いい感じ。
あと3つ作ろう。サッサとね。よし、出来た!
「はい、水は通すからね。たくさん取ってよー」
3人に渡すと少し離れた所で網を投入。おぉー大漁。ハクはテシテシしながら亜空間に収納、ナビィはしっぽで跳ね上げて亜空間に、ブランは滑空して嘴で跳ね上げて亜空間に、コムギは爪でバサッとやってやっぱり亜空間に。なんと、トムとジェリーまで。トムのしっぽをジェリーが待ってトムが跳ねるうなぎを収納してる。やっぱり霊獣も亜空間に収納出来るんだ!
触るだけっていいなぁ。
僕も亜空間収納が欲しい!そう思いながら網を振るったら、網に触れたらうなぎが消えた。
えっと…どこ行った?
(アイルの亜空間に収納されたよ!)
(ビクトル、僕も亜空間使えるの?)
(使えるよ!)
(知らなかった)
(亜空間からポーチに転送も出来る)
(そうなの?ポーチにしまう手間が省ける?)
(省ける!)
(それは便利だね)
(彼らには言っちゃダメだよ?)
(分かった)
網を振るうだけでいいからすごく楽。ドンドン取るよー!
…いや、どんだけいんの?
網を振るうだけって言ってもね?疲れるんだよ…休憩。
みんな元気だなぁ。ボーッと座って見てた。
だってさ、僕の収納にはもう200匹はいるんだ。それでもまだまだ跳ねてる。
ナリスもテオもラルクも息も切らさず網を振ってる。僕も体力付けないと。
でもさ、ナリスは190セル(cm)くらい、テオとラルクも187セルくらいある。要するに、大きい。
僕はまだ165セルくらいだし、細いからやっぱり体力無いんだよねー。
鍛えようかな?腹筋割れたい!
そっとシャツをまくる。…割れてない上にアクセサリー付いてるし。
ちなみにアクセサリーは耳のシンプルなピアスとイヤーカフ、左手小指(右手小指のを付け替えた)の指輪以外は隠蔽で見えなくしてる。
触っても分からない隠蔽にした。だってね、ピアスとかはけっこう目立つから。おへそのアクセサリーだって、昨日バレたら何を言われたか分からないし。
で、お腹。割れたいなぁ。
「くすっ」
ん?あ…テオに見られてた。恥ずかしい。シャツを戻す。
「割れたいのか?腹筋」
「うん、みんなカッコいいから」
テオは隣に座ると
「アイルはそのままでいいけどな」
「僕が嫌だ」
「そっか、じゃあ筋トレやるか?」
「やる!」
「付いてこいよ?」
「うん」
えへへッ嬉しい。
「アイルって素直で可愛いよな」
「テオだってまだ17だよな?」
「アイルは12くらいか?」
「13だよ!」
「へーまあな、顔立ちは幼いけど知識は偏ってるがあるしな…背はこれからだな」
「うん、すぐ追いつくよ」
流石にもう2時間も経ったからナリスとラルクも休憩だ。
「しっかし減らねーな」
「どんだけいんだよな」
「岸に上げたヤツはアイルか?」
「ん?トムとジェリーが回収してたよ」
3人は顔を見合わせる。
「一応聞くが、何処に?」
「さぁ?」
そこにトムとジェリーがチョロチョロやって来て胸を張った。ヒゲもそよいでる。
『亜空間だよー!』
『えっへん』
…言っちゃったね?
(仕方ないよ、霊獣だって言って大丈夫)
「「「亜空間!」」」
凄いドヤ顔。
『そうだよー』
『凄いだろうー』
するとハクがやって来て胸をそらす。しっぽもゆらゆら。
『僕も使えるよー』
コムギも後ろ脚で立ち上がる。
『僕もー』
ナビィはコムギにのしかかり
『ナビィもー』
ブランはハクの頭に止まって胸を張る。
『もちろん僕もー』
「「「…」」」
ナリスが僕を振り向くと
「あー、アイル。前から聞こうと思ってたんだが、彼らはその…」
(ビクトル…どうしよう?)
(任せてー!)
『はーい、妖精のビクトルだよー!』
時系列整理 年明け以降
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町レイニアに着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
アイルたちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月16日 アイルたちがロイカナの町に到着
1月17日 アイルが探索者ギルドで依頼達成の手続きをする
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
1月22日 イーリスがゼクスに到着
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発




