345.村の襲撃2
じっと僕を見るとラルクはスッと跪く。胸に手を当てて。
「私はアイルに誓おう。君に対して、忠誠を誓うと」
えっと、困ったなぁ。こういうのはいらないんだけど。
「急に言われても困るか、何が出来ることがあれば…」
うーん、あっなら
「あのね、白い馬に乗った女の子を見たら助けてあげて!」
ラルクは顔を上げて
「白い馬に乗った?」
「うん、たまたま助けてね?」
「たまたま?」
「そう、だから…元気だといいなって思って」
ラルクは唖然とした。たまたま助けて、それだけで見かけたら助けてあげて欲しいと?自分は何も求めずに。
そして気がつく。待て、あの白い狼と鷹はあの時の?
我々に突撃した勇ましい姿を思い出す。我々は蹴散らされた。いとも容易く。
気が付かなかった。あの時の勇ましいというか、激しい姿とは余りにも違うから。
しっぽを振ってアイルに頭を擦り付ける。肩に乗って胸毛を頬に寄せる。足元で寝転がる。頭で寛ぐ。
こんなにも違うのか?ならばあれはアイルの指示か?
『違うよ!僕たちはアルの魔力を感じたから助けた』
白い狼が喋った。
『そうだよ、ご主人の魔力を感じたならご主人が関わった。だから助けただけ。ご主人と再会したのはその後だよ』
白い鷹が喋った。
「ん?ハクとブランは彼を知ってるの?」
目の前のラルクは青ざめている。
『彼の元の傷は僕たちが付けたから』
『白い馬に乗ってた子を殺そうとしてたから…』
僕は驚いた。ケガはハクやブランがライラたちを守る為に付けたのか?
事情は分からないけど、悪い人たちじゃ無い。だってケガしてたのに村の為に戦って、さらにケガをしていた。ならば、僕に出来る事は?
慌てて屈むと
「ラルク、痛いところない?ごめん…知らなくって。僕の魔力を感じたから咄嗟に守ろうとしたみたいで」
ラルクは体を震わせると首を振る。
足を庇ってたから、痛めてるよね。その手を握って軽く魔力を流す。
ふわんと水色に光る。これでもう大丈夫。
なのに、目の前のラルクは震えながら泣き出してしまった。え、えぇ…どうしたら?オロオロしながら背中をさする。
あ、余計に泣いちゃった。途方に暮れてテオを見るとテオも泣いていた。
「どこか痛いの?」
さらに泣いた。何で?手を伸ばしてその髪に触れ、魔力を流す。ふわんと光った。足の傷も治ったね。
あれ…号泣してる。えぇ…ビクトルを見たら呆れた顔をされた。なんでさ。
『進化してるね!』
『無自覚天然人たらしが進化してる』
『もう、アイリってばまた人をたらし込んでー』
えぇーーー、濡れ衣だよ…。
なんか後ろの騎士さんも目に涙を溜めてるし。困ったなぁ。よし、誤魔化そう。
みんなみーんな優しい気持ちになあれー!
…僕は何も見えなかったよ?
さ、お腹すいたね?
「ご飯食べる人ー?」
「「はーい!」」
子供は可愛いね。
「おいでー!」
「「はーい!」」
村で口をポカンと開けて泣いている人とか、後ろで傷が治ったと叫ぶ人とかは目に入らないよー。
だってさ…村全体がふわんと光って…その後にはきれいな家や柵がね?新品かな…。
僕は何もしてないよ!だから知らなーい。
私は国の為に近衛に志願し、厳しい訓練と試験を通って無事、近衛騎士となった。
近衛騎士は王族を守る剣であり、盾だ。
私が付いたのは第一王子。第二子となる正妃のご子息だ。しかし、この国は第一子に王位を継がせる。
第一子は妾の子で、表には出てこなかった。国の政策にも関わらず、その動向は一切知れなかった。
すでに成人となる15才を迎え、王位の継承をされる筈が音沙汰が無い。
私は憤っていた。次期王が国の為に何もせず、権利だけを享受している。許されない!
そんな折、第一子である王女が出奔したと聞かされた。許せなかった。病気やケガで退役する同僚や、貧しい村で亡くなる子供。それなのに、贅沢な王宮で贅沢に過ごし、贅沢な食事を食べている人が責任を捨てて出奔した。
あり得ない暴挙だ。だから、追っ手を近衛騎士から出すと聞いて志願した。殺さず捕らえよと言われていたが、隊長は見つけ次第殺せと厳命した。それに誰も意を唱えなかった。もちろん、私もだ。
しかし、見つけた時に違和感を感じた。かなりの追っ手がいた筈なのに。王女を守る騎士は統率され、主を守る為に善戦した。
その王女も決死の覚悟で突き進んでいた。その目は贅沢を享受した人の目では無かった。その体つきは細く、肥えた様子もなかった。
死ぬなよと騎士に声を掛けて、一縷の望みにかけるその姿は凛々しく。
王女の近衛騎士はハズレだと散々罵られていたが、彼らの顔はしっかり顔を上げ、そんな素振りもなく守るべき主を必死に守っていた。
私はそんな風に王子を守れたであろうか?そして、王子は追い詰められて騎士たちを思いやる人であったろうか?
私は何を見ていたのだ?か細い体で馬を操る姿は王族の矜持に溢れていた。
何よりもあのアイルが助けた。いや、彼なら誰でも助けそうだが、あの周りのものたちはそんな事は許さないだろう。
そしてアイルは王女を殺そうとした私たちを、そうと知ってたった今、助けた。
さっきのあの光…静謐でどこまでも透明な、優しさに溢れる光。彼そのもののような、温かな。
私は、私のするべき事は何だ?
アイルは子供たちに串焼きを渡し、スープをよそっていた。
私はアイルの元に行くと
「アイル、私は君に生涯の忠誠を違う」
そう言って肩の近衛騎士の紋章を剥ぎ取った。アイルは驚いているようだ。
「えっと…」
「それが私の誠意だ。受け取ってくれないか?」
目をパチパチさせると、アイルの周りを光が舞う。
『受けてあげなよ!』
アイルはその光を見つめ、私を見る。何故だかとてもドキドキした。近衛騎士の合格発表よりも緊張する。
「よろしくね?」
と言った。私は胸に手を当てて腰を折った。そしてアイルの手の甲に軽くキスをした。騎士の誓いだ。
顔を上げるとアイルがもじもじしていた。その能力とか周りは凄いんだけど、アイルは本当に普通の子って反応をする。
思わずその頭を撫でると照れくさそうな顔をした。
テオがやって来た。そして俺と同じことをする。あっ、待て…俺よりも長く手の甲にキスしたな。
くっテオまでか。全く敵わない。ほんの少し頬を染めて私とテオを見る。
「食べようよ!」
完敗だ、なのになんて心地がいいのだろう。
私たちも村人も、行商(嘘だろ?)だというアイルとナリスも、大いに食べた。
王都を出てから1番楽しくて温かくて美味しい食事だった。
翌朝、私とテオを残し、8人はミュジーク様を追うことにした。敵対ではなくお守りする為に。
「行くぞ!」
「馬もなくて追いつけるか?」
「体は万全だ!出来る限り…アイルの意に沿いたい」
『なら僕に乗ってー』
白い鷹がやって来た。
こうして我々2人を置いて、彼らはミュジーク様の元へと向かった。
実は昨日、やたらと快適なテントをアイルが貸してくれた。その中で5人ずつに分かれて、やたらとふわふわでいい匂いがする毛布に包まっていた。
するとテントに光が舞った。私には筈かだが聖なる魔力がある。そもそも近衛騎士は魔法が使えないとなれない騎士だ。
だから全員がその光を見た。
私たちの目の前で光が人型になる。こ、これは…
全員が飛び起きて跪く。妖精だ。それは聖なるもの。我らを守護してくれるものだ。だからこの大陸では崇められている。
『僕はアイルの契約者』
やはり、聖なるものがそばにいたから。ならばあの奇跡も頷ける。
『顔を上げて!アイルはね、本当に優しい子。ライラたちも双子の騎士も、助けたとすら思ってない。アイルが助けなければ、死んでたのにね』
え、ミュジーク様は死ぬところだった?
『アイルはね、助けた人が笑顔でいられるようにって思ってる。笑って生きてくれるのが彼の望み。そんな優しい子』
我々は何も言えない。
『だから君たちも、ね。アイルの為だよ?』
本当にアイルは…我々すらも救ってくれるのか。
『ライラたちを助けてくれる?』
「「「はい!」」」
光がまた舞う。
『白い狼は銀狼、白い鷹は白大鷹、黒い犬は黒曜犬、小熊はちょっと隠蔽してるけど実はシルバーベア、白い鳥はミニドラゴン。他にも周りには無数の精霊とか妖精がいるよ。さっきの奇跡はアイルの願いを聞いて、聖なるものが頑張ったみたい』
「ぎ、銀狼とは聖獣の?」
「白大鷹とは聖獣の?」
「黒曜犬とは伝説の?」
「シルバーベアとは聖獣の?」
「ミニドラゴンとはあの魔獣の?」
『そうだよ!』
「「「…」」」
そうなるよなぁ。
『だからね、これは警告。アイルの気持ちを踏み躙るようなことをしたら…周りが黙ってないからね!聖獣にとって人の生命なんてどうでもいいんだ。もちろんライラたちだってどうでもいい。アイルが気にかけてるから気にしてるだけ。彼らの興味はひたすらアイルだけだ』
我々はただ頷くことしか出来なかった。敵に回せば国が滅びる。それはもう確信だ。
とそんな事があった。私とテオは白い鷹に乗っていく同胞を見守った。
時系列整理
10月10日 審判の日
アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る
イグニスが神界でケガをする
10月15日頃
シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)
アルテノが祈りを捧げる
イザークがペンダントにざわめきを感じる
10月18日頃
ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食
アーシャが神聖の森に伝言をする
若木が根付く?
光の奔流が流れ落ちる アイルが消える
10月19日 ダナンたちが夫人たちと会食に参加
10月20日 アイルが目覚める
イーリスがイグ・ブランカに戻る
旧イグニシアで黒い光が飛んだ
ダナンたちが王都を出発
ハクが帝国で目覚める
ブランが郷で目覚める
10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける 合流
夜中に馬とネズミを助ける
帝国で白い光が駆け抜けた(ハクが駆け抜けた)
10月22日 ライラたちと双子の騎士と馬が合流 山を降りる
10月23日 ライラたちがナビィと出会う
ダナンたちが帰領する
ナビィがアイルと再開する
10月24日 ライラたちがベイクと再会
アイルが向こうの事を思い出す
10月25日 ライラたちが町を出る
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町に着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月9日 アイルがハク、ブランと再会
1月10日 ミュジークと捕虜を解放
アイルが村が救う
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
近衛騎士たちが村を出発
1月13日 イーリスたちがイグ・ブランカを出発
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
1月19日 ロルフたちがゼクスに到着
1月21日 ロルフたちが死の森に行く
イーリスたちがアレ・フィフスに到着
1月22日 イーリスがゼクスに到着
1月23日 アイル捜索隊がゼクスを出発
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