338.フィフスへの帰還
バナパルト王国の北部、王国を横断する街道を2台の馬車が進んでいた。
先頭は立派な黒馬が引く頑丈な馬車。探索者と思われる御者が馬を巧みにあやつる。
次は紋章こそ掲げていないが、明らかに高貴な馬車。御者も身なりが良く、パリッとした服を着ている。
その馬車の左と後ろには馬に乗った探索者と思われる男性が2人。
その2台の馬車は土煙を上げて高速で走る。そうは見えないのにとても早い。
ガラガラガラ
遮るものも、行く人も少なくなった街道を直走る。
旅の準備は整った。今回はリベラとソマリも一緒だ。森人の家族が見送りに来る。
僕、ソマリとリベラ。少ない人数でなるべく急ぐつもりだった。
なんでこうなった?
イグ・ブランカに着いた日、これからのことを話すためにエリアスを居間に呼んだ。この屋敷ごと移動するからだ。エリアスの住む場所のこと。
魔鳥をいくつか残したり、他にも伝えることがあったから。
扉が叩かれる。
イーリスと並んで座っている僕。リベラが扉を開けてエリアスを招き入れる。
あれ、呼んだのはエリアスだけなんだけど。
そこにはイグニス様がとグライオール様、ヒュランにキリウスとヨナがいた。
リベラが紅茶を淹れる。配り終わると部屋を退出した。僕はみんなを見て
「なんか、多いね?」
「当たり前じゃ、我の失態でもある」
腕を組んでエリアスの膝の上でしたり顔をするイグニス様。
「僕もだよ。大地神の威信に賭けて、ね」
何でかな。事が大きくなってる。僕としてはなるべく静かにアイルを探したいのに。
「帝国に向かう。もしかしたら、神聖国にも…」
「構わぬ!作った国を見るのも我の役目じゃ」
うんうんと頷くグライオール様。
「エリアスはここに残るのに?」
エリアスは目をパチパチをすると首を傾げる。ん?
「僕はもちろん一緒に行くよ?」
…なんで?エリアスはここでイズワットを受け入れるんだよね。
「キリウスもヨナもいる」
それでいいの、か。
「大切な人を、僕は探したい」
「エリィはアイルとしか子を成せぬ。種を存続するためにもアイルは必要なんじゃ。イズワットの愛は深い」
それでも、僕はここにエリアスが残ると思っていた。
ならば
「探しに行くのはまだ先。私は先にゼクスに。魔力を、イルの魔力を探す為に。魔道具の研究を。だから、もう少しここにいて」
探しに行くのは一緒に。だから今はここに。
それにはエリアスも頷いた。すると
「ならば僕は君と行こう!」
何で?グライオール様を見る。
「ふふっ楽しそうだからね。僕にもその魔力の、手伝わせて」
グライオール様は軽い口調だけど真剣な目をしていた。僕は頷く。
こうして翌日、僕は屋敷を収納してリベラ、ソマリそして僕とグライオール様、サリナスとブラッドにミスト、リツとアイリーンで旅立った。
ベビーズはヒュランの背中が気に入ったのか、離れなかった。
「我がおる!」
そうして旅は順調に進んだ。野営は相変わらずの快適さ。フィフスまで2週間かかる行程を10日で駆け抜けた。
フィフスではお父様とお母様、そしてラルフが迎えてくれた。
お母様はいつも通り飛びついて来た。その華奢な体を抱きしめる。
「ロリィ顔を見せて?」
「お母様、帰りました」
熱い抱擁の後は熱烈なキスをされた。
僕はお父様を見る。
「ロルフ、その…」
「イルは、居なくなりました。満足、ですか?」
お父様は固まって首を振る。
「違うんだ、ロルフ、私は…」
「ロリィ、イルのこと。王都に行って、上手く収まったわ。お父様も頑張ったのよ?それにイルが染めた布を贈ってくれたわ」
「私は、なんて事を…」
倒れたイルを思い出して身体が震える。
「ロルフ、私は毒など知らない。試そうとした事は認める。それは、申し訳なかった。でもあんな事には…」
苦しそうに言う。そうか…お父様は怖かったのか。ストンと胸に落ちた。
「お父様…王都では?」
「大変だった。あの魔術師団閣下がなぁ…」
「もうイルを、試すのはやめて…」
「勿論だ!」
僕はお父様も普通の人だと知った。イルの能力を何処かで恐れいたのか、それは生粋の貴族だから。
分かったから、許そう。だってきっとイルはもう許している。
「兄様…」
震える声で呼ぶのはラルフだ。久しぶりだ。あれ、顔付きが変わった?
「ラルフ、いい顔になった…」
「兄様」
ラルフは僕にしがみ付くように抱き付いた。
「無事で…」
僕はラルフの髪の毛を梳く。元気そうで良かった。これもイルのお陰。
その頭にキスをする。ラルフは体を震わせながら、僕にキスをした。僕はラルフを抱き締める。
「兄様…」
大切なラルフ、いつだって可愛い弟だから。その名の由来、ラルフィーネ。今年もきれいに咲くかな。
「さぁ、居間に行きましょう。お客さまをお待たせしてしまったわ」
あっそうだった。サリナスとブラッドは町に宿を取る。なので、グライオール様をお連れしたのだった。
しかし、そこは出来る執事のリベラが早々に客間へ案内済みだった。
居間に行く前にグライオール様の客間を訪ねる。
扉を開けてくれたグライオール様は
「いいご家族だね!ふふっ」
と迎えてくれた。
「紹介させて下さい」
頷くといっしょに居間に向かった。
その日はとても賑やかだった。
まず、グライオール様が大地神と知ってお父様とお母様まで青ざめラルフも慌てて跪いた。
その後はイルと凍った白の森、イズワットと旧イグニシア。イルの失踪について詳しく。
さらにイグニス様とヒュランの話も。神様方に加護をたくさんもらった話ではお父様が固まってお母様は目を輝かせた。ラルフは目をパチパチして放心。
そして、私が帝国に貿易の為行く事を告げるとお父様が
「お婆様のご実家を頼りなさい」
と言ってくれた。父方のお婆様は帝国から嫁いだ。ご実家は帝国の2つある公爵家の1つであるスカイシーク家。
お婆様のお兄様が元公爵で、今はお父様の従兄弟が公爵家を継いでいる。確かお父様より5つほど年上だった筈。
それは有難い。
書状を書いてくれるという。今でもやり取りはあって、お母様の実家のエバルデル家とも貿易では行き来がある。
頼らせてもらおう。
こうして、久しぶりの実家では色々な話をした。夕食後はグライオール様は客間に戻られたので、家族だけで話をする。
ソファにラルフと並んで座る。お父様が
「ロルフ、貴族院への婚姻の届出だが、受理されていない。正確には受理されたが、止められている」
「公爵家、ですか?」
「多分な」
「ロルフにここを継がせたくない人がいるのよ」
「私は伯爵を継いで」
「まだ公表していないから、な。婚姻も公表していない。だからしてやられたようだ」
僕は考える。変わったラルフ、ラルフを探し出したハウラル殿。彼はラルフの甥に当たる筈。
繋がる、かな。
僕はラルフを見る。
「ラルフは何を望む?」
僕の目を真っ直ぐに見る。その目は相変わらず僕を慕う目で、情熱的な目だった。
「僕は、兄様の幸せを…」
僕の幸せ…か。それは叶うようで叶わない。でもそう、僕にはアイリーンがいる。
ラルフの幸せはどこにあるのだろう。自問自答したけど、分からなかった。もしかしたらラルフも分からないのかも知れない。
その日は久しぶりにラルフがお風呂に入れてくれた。交わることは出来ないけど、それでもいいからとラルフと一緒に寝た。
ラルフの幸せは何処にあるのだろう。
翌朝、僕は慌しく死の森に向かった。早く出れば今日中にはゼクスに付ける。
門の所でサリナスとブラッドと合流し、一路死の森へ。6時間かかるそこにも、なんと4時間で着けた。どうやらグライオール様が何かしているみたいだ。
そして、ユーグ様の元に向かう。
(来たよ)(来たね)
(待ってる)
(待ってた)
(ユーグ様が)
時系列整理
10月10日 審判の日
アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る
イグニスが神界でケガをする
10月15日頃
シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)
アルテノが祈りを捧げる
イザークがペンダントにざわめきを感じる
10月18日頃
ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食
アーシャが神聖の森に伝言をする
若木が根付く?
光の奔流が流れ落ちる アイルが消える
10月19日 ダナンたちが夫人たちと会食に参加
10月20日 アイルが目覚める
イーリスがイグ・ブランカに戻る
旧イグニシアで黒い光が飛んだ
ダナンたちが王都を出発
ハクが帝国で目覚める
ブランが郷で目覚める
10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける 合流
夜中に馬とネズミを助ける
帝国で白い光が駆け抜けた(ハクが駆け抜けた)
10月22日 ライラたちと双子の騎士と馬が合流 山を降りる
10月23日 ライラたちがナビィと出会う
ダナンたちが帰領する
ナビィがアイルと再開する
10月24日 ライラたちがベイクと再会
アイルが向こうの事を思い出す
10月25日 ライラたちが町を出る
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りて麓の村に着く
1月2日 麓の村をナリスと出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
アイルが町に着く。馬車を買う
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
アイルが布を仕入れて町を出発
ライラたちが襲われる
ゼクスと王都にロルフから手紙が届く
1月8日 ロルフたちがイグ・ブランカを出発
魔術師団がゼクスに出発
1月11日 魔術師団がゼクスに到着
1月18日 ロルフたちがフィフスに到着
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