334.それぞれの年明け
僕は山を降りた。確か麓には村があった筈。ん、でもこっちに何か…。誘われるように道を逸れる。
やがて踏みならされた道が見えた。やっぱり、この先に集落があるみたいだ。
コムギは僕の足元、ナビィは横を悠々と歩く。トムとジェリーはナビィの背中だ。ビクトルとバクセルは近くを飛んでいる。
道が開けた所に人がいた。3人かな…。金色の髪に緑の目。とても整った顔立ちの男性2人と女性だ。
シャツにズボン、ブーツそして茶色のローブにフードを被っていた。
「君が…救世主か?」
救世主?首を傾げる。
「まさか!こんな子供が」
女性には睨まれた。えっと、何かな?
「何か言え!」
女性が声を荒げる。そこでナビィとコムギからぶわっと魔力が溢れ出した。
「あ…」
マズいかな。小型化してたナビィといつもの大きさのコムギ。
それが怒りでナビィは普段の大きさに、コムギは大きくなった。
「ぐるぅ…」
「ぐわぁ…」
怖いっ…す。ナビィは牙を剥き出してるし、コムギは爪をシャキーンと出してる。
ダメだよ!
途端に怒鳴った女性が震え出した。
「な、な、な…」
僕は知らないよーっと。
別にここに用は無いし、やっぱり麓の村に行こう。
「行くよ!ここに用は無いし」
ナビィとコムギに軽く触れると、彼らに背中を向けて歩き出す。
ギュンッ
あ、マズい。瞬間、ナビィがそのしっぽを振り抜き、コムギが爪を振り下ろす。
シュパンッ
だから、もう。僕は知らないよ。ため息を吐く。そこには顔から血を流した女性と、背後の木が幹から切れて…倒れた。
ズドンッ
僕は冷めた目で彼らを見ると
「行くよ!」
ナビィとコムギはまだ彼らを見て唸っている。もう知らないよ、ほんと。
またナビィのしっぽとコムギの爪が振られる。
バキバキッ
彼らの周囲からは木が消えていた。
もう女性は立っていることも出来ず、崩れ落ちた。
「誰にケンカを売ったか、分かってるのか」
2人の男性はハタと我に帰り跪く。
「申し訳ない…どうか怒りを鎮めて貰えないか」
「…やったのはそっちだけど?何もしなければ静かに去ったのに」
「そ、それは…申し訳ありません」
男性たちは女性の頭を押さえつける。でも女性はまだ僕を睨んでいる。
僕だって怒ってるんだ。だから仕方ないよね?
魔力が溢れる。僕は軽く手を振った。消えろ!
途端に女性は弾き飛ばされた。見える範囲からは消えてもらうよ。ケガは治さない。僕たちは何もしてないのに、敵視したからだ。男性たちは動かない。震えながら蹲る。
僕は彼らを見ずに立ち去った。全く何だったんだ?あれは。もう時間の無駄だったよ。はぁぁ。
さてと、気持ちを切り替えて麓の村に向かうか。そこから元の道に戻ると村に向かった。あれ、意外と近かったな。
村の入り口付近には数人が立っていた。あれ、どうしたのんだろ。
僕に気がつくと、男性が2人近付いてきた。
「君は山から降りてきたのか?」
驚いている。僕は頷く。ナビィは小さく、コムギもいつもの大きさになってる。
コムギを見て驚いた。一応、銀色は聖なる色だから。でも隠蔽で茶色に見える筈。なんかね、銀色は目立つなぁって思ったら茶色に出来た。
よく分からないけどね?そしたらビクトルが
『アイルの能力だよー』
いつもやらかしてるけど、今回は良くやったって思ったよ。
「無事で良かった。近くの町の子か?危ないぞ?最近は何やら山が騒ついている」
う、その原因は多分僕かな。
(多分じゃなくてアイリだよー)
ナビィ、追い討ちかけないで?
「うんと、迷っちゃって…」
「とにかく、無事で良かった。さっきも大きな音がしてな…」
「何やら木が倒れたようでな」
「巻き込まれなくて良かった」
他のおじさんも加わってそう言ってくれる。なんだか申し訳無くなった。全部僕由来なんだけど。
「今日は動かない方がいい。村に泊まりなさい」
「うん、ありがとう。おじさん!」
微妙な顔をされた。
「おい、俺はおじさんじゃないぞ!」
そうなの?ヒゲがもじゃもじゃしてて分からない。
「まだ22才だ!」
えっと、年齢詐欺?うーん、まいっか。
僕はそのおじさん、じゃないらしい男性の家に向かった。
こじんまりとした粗末な家。でも、掃除がされてて凄く居心地がいい。
「凄く気持ちいい家だね…」
おじさんは破顔すると
「そうか、ありがとな!元は他の人の家でな。流れ着いたこの村で拾って貰ったんだ」
「へーそうなんだ?どこの出身なの?」
「王都…」
「帝国の?」
「ん?そうだぞ」
変な顔をされた。まぁそうか、王都はこの国に決まってるか。なんで帝国って聞いたんだろ。
まだ昼前だ。お腹空いたなぁ。
「何か作ってやるぞ!腹減っただろ?」
「うん、手伝うよ!」
並んで台所に入る。
おじさんは野菜と野菜を取り出した。あれ、肉はないの?
おじさんは気まずそうに
「肉は冬の間、取れないんだよ…ごめんな。貴重品だからな、お爺さんたちに優先して渡すんだ」
僕はポーチから猪の肉を取り出す。
「使って?」
おじさんは固まった。
「お、お、お、お前どこから…」
僕は笑って誤魔化す。
「沢山あるから、必要なら配ってね!」
おじさんはふっと笑うと僕の頭を撫でた。
「ありがとな、坊主」
「アイルだよ!」
「俺はナリス…ナリスだ!」
ん、と思ったけど僕は何も言わないよ!
ナリスは確かな手つきで肉を切って焼く。調味料は塩とコショウだ。コショウって確か貴重品だよね?
(そうだよー!貧しい村人が使える物じゃない)
やっぱりかぁ。ま、深入りはしないよ?
お肉と野菜を炒めた物とスープに固いパン。でも誰かが僕のために作ってくれる食事は凄く美味しかった。
その後はナリスに付いて山に入って枯れ枝を集めたり、キノコを取ったりもした。薬草もあったから取ったよ?
「ナリス、これ薬草。すり潰して使うと打ち身とかに効くよ!」
「こっちは熱冷まし、だね」
「これはお腹の調子を整えるよ」
「あれは風邪に効くんだ!」
ナリスは目を白黒させていた。
「アイルは凄いな!」
凄いのはビクトルだよ?ふふふっ、小さな胸を張ってるビクトルが可愛い。ナリスには見えないけど。
そろそろ山を降りようかと思ったら
「お待ちくだされ」
声を掛けられた。僕は咄嗟にナリスの後ろに隠れる。
現れたのは金色の髪に緑の目をしたきれいな女性だった。
そしてナリスの後ろの僕を見て、跪く。嫌な予感。だってこの色は、ね。
ナリスは驚いて
「お館様…なぜ?」
えっ…知り合いなの?
「そのお方である」
ナリスは僕を見る。何か?
「アイル、が?あっ…」
「先ほどは村のものが失礼しました…」
僕はナリスから離れる。ナリスは僕を見てまだ驚いているけど、膝を曲げて僕と目線を合わせる。そう、ナリスはとても背が高いのだ。ロリィと同じくらいかな?
あれ、ロリィって…?思い浮かぶのは儚気な美しい顔、女性かな。
あ、まただ。首を振る。今はそれどころじゃない。
「アイル、俺は味方だ」
ビクトルも、バクセルもナビィも沈黙している。信じていいの?
「御神木を救って下さった。ありがとうございます」
「そうなのか…?母様の予知はそなたか」
予知はわからないけど、御神木はそうだよ。
でも僕は黙っていた。
「何も言わずとも分かりまする。お礼を申したかっただけですれば…これを」
その女性は銀色の実を取り出した。僕の手にそっと載せると、僕の手を優しく握った。
「良くぞ戻られた。行きなされ…そなたの道は開かれている」
それだけ言うと頭を下げて、遠ざかって行った。
ナリスは少し唖然として
「お、お前、いやアイル殿…それは銀葉の実」
そうなんだ?
『銀葉の実 霊峰ミュシュランテスに生える聖なる実』
何も聞こえないよ?きれいな葉っぱもあるしね。
ナリスはため息を吐くと僕の頭をくしゃっと撫でる。
「アイルはアイルだな」
そうだよ!アイル殿とか言われてもね?
こうして山を降りて村に戻った。
ナリスは
「肉を貰えるなら、分けたいんだが」
もちろん問題ない。元から沢山食材はあったからね。
僕は在庫整理?も兼ねて肉を沢山渡した。ナリスは流石に驚いて、はぁと息を吐いた。
その後はなんと言ったのか、村に肉を配っていた。けっこうあったけどカバンにしまっていたよ?
空間拡張かね?
ま、知らないよ。僕には関係ないし。夕食も食べ終わってお湯で体を拭いた。ナリスがね、一緒にって言うから。
ナリスの体は凄かった。いや、筋肉が。見た感じはそんな風に見えないのにね。腕も足も、お腹も凄い筋肉。腹筋が割れてる。じっと見てたら笑われた。
「まだまだだな?」
その目線は僕の腕と脚とお腹と、下腹部を見ていた。ぐっ…僕は顔が赤くなる。
「これからだ!」
確かに、ナリスのそれはとても立派で…羨ましい。
とそんな事があって
「ベットは一つしか無い」
と言うので、何故かナリスと寝ることになった。もちろんナビィとコムギも一緒だよ。
時系列整理
10月10日 審判の日
アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る
イグニスが神界でケガをする
10月15日頃
シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)
アルテノが祈りを捧げる
イザークがペンダントにざわめきを感じる
10月18日頃
ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食
アーシャが神聖の森に伝言をする
若木が根付く?
光の奔流が流れ落ちる アイルが消える
10月19日 ダナンたちが夫人たちと会食に参加
10月20日 アイルが目覚める
イーリスがイグ・ブランカに戻る
旧イグニシアで黒い光が飛んだ
ダナンたちが王都を出発
ハクが帝国で目覚める
ブランが郷で目覚める
10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける 合流
夜中に馬とネズミを助ける
帝国で白い光が駆け抜けた(ハクが駆け抜けた)
10月22日 ライラたちと双子の騎士と馬が合流 山を降りる
10月23日 ライラたちがナビィと出会う
ダナンたちが帰領する
ナビィがアイルと再開する
10月24日 ライラたちがベイクと再会
アイルが向こうの事を思い出す
10月25日 ライラたちが町を出る
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りる
1月6日 ロルフがフィーヤ着
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
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