333.奇跡の連続
我々はベイクと合流して町を出発した。体調が良くなったからか…ベイクは馬がないのに走ってついて来る。楽しそうだ。
馬は並足。どんな体力してるんだ?全く。私は愉快な気持ちで進む。するとベイクが
「ベルク!」
叫ぶと走り出した。
なに?私たちもベイクを追う。いや、おかしいだろ。走ってるのに駆け足の馬で付いてくのがやっとだ。
するとかなり前方でベイクがベルクと合流した。ベルクはベイクの愛馬だ。一体なにが起きている?
また合流出来た。しかも馬はくたびれているものの、ケガなどは無さそうだった。
『あー同胞だねー!』
精霊が呟く。
同胞?
『うん、ご主人の為に同胞が少しね!』
それはもうアイルのお陰ではないか。なんと聖なるものに愛されたものか…。
また胸がドキドキする。
ベイクがベルクに乗って戻って来る。
「ミュゼ!どうだ?俺の馬は!」
「ベイク、どうやらそれもアイルの奇跡じゃな」
「やはりか!何やら水色の光を纏っていた」
「隠蔽がされておるの…」
カイゼルが鑑定で見たようだ。しかし、カイゼルがアイルは我々に見えるように隠蔽を掛けている、と言う。これだけ完璧な隠蔽がかけられるのなら、隠蔽している事を隠すことも簡単らしい。
要するに、相手を指定して隠蔽をしてるらしいのだ。そんなことは聞いたことがない。
我が国のように、魔法が盛んではない国でも分かる。とんでもない技術だと。
それを自分ではなく、アイルの力をほんの少し借りてやっているらしい聖なるもの。
どれだけ好かれているのか。もう何を見ても驚かないぞ。
そう思っていた私はまだ何も分かっていなかった。
ベイクが別れたと言う騎士3人。なんと、近くで固まって疲弊し辛うじて食い繋いでいた。彼らとも合流出来た。私を見た途端に崩れ落ちた3人はまだ10代の若者だ。
カイゼルとナイゼルは目を潤ませて、すぐにアイルの薬とスープを飲ませた。
精霊がアイルの力をほんの少し借りて洗浄をして、すっかりときれいになって。顔もツヤツヤだ。
相変わらず破れた服まで治す意味不明な普通の傷薬だ。然もありなん。
アイルだしな。
その後もまた彼らの馬を見つけた。しかし、残念ながらもう冷たい。私は悲しくてアイルの普通じゃない傷薬をせめての手向にと一滴掛けた。
すると柔らかな水色の光が全身を包み込み…
光が収まると…
馬が立っていた…
はぁぁ?
もう驚かないぞ、と思った自分を殴りたい。普通じゃない傷薬は蘇生薬だった。いや、おかしいだろ?なんで服まで傷認定で治す薬と蘇生薬しか無いんだ?普通の、本当に普通の傷薬は無いのか?と思った。
そんな風に王都に向かって進み、ついに年が明けた。
その頃には15人にまで増えた。奇跡的に、誰も亡くなっていなかった。ここまでは。
だから浮かれていたのだ。全員助けられるのではないか、と。
その頃、アイルは…
ナビィが来てくれて、僕はその匂いに包まれて寝て起きた。可愛いナビィ、大好きなナビィ。その首に顔を埋める。ふふふっ嬉しいよ。
こんな朝を何度も過ごしたよね…ナビィ。その柔らか垂れ耳も、なめらかな頬も大好きだよ。看取ってあげられなくてごめんね…ナビィ。
ナビィ…あれ?看取る?ごめんね…?
―「ナビィはアイリが大好きだからな!最後はみんなで見送ってあげよう」
「そうだね、私が出掛けてる時は待っててよ!ナビィ」
「くぅーんくぅーん…」
頭を擦り付けて甘える小さなナビィ。おばあちゃんで、もう目も見えなくなって。
寝てる時間が増えて…。お散歩もヨタヨタしてて。おしっこも失敗が増えたね。
でもいいよ、私がお世話するからね。大好きなナビィ。でもやっぱり離れるのは悲しいよ…―
ナビィ、我が家の飼い犬。お母さん、お父さん、お兄ちゃん…そして私、愛理。大好きなナビィ、小さなナビィ。
そうか、看取ってあげられなかったんだ。
「ナビィ…来てくれてありがとう」
ナビィはまた私を探し出してくれた。私を追いかけて…この世界に。
この世界のことは思い出せない。でも、ナビィとあちらのことは思い出せた。
大きくて若くなったナビィ。もう看取って上げられないんだ。
「ごめんね、ナビィ」
僕は何故か男の子になって、しかも若返った。なんでかなぁ?ま、いっか。
ナビィ…その大きな頭にキスをする。
ナビィはぐーっと伸びをする。そして体をプルプルさせると私の上に乗ってきた。そして顔を前脚の肉球で抱えると顔中をべろんべろん舐めた。
「ナビィ、ちょっと…顔が…ふふっ」
『…アイリ?』
まん丸な目で僕を見るナビィ。
「なに?ナビィ…」
『思い出したの?』
僕は驚いた。分かるのか?さすがナビィだ。
僕はその胸に顔を寄せて
「うん…あちらのことは、ね!」
ナビィは僕の首元を舐める。くすぐったいよ!ふふっ
『アイリー!良かったー大好きだよ!』
「私もだよ!ナビィ。見つけてくれてありがとう」
見つめあってその唇にキスする。ナビィはまたベロンと唇を舐めた。
『アイリ、しばらくここでのんびりしたい!』
ナビィ、うん、そうだね。思い出したいと思うけど、今は僕を見つけてくれたナビィとゆっくり過ごそう。
そうして、ビクトルの案内で山を歩いて、きのこや芋、薬草を取って料理をして。ナビィとのんびり過ごした。
数日が経過した。そこでビクトルが
『今日で今年が終わるよ!』
今年?
『うん、この国は1年が10ヶ月、今日は10月30日。年が明けるよ!』
そうなのか。
その夜はコムギとビクトル、バクセルにもちろんナビィも一緒に寝た。
そして翌朝、目を覚ます。年が明けた…何か大切な事を忘れているような気がする。
―僕の誕生日までには帰って来て
***の誕生日はいつなの?
6月だよ!
分かった、必ず戻るよ―
誰とのやり取りだろうか?どこに戻るの…。分からない。僕はまだ思い出せないまま。焦らなくていいと思うのに焦燥感が募る。
コムギが起き上がる。そしてナビィも起き上がった。
ナビィは
『アイリー、おはよう!』
「おはようナビィ」
『パパ、おはよう!』
「おはようコムギ」
ナビィとコムギを撫でる。ふわふわな毛はとても気持ちいい。手を離すとナビィがまん丸な目で僕を見る。
『山を降りたい?』
「うん、そろそろね…」
ぼくはコムギを見る。
『僕も行く!』
いいのかな、ここはコムギの故郷だけど。
『一緒がいい』
「分かった、コムギも一緒に」
こうして、目が覚めてから10日で、僕は山分け降りることにした。
何故か周りの水晶に埋まっていた家を出て回収する。その際に何故か同化していた水晶が一緒ににポーチに入った。
不思議に思っていると何やら背後から光を感じた。振り向くとそこには金色の服を着た、銀の髪に金の目の女性が浮いていた。
そう、浮いていた。
御神木の精…?
『アイルよ…助けてくれてありがとう』
えっ…僕は何もしてないよ!
横で浮いているビクトルが何やら胸を張っている。
『御神木は弱っていたんだ…アイルがいれば、その癒しの力でまた御神木が元気になると思って』
知ってて案内したの?
『ナビィも知ってたよね?』
『うん!』
えー?そうだったの?
『そこの子も知っていた…ふふっ』
そこの子でコムギを見る。えぇー僕だけ知らなかったの?
『癒しの、大地の癒しの力が弱っていた。アイルのお陰で…大地の、森の、草原の…癒しの力が戻った。だからありがとう。私からのお礼は…』
ゆっくりと近付いて来ると、頭にそっと触れた。
ふわり…
優しい魔力を感じた。
『後はこれを…』
ふわりと裏側が銀色の、透けるような葉っぱが舞って僕のポーチに吸い込まれた。
『御神木の葉っぱ…治癒の力が詰まってる。奇跡を起こす。其方の力となるだろう』
そして、御神木が力強く葉を揺らす。
それは美しい、余りにも美しく儚い景色。
御神木の花が咲いた…それは淡く水色に光る透けるように儚く美しく、この世のものとは思えないような。
呑まれるようにその姿を眺めていた。
あぁ、この風景をイリィと見たかったな…
そして、想う。僕はイリィを、イリィは僕の大切な人なんだと。
はらりはらりと花は散った。一瞬の饗宴。散った花も僕のポーチも吸い込まれた。
『生きなさい…私の子』
そう聞こえた、と思ったら僕は最初に目を覚ましたあの木の側に立っていた。
あれは…
まるで幻のような情景。でも幻じゃないよね。ポーチの中に感じる優しい魔力。
ありがとう…
『我が名はセレスティア…』
こうして、僕は1月1日にミュシュランテスの山を降りた。
時系列整理
10月10日 審判の日
アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る
イグニスが神界でケガをする
10月15日頃
シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)
アルテノが祈りを捧げる
イザークがペンダントにざわめきを感じる
10月18日頃
ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食
アーシャが神聖の森に伝言をする
若木が根付く?
光の奔流が流れ落ちる アイルが消える
10月19日 ダナンたちが夫人たちと会食に参加
10月20日 アイルが目覚める
イーリスがイグ・ブランカに戻る
旧イグニシアで黒い光が飛んだ
ダナンたちが王都を出発
ハクが帝国で目覚める
ブランが郷で目覚める
10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける 合流
夜中に馬とネズミを助ける
帝国で白い光が駆け抜けた(ハクが駆け抜けた)
10月22日 ライラたちと双子の騎士と馬が合流 山を降りる
10月23日 ライラたちがナビィと出会う
ダナンたちが帰領する
ナビィがアイルと再開する
10月24日 ライラたちがベイクと再会
アイルが向こうの事を思い出す
10月25日 ライラたちが町を出る
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
アイルがミュシュランテスを降りる
1月6日 ロルフがフィーヤ着
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
*読んでくださる皆さんにお願いです*
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価をよろしくお願いします♪
評価は任意ですが…もらえるととっても嬉しいです!
モチベーションになりますのでどうぞよろしくお願いします♪




