332.飛ばされたらしい
強い光が降り注いだ、そこまで覚えている。その後はよく分からない。気がつくと知らない場所に横たわっていた。周りにはたくさんの光がふわふわと漂っている。
(気が付いた)
(起きたね)
(大丈夫)
(目が覚めた)
何やら賑やかだ。体を起こす。光がさらに舞った。ここは…どこだ?
(ここは平原)
(カグノイル平原)
(ピュリッツァー帝国)
(王都の北東)
どうやら旧イグニシアから帝国の北の方まで飛ばされたらしい。あの光は祝福。アルの魂は間違いなくここに戻った筈。それが何故か弾かれた。いや、あれは防御か?
ならアルも飛ばされた筈。
ブランも?魔力を追ってみるが、アルの魔力もブランの魔力も感知できない。感知出来ないほど遠いか、感知出来ない場所や状態にあるか…。
(少し休んで)
(お水を飲んで)
(ここの水は聖なる水)
(美味しいよ)
誘われるままに水を飲む。うん、美味しい。
さて、どうしよう。
闇雲に探しても仕方ない。困ったな。
すると一際強い光が瞬き、近くで人型になった。緑の短い癖毛に緑の目。白い服に腰には緑のサッシュ。白いブーツ。
『やぁ、はじめまして!君の纏っている優しい魔力のお陰で、進化したよ!ありがとう』
僕の纏っている魔力?
『そうだよ、癒しのね!』
アルだ!それはアルの魔力。僕にはそんな強い癒しの力はない。
すると今度はその子の後ろから小柄だけど人と同じくらいの人型(かなり大きい)の精霊がやって来た。
『お母様ー見て!』
『あら、進化したのね!初めまして、神獣なんて珍しいわ』
僕はしっぽを振って
『初めまして!オバさんは誰?』
『あらまぁ、オバさんだなんて…ふふっ草原の精霊よ!』
笑顔が怖い…僕なんか言っちゃったかな?
『お母様は草原の精霊主なんだ!』
偉い人か?
『探してる人がいるのね?』
分かるんだ、そうだよ!
『そうだよーアルを知らない?』
『私は知らないわ』
なんだ、残念。しっぽも丸まったよ。
『でも、仲間から聞いたの』
えっ?何を。
『優しい魔力の男の子が北に現れたって』
『北ってどこ?』
『北は北よ…ここから西に王都、そこから北に行くとね、山があるの。霊山よ。その山が水色に光った…ふふっ癒しの魔力ね』
間違いない!アルは癒しの魔力を垂れ流してるから!(だから言い方!)
『じゃあ僕は西から北に行くよ!』
その精霊主のオバさんは微笑むと
『その子を連れて行きなさい。案内してくれるわ』
『うん、一緒に行くよー』
『僕はハク!』
『私はリリカラ…その子に名前を付けて欲しいの』
えっと僕には無理かな。
アルならどうするだろう。緑の髪の毛だし…なら
『仮でミド!』
ふわんと緑に光ると
『僕は仮ミドだよ!』
アルと合流したら正式に名付けを頼もう。
嬉しそうに僕の周りを飛び回る。
『私の子をよろしくね』
『うん、ありがとうーオバさん』
僕はミドを背中に乗せて走り出した。後ろでバキッて音が聞こえたけど、早く早く!アルに会いたい。僕の魂の契約者。
アル…待ってて!
こうして僕は草原を出発して、西を目指した。王都は通らずに回りこんだら北へ走る。早く、早く…。
走って休んで走って…僕は王都の東側辺りで年を越した。
その頃、神聖国に程近いピュリッツァー帝国のとある森の中で…
僕は目を覚ました。ここはどこ?
周りを見回す。そこは木の上に作られた巣だ。木の枝や葉で丁寧に作られている。中は柔らかな葉や綿で覆われて体を優しく包んでくれる。
バサッバサッ
僕はびっくりして起き上がる。だって聞き覚えのある翼の音。ここは…?
バサッ
と音がして巣の上に大きな鷹が止まった。そして僕が起きてるのを見ると、ふわりと飛んでその翼で僕を抱きしめた。
『か、母さん…?』
『坊や、良かった。気が付いたのね!』
『母さん!』
僕はその暖かな胸に頭を寄せる。間違いない。母さんの匂いだ!
『母さん、僕は…?』
『空間の狭間から落ちて来たんだよ。びっくりした』
『空間の狭間?』
母さんは頷くと
『強い力に弾かれたんだろう。その際にティダが、咄嗟にここに飛ばした、多分ね』
僕は驚いた。父さんが?
『ティダにはそれくらい出来るさ、伊達に種族長はやってないよ』
僕は周りを見回す。
『ご主人は?ハクは?』
母さんは首を振る。
『飛ばせるのは…咄嗟なら坊やだけしか無理だよ』
そんな、ご主人はどこに?一人で困ってない?
あの光は祝福。ならご主人の精神は戻れた筈。ハクもそばにいないならきっと困ってる。
『坊や、そのご主人様は聖なるものに好かれるんだろう?ならば大丈夫。たくさんの聖なるものがきっと導いてくれる』
僕は母様を見る。
優しく僕の羽を繕いながら
『だから安心して、少し休めばいいさ』
そうだね、僕のご主人は素敵だから。きっと大丈夫だよね。僕は母様の嘴を心地よく感じながら目を瞑った。
少し寝てたかな?目を覚ますと姉様が寄り添っていた。
『目を覚ましたの?』
『うん、姉様。久しぶり!』
『立派になったのねぇ』
『えへへっ。僕は、郷の場所を覚えてないんだ』
『そうか、小さな頃に攫われたからね。ここはピュリッツァー帝国の東側、神聖国に近い森の中だよ』
『帝国?そんなに遠いんだ…』
姉様は優しく頭を突くと
『ご主人様も飛ばされたんじゃないか?なら意外と近くにいるかも?』
そうか、そうだよね!僕は嬉しくなってお姉様に甘える。
その日はお母様とお姉様、お兄様に囲まれて眠った。郷に帰って来てたんだ。それは凄く嬉しいし、懐かしい。でもやっぱり、僕のいる場所はご主人のそば。
しばらく休んだらご主人を探しに行こう。
翌朝、目が覚めるとそばで兄様が羽繕いをしていた。
『起きたか?』
『うん、兄様』
兄様は羽繕いをやめて僕を見る。
『会いたいんだな?』
『うん…』
『母様と姉様が寂しがるな…』
僕は俯く。
兄様は僕を突くと
『男子たるもの、仕方ない!近くにいてこそ、なんだろう?契約者を持つものは。ならば探しに行けばいい。ただ、何やら長老が情報を持っている。話を聞いてから行きなさい』
僕は頷いた。
そして兄様と連れ立って長老の元に向かう。
長老は父様よりももっともっと長生きらしい。父様は種族長として、郷に散らばる白大鷹を纏めている。長老は郷の守護者だ。
長老の巣に行くと
『よく来たね、ブラン』
『うん、長老様。なんで僕の名前?』
『見えたのでな…ほっほ。良き契約者と出会ったのぉ』
凄いや!長老は予知夢を見ると言う。なら僕のことも見えたの?
『長老、あの…』
『良き。其方の契約者に付いて、であるな?』
『うん…』
『これは予知ではなく、同胞の声を拾ったものじゃ。ここはピュリッツァー帝国の東、神聖国に近い森じゃ。この帝国の北に霊山であるミュシュランテスがある。そこの山頂付近に…水色の光が。水色はブランの主の色であるな』
水色、それはご主人の魔力の色だ。いつも垂れ流してる!(だから言い方)
『そうだよ!ご主人の魔力の色』
『霊峰であるミュシュランテスは魔力を弾く。そこにいたならば、魔力は感知出来ぬ。ただ、その魂はちと不安定のようじゃな。ブランは主が自分を忘れていても、受け入れられるかのぉ?』
ご主人が僕を忘れて?僕は、僕は…それでもいい!大好きなご主人のそばに居られるなら、それでも。
『うん。そばに居られるなら!』
翼を広げて答える。長老はふと表情を緩めて
『ならば行くがいい。ティダがわざわざブランの主の魔力に近い場所になるよう飛ばした。それがたまたま郷だったのだがな。ほっほっ…ヤツも子煩悩よの』
えっ、どう言うこと?
『可愛い末の子を、我の予知夢を信じて託したのだからの』
父様が?
『郷でも幸せに暮らせたであろう。しかし、ブラン、お主の運命はその主を求めていた。ティダとて手放したくは無かっただろう。良き父親であるな。いつでもお主の魔力を追っていた』
父様、そんな…。でもありがとう。それなら尚更、僕はご主人を探し出すよ!
『長老、ありがとうございます!』
『良き。家族にはちゃんと別れを言いなさい。寂しがるからな』
『はい!』
僕は巣に戻った。母様と姉様に兄様もいる。
『行くのね?ブラン』
『うん!』
『見つけなさい。そしてここに連れて来て!』
郷に人を入れていいの?
『構わないよ』
兄様も…ありがとう!
『でも、もう少し…休みなさい』
悲しそうな母様を見て、急ぎたいけどそう言えなかった。だから僕はそこで10日過ごして年が明けた。
『そろそろ行くねー!またっ』
家族に別れを告げて、僕は飛び立つ。巣の上を何回か旋回して北に向けて…ご主人、今…会いに行くよー!
時系列整理
10月10日 審判の日
アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る
イグニスが神界でケガをする
10月15日頃
シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)
アルテノが祈りを捧げる
イザークがペンダントにざわめきを感じる
10月18日頃
ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食
アーシャが神聖の森に伝言をする
若木が根付く?
光の奔流が流れ落ちる アイルが消える
10月19日 ダナンたちが夫人たちと会食に参加
10月20日 アイルが目覚める
イーリスがイグ・ブランカに戻る
旧イグニシアで黒い光が飛んだ
ダナンたちが王都を出発
ハクが帝国で目覚める
ブランが郷で目覚める
10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける 合流
夜中に馬とネズミを助ける
帝国で白い光が駆け抜けた(ハクが駆け抜けた)
10月22日 ライラたちと双子の騎士と馬が合流 山を降りる
10月23日 ライラたちがナビィと出会う
ダナンたちが帰領する
ナビィがアイルと再開する
10月24日 ライラたちがベイクと再会
アイルが向こうの事を思い出す
10月25日 ライラたちが町を出る
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
1月6日 ロルフがフィーヤ着
1月7日 ロルフがフィーヤ発 イグ・ブランカ着
*読んでくださる皆さんにお願いです*
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価をよろしくお願いします♪
評価は任意ですが…もらえるととっても嬉しいです!
モチベーションになりますのでどうぞよろしくお願いします♪




