327.帝国の隠された姫2
お腹も満たされた。しかし、体が粘ついて気持ち悪い。どこかで水浴びでも出来るだろうか?
そう言えば、じい達は何やら小綺麗でツヤツヤしておるな。
「じい、何処かで水浴びでもしたか?」
2人は顔を見合わせるとニヤリと笑った。
「ミュジーク様、こちらへ」
「一緒に水浴びをしましょう」
「なっ…」
私は真っ赤になった。と、年ごろだぞ?何を言うか!
しかもじいの裸など見られるか。
しかし、両側を挟まれた。あれ?じい達は脱がぬな。
そしてナイゼルが何やら丸いものを取り出して魔力を流す。すると…体がお湯に包まれた。はっ…何だ?
息、息は…苦しくない。そしてなんとも心地よい。温かくて優しい匂いが全身を包む。
なんとも、心地良い…。
ポン
「…出た?」
「出ましたな」
「出ましたぞ」
青銀の背中まである髪の毛はサラサラで、頬も艶々。そして、服まできれいになっていた。
新品か…?いや、今も着てるよな?
はぁぁ?
カイゼルとナイゼルはくっくっと笑っている。
「これは、何だ?」
「野営の必需品と申していましたな」
「誰が?」
分かっている。しかし聞かねば。
「もちろん」
「アイルが」
だよな。はぁ、彼は一体何者なんだ?
御神木に認められ、ライラによれば瘴気毒も効いていない。効果の高い薬に美味しい食事。水が無限に湧き出る水筒に完璧な解体。
しかも10頭以上の猪を瞬殺したと言う。
私は知らずにまた頬が熱くなった。何だ?この感覚は…。
初めての感覚にひたすら戸惑うだけだった。
「さぁミュジーク様、そろそろ寝ましょう」
「お疲れでしょうからな」
私は申し訳なくなる。彼らは寝ずに交代で見張りをするのだろう。
しかし、彼らもテントに入って行こうとする。
「待て!見張りは?」
「あぁ、このテントには魔物よけと結界まで貼ってありますのでな」
「年寄りは寝ますぞ?ほっほ」
「…」
さっさとテントに入って行った。
『大丈夫だ!完璧な結界だな…ドラゴンでも耐えられそうだ!』
ライラもお墨付きを出すのか。私はもう色々といっぱいで、寝ることにした。
そしてまた驚くことになる。
柔らかくて寝心地の良いマットにふわふわの毛布。テントの中は快適な温度。枕まである。これは野営なのか…?いや、考えては負けだ!寝るぞっ。
余りの快適さに即落ちしたのだった。
翌朝、目が覚める。近くでライラも脚を畳んで寝ている。なんと快適な目覚めか。
怠さがない、清潔、そしてふわふわでいい匂いがする毛布。髪の毛もサラサラで頬はすべすべ。
昨日からなにが起きているのだろうか?全てはアイルという名の少年がしたこと。
追われる身で無くなれば、会いたいものだな。
まだ見ぬ少年に想いを馳せた。
朝食はスープとパン。しかも柔らかいパンだ。野営で温かいスープ。これは野営か?
「何やら粉ですな、お湯で溶かすと解説の絵がありました。そしたら濃厚で美味しいスープが!」
「まったく驚きですわい」
『美味いな、それに温かい』
「あぁ、温かい…」
きっとこれは彼の気持ち。温かくて優しい。その温もりを堪能した。
「まずはタウリンを探すぞ!」
「「はっ!」」
タウリンは私付き近衛の隊長だ。ミュシュランテスに程近い町まで同行したが、追っ手に気が付いたので別行動となった。
生きててくれよ…。願いながら山を降りる。
もう1泊すると思ったが、奇跡が起きたのだ。乗り捨てるしか無かったカイゼルとナイゼルの馬、カイルとナイルが生きていたのだ?
疲れた様子もなく、まるで我々を待っているかのように。佇んでいた。
そしてその背中には、小さなネズミが載っていた。真っ白でふくふくとしたネズミ。
後ろ脚で立ち上がりヒゲを揺らす。
『やぁ、オイラ白ネズミ!』
『やぁ、オイラも白ネズミ!』
喋った…?
『そち達は霊獣か?』
『そうだよー』
『そうー』
『アイルがねー、お馬さんを助けてって言うから』
『言うからー』
『助けた!』
『助けた!!』
はぁ?アイルが…。
ミュジークがカイゼルとナイゼルに会ってスヤスヤと眠った頃。
『アイル!お馬さんが…』
『?』
『困ってる』
『どう困ってるの?』
『魔獣に襲われてる!』
『どこ?』
ガバリと起き上がる。ソファでうとうとしてたらビクトルに不穏なことを言われた。
お馬さんは賢い子だ。きっと飼い主がいる筈。
ビクトルの案内で進む。あれ?いつの間にかコムギが大きくなって僕をその背中に載せて、爆走してる。
えっ…コムギ?すでに2メルほど。
まだ生後3日だよね?
驚いてる間にどうやら着いた。早いっ!
目の前には横倒しの馬と涎を垂らしたオーク。むっ…許すまじ…。常時発動の風魔法で…
ザシュ
ふっ、たわいもない。
でもやっぱり命を狩るのは苦手かも。少し気持ち悪い。
すると
『助かった!』
『ありがとなー』
ちっこいネズミが喋った?白くてふくふくしたネズミが2匹。後ろ脚で立って前脚を揃えて上下してる。まん丸な黒い目は潤んでるみたいで可愛い。
助けたのはお馬さんだけどな!
『いやー俺たちが追いかけ回されてて…馬っちが助けてくれたんだよ』
『でもな、体当たりされて…そしたらザシュってさ!』
『カッコよかったぞ!』
『だからありがとうな!』
『パパカッコいいー』
コムギたん、ありがとう。
でもこの子たちは話ができるんだね?聖獣じゃないよね…。
『霊獣だね…』
『そうらしいぞ!』
『先祖還りだ!』
そうなんだね。ビクトル、聖獣とか幻獣とか霊獣って多いのかな?
チラッとビクトルを見ながら聞く。首を振った。バクセルも首を振った。
僕の周り、多くない?
うんうんと小さな頭を振るビクトルとバクセル。考えるのやめよう。これも元僕のせいだ。
『お礼するぞー』
『お礼だー』
僕は立ち上がっていたお馬さんに近付く。その鬣を撫でると水色に光った。もう1頭も同じようにする。やはり光った。
倒れた時にか、その前からか。きっとどこか痛めてだんだろうな。この子たちからは双子の騎士たちの魔力を感じる。背中には立派な鞍も乗ってるし。
くたびれて汚れたその馬を洗浄できれいにする。おぉ、真っ白な馬だ。汚れていて暗い色になってたんだな。
よしよし、頭を擦り付けてくるお馬さんたち。
主人を守ってここまで来たんだな。山を登るのは辛かっただろう。
帰りは楽に帰れるように結界と。後は隠蔽かな?白い馬はきっと目立つから。
よし、後は食事だな。ポーチから栄養たっぷりのキャロッテと果物、聖水をだしてそれぞれ器によそう。
もう目がキラキラしてるよ!
よし、お食べ…。
ガツガツバクバク…お腹空いてたんだな。よしよし、おかわりあるよ。
横でネズミたちがじっと見てるからチーズと聖水と牛乳と果物を器に盛る。くすっやっぱり顔からダイブしたね。
食べ終わるとヒゲを揺らして
『美味かった』
『サイコー』
それは良かった。
『名前付けて!』
『名前!』
やっぱりこれはアレかな。
「トムとジェリー」
『俺はトム!』
『僕はジェリー!』
可愛い。間違うからとそのしっぽにトムは青、ジェリーは紫のリボンを結んだ。
『やったー』
『かっけー』
『で、お礼は?』
『何する?』
んーと僕がネズミさんにして貰うことはないかな?
ならば
「じゃあさ、このお馬さんが飼い主さんに会えるように手伝ってあげて!」
『えー』
『ご主人の役に立ちたい!』
ご主人?
『名付けは契約の証、だよ!』
…ビクトル、先に言って?
「んーでもそれが僕の願いなんだ!」
『えー』
『でもなー』
ダメなのか?
『ならば、再会して安全な場所まで送り届けたら戻ってきたらいい』
バクセルが提案する。
『それならいいよ!』
『分かったー』
「ビクトル、どうやって戻るの?」
『契約者の魔力を追えば分かる。あんまり遠かったり、場所が分からなくない限りはね!』
「じゃあお願いするよ」
『分かったー』
『分かったー』
なんて事があったのだった。
はぁ?アイルが…。
『お馬さんがご主人に会えるようにー』
『会って安全な場所まで送るのー』
『『そうしたらご主人の元に帰るのー』』
「ふはっはっは」
「ほっほっほ…」
『くはっ、ふふっ…さすがアイルだな』
私もおかしくなって笑った。全く、君はどこまでも私を助けてくれるんだな。
「アイル…」
早く会いたい。
こうして足が出来た我々はその日のうちに山を降りた。麓の町には入らず、街道を進む。
そして、安全な平原で快適な野営をしたのだった。
時系列整理
10月10日 審判の日
アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る
イグニスが神界でケガをする
10月15日頃
シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)
アルテノが祈りを捧げる
イザークがペンダントにざわめきを感じる
10月18日頃
ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食
アーシャが神聖の森に伝言をする
若木が根付く?
光の奔流が流れ落ちる アイルが消える
10月19日 ダナンたちが夫人たちと会食に参加
10月20日 アイルが目覚める
イーリスがイグ・ブランカに戻る
旧イグニシアで黒い光が飛んだ
ダナンたちが王都を出発
10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける 合流
夜中に馬とネズミを助ける
帝国で白い光が駆け抜けた
10月22日 ライラたちと双子の騎士と馬が合流 山を降りる
10月23日 ダナンたちが帰領する
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
1月6日 フィーヤ着
1月7日 フィーヤ発 イグ・ブランカ着
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