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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国

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325.ヒラリー・イリリウム

 ヒラリー夫人は改まってこちらを見る。

「私からお話を少し。その方は神聖国に縁がありませんかしら?ピュリッツァー帝国の隠された姫が、王宮を出奔しました。霊峰の御神木、その霊峰が水色に光ったと。さらに、御神木の葉が落ちた。これは隠語よ。私からお話しできるのはここまで。私の閣下の願いを、形にしてくれた彼に。どうか…」

 ヒラリー夫人の話は一見すると支離滅裂だ。しかし確かな情報筋から、話せるぎりぎりまで見極めて伝えてくれた。

 思い出せなかった名前、凍った白の森、滅びたイグニシア、北へ向かったアイル。



 全ては繋がっているのか?

 私はヒラリー夫人を見る。慈愛に満ちたその目は幼子を見るような優しさに溢れていた。

 この方はアイルのことを…。

「確かに、受け取りました。夫人…良い報告をお持ちで出来るよう精進します」

 慈しみに溢れた笑顔で頷くヒラリー夫人。私は胸に手を当てて頭を下げた。

 隣を見ればシスティアも、バージニアも同じ仕草をしていた。


「もう、固いわぁ!」

 本当に、さすがはヒラリー夫人だ。目の前には魔法契約書があった。

 サラサラと迷いなく署名し、私に渡す。私たちも署名し、魔法契約は成された。

 罰は王族の青き血を差し出す、とあった。夫人の覚悟はそれ程までか。


「永らく聖獣様がお見えにならなかった。国の者たちはその偉大さが分かっておりません。由々しき事態です」

 ヒラリー夫人はアイルの「たくさん貰ったから」私たちに蜘蛛シルクをお裾分けした話しで涙を流しながら笑い、遠くの故郷から1人でゼクスに辿り着いた話しではらはらと涙を流した。

 キビサンドやサバサンドを登録する際に嫌そうな顔をしたと聞いて驚き、笑った。そして()()の傷薬で骨折が治る事を聞いて、目を丸くして驚いていた。

「そう…そういう子なのね…」


 私は懐からハンカチを取り出す。それは真っ白で端に羊の絵が刺繍されている。角には雪の結晶。

「宣伝用にと預かっていました。私からの贈り物です。ヒラリー夫人。羊はイグ・ブランカという町の紋章です。あ、ハンカチの素材は秘密ですよ?」

 片目をつぶって言えば

 ヒラリー夫人は目を大きく開けてから胸にそっと抱いて

「ありがとう、そう伝えて下さいな。必ず、ね」

「はい、承りました」


 夫人にはそれが蜘蛛シルクであること。イグ・ブランカのイグが何を指すのか。羊と雪の結晶…。元王族の夫人には伝わったであろう。

 それを大切に胸に抱く、良きお方だ。イリリウム閣下を見る。頷いた。


「何かが大きく動こうとしておる。彼が巻き込まれていなければ良いが…」

 それはもう確信なのであろう。我々も速やかに領地に帰らねば。

「王が年明けに視察に参る。お忍びと言ってもな、準備もある。第2師団が嬉々として王を守るために参加するとな。あれは彼のエンブレムじゃな。試したくて仕方ないようじゃ。今年の遠征は皆が行きたがってかなわぬ」

 そういう閣下は優しい目をしていた。


「「「お待ちしております」」」

「まずは無事に年明けを、な。我も視察に行く。連絡を待て。良き出会いであった」

「必ず、その子を…守って下さいね」

 2人に念押しをされ、王宮を辞した。各自、王都に構えた屋敷は無く、地方の侯爵家が共同で管理する屋敷に3人で向かった。

 アフロシア家から執事のブラウンが同行していて、屋敷に入って迎え入れてくれる。


「お帰りなさいませ、旦那さま方」

「あぁただいま」

 ローブを渡すと屋敷に入る。ブラウンの案内で各自の部屋に入った。地方の侯爵家は6家だ。各領主ごとの部屋が決まっていて、バージニアは客間だ。

 部屋に入るとホッと息を吐いた。そして、ブラウンが淹れてくれた紅茶を飲む。

 軽くつまめるものも用意してある。流石だな。

 私はキビサンドを食べる。片手で食べられるのがいい。

 行儀は悪いが急ぎだ。食べながら手紙を書く。

 フェルとイザーク宛てだ。何かあればダーナムかロルフから連絡がある筈。

 ヒラリー夫人のあの話しは意味がある。王族の情報網は侮れない。アイルに何かが起きたのは確実だろう。


 落ちた葉っぱ。ピュリッツァー帝国の隠された姫。御神木。まるでパズル、だな。

 ん、何か引っ掛かる。隠された姫。帝国に王女などいたか?いや、隠されていたのなら知らなくて当然か。

 ダナンは物思いに耽った。


 その日の夕食で、システィアとバージニアと話をした。バージニアは母上も芝居に噛んだらしいと聞いて苦い顔をした。

「申し訳ない」

 頭を下げる。しかし、な。本命までは知らされていない筈。少し息子を揶揄う、そんな風に聞いていたのだろう。これは仕方ない。

「バージニア、顔を上げろ。母上も担がれたのだ」

「分かっているがな…ことがことだけに…はぁぁ」

「ある意味、お前は巻き込まれだ。気にするな!悪気は全く無かったのだから。ヒラリー夫人の采配は完璧であった」

「そうだな、完敗だ。器が違う」

「争う気にもならんな」


 そんな話をしつつ、明日にはここを出ると決めた。変なことに巻き込まれるのは御免だ。

 護衛の騎士たちにはすぐに伝令を飛ばし、その日は早々にベットに入った。


 翌日の早朝、慌ただしく王都を出発。ゼクスまで3日、システィアはゼクスに寄らずに街道をそのまま進む。それでも着くのは深夜か。新年ももうすぐ。早く帰りたいのだろう。 

 途中は町に泊まりながらも、早足で駆け抜けた。旅は順調で、思いの外進みが早かった。


 そうして10月23日の昼頃、ようやくゼクスに帰って来た。と言っても15日に出発したのだからまぁこんなもんか。

 新年は家族で迎えられる。私のフェルとイズと共に。

 アイルの件も一旦は落ち着いた。少なくとも今の王家は完全に信用は出来ないが、敵対する事は無さそうだ。

 ホッとした。


 システィアとはここで別れ、連絡を取り合うことを約束した。まだ災害の後始末もあるし、本格的な冬に向けて準備もある。

 意気揚々と領主の屋敷に入って、ダーナムからの報告を聞いて青ざめたのだった。



 アイルが失踪した



 詳しい理由は分からないという。イーリスはボーッとしていて何かを聞ける状態では無く、事情を知っているユニコーンは口を閉し、ロルフたちは戻っていないという。なにがあった?

 自らの意志でイーリスから離れる事は無いだろう。

 凍った白の森、滅びた旧国。何が起きてる?

 アイル、何処にいるんだ?


 この時、分かった。彼は周りには手厚い防御を施す。もちろん、自分にもだろうが。彼は我々を探せるが、我々は彼を探せない。

 そのことに気が付いてしまった。なんて事だ…。

 名前を忘れた事もやはり関係があるのか。



 アイル…、私に何が出来る?



「ダナ…ダナ?」

 物思いに耽る私にイズが声をかける。

「前に話をした森人の巫女。渡してくれと頼まれたペンダントが光っていた…」

「いつだ?」

「5日ほど前、ダナが王都に着いた日」

 やはり、あの日か。私が部屋で祈った。

「僕はアイルの名前を思い出せなかった…」

「フェルも、か?」

 フェルとイズは驚いて

「父さんも?」

「ダナも?」

 やはり何かあったのだろう。


 旧イグニシア。その何処かにあると言われていた生命樹。大国だから10数ヶ所はあったとされる。

 若木と滅びた国の生命樹。繋がる、か。

「父さん、アイルは北に向かった。それはきっと旧イグニシア。そこの生命樹と若木。繋がるね…」

「そうだな。白の森が凍ったのならば、そういうことか。何か啓示か、または」

「神託…」

 我々は顔を見合わせる。

「ロルフと連絡を取りたい」

「イグ・ブランカに戻る筈だから、書状を」



 こうして、ロルフがイグ・ブランカに到着した時には、書状が届いていたのだ。




イリリウム閣下 58

奥様 48 王様のお父上の18才下の妹

王様 48

王様のお父上 66

 


時系列整理

10月10日 審判の日

アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る

イグニスが神界でケガをする


10月15日頃

シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)

アルテノが祈りを捧げる

イザークがペンダントにざわめきを感じる


10月18日頃

ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食

アーシャが神聖の森に伝言をする

若木が根付く?

光の奔流が流れ落ちる アイルが消える


10月19日 ダナンたちが夫人たちと会食に参加


10月20日 アイルが目覚める

イーリスがイグ・ブランカに戻る

旧イグニシアで黒い光が飛んだ

ダナンたちが王都を出発


10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける

帝国で白い光が駆け抜けた


10月22日 ライラたちと双子の騎士が合流 山を降りる


10月23日 ダナンたちが帰領する


1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発

1月6日 フィーヤ着

1月7日 フィーヤ発 イグ・ブランカ着



*読んでくださる皆さんにお願いです*


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