323.イグ・ブランカにて
エリアスがヨナとキリウス、アールとガロンに声を掛けている。そして、4人はイグニス様とヒュランをみて固まっている。王宮に飾られた絵に出てくるイグニス様とヒュラン。それが目の前にいたら驚くだろう。
彼らは全員、王宮で働いていたそうだから。
そして、リベラ、ソマリ、ダーナムとシグナスが跪く。イグニス様とグライオール様の神々しさ、ティダの気高さに気が付いたのだろう。
遅れてキリウス、ヨナ、アールとガロンも跪く。
さらにはイーリスの家族も。
「良い、面を上げよ!我は創世神イグニス。ちと下界に来ておるが、極秘じゃ。大事にされては困る故な」
「僕もだよ!大地神のグライオール。極秘だからね、よろしくー」
『我はイグニスの眷属じゃ、ヒュランと申す。よしなに』
みんなは感動して見ていた。
「神々が降臨された…」
ソマリがポツリと呟く。
「イル、案件…」
それだけでみんなが納得するんだからね、イルはやっぱり規格外の子。
この場にイルがいない事を改めてみんな感じた。きっと眠った状態でここに戻ると思っていただろう。僕も、だ。まさか失踪してしまうなんて…。
でも、イルの行く先には必ず変化がある。あれだけ聖なるものに好かれるんだから。その変化を追えば、必ず辿り着ける。そう自分に言い聞かせた。
その日はソマリが腕によりを掛けて作った食事で、神様たちも感動した。アイルのレシピを元に、ソマリが試行錯誤したそれらは洗練された味となり。
アイルのそれが家庭料理なら、ソマリのそれは高級レストランの料理。
神様たちも
『神会に就職しないか?』
と真剣に誘っていた。僕の使用人だから、ダメ。
イルを彷彿とさせるそれらの料理。とても美味しくて、食べる度にイルを思い出す。
それもイルの目論見通り。悔しいけど、嬉しい。まだこんなにもイルを感じられる。
僕は食事の前に生命樹の若木をファーブル殿に託した。ファーブル殿はイグニス様とそしてグライオール様、ネーシアと共に若木を植えに向かった。
今日は戻らないと言ってたけど、グライオール様のお陰でとかで若木は白の森に植えた。凍っていた森が少しだけ緩んだのを感じる。
完全に森に根付き同化する迄は、凍ったままなのだとか。春になれば多分、そうグライオール様が言っていた。
ならば、イルの責任は果たされた。戻っておいで。
ここはもう、イルの生まれた世界だ。
イーリスには声を掛けるまで待ってと伝え、お母様とお父様の手紙を読む。お母様は、そうか…ノインスは叔父様が引き続き。有り難い。貿易の件も。さすがお母様だ。
お父様の手紙は…これは、王宮か。むっ、勝手な事ばかり。何も知らないくせに。思わず放り投げた。
そしてダナン様とイザークからの書状を読む。これは…イザークからなんて珍しいと思ったら、やはり。
森人の巫女から託された、か。会わねば。イルはいない事、僕が探し出して渡す事、それを了承して貰わなくては。
ふぅ、王都は少しきな臭い、か。イルを…いやハク様か、を取り込もうとしているのか。単なるお花畑、か。首謀者は捕まったとある、当面は大丈夫そうだ。
もうすぐ王が災害の激励に来るらしい。お父様には頑張って貰わねば。
女性たちの動向は分からない。隠された姫。これはお母様とノエル大叔母様に頼るしかないかな。
あぁ、バージニアからも手紙があったか。ならばバージニアにも女性たちについて、教えて貰おう。意味のある人選ならそこに何か、あるのか。
分からないことは聞く、そして調べる。
調べる方もバージニアに任せよう。情報については、何かしらの伝手があるはず。
お母様とお父様、ダナン様とイザーク、バージニアにそれぞれ手紙を書いた。リベラに渡す。
バージニアとイザークは急ぎと伝えている。
リベラが手紙を預かる時に淹れてくれた紅茶を飲む。
さて、後はイーリスか。僕はポーチを外して置いてあるベットに近づく。アイリーンとリツを撫でた。
僕は自ら部屋を出て、イーリスの部屋に行く。扉を叩くと
「ロルフ…」
と言えば、すぐに扉が開いた。
「ロルフ、待ってた…」
目に涙を溜めて僕を見るイーリス。その顔は目が赤くても、頬が青白くても隈があってもやっぱりきれいだった。
それでも、イーリスの生まれ持った隠蔽とイルの隠蔽は残ってるというのだから。
「ロルフ…」
震える声で僕を呼ぶイーリス。縋り付くようなその顔は僕を見ていない。その頬を撫でる。
「イーリス、部屋に入れて…」
あっという顔で部屋に入れてくれる。恥ずかしそうに俯くその頬を撫でて頭にキスをする。
少しだけ落ち着いたイーリスとソファに並んで座る。イーリスは僕の手を離さない。
「貴重な情報って…」
「フィーヤの町を治めるダナフォスター侯爵家。侯爵様自ら情報をくれた…」
僕は聞かされた情報を伝える。イーリスはその美しい目を開き
「光は水色…?アイの、癒しの色」
やっぱりイーリスは気が付いたか。僕は頷く。
「白い光と黒い光はハクとナビィ。巫女の祈りはそのまま聞いた通り。帝国の姫は無関係…かな。神聖国の異変は、アイかまたはアーシャ様?ユーグ様の顕現は間違いなくアイ関連だ。後はミュシュランテスの葉、それは隠語だね?多分、誰かが訪れた。歓喜に沸いたとするなら、多分、アイかな。御神木は聖なる木。生命樹とは違うけど、神の宿る木と言われている」
僕は驚いた。隠語の事も、御神木も知ってるとは。
イーリスはほんのりと笑うと
「そのミュシュランテスを守るのは森人だよ。僕たちは同胞について知ってるだけ」
なるほど。人知れず、かな。麓には普通に村があると聞いてるし。
やっぱり森人は凄い。
「ロルフは行くの?」
「もちろん、その前にユーグ様に会う。イーリスは若木の様子を…」
「待たないよ、僕には関係ない。アイを、僕はアイを探しに行く。ロルフ、一緒に…」
「イーリスは残って。イルはイーリスを危険に晒すのは嫌がる、よ」
「僕が見つけたいんだ!だって僕の大切な人だ。僕たちは結婚してる、だから僕が…」
僕はその言葉を聞いて分かった。そうか、僕が1番に見つけたかったんだと。イーリスを危険に晒したくないのは本当。それはイルの本意じゃない。でも…。そうだな。
「イーリス、分かった。まずはゼクスに行く。途中でユーグ様に会うけど、イーリスはやっぱり後から合流して。イルが守った若木だ。根付くのを見届けるのはイーリスの責任」
イーリスは目に涙を溜めて、でも頷いた。
「帝国に?」
「そのつもり。その前にイザークと森人の巫女に会う」
イザークからの書状の話をする。予め、イーリスには話をしていいと前置きがしてあった。さすがだ。
するとイーリスは
「僕も行くよ!」
それなら巫女に会うのはイーリスがゼクスに来てから。僕はそれまでに、護衛を探さないと。
サリナスとブラッドが受けてくれたとしても、足りない。ミストとミア、ニミがいても、ハク様やナビィのような絶対的な力にはならないと、思うから。
ダーナムとシグナスはゼクスの領軍だから、国外へは出られない。下手すれば侵略行為と見做される。
だから、探索者から探さなくては。
「僕はリベラとソマリ、ダーナムとシグナスと共に先行する。イーリスはサリナスとブラッドとともに後から」
と言えば
「ロルフの方が手薄になる。ニミとミストを連れて行って」
「それではイーリスが…ニミは一緒に。ミストを借りるよ」
2人とも頷く。
それから僕はイルを探すための魔道具について話をする。
「探すための魔力?」
「そう、イルは自分の魔力を探す機能を水晶やサファイアに持たせた。イルはそれが出来る。なら、実現出来るかも」
「でも、僕もロルフもアイの魔力を感じられるよ?」
「狭い範囲なら。イルは自分の付けた魔力の揺らぎを感知できる。国の端からゼクスまで離れてても」
「あ…」
そう、僕たちではせいぜい町中までしか感知出来ない。それでは広い国の、もしくは山のどこにいるかを探せない。イルの魔力でイルを感知する探すための魔力を込める事、もう一つは僕の魔力とイルの魔力を引き合わせる事。前者は魔術師団に、後者は自分で研究する。だからすぐには出られない。
その夜は久しぶりのイーリスと、2人だけでお風呂に入った。そして、夜は寄り添って寝た。
イーリスがしがみ付いてきて、離さなかったから。寂しいのはみんな同じ、かな。
エリアスはきっとヨナと寝てるだろう。
そうしてイグ・ブランカの夜は慌ただしく過ぎた。
翌朝、目を覚ますと淡い金髪。僕にしがみ付くように寝ている。朝日に透けてキラキラする髪の毛は、とってもきれいだ。
弱ってる美形って、良くないな。昨日のイーリスの色気が凄かった。そう考えて、ジークはこんな風に僕を見てたのかな、と思った。
イーリスの密度の濃い金色のまつ毛が震える。ゆっくり目を開けると淡く微笑む。消えてしまいそうな儚さ。
その髪を梳く。ほんの少し癖のあるきれいな髪。さらさらと指から零れ落ちた。
下から眠そうな目で僕を見つめる。イルもこんな気持ちなのかな?なんとも可愛らしい寝起きだ。
「ロルフ、ちゃんと待っててね…」
「もちろん…」
安心したように笑う。
「起きよう」
イーリスは頷くと体を起こす。朝日に照らされたその横顔はやっぱりきれいだった。
僕の部屋で寝たからそのまま朝食も僕の部屋で食べる。
食べ終わったらエリアスに伝言を頼んだ。
僕はイーリスと居間に移動して、エリアスを待つ。イグニス様とグライオール様にも伝えないと。
彼らはここに残るだろうから。
時系列整理
10月10日 審判の日
アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る
イグニスが神界でケガをする
10月15日頃
シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)
アルテノが祈りを捧げる
イザークがペンダントにざわめきを感じる
10月18日頃
ダナンたちが王都を訪れ、謁見と会食
アーシャが神聖の森に伝言をする
若木が根付く?
光の奔流が流れ落ちる アイルが消える
10月19日 ダナンたちが会食に参加
10月20日 アイルが目覚める
イーリスがイグ・ブランカに戻る
旧イグニシアで黒い光が飛んだ(多分ナビィ)
10月21日 ライラたちと双子の騎士を助ける
帝国で白い光が駆け抜けた(多分ハク)
10月22日 ライラたちが双子の騎士と合流 山を降りる
1月1日 ロルフたち鎮魂の森を出発
1月6日 フィーヤ着
1月7日 フィーヤ発 イグ・ブランカ着
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